可逆性小児急性肝不全の発症機序の解明-治療薬開発に向けた道筋-

国立大学法人熊本大学

・可逆性小児急性肝不全の原因の一つはミトコンドリア酵素のMTU1遺伝子の変異ですが、疾患発症の仕組みは不明でした。
・MTU1遺伝子の疾患関連変異の作用を検討し、変異がミトコンドリアtRNA硫黄修飾(注1) の低下を引き起こすことで発症に寄与することを明らかにしました。また、MTU1変異の種類によって硫黄修飾障害率が異なり、病態の重篤度に大きく影響することが分かりました。
・MTU1タンパク質を分解してしまうCLPP(注2)遺伝子の発現を抑制することで、ミトコンドリアtRNA硫黄修飾の回復  に成功しました。

【概要説明】 

 可逆性小児急性肝不全は、重度の肝機能低下を主症状とする希少小児疾患であり、出生後まもなく発症し死に至るケースも報告されています。可逆性小児肝不全の原因としてMTU1遺伝子の変異が知られています。一方、患者で報告されているMTU1遺伝子の変異は非常に多様であり、それぞれの変異が疾患の発症に与える影響は不明でした。
東北大学加齢医学研究所の魏范研教授、Raja Norazireen Raja Ahmad研究員らは、熊本大学大学院生命科学研究部富澤一仁教授、筑波大学計算科学研究センター重田育照教授らとの共同研究により、可逆性小児肝不全患者で報告されている17種類のMTU1遺伝子変異の作用を明らかにしました。これらの変異はMTU1の酵素活性とタンパク量の低下を引き起こすことで、MTU1によるミトコンドリアtRNA硫黄修飾を大きく障害し、ミトコンドリアでのタンパク質翻訳とエネルギー代謝の低下原因となることがわかりました。
 また、MTU1タンパク量低下の原因は、CLPPによる分解であることを突き止めました。さらに、CLPPの機能抑制がMTU1タンパク量の増加を介して、ミトコンドリアtRNA硫黄修飾の回復に成功し、MTU1の分解抑制が可逆性小児肝不全の治療につながる可能性が示されました。
本研究結果は2023年12月19日付の欧科学誌Nucleic Acids Researchに掲載されました。


【今後の展開】

今回の研究で、MTU1病原性変異の意義と分子機序を明らかにしたことで、難病治療に新しい方向性を示すことができました。まず、多数の変異型MTU1の機能解析と疾患との関連を調べ、重症化しやすい変異を同定したことで、変異の種類に応じて症状が激化する前から肝機能の保全といった介入が可能になり、重症化の阻止と治療効果の最大化が期待されます。また、本研究によりCLPP阻害が硫黄修飾の回復につながることが示されたことから、将来的にCLPP阻害剤を開発できれば、小児急性肝不全という難病の治療薬を創出することが可能になります。


【謝辞】
本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究(B)(JP21H02659)、学術変革領域研究(A)「新興硫黄生物学が 拓く生命原理変革」(硫黄生物学)
(JP21H05265)、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業ERATO「鈴木RNA修飾生命機能プロジェクト(JPMJER2002 )」(研究総括:鈴木 勉)、創発的研究支援事業(FOREST JPMJFR205Y)等の支援を受けて行われました。


【用語説明】
注1.    tRNA:80塩基前後の長さを有する小分子RNAであり、末端にアミノ酸を結合している。tRNAはmRNAと結合し遺伝子暗号を解読することで、mRNAの設計図通りにタンパク質が合成される。
注2.    CLPP:Endopeptidase Clpの略であり、ミトコンドリアの内腔に局在するエンドペプチダーゼである。ミトコンドリア内腔において様々なタンパク質を分解し、タンパク質の恒常性維持に必要である。


【論文情報】

タイトル:Pathological mutations promote proteolysis of mitochondrial tRNA-specific 2-thiouridylase 1 (MTU1) via mitochondrial caseinolytic peptidase (CLPP)

著者:
Raja Norazireen Raja Ahmad, Long-Teng Zhang, Rikuri Morita, Haruna Tani, Yong Wu, Takeshi Chujo, Akiko Ogawa, Ryuhei Harada, Yasuteru Shigeta, Kazuhito Tomizawa, Fan-Yan Wei

*責任著者:東北大学加齢医学研究所 教授 魏 范研
掲載誌:Nucleic Acids Research
DOI: 10.1093/nar/gkad1197
URL: https://academic.oup.com/nar/advance-article-abstract/doi/10.1093/nar/gkad1197/7479383?utm_source=advanceaccess&utm_campaign=nar&utm_medium=email


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 https://www.kumamoto-u.ac.jp/whatsnew/seimei/20231227


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代表者名
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上場
未上場
資本金
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設立
1949年05月