ニッケルナノチューブで微細配線用異方導電フィルムを開発【産技助成Vol.60】

独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
東北大学多元物質科学研究所


ニッケルナノチューブの微細化・磁場配向制御技術の開発により、
液晶ディスプレイ(LCD)等の表示素子の高精細化に対応する
次世代型の微細配線用異方導電フィルム(注1)の開発に成功
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【新規発表事項】 
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、東北大学多元物質科学研究所の教授、中川 勝氏は、ニッケルナノチューブを用いた新しい光硬化型異方性導電フィルムを開発しました。
 従来、液晶ディスプレイ・携帯電話等の表示素子では、多数の表示素子側の入力端子と駆動素子側の出力端子を結線しており、表示素子の小型化、高精細化のニーズに応えるため、端子にある電極の狭ピッチ化が必要になっています。
本技術は、ニッケルナノチューブを用いた新しい光硬化型異方性導電フィルムであり、対応端子間隔を従来の4分の1とすることを実現しました。これは、長さが1~10μmとサイズ分布の小さいニッケルナノチューブの開発に成功したこと、さらに無電解金めっき(注2)による体積抵抗率(注3)の低下を実現させ、平均の幅が0.4μmの棒状磁性粒子(注4)による導電性フィラー(注5)の開発をしたものです
この本技術により、熱硬化型異方導電フィルムで問題となる加熱・冷却過程による応力歪の残存の回避、素子への熱の影響から開放される新しい光実装方式を提案するものです。


(注1) 異方導電フィルムとは、表示素子にある複数の駆動素子の出力端子と表示素子の入力端子を対向端子同士で電気的に
結線させる機能性高分子材料のこと。端子間距離10μm以下で対応できるものを微細配線用異方導電フィルムとここでは呼んでいます。
(注2) 無電解金めっき:本研究で用いたNi-Pからなるニッケルチューブの導電性を向上させるために、導電性に優れた金でその外周を被覆しました。被覆の方法は、無電解めっき法で、水溶液中の金を含むイオンを化学的に還元することで金の薄膜を形成させます。
(注3) 体積抵抗率:体積抵抗率(電気抵抗率)とは、電気の通しにくさのこと。
(注4) 棒状磁性粒子とは、 円柱状の形体で、Ni-P合金の中でニッケルがf.c.c.構造(面心立方格子構造)の結晶相を形成していることに由来して磁気特性を示す粒子。平均の長さは3m、幅は0.4μm。
(注5) フィラーとは、添加物として加える充填剤のこと。主に、高分子樹脂に、無機や金属製のものを加え、力学的に強化するために用いられる。導電性フィラー:とは、電気を通すことのできるフィラーのことを言う。


1.研究成果概要
 液晶ディスプレイ等の表示素子では、駆動素子側出力端子と表示素子側入力端子を多数、簡便にかつ短時間で接続するために、異方性導電フィルム(ACF)が使用されています。ACF は、ニッケル粉末や均一球形の金被覆高分子微粒子を導電性フィラーとして熱硬化性高分子樹脂に分散させた構成からなり、ACFを両端子間に挟み、加熱圧着して、対向端子間で導電接続、隣接端子間で絶縁接続をもたらします。対応配線間隔は導電性フィラーに依存し、金被覆微粒子では約40 μm が下限(2005年度のデータ)となっています。表示素子のさらなる小型化や高精細化に応えるため、高信頼性の異方導電材料の開発が求められていました。
本研究では、独自に開発した磁性と導電性を同時に有するニッケルチューブを導電性フィラーとして用いた微細配線用の異方導電高分子シート(ACPS)の開発を行いました。
 水素結合型分子鋳型の調製法の改良とサイズ分離操作の導入により、長さの分布が1~10 μm の範囲にあるニッケルチューブの開発に成功し、熱硬化型シリコン複合膜へ適用した実験では、電極端子間隔10 μmで異方導電性が確認されて、異方性比(注6)が1010 であることが分かりました。また、光硬化型樹脂と本導電性フィラーの複合膜作製時にシリカ粒子を混合することで、隣接端子間での通電エラーの発生を抑制できることが分かり、光硬化時の体積収縮率が小さい光硬化性樹脂を用いることで、連続的に製膜でき、数秒の光照射で実装できる室温圧着方式の光硬化型異方導電高分子シートを開発しました。

(注6) 異方性比:ここでは高分子フィルムの電気的特性を表わす用語として用いている。具体的には、フィルムの膜厚方向の体積抵抗率を膜面方向の体積抵抗率で割った値のこと。


2.競合技術への強み
1)対応端子間隔
平均長さ3μm,平均幅0.4μmのニッケルナノチューブを用い、電極間隔10μmでの異方導電性を確認。
2)通電エラーの抑制
分散剤としてシリカ粒子を混合することにより、隣接電極間での通電エラーを抑制。シリカ粒子のサイズと混合比の最適化により、さらなる特性改善が可能。
3)膜品質の向上
硬化収縮が小さいことが特徴のフルオレン系光硬化性樹脂を用い、室温で圧着する光実装方式を採用したことにより、従来の圧着時の熱ひずみの影響がなく、優れた品質の膜が製造可能。フィルムエレクトロニクスの分野への進出に期待。
4)量産可能な連続製膜に対応
磁性導電性フィラーとして用いるニッケルナノチューブの磁場による配向制御と光硬化製膜技術の開発により、1.4m/minの速度で安定的に光硬化型異方導電シートの製膜が可能。


3.今後の展望
今後は表示素子の実用化のためのニッケルナノチューブの連続生産法の検討、光硬化型異方導電シートの幅10cmでの実機での生産試験と物性評価を行っていきます。
また、磁性導電性粉体の利用に向け、均一形状化に関する研究、狭ピッチ化対応への検討、さらに磁性粉体の医療応用(平成20年度産業技術研究助成採択研究)に関する研究を重ねて参ります。


4.参考
成果プレスダイジェスト:東北大学教授  中川 勝氏

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ビジネスカテゴリ
素材・化学・エネルギー
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会社概要

URL
http://www.nedo.go.jp/
業種
製造業
本社所在地
神奈川県川崎市幸区大宮町1310番 ミューザ川崎セントラルタワー16~21階
電話番号
044-520-5100
代表者名
村田 成二
上場
未上場
資本金
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設立
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