【レポート】コロナ下2回目の上半期決算、キャッシュフローで勝ち組・負け組の二極化くっきり
フルカイテン、調査レポート公表
在庫の効率を上げる在庫分析クラウドサービス(SaaS)『FULL KAITEN』を開発し小売企業等に提供するフルカイテン株式会社は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が日本で始まってから1年半が経過した2021年3~8月期における大手上場アパレル企業16社の決算を調べ、各社の在庫効率(在庫単位あたりの売上・粗利益を増やす力)がコロナ前と比較してどう変化しているかを考察するレポートを作成しました。
下記にレポート全文を公開します。PDFファイル版は下記リンクからダウンロードできます。
https://full-kaiten.com/news/report/4084
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https://full-kaiten.com/news/report/4084
要点は次の通りです。
※2021年3~5月の決算をまとめた別レポート(2021年7月21日公表、https://full-kaiten.com/news/report/3784)を参照
営業損益をみると、前年も黒字だった5社はいずれも増益で、前年が赤字だった11社のうちコックスを除く10社は黒字転換もしくは赤字幅が縮小している。
当期純損益では、3社が増益となり、前年に赤字だった12社のうち7社が黒字転換した。コロナ禍が2年目に入り、1年目のような極端な需要消滅は回避されたことが窺える。
本稿がGMROIを重要な指標とみている理由は次の通りだ。
ファーストリテイリングや良品計画を除き、多くのアパレル企業は国内事業が売上高の大半を占めている。その国内は縮小市場であり、売上規模ばかり追求すると過度の価格競争に陥る。そうした市場では、売る力を超える量の在庫を持つことは大きな経営リスクとなるため、限られた量の在庫で売上・粗利益・キャッシュフローを最大化させる経営が求められるのだ。
コックス以外の15社はGMROIが前年同期よりも改善している。各社とも総じて売上高が伸び、値引き販売を抑制しプロパー販売の徹底に務めた成果が出ているといえる。
ただ、コロナ前の2019年と同水準以上になったのは10社のみ。残り6社は19年比で64%~91%にとどまっており、収益力の回復はまだまだ途上と言えそうだ。
また、在庫の削減によるGMROIの改善は、短期的にはキャッシュ(手もと現金)が増えるという利点につながる。しかし、販売力(モノを売る力)が変わらない状態で単に在庫を減らすだけでは、売上高や粗利益の減少を招き、中長期的にみると事業規模の縮小やキャッシュフローの悪化を招いてしまう。
このため、粗利益を稼ぐ力をつけて在庫効率を向上させたうえで発注量(仕入れ量)を減らし、在庫を減らすことが重要になる。
※フリーキャッシュフロー:企業の本業によって稼いだ現金を指す「営業活動によるキャッシュフロー」と、設備投資や将来への投資と資産売却による資金回収との差額を表す「投資活動によるキャッシュフロー」の和を指す。企業が事業活動全般で得た資金のうち自由に使えるお金を意味する。
フリーキャッシュフローがマイナスの企業は、自由に使える資金がないため投資余力に乏しく、事業活動を維持していくために銀行借り入れや資産の切り売りなどを余儀なくされる。
表2は2019年~21年の3年間の各3~8月におけるフリーキャッシュフローをまとめたものだ。
これは、「利益」が現金創出を伴っていないということであり、良い兆候ではない。
また、過去3年間一貫してフリーキャッシュフローがマイナスの企業も4社あった。
日本国内の小売市場は総需要が増えない縮小市場であり、超大手企業を除く大多数の小売企業にとっては売上高よりもキャッシュフローが重要になる。
それは、従業員の様々なスキルアップ、付加価値のある差別化できる商品づくり、顧客接点として最も重要な売り場の付加価値づくりの3つへ投資することが縮小市場における生き残り競争には最重要の要素であり、投資の原資はフリーキャッシュフロー以外にないからだ。
そして、キャッシュフローは粗利益と密接に関わる。値下げ販売や残在庫の発生は粗利益を容赦なく削るうえ、キャッシュフローをも減らすなど大きな負の影響を及ぼす。値下げ、残在庫いずれも投資(発注)に費やした現金を回収でき無くなる事態につながるためだ。
つまり、粗利益とキャッシュフローを増やすには無駄な余剰在庫をできるだけ持たず、在庫1単位あたりの粗利益を増やすことが肝要になる。
逆に前章で振れたように、値下げが粗利益に与えるインパクトは絶大で、予算達成に向けて余分に仕入れた結果余った残在庫の評価減(償却損)と、キャリーした場合の翌期への負の影響も大きい。つまり、仕入れ原価を数ポイント下げることよりも、何十%もの値引きを抑える方が利益感度が高いことは自明だ。
そもそも、縮小市場において在庫を多く持つことで売上増加を目指す従来のビジネスモデルにとどまっていては、価格競争に巻き込まれやすく、値下げのコントロールによる粗利益増加は覚束ない。
「在庫効率」を上げることで、手もと在庫を使って今よりも売上・粗利益・キャッシュフローを増やすビジネスモデルへの変革が求められているといえる。
※本レポートのPDF版は下記リンクからダウンロードできます(無料)。
https://full-kaiten.com/news/report/4084
※本調査は、対象となった企業の経営成績や財政状態の優劣を評価するものではありません。
【本レポートの引用について】
本レポートの内容は自由に引用していただけますが、その際は下記へご連絡ください。
フルカイテン株式会社
広報チーム 南昇平
電話: 06-6131-9388
Eメール: info@full-kaiten.com
【会社概要】
社名: フルカイテン株式会社
URL: https://full-kaiten.com
事業内容: 在庫効率を上げる在庫分析クラウドサービスの開発
本社: 大阪市福島区福島1-4-4 セントラル70 2階B
設立: 2012年5月7日
代表者: 代表取締役 瀬川直寛
- 全16社のうち13社の売上高が前年を上回った。当期純損益は3社が増益となり、前年に赤字だった12社のうち7社が黒字転換した
- 少ない在庫で多くの粗利益を稼ぐ力の指標であるGMROIは、15社が前年より改善した。ただ、コロナ禍前の2019年と同水準に回復しているのは10社にとどまった
- フリーキャッシュフロー(企業活動で稼いだ現金のうち自由に使える現金)は14社(2社は非開示)のうち8社が赤字であり、現金創出力は二極化している
- 粗利益とフリーキャッシュフローを増やすには仕入れ原価の低減よりも値引き販売を抑制する方が効果的。在庫効率を上げる取り組みが急務
- 全16社のうち13社が増収。3社が当期増益、7社が黒字転換
売上高は全16社のうちオンワードホールディングス、マックハウス、コックスを除く13社が前年同期を上回った。21年3~5月は14社が前年比118%~165%という大幅増収だったが、本年6~8月は緊急事態宣言の発出による外出自粛の影響で売上が伸び悩み、3~8月の増収幅は勢いを欠いた。
※2021年3~5月の決算をまとめた別レポート(2021年7月21日公表、https://full-kaiten.com/news/report/3784)を参照
営業損益をみると、前年も黒字だった5社はいずれも増益で、前年が赤字だった11社のうちコックスを除く10社は黒字転換もしくは赤字幅が縮小している。
当期純損益では、3社が増益となり、前年に赤字だった12社のうち7社が黒字転換した。コロナ禍が2年目に入り、1年目のような極端な需要消滅は回避されたことが窺える。
- GMROIがコロナ前の水準に戻ったのは10社
※GMROI:小売業などの在庫ビジネスにおいて、保有する在庫を用いて効率的に粗利益(売上総利益)を上げる力を表す指標。(粗利益額) ÷ (期中平均在庫高)で求められる
本稿がGMROIを重要な指標とみている理由は次の通りだ。
ファーストリテイリングや良品計画を除き、多くのアパレル企業は国内事業が売上高の大半を占めている。その国内は縮小市場であり、売上規模ばかり追求すると過度の価格競争に陥る。そうした市場では、売る力を超える量の在庫を持つことは大きな経営リスクとなるため、限られた量の在庫で売上・粗利益・キャッシュフローを最大化させる経営が求められるのだ。
コックス以外の15社はGMROIが前年同期よりも改善している。各社とも総じて売上高が伸び、値引き販売を抑制しプロパー販売の徹底に務めた成果が出ているといえる。
ただ、コロナ前の2019年と同水準以上になったのは10社のみ。残り6社は19年比で64%~91%にとどまっており、収益力の回復はまだまだ途上と言えそうだ。
また、在庫の削減によるGMROIの改善は、短期的にはキャッシュ(手もと現金)が増えるという利点につながる。しかし、販売力(モノを売る力)が変わらない状態で単に在庫を減らすだけでは、売上高や粗利益の減少を招き、中長期的にみると事業規模の縮小やキャッシュフローの悪化を招いてしまう。
このため、粗利益を稼ぐ力をつけて在庫効率を向上させたうえで発注量(仕入れ量)を減らし、在庫を減らすことが重要になる。
- キャッシュフローは8社マイナス。現金創出力の回復は途半ば
※フリーキャッシュフロー:企業の本業によって稼いだ現金を指す「営業活動によるキャッシュフロー」と、設備投資や将来への投資と資産売却による資金回収との差額を表す「投資活動によるキャッシュフロー」の和を指す。企業が事業活動全般で得た資金のうち自由に使えるお金を意味する。
フリーキャッシュフローがマイナスの企業は、自由に使える資金がないため投資余力に乏しく、事業活動を維持していくために銀行借り入れや資産の切り売りなどを余儀なくされる。
表2は2019年~21年の3年間の各3~8月におけるフリーキャッシュフローをまとめたものだ。
四半期キャッシュフローを非開示としている2社を除外すると、2021年は14社のうち8社のフリーキャッシュフローがマイナスだった。営業黒字だった8社のうち4社(アダストリア、TSIホールディングス、バロックジャパンリミテッド、TOKYO BASE)はフリーキャッシュフローがマイナスであり、損益計算書上は黒字でも現金収支は赤字ということになる。
これは、「利益」が現金創出を伴っていないということであり、良い兆候ではない。
また、過去3年間一貫してフリーキャッシュフローがマイナスの企業も4社あった。
日本国内の小売市場は総需要が増えない縮小市場であり、超大手企業を除く大多数の小売企業にとっては売上高よりもキャッシュフローが重要になる。
それは、従業員の様々なスキルアップ、付加価値のある差別化できる商品づくり、顧客接点として最も重要な売り場の付加価値づくりの3つへ投資することが縮小市場における生き残り競争には最重要の要素であり、投資の原資はフリーキャッシュフロー以外にないからだ。
そして、キャッシュフローは粗利益と密接に関わる。値下げ販売や残在庫の発生は粗利益を容赦なく削るうえ、キャッシュフローをも減らすなど大きな負の影響を及ぼす。値下げ、残在庫いずれも投資(発注)に費やした現金を回収でき無くなる事態につながるためだ。
つまり、粗利益とキャッシュフローを増やすには無駄な余剰在庫をできるだけ持たず、在庫1単位あたりの粗利益を増やすことが肝要になる。
- まとめ:粗利を増やすには原価低減よりも値下げ抑制
全16社が粗利率を改善させている。中でもオンワードホールディングスは売上高が前年より0.7%減少したが、粗利率は8.55ポイント上がっていて、一連の不採算店舗の統廃合の効果が出ているといえる。
同じ百貨店系のTSIホールディングスと三陽商会も粗利率はそれぞれ11.56ポイント、8.46ポイント改善しており、値下げ(値引き販売)の抑制の成果が表れている。
アパレル産業では従来、前年超えないしは前年並みの売上高をつくるために十分な量を発注し、計画通りに消化できなければシーズン終盤に値下げして残在庫の発生を防ぐという考え方が主流となってきた。
値下げが多くなっても利益が出るよう、製品原価を下げることに取り組んできたが、こうした原価低減は商品の同質化という弊害が散見されるほど極限まで既になされており、仕入れ原価率を数ポイント下げられたとしても利益感度は低い。
逆に前章で振れたように、値下げが粗利益に与えるインパクトは絶大で、予算達成に向けて余分に仕入れた結果余った残在庫の評価減(償却損)と、キャリーした場合の翌期への負の影響も大きい。つまり、仕入れ原価を数ポイント下げることよりも、何十%もの値引きを抑える方が利益感度が高いことは自明だ。
そもそも、縮小市場において在庫を多く持つことで売上増加を目指す従来のビジネスモデルにとどまっていては、価格競争に巻き込まれやすく、値下げのコントロールによる粗利益増加は覚束ない。
「在庫効率」を上げることで、手もと在庫を使って今よりも売上・粗利益・キャッシュフローを増やすビジネスモデルへの変革が求められているといえる。
※本レポートのPDF版は下記リンクからダウンロードできます(無料)。
https://full-kaiten.com/news/report/4084
※本調査は、対象となった企業の経営成績や財政状態の優劣を評価するものではありません。
【本レポートの引用について】
本レポートの内容は自由に引用していただけますが、その際は下記へご連絡ください。
フルカイテン株式会社
広報チーム 南昇平
電話: 06-6131-9388
Eメール: info@full-kaiten.com
【会社概要】
社名: フルカイテン株式会社
URL: https://full-kaiten.com
事業内容: 在庫効率を上げる在庫分析クラウドサービスの開発
本社: 大阪市福島区福島1-4-4 セントラル70 2階B
設立: 2012年5月7日
代表者: 代表取締役 瀬川直寛
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