日系企業の海外現地法人における経営の現地化に関するアンケート結果

コロナ禍により必要性が高まる「組織の現地化」 思わぬ障壁は「本社の国際対応力」と「マルチタスク型の“できる”駐在員」

JAC Recruitment

世界11ヵ国で人材紹介事業を展開し、東南アジアでは最大級の規模(※1)を誇る株式会社ジェイ エイ シー リクルートメント(代表取締役会長兼社長:田崎ひろみ)は、シンガポール、マレーシア、インドネシア、タイ、ベトナム、インド、中国、香港、韓国にある日本企業の現地法人に、経営の現地化についてオンラインアンケートを行い、550社から回答を得ました。
本レポートでは、日本企業の現地法人における経営の現地化の現状について分析しています。
(※1) 自社調べ (アジアで人材紹介事業を展開する同業他社の売上規模を比較)
  • ジェイ エイ シー リクルートメント 海外支援室室長 佐原賢治による動画メッセージ​

  • 分析結果
(1)65.3%の現地法人が、経営の現地化を進めたい意向。

(2)経営の現地化に前向きな法人の約4分の1(24.2%)が、コロナ禍との関係性があると回答。
コロナ禍は、経営の現地化の主要な理由とは言えないが、現地化を進める大きなきっかけの一つとなっている。

(3)目指す現地化の状態は、「日本人駐在員の数を減らす」(39.3%)、「現地トップの国籍を現地人材とする」(19.8%)、「日本人駐在員の数を変えず現地人材の幹部・管理職登用を増やす」(14.8%)

(4)現地法人のトップは、依然として日本人だが、現地人材の幹部・管理職登用は進みつつある。
「現地人材の最高位が幹部・管理職」は、2015年16.8%⇒2022年43.1%

(5)経営現地化を行う目的は「ビジネスを現地化したい」(51.3%)「より優秀な現地人材を確保したい」(38.2%)。
現地人材確保などの「組織の現地化」より、まずは現地市場の開拓など「事業の現地化」が現地化の目的

(6)現地人材の登用など「組織の現地化」より、現地販売先の開拓など「事業の現地化」が先行

(7)「事業の現地化」にくらべ「組織の現地化」が進まないのは、本来本社側が直接行うべき現地とのコミュニケーションを、駐在員のみに担わせているため

 
  • (1)  65.3%の現地法人が、経営の現地化を進める意向。
経営現地化に対する方針について聞いたところ、経営現地化を進めるという方針が「決定」しているのは全体の29.1%で、「検討中」、「意向あり」までを含めると全体の65.3% (359社)が、経営の現地化に前向きな意向をもっていることがわかりました。

  • (2)  経営の現地化に前向きな法人の約4分の1(24.2%)が、コロナ禍との関係性があると回答。コロナ禍は、経営の現地化の主要な理由とは言えないが、現地化を進める大きなきっかけの一つとなっている。
経営現地化に前向きな現地法人を対象に、その意向とコロナ禍との関係性について尋ねたところ、「関係ない」という回答が多くを占めたものの、「直接的なきっかけである」または「関係がある」という回答も24.2%に達し、コロナ禍は、経営の現地化の主要な理由とは言えないものの、現地化を促進させる大きなきっかけの一つとなっている様子がうかがえます。

  • (3)  目指す現地化の状態は、「日本人駐在員の数を減らす」(39.3%)、「現地トップの国籍を現地人材とする」(19.8%)、「日本人駐在員の数を変えず現地人材の幹部・管理職登用を増やす」(14.8%)
経営の現地化に前向きな意向をもっている359社に、目指す経営現地化の状態を聞いたところ、「日本人駐在員の数を減らす」(39.3%)が最も多く、次いで「現地トップの国籍を現地人材(または第三国人材)とする」(19.8%)、「日本人駐在員の数を変えず現地人材の幹部・管理職登用を増やす」(14.8%)となりました。

  • (4)  現地法人のトップは、依然として日本人だが、現地人材の幹部・管理職登用は進みつつある。「現地人材の最高位が幹部・管理職」は、2015年16.8%⇒2022年43.1%
最高位の現地人材について聞いたところ、現地法人の社長が現地人材であると答えた割合は、2015年が11.0%に対し2022年では12.4%とほとんど増えておらず、「現地トップの国籍を現地人材(または第三国人材)とする」という現地化の目標に関しては、この7年間で、ほとんど進展がない様子がうかがえます。
しかし、最高位の現地人材が、役員以上の幹部・管理職(社長、副社長・役員)であると答えた割合でみると、2015年の16.8%(社長11.0%、現地法人の副社長・役員15.8%)に対し、2022年では43.1%(社長12.4%、現地法人の副社長・役員30.7%)と、その割合を大きく伸ばしており「日本人駐在員の数を変えず現地人材の幹部・管理職登用を増やす」という現地化の目標に関しては、ある程度進みつつある様子がうかがえます。

※2015年のデータは、JAC Recruitment のアジア拠点(シンガポール、マレーシア、インドネシア、タイ、ベトナム※インド、中国、香港、韓国は含まず)の取引先および名刺(連絡先)交換を行った日系企業現地法人480社からの回答

  • (5)  経営現地化を行う目的は「ビジネスを現地化したい」(51.3%)「より優秀な現地人材を確保したい」(38.2%)。現地人材確保などの「組織の現地化」より、まずは現地市場の開拓など「事業の現地化」が現地化の目的
現地化を進める計画や意向がある359社に、現地化の目的をきいたところ、「ビジネスを現地化したい(現地市場の開拓など)」(51.3%)「駐在員の派遣に伴う各種コストを削減したい」(46.5%)「より優秀な現地人材を確保したい」(38.2%)となりました。
現地人材確保などの「組織の現地化」より、まずは現地市場の開拓など「事業の現地化」を目的とする現地法人が多いことが見てとれます。

  • (6)  現地人材の登用など「組織の現地化」より、現地販売先の開拓など「事業の現地化」が先行
日本政策金融公庫が、2021年11月に発表した、取引先現地法人(回答現地法人数1740社)を対象に行った「第11回 取引先海外現地法人の業況調査報告」によると、新型コロナウイルス感染症発生以降に、事業見直しを行った内容(複数回答)について聞いたところ、「勤務体制の見直し」(n=551)、「販売戦略の見直し」(n=474)、「人員体制の見直し」(n=433)といった結果だったようです。
しかし、「人員体制の見直し」と答えた回答のうち、「駐在員の削減」を行ったと答えた社は99社に留まり、その中でも「現地人の責任者への登用」を行ったと答えた社は48社に留まりました。
一方、「販売戦略の見直し」と答えた回答のうち、「現地販売先の開拓(非日系)」を行ったと答えた社は225社にのぼり、「調達の見直し」を行ったと答えた社のうち97社が「現地調達先の開拓(非日系)」を行ったと答えました。
現地人材の登用など「組織の現地化」にくらべ、現地販売先の開拓など「事業の現地化」が先行して進んでいる様子がうかがえます。

「中小企業事業 第11回取引先海外現地法人の業況調査報告」よりデータ抜粋(2011年11月日本政策金融公庫 中小企業本部 国際業務部)「中小企業事業 第11回取引先海外現地法人の業況調査報告」よりデータ抜粋(2011年11月日本政策金融公庫 中小企業本部 国際業務部)

  • (7) 「事業の現地化」にくらべ「組織の現地化」が進まないのは、本来本社側が直接行うべき現地とのコミュニケーションを、駐在員のみに担わせているため
経営の現地化に前向きな意向をもっている359社に、経営現地化の実現を阻んでいる要因を聞いたところ、「現地の幹部候補人材の育成(マネジメント教育)が進まない」(42.6%)、「日本本社側に国際対応力が不足している」(35.7%)という回答が多くみられました。次いで「取引先・顧客の要求(対応窓口としての日本人の必要性)」(30.9%)「駐在員が不在となる(減る)ことに伴う日本本社との連絡不全」(29.5%)となりました。

また、以下の事例からは、本来本社側が直接行うべき現地とのコミュニケーションを、本社側の国際対応力のなさから、全て一括で駐在員に丸投げし、駐在員が、本社とのコミュニケーションのすべての窓口となっている様子がうかがえます。
そのため、駐在員が不在となると日本本社との連絡が不全となってしまい、また、あらゆる指示、情報伝達が駐在員を介して行われるため、ナショナルスタッフと日本本社との心理的距離や認識ギャップが生じ、現地人材の育成が進まない要因ともなっていると思われます。

つまり、「日本本社側に国際対応力が不足している」(35.7%)ため、駐在員が本社とのコミュニケーションのすべての窓口となってしまい、その結果、「駐在員が不在となる(減る)ことに伴う日本本社との連絡不全」(29.5%)が問題となり、また、本社とナショナルスタッフとのコミュニケーションも阻害されるため「現地の幹部候補人材の育成(マネジメント教育)が進まない」(42.6%)という結果を引き起こしていると考えられます。
経営現地化を阻んでいる大きな要因は、「日本本社側の国際対応力のなさ」と、それを許容し、対応してしまっている「マルチタスク型の“できる”駐在員」と言えるでしょう。

  • 【事例紹介】 日系コンサルティング会社 ベトナム支社/A氏
A氏は自身の役割が「ジャパンデスク化」しており、すべての指示や報告が自身の介入なしには完結しないと感じている。
A氏は、この「ジャパンデスク化」が自身だけでなく多くの日系海外現地法人に共通の問題(現地化が進んでいない実情の象徴)であり、その原因は、全てのコミュニケーションを日本人駐在員を窓口として行おうとする日本本社側の姿勢や体制によるのではないかと考えている。
そのような状況では、ナショナルスタッフが各々の仕事に対する本社側の意図や要求水準に直接触れることができず、結果的にその仕事に対する本社側の不満足を生む。
それは「日本人駐在員がいないと現地法人の仕事が回らない」という意識を本社側に定着させ、ナショナルスタッフへの権限委譲を躊躇させる。
A氏は、ジャパンデスク化の最大の原因は、日本本社側の国際対応力(英語力)の欠如であると見ている。足元では、自身の配下に日本語ができる人材を雇って対策をしているものの、恒常的にそれを続けることは労務費の面で合理的ではない。
ベトナムに限らず、新興国で日本語ができる人材の給与は高止まりしており、日本で各部署に英語ができる人材を雇う方がコストへのインパクトは少ない、というのがA氏の冷静な見立てである。
  • まとめ
「経営現地化」は1960年代から議論されている、日本企業の海外事業にかかわる“古くて新しい”課題です。特にアジア地域は、日本在外企業協会(日外協)の調査結果で「日本人社長比率」が他地域と比べて著しく高いことなどからも、経営現地化が進んでいない地域と見ることができます。
コロナ禍によって渡航は制限され、また多くの邦人駐在員が帰国したことによってこの“積年の課題”が解決の方向に向かったのか、これが本調査を行う上での問題関心でした。
一方、現地化を進めんと奮闘する14名の邦人駐在員に対するインタビューでは、様々な試行錯誤を行う様子を詳らかにすることができました。
その内容は「人材戦略レポート2022」(全20ページ)に詳しく記しましたので、ご関心をお持ちの方はぜひお問合せください。

ジェイ エイ シー リクルートメント 海外進出支援室
https://corp.jac-recruitment.jp/for_employers/services/global-recruitment/
※「人材戦略レポート2022」は、上記ページよりお問合せいただけます。


佐原賢治
ジェイ エイ シー リクルートメント 海外支援室室長
日系企業の海外事業展開に伴う人材採用に対するコンサルテーションや、海外事業要員の活用・定着に関するアドバイスを行う傍ら、東南アジアの日系企業における人材面の課題に関する調査を行っています。自治体、金融機関主催イベントでの講演多数。
  • 調査概要
回答者:JAC Recruitment のアジア拠点(シンガポール、マレーシア、インドネシア、タイ、ベトナム、インド、中国、香港、韓国) の取引先および名刺(連絡先)交換を行った日系企業現地法人
調査方法:オンライン上でのアンケート調査(任意)
調査期間: 2022年6月27日〜7月22日
回答数:550社
回答者の赴任先:

回答者の職位:

  • 【株式会社ジェイ エイ シー リクルートメント】
1988年設立。スペシャリストや管理職の人材紹介に特化し、企業と人材を一人のコンサルタントが同時に担当する「両面型」のビジネスモデルとして国内最大規模の東証プライム市場上場企業です。国際ビジネス経験をもつ人材の紹介も強みの一つで、日本国内では外資系企業や日系企業の海外事業などのグローバル領域の売上が全体の50%以上を占めています。外資系企業の人材紹介に特化した JAC International、ジョブサイトの「キャリアクロス」を運営するシー・シー・コンサルティング、英国、ドイツおよびアジア8ヵ国で人材紹介業を展開するJAC Recruitment International Ltdのグループ会社、コンサルティング・金融業界に特化した人材紹介事業を展開するバンテージポイントを傘下に、世界11ヵ国、25拠点で事業を展開するグローバル企業です。

[URL]
http://corp.jac-recruitment.jp(コーポレートサイト)
http://www.jac-recruitment.jp (転職サイト)

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会社概要

URL
http://corp.jac-recruitment.jp/
業種
サービス業
本社所在地
東京都千代田区神田神保町1-105 神保町三井ビルディング14階
電話番号
03-5259-9915
代表者名
田崎ひろみ
上場
東証プライム
資本金
6億7226万円
設立
1988年03月