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学校法人 順天堂
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がん細胞のエネルギーを枯渇させる抗がん剤の発見

~ミトコンドリア呼吸を標的にした新規がん治療法の可能性~

学校法人 順天堂

順天堂大学大学院医学研究科臨床病態検査医学の田部陽子 特任教授らの研究グループは、米国MD Anderson がんセンターのJoseph R. Marszalek 博士、Marina Konopleva 教授らとの共同研究において、細胞内のミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅰ(*1)に対する阻害剤が、再発性/難治性白血病に対する新しいがん治療薬になりうることを発見しました。この阻害剤は、細胞のエネルギーを枯渇させることで、脳腫瘍細胞および白血病細胞の増殖を強く抑制し、がん細胞の細胞死を誘導しました。また脳腫瘍モデルマウスにおいても強力な抗がん作用を確認しました。現在、実用化に向けて再発性/難治性白血病において新規抗がん剤としての臨床研究を進めています。
本研究は、英国科学雑誌「Nature Medicine」のオンライン版(2018年6月11日)で発表されました。
【本研究成果のポイント】
  • 細胞内のミトコンドリア呼吸の阻害剤ががんの細胞死を誘導することを発見
  • 脳腫瘍モデルマウスにおいて阻害剤IACS-010759(*2)の強力な抗がん作用を確認
  • ミトコンドリア呼吸を標的にした新規がん治療法の実現の可背景

【背景】
高齢化が進む本邦では2人に1人はがんになり、死因の1位となっています。その治療において、抗がん剤が効かなくなる耐性の獲得が問題となっています。がん細胞が存在するがん微小環境では、がん細胞の性質は均一ではなく、異なる性質をもつ細胞の集団として存在しています。そのため、抗がん剤の特異的な分子異常を標的とした治療に対して、生き残ったがん細胞は変異をしながら次々と耐性を獲得していきます。研究グループは、この耐性の獲得を避けるため、細胞が共通してエネルギーを依存するミトコンドリア呼吸を標的とした抗がん剤の開発が有効ではないかと考えました。

【内容】
まず、がん微小環境においてがんの生存を助ける低酸素誘導因子 (HIF1a) *3を抑える分子に着目して、新しい医薬品の候補となりう得る化合物薬剤のスクリーニングを開始しました。そして、その化合物の中から、 ミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅰを標的とする酸化的リン酸化阻害剤のIACS-010759(*3)を選出しました。 次に、この阻害剤IACS-010759の抗がん作用について複数の培養がん細胞を用いて調べたところ、エネルギー産生に必要なアスパラギン酸(*4)を抑えて、がん細胞の増殖を抑制することを発見しました (図1) 。

図 1 IACS-010759によるミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅰの阻害とエネルギー産生抑制図 1 IACS-010759によるミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅰの阻害とエネルギー産生抑制

そこで、阻害剤IACS-010759ががん細胞の代謝に及ぼす作用機序について、がん細胞での酸素消費率や代謝産物の変化を調べたところ、ミトコンドリア呼吸の阻害にともなって、エネルギー代謝の解糖系(*5)が活性化することがわかりました。さらに、 IACS-010759による細胞死の誘導作用を調べたところ、正常細胞に対しての毒性は低く、解糖系に異常があるがん細胞に対しては細胞死を強く誘導して抗腫瘍効果が高いことがわかりました。
次に、がん細胞を移植した脳腫瘍モデルマウスに、阻害剤IACS-010759を毎日服用させたところ、腫瘍が縮小し(図2)、生存期間中央値が約2倍に延長することを確認しました。また、白血病細胞を移植したマウスにおいて、阻害剤IACS-010759は用量依存的に白血病細胞の比率を低下させることを確認しました。

図 2 IACS-010759投与前後の脳のMRI画像と抗腫瘍効果図 2 IACS-010759投与前後の脳のMRI画像と抗腫瘍効果

以上の結果から、ミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅰの酸化的リン酸化に対する阻害剤が、脳腫瘍や白血病に対する新しいがん治療薬になりうることを明らかにしました。

【今後の展開】
本研究によって阻害剤IACS-010759のがん細胞に対する抗腫瘍活性と生体に対する安全性が確認されたため、現在、急性骨髄性白血病の第一相臨床試験が米国のMD Anderson がんセンターで進行中です。 阻害剤IACS-010759は、正常細胞に対する細胞毒性が低いため、高齢者のがん治療に適しているという特長があります。また、呼吸代謝を標的とするため抗がん剤への耐性化を獲得しにくいことから、高転移性や難治性のがんへの新規治療薬として実用化が期待できます。今後、このようながん代謝制御治療が、がん治療のブレークスルーとなる可能性があります。

【用語解説】
*1 ミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅰ:ミトコンドリアは細胞内にある小器官で、酸素を用いた呼吸によって一連のリン酸化を行い、効率的にエネルギーを産生する。そのミトコンドリアの内膜上にはⅠ~Ⅳまでの4つの呼吸鎖複合体があり、エネルギー産生に酸化還元反応を利用している。
*2 阻害剤 IACS-010759:化合物であり、ミトコンドリア呼吸鎖複合体Iを標的とする酸化的リン酸化阻害剤
*3 低酸素誘導因子 (HIF1a) : がん微小環境などで低酸素状態に陥った細胞で誘導される蛋白で、がん遺伝子を活性化し、がん抑制遺伝子を抑制する。
*4 アスパラギン酸: エネルギー産生を行うクエン酸回路の活性化に必要なアミノ酸。
*5 解糖系代謝: 糖(グルコース)を代謝してピルビン酸か乳酸を生成する。酸素が存在しなくても反応が進む。

本研究成果は、英国科学雑誌「Nature Medicine」のオンライン版(2018年6月11日)で発表されました。
論文タイトル: Oxidative phosphorylation inhibitor exploits cancer vulnerability
日本語訳:  酸化的リン酸化阻害剤が癌の脆弱性を利用する
著者:Jennifer R. Molina, Yuting Sun, Marina Protopopova, Sonal Gera, Madhavi Bandi, Christopher Bristow, Timothy McAfoos, Pietro Morlacchi, Ahmed-Noor A. Agip, Gheath Al-Atrash, John Asara, Jennifer Bardenhagen, Caroline C Carrillo, Christopher Carroll, Edward Chang, Stefan Ciurea, Jason B. Cross, Barbara Czako, Angela Deem, Naval Daver, John Frederick de Groot, Jian-Wen Dong, Ningping Feng, Guang Gao, Jason Gay, Mary Geck Do, Jennifer Greer, Jing Han, Verlene K Henry, Judy Hirst, Sha Huang, Yongying Jiang, Zhijun Kang, Sergej Konoplev, Gang Liu, Alessia Lodi, Timothy Lofton, Helen Ma, Polina Matre, Robert Mullinax, Michael Peoples, Alessia Petrocchi, Jaime Rodriguez-Canale, Riccardo Serreli, Thomas Shi, Melinda Smith, Yoko Tabe, Jay Theroff, Stefano Tiziani, Quanyun Xu, Qi Zhang, Florian Muller, Ronald A. DePinho, Carlo Toniatti, Timothy P. Heffernan, Giulio F. Draetta, Marina Konopleva, Philip Jones, M. Emilia Di Francesco, Joseph R. Marszalek
DOI: 10.1038/s41591-018-0052-4

本研究は、米国MDアンダーソンがんセンター, テキサス大学, 英国 ケンブリッジ大学との国際共同研究として行われました。なお本研究は、東京オンコロジーコンソーシアム(順天堂大学、聖路加国際大学、慶應義塾大学)とMDアンダーソンがんセンターの間で平成29年7月に取り交わされた姉妹協定に基づく共同研究のひとつとして進められたものです。また、本研究は順天堂大学学長特別共同プロジェクト研究、 MDアンダーソンがんセンター Sister Institution Network Fund などの助成を受け実施されました。

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URL
http://www.juntendo.ac.jp/
業種
教育・学習支援業
本社所在地
東京都文京区本郷2-1-1
電話番号
03-3813-3111
代表者名
小川 秀興
上場
未上場
資本金
-
設立
-
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