支える家族や同僚まで倒れる「もらいうつ」とは? 精神科医が実態と予防法を解説する新刊が本日発売
産後うつになった妻を支える夫、休職者の業務を引き継いだ同僚など「誰かを支えよう」とした結果、自分まで倒れてしまった人たち。本書は診断も休養も与えられないまま静かに消耗していく「支える側」に光を当てる。

うつ病の人を支えるうちに、家族や同僚など「心の距離」が近い人まで心身の不調を抱えてしまう。この現象を「もらいうつ」と名づけ、そのメカニズムと予防法を豊富な臨床事例から解説する新刊『もらいうつ』が、9月1日に方丈社より発売。著者は東京女子医科大学准教授で精神科医、日本医師会認定産業医の髙橋一志。
なぜ「もらいうつ」と名づけたのか
風邪をうつされたときに「風邪をもらってしまった」というように、誰かのうつを、自分が「もらってしまう」。もちろん、うつ病は感染症ではないため、医学的な意味で人にうつることはありません。
しかし、家族やパートナー、親子、職場の上司や同僚など、「心の距離」が近い人の苦しみに寄り添い続けることで、支える側まで心身の不調を抱えてしまうことがあります。
本書は、「健康であった人が、うつ病の人と時間や場所を共有したことでうつ病になってしまうこと」を「もらいうつ」と定義しました。精神科医として数多くの患者や家族、企業のメンタルヘルスに携わってきた著者が、その実態と予防法を豊富な臨床事例から解説します。
「誰かを支えよう」とした人が、次に倒れる
産後うつになった妻を支える夫。うつ病になった母親を支え続けた娘。後輩社員の相談に乗っていた先輩。休職者の業務を引き継いだ同僚など。本書には「誰かを支えよう」とした結果、自分までうつ状態に陥ってしまった人たちの実例が数多く登場します。
共通しているのは、いずれも相手を思いやる気持ちが強い人だという点です。責任感が強く、周囲への配慮ができる人ほど負担を抱え込みやすい。だからこそ自分の不調に気づかないまま無理を重ね、気づけば支える側まで疲れ果ててしまいます。
著者は、「もらいうつ」は同居する家族だけに起こるものではないと指摘します。離れて暮らす親子やパートナー、職場の同僚や上司であっても、「心の距離」が近ければ影響を受けることがある。物理的な距離ではなく、心の距離が近いかどうかが鍵になるといいます。
うつ病と診断された人には治療も休養もあるが、支える側には
うつ病と診断された人には、治療も、休養も、周囲の配慮もあります。一方で「支える側」に回った人たちは、診断を受けているわけでも、休めるわけでもありません。
家族であれば「支えるのは当然」と思い込み、職場であれば「自分が代わりに働くしかない」と抱え込む。そうして不調が表面化しないまま、静かに消耗していきます。本書が光を当てるのは、この「見えない層」です。
鍵は「近づきすぎず、離れすぎず」
では、どうすればいいのか。本書のカバーには「寄り添うけれど、寄り添いすぎない 自分までうつにならない生き方」というメッセージが掲げられています。
著者は、うつ病の原因を一つに決めつけることはできないと説きます。家庭や職場、人間関係、本人の気質など、さまざまな要因が絡み合って発症するからこそ、「犯人探し」ではなく、その人を取り巻く状況全体を理解することが回復への第一歩になるといいます。
本書では、寄り添い疲れから生じる「共感疲労」、寄り添っていた人が気づけば相手を責める側に回ってしまう心理などを、心理学・精神医学の視点からひも解きます。そのうえで、支える人が自分を守るための具体的な方法を示します。
精神科医が挙げる「もらいうつ」予防の4つの対策
第Ⅵ章では、「もらいうつ」を防ぐための日常の対策が4つに整理されています。いずれも特別な道具や費用を必要としない、今日から始められるものです。
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もらいうつ予防対策① 自分の特性を理解しておく
性格やストレスの感じ方、ものの見方の癖を知っておくと、「無理をしがち」「睡眠不足でイライラしやすい」といった自分特有の不調のサインに早く気づける。完璧主義、過度な心配性、何にでも白黒をつけたい人は特に注意。
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もらいうつ予防対策② セロトニンの分泌を促す生活習慣を心がける
散歩やストレッチなどの軽い運動と日光浴を。入浴も有効だが、38〜40度のぬるめの湯に。熱い湯は交感神経が優位になり、かえって心身の緊張を招く。カフェインとアルコールの摂りすぎはセロトニンの生成を妨げる。
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もらいうつ予防対策③ ストレスをマネジメントする
睡眠をとって体を休める/感情を書き出す/感情をリセットする/自分の気持ちを話す/ピアサポートを利用する/「〜しすぎ」に注意する。眠れない状態が続くときは、迷わず精神科や心療内科を受診することを著者はすすめる。
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もらいうつ予防対策④ 積極的に摂りたい食べ物
オメガ3脂肪酸が豊富なサバ・イワシ・サンマなどの青魚、トリプトファンを含む納豆や豆腐などの大豆製品、ヨーグルトやチーズなどの乳製品、ビタミンB群を含む卵や肉類。バナナはトリプトファンとビタミンB6の両方を含む。逆に甘いものの過剰摂取は、血糖値の急変動によりイライラや気分の落ち込みを招きやすい。
著者は「特定の食品を食べれば予防できるというものではない」とも述べており、朝食をしっかり摂るなど規則正しい食生活を心がけることが何より重要だと説いています。
支える人が心の健康を保つことは、自分のためだけではありません。結果として、支えられている本人の回復にもつながっていきます。
本文より(一部抜粋)
休職者の業務を引き継いだ人までうつ病に……
ある会社の総務部の人事担当者から、「ある若手の社員がうつ病になったとき、次々とうつ病の社員が出てきてしまい、欠員の補充に困った」という話を聞いたことがある。
その会社は社員約200人、工業製品の基幹部品を研究開発するメーカーで、社員のほとんどは機械工学などを学んできたエンジニアだという。
人事担当者の話では、新製品を開発する過程は、改良、改善の連続だが、いつまでに完成させるという納品期限は決まっているので、「毎日、締め切りに追われているような働き方」なのだという。
「エンジニアは、どこに不具合があるのかを発見し、それを決められた時間内に解決しなければなりません。彼らの思考が論理的というのはわかりますが、一方で、完成度の高い商品を作りたいという職人的な面も併せ持っています」
年長のエンジニアは、いうまでもなく経験豊富。その経験に基づいて論理的に若いエンジニアを指導するので、それを若いエンジニアは負担に感じ、強いプレッシャーを感じてしまうことが少なくないそうだ。
限られた時間内で完成度を要求される職場環境。最後まで自分の力で何とかしたいという仕事ぶり。それを続けているうちに、ある日、ポキリと心が折れてしまう。そんなことがその会社であったという。
一人がうつ病で休職すると、当然、そのエンジニアが担当していた業務を誰かが補塡しなければならない。
「今度は、休職者分の業務を受け継いだエンジニアが、うつ病で休職してしまいました。これは負の連鎖でした」
この事例は、一人のうつが、次のうつを招いてしまった典型例だ。この例からもわかるように、うつ病が重症化しないうちに早めに手を打つことが、経営にとっては重要なのである。
【目次】
まえがき ─自分まで「うつ」にならないために─
第Ⅰ章 「うつ」は「うつる」のか
「もらいうつ」とは/「うつ」は「うつる」のか/幸せいっぱいのはずの産後女性が……/産後うつは、母親だけの問題ではない/やはり「うつはうつる」/一緒に暮らしている家族も不調になる/家族対象の講座があるという事実/「家で安らげない夫」をサポート/家族サポートは患者にもプラス効果をもたらす/正しい治療を受ければ、うつ病は回復する/うつ病は治りやすいほうの病気
第Ⅱ章 職場にもある「うつはうつる」現象
うつっぽい社員が発する負のエネルギー/職場でのうつのうつり方/職場の空気がよどむと、負のスパイラルが生まれる/社員のうつ病対策は、企業経営の安全保障/ある企業の人事担当者の困りごと/母親由来の「もらいうつ」で休職/うつ病の原因を一つに特定するのはNG/もらいうつ事例❶最初は後輩社員の相談に乗っただけだったのに……/もらいうつ事例❷休職者の業務を引き継いだ人までうつ病に……/もらいうつ事例❸「大丈夫」「まだできる」と言っていたのに……
第Ⅲ章 うつになりやすい人
看病疲れは「うつのもらいどき」/「うつをもらいやすい」人たち/うつ病は「気持ちの近さ」で感染する/患者さんとの信頼感は、治療の効果に影響する/遺伝要素もある「うつ病のかかりやすさ」/うつ病を引き寄せやすい気質
第Ⅳ章 なぜ「もらいうつ」になるのか
「もらいうつ」と「共感疲労」/寄り添い疲れの徒労感が原因で「もらいうつ」に/「期待外れ感」は大きなダメージになる/「寄り添っている人」が、気づけば「責める人」に/「8050問題」と「もらいうつ」/不登校児の親と「もらいうつ」/要介護の親由来の「もらいうつ」/介護うつを避けるには/なぜ女性のうつ病罹患率は男性の二倍なのか/更年期はうつ病の要注意期間/度を過ぎた責任感の強さが仇になる/抱え込み過ぎがうつを呼び込む/「must thinking」は精神疾患を招きやすい
第Ⅴ章 「もらいうつ」から身を守る
心の病気は自覚するのが難しい/まず病気についての知識を持ってもらう/うつ病に対する知識は自分の身を守る防衛手段/なぜうつ病に気づかないのか/心の距離の近さが「もらいうつ」を招く/近づきすぎず、離れすぎず/第三者の相談窓口活用で心の負担を減らす/ピアサポートでうつ病の共倒れを回避する
第Ⅵ章 「もらいうつ」予防の日常対策
うつ病とは、脳内神経伝達物質のバランスが崩れた状態/人間関係由来のストレス/喪失体験・環境の変化由来のストレス/ストレスに弱い人の特徴/予防対策①自分の特性を理解しておく/②セロトニンの分泌を促す生活習慣を心がける/③ストレスをマネジメントする(睡眠、感情を書き出す、感情をリセットする、自分の気持ちを話す、ピアサポートを利用する、「〜しすぎ」に注意する)/④積極的に摂りたい食べ物
あとがき ─うつ病に対する知識が高まることを願って─
書籍情報

書名:『もらいうつ』
著者:髙橋一志
発売日:2026年9月1日
出版社:方丈社
定価:1,650円(税込)
仕様:四六判並製・200頁
ISBN:978-4-910818-44-3
HP:https://hojosha.co.jp/menu/1107445
Amazon:https://amzn.asia/d/0ezR8F7W
【著者プロフィール】

髙橋 一志(たかはし・ひとし)
東京女子医科大学准教授、医学博士。1969年、秋田県生まれ。秋田大学医学部医学科卒業。秋田大学医学部精神科入局。横手興生病院、由利組合総合病院などを経て、Emory University School of Medicine に留学。帰国後、東京女子医科大学神経精神科に勤務。現在、東京女子医科大学八千代医療センター心身医療科科長。日本医師会認定産業医として、働く人の健康を守り、安心して働ける職場環境づくりにも力を注いでいるほか、2025年7月から神田室町こころクリニックでも診療にあたっている。
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