絶滅危惧ⅠB類(鳥類)「サンカノゴイ」の全国のオスの繁殖個体数が明らかに
国内で確認できたのは17羽のみ!
2020~2022年の繁殖期(4~6月)に北海道全域・青森県・茨城県で、繁殖状況確認調査とアンケート調査を実施
(公財)日本野鳥の会(事務局:東京)は、湿地、湖沼、河川のヨシ原で繁殖するサギ科鳥類で、個体数の減少が懸念される「サンカノゴイ(環境省レッドリスト:絶滅危惧ⅠB類)」の保護調査活動を行なっています。
サンカノゴイは北海道では夏鳥で4~6月に湿地で繁殖し、北海道以外では留鳥として水田、放棄水田やヨシ原などで暮らし、少数が冬鳥として大陸から渡来します。
近年、本種は個体数が減少していると考えられ、その繁殖状況を把握するため、当会では2020年から2022年の繁殖期(4~6月)に、北海道全域と本州の一部(青森県、茨城県)を対象に、繁殖分布調査(現地調査)を実施しました。同時に、本州等での現在の繁殖状況を把握するため、過去に繁殖記録がある千葉県と滋賀県の琵琶湖の状況に詳しい会員にヒアリング調査を、栃木県と石川県の状況については既存文献の調査を実施しました。
●サンカノゴイ(Botaurus stellaris)
全長:70㎝ 翼開長:125~135cm
ずんぐりしたサギ科の鳥で、広いヨシ原に生息し、姿が見にくいため、「湿原の忍者」と呼ばれることもある。主に1羽で飛ぶ時に観察され、早朝と夜に見られることが多い。顔と首は茶褐色で、頭頂は黒っぽく、上面には縞があり、ヨシ原に溶け込む保護色となっている。
国内で繁殖している可能性のあるオス17羽を確認
3年間の現地調査では、オスのBooming※の数を繁殖の可能性がある羽数としてカウントし、併せて、ヒアリングや既存文献調査を行なった結果、北海道北部で5羽、本州以南 (青森3、茨城5、栃木1、千葉3 )で12羽、計17羽 のオスのBoomingが確認され、これらの地域でサンカノゴイが繁殖している可能性を確認できました。
※Boomingとは…オスが繁殖期に出す「ウォッヴォーーーゥ」という瓶の口を息で吹いたような特徴的な声のこと
サンカノゴイは国内では繁殖個体数が非常に少ない湿地・草原性鳥類の1つであると判明
【現在、日本で繁殖個体数が確認されている湿地・草原性鳥類の個体数】
・オオヨシゴイ =1~2羽 (環境省 2014年)
・シマクイナ =2羽 (北海道大学 2021年)
・シマアオジ =10つがい (日本野鳥の会 2020年)
・サンカノゴイ =オス17羽
・チュウヒ =136つがい (日本野鳥の会 2020年)
・アカモズ =332羽 (北海道大学 2020年)
※サンカノゴイの繁殖個体数は、日本で繁殖する湿地・草原性鳥類の中ではシマアオジに次いで少ないと推定されます。
湿地の消失や減少により、サンカノゴイの生息が確認されなくなった地域があることは知られていますが、広大なヨシ原で生活するため、生息の確認が困難です。そのため個体数の推定が難しく、これまで繁殖個体数が詳細に把握されてきませんでした。全国鳥類繁殖分布調査報告書(調査期間2016~2021年)によると、繁殖確認数は0、繁殖の可能性のある個体数が7羽とされています。
サンカノゴイの減少要因――湿地・草原の喪失と抽水植物の減少
日本では、過去100年間に1,000km2以上の湿地や草原が失われました。また、
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乾燥化や埋立て
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植生遷移による疎林化や樹林化、それらによるヨシ原自体の衰退や劣化
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工業地域や農地、宅地への転用、最近では太陽光発電施設の設置などの開発行為による消失
等の要因から、湿地・草原性鳥類の個体数が著しく減少しています。それは近年、日本の希少種保護に関して重要かつ有効な法律である「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)」の「国内希少野生動植物種」に指定された鳥類の多くが、チュウヒ、シマアオジ、シマクイナ、アカモズなどの湿地・草原性鳥類であることからもわかります。
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今回の調査結果から、サンカノゴイは現在、北海道、青森県、関東圏の一部の湿地や草原でしか繁殖していないことがわかりました。過去には北海道の中央部や東部、滋賀県の琵琶湖などでも繁殖が確認されていましたが、今回はそれらの場所での繁殖の可能性は確認できませんでした。北海道中央部では2018年から、琵琶湖では10年ほど前から、繁殖するオスを確認できなくなりました。また、栃木では最大4~5羽のオスの繁殖が確認されていましたが、2013年以降から1~2羽しか確認できなくなっています(平野 2018)。このような個体数の減少要因としては、生息地のヨシなどの抽水植物が開発や改修により減少していることが挙げられます(平野 2018)。
サンカノゴイが好む環境――湛水した広いヨシ原
英国ではラジオテレメトリー調査から、サンカノゴイの繁殖環境について以下の報告がされています。
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発声時の雄の行動圏は平均14.3haであること
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開水面の縁から30m以内の水深約20cmのヨシ原を頻繁に利用していること(Gilbert et al. 2005)
サンカノゴイの繁殖には湛水した広いヨシ原の存在が重要だということです。
日本での断片的な調査結果でも、本種は生息環境として水の多いヨシ原を選好することが示唆されています(岡田ほか 1986、橋本・桑原 1992)。しかし、日本にあるヨシ原は、ヨシを主とする高茎植物が広く生育するものの、大部分は地表が乾燥あるいは湿った程度のヨシ群落であることが多く、サンカノゴイが選好する環境は少なくなってきたものと考えられます(平野 2018)。
今後のサンカノゴイの保護――繁殖情報の把握と、その環境管理
今後は、サンカノゴイの繁殖情報を再度整理し、サンカノゴイの繁殖地があれば、地域住民や行政機関、開発事業者は、その存在に配慮した行動を取らなければならないと考えます。本種の繁殖を保全する場合、水深20cm程度の広大なヨシ原の存在が重要であることから(環境省 2014)、そのような湿地の保全と、湿地環境が悪化している場合にはその回復を試みる必要があります。さらに、本種にとって好適な繁殖条件や環境をより詳しく調べ、1997年に11羽にまで減少したサンカノゴイを、2022年に228羽にまで回復させた英国のように、既存の繁殖地周辺での繁殖可能な環境の創出と管理をしていく必要があります。
当会では、北海道北部を中心に、繁殖地が限定されるサンカノゴイの繁殖環境を保護するために、行政機関との協働や保全への働きかけを行なっていく予定です。
引用文献
●Gilbert G, Tyler GA, Dunn CJ & Smith KW (2005a) Nesting habitat selection by bitterns Botaurus stellaris in Britain and the implications for wetland management. Biological Conservation 124: 547–553.
●橋本洋一・桑原和之 (1992) 印旛沼におけるサギ科Ardeidae 8 種の生息場所.我孫子市鳥の博物館調 査研究報告 1: 9-22.
●平野敏明.2018.渡良瀬遊水地における繁殖期のサンカノゴイ雄の減少.Bird Research 14: A13-A22.
●北海道大学.2020.プレスリリース:絶滅危惧鳥類アカモズの危機的状況を明らかに~日本国内の繁殖個体数と繁殖分布域の縮小の程度を初めて算出~(https://www.hokudai.ac.jp/news/pdf/201124_pr.pdf).
●北海道大学.2021.プレスリリース:国内希少野生動植物種・シマクイナの国内繁殖を初確認~巣の発見は約 110 年ぶり,巣立ち雛の撮影は世界初~(https://www.hokudai.ac.jp/news/pdf/210507_pr.pdf).
●環境省.2014.レッドデータブック2014 2鳥類 環境省編.環境省,東京.
●(公財)日本野鳥の会.2020.プレスリリース:日本野鳥の会とサロベツ・エコ・ネットワークが「シマアオジ」の生息地14.8ヘクタールを購入(https://www.wbsj.org/activity/press-releases/press-2020-06-11/).
●(公財)日本野鳥の会.2020.プレスリリース:絶滅危惧鳥類「チュウヒ」の全国繁殖つがい数が明らかに ~全136つがいで、国内最少のタカ科鳥類であることが判明~(https://www.wbsj.org/activity/press-releases/press-2020-12-10/).
●岡田登美男・池地秀満・植田潤・大野達男・森田尚・堀尾正三郎・堀尾岳行.1986.滋賀県下物におけるサンカノゴイBotaurus stellaris の繁殖記録.Strix 5:53-59.
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