環境移送ベンチャー イノカ、リバネスと共同でTNFD開示対応を支援する分子生物学的評価サービス「BETA」を国内初、事業化。
〜化学物質の“見えないリスク”をメダカで可視化、化学メーカーや製造業・肥料メーカーなど企業の生物多様性保全対応を支援〜
株式会社イノカ(本社:東京都文京区、代表取締役CEO:高倉葉太、以下「イノカ」)は、株式会社リバネス(本社:東京都新宿区、代表取締役グループCEO:丸幸弘、以下「リバネス」)と共同で、イノカ独自の特許技術『環境移送技術®︎』を用いて飼育したメダカを使い分子生物学的手法を用いて化粧品・洗剤などの化学品や工業排水など化学物質の生態系リスクを検知する生物多様性評価サービス『BETA』を2025年9月19日より正式に提供開始します。
本サービスは、TNFD開示対応に迫られる企業に対し、従来の毒性試験では見逃されてきた潜在リスクを可視化し、科学的根拠に基づく環境経営を支援します。

【課題背景】
TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)への対応が本格化する中、多くの日本企業が生物多様性へのインパクトをいかに具体的に評価し、開示していくかという喫緊の課題に直面しています。従来の環境アセスメントでは捉えきれなかった化学物質の“見えないリスク”が、今や企業の重要な経営課題として浮上しています。
欧州ではネオニコチノイド系農薬の原則使用禁止やPFAS規制の強化が先行し、日本でも「生物多様性国家戦略2030」や2018年の「改正農薬取締法」により、企業はより厳格な規制対応を求められています。
一方で、一般的に行われていた形態の変化を観察する毒性試験は、死亡率や外形変化といった「目に見える影響」の評価に留まっていました。しかし、規制が厳しくなり、社会の目が生物多様性へ向けられる中で、製品が生態系に与える影響について、より厳密な説明責任が企業に課せられるようになっています。
こうした背景から、今後、分子生物学的なアプローチは、生態系への影響を細胞レベルや遺伝子レベルで解明し、より客観的で説得力のあるデータを提供することを可能にするため、重要な指標となります。分子生物学的評価により、企業の製品が環境に与える影響を科学的に検証し、リスクや事業可能性を定量的に評価し、透明性の高い情報開示へと繋がります。
さらに、Fortune Business Insightsの予測によれば、世界の作物保護化学品市場は2032年に970.1億ドル(約13.9兆円)に達します。「生態系への影響が分子生物学的にも検証されている製品」という新たな付加価値を付与し、競合との差別化や新たな市場の創出と環境意識の高い次世代から支持されるブランド形成に貢献します。
【サービス概要】
本サービスは、メダカを用いた分子生物学的手法を用いた毒性評価試験を通じて、化学物質や廃水、製品が環境や生物に及ぼす影響を形態の変化を観察する従来の毒性試験では捉えきれなかった生物への潜在的な影響を遺伝子発現パターンの変化から評価します。
例えば、外見上は健康に見えていても、遺伝子発現に変化が見られれば、将来的な健康リスクの兆候を早期に捉えることができると考えています。
なお、大学等の研究機関などでの遺伝子レベルの研究は存在しますが、独自の特許技術『環境移送技術』に基づき管理された生物を用い、企業のTNFD開示などを目的とした商用の分子生物学的評価サービスは、当社が国内で初めて事業化するものです。(イノカ調べ)
さらにメダカはOECD(経済協力開発機構)など国際的な規制機関でも標準的手法として採用されており、学術的裏付けのある信頼性の高い方法であり、金魚やタナゴに比べ、環境変化や有害物質に対して高い感受性を持ち、特に急性毒性試験では、早期かつ的確な影響の検出が可能であり、精度の高い評価結果が得られます。

既存の毒性試験 |
BETA |
|
評価項目 |
死亡率や外部形態の変化など外見の変化のみ |
死亡率や外部形態の変化など外見の変化 遺伝子の発現パターンの変化 |
検出可能なリスク |
顕在的な影響 |
顕在的な影響 潜在的な影響 |
感度(影響の早期発見) |
低い |
高い |

【サービス実施の3ステップ】
ヒアリング 試験物質や実験内容についてお客様とヒアリングを行い、実験計画を作案します。
実験の実施 実験計画に基づき、イノカの管理施設にて専門員が1ヶ月程度の実験を行います。
結果報告・解説 実験結果報告書を提出し、実験結果の解説を行います。
※数社限定のパイロットプログラムを特別価格で提供予定です。
【対象となるお客様】
化学メーカー、製薬企業、農薬・肥料メーカー、化粧品や洗剤などの日用品製造業、環境コンサルティング企業、大学や研究機関、公的機関や自治体など、環境負荷評価や製品の安全性検証に関心のあるすべての組織。
【今後のローンチ予定】
2025年9月19日〜:正式ローンチ予定
【今後の展望:メダカから、飼育困難なサンゴの生態系評価へ】
『BETA』は、まず淡水生態系の代表的な指標生物であるメダカを対象としてサービスを開始しますが、これは私たちの挑戦の第一歩です。
弊社の核となる「環境移送技術®︎」(特許7681935号)は、特定の生物を健康に飼育するだけに留まりません。弊社はこれまで、この技術を用いて、飼育が極めて困難とされるサンゴの人工産卵を世界で初めて水槽内で成功させるなど、繊細な海洋生態系の再現においても実績を重ねてまいりました。
今後BETAで最も重要となるのは、試験に用いる生体をいかに健康に維持するかという点です。弊社は、独自の「環境移送技術®︎」 によって様々な生態系を精緻に水槽内で再現する研究開発を行ってきました。この技術により、これまでにもサンゴの人工産卵やマングローブの育成といった、極めて繊細な生態系を人工環境下で維持することに成功しています。
環境移送技術®︎を活用することで、生体にとってストレスの少ない環境を構築し、安定した飼育が可能になると考えています。このような丁寧な飼育管理によって、生体の健康状態を良好に保ち、実験に使用する際のばらつきを最小限に抑えることができます。その結果、実験の再現性や信頼性が高まり、より精度の高いデータ取得へとつながると考えています。
今後はこの技術基盤をさらに発展させ、将来的にはサンゴやその他の海洋生物を指標とした生態系リスク評価サービスの開発も進めてまいります。これにより、化学物質や製品のリスク評価に留まらず、気候変動が海洋生態系に与える複合的な影響の解明など、より広範な地球規模の課題解決に貢献することを目指します。
【東京大学大学院理学系研究科 濡木 理 教授】
イノカはそれぞれの生物の生態を知り尽くした『生き物オタク』の集団で、都会の真ん中で生物が健やかに育つ環境移送技術を実現しており、自然界でさえ観察が困難と言われたサンゴの産卵・生育をも閉鎖的実験系で可能にした素晴らしい会社です。生殖細胞は、個体に比べると染色体が半分である分ゲノムの損傷の影響を受けやすく、はるかに環境変化に対しナイーブで数世代先に突然絶滅を引き起こす。環境移送技術下のメダカ という『ノイズのない』状態の生物モデルを用いて遺伝子発現を解析することは、 これまで見過ごされてきた化学物質の次世代への影響、例えば生殖能力の僅かな低下といった『静かなるリスク』を捉える上で、科学的に極めて重要だと思います。BETAは、今後の生態系リスク評価 のあり方を変える可能性を秘めていると考えています。
【デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー 丹羽弘善】
TNFD開示にあたり、生物多様性への影響を科学的かつ定量的に示すことが喫緊の課題だった。BETAは、今後さらに実績を積むことでこれまでブラックボックスだった化学物質の潜在的リスクを可視化し、ステークホルダーへの説明責任を果たすための強力なツールになり得ると大いに期待している。
【イノカ岡本によるコメント】
私は学生時代、メダカのヒレがどのように伸びるのか、その分子メカニズムを解明する基礎研究に没頭していました。純粋な学術探求の日々でしたが、その一方で心のどこかでは、この小さなメダカという生物を通じて、いつか社会の役に立ちたいと常に考えていました。その長年の思いが、今回の新しいBETA開発の原動力となっています。
TNFDが叫ばれる中、多くの企業が生物多様性への影響評価に苦慮しています。しかし、既存の指標では「死なないけれど、健康でもない」という生態系の静かな悲鳴を捉えることができませんでした。我々は「環境移送技術®︎」でサンゴの命を未来へ繋ぐ挑戦をする中で、生物にとっての「真の健康」とは何かを深く学んできました。この知見を、かつて私が向き合った淡水生態系の指標生物メダカに応用し、これまで誰も見ることができなかったリスクの可視化に挑みます。
このBETAは、単なる評価サービスではありません。このBETAは、企業が自信を持って環境に良い製品を世に送り出すための「羅針盤」です。私たちはこの新しい基準を社会に提示し、まずは初年度10社との共同研究を目指します。そして将来的には、国際的なハブであるLiSHから本サービスを展開し、生き物と共に生きるという価値基準を世界へ広げ、人と自然が真に共栄する未来を創造します。
【株式会社イノカについて】
株式会社イノカは、2019年創業の自然環境の総合的プロフェッショナル集団です。サンゴやマングローブ、海藻などの海洋生物から、ゲンゴロウやメダカなどの淡水生物まで、水圏の生態専門家を中心に、大学教授をはじめとする自然科学の研究者、そして環境ビジネスの専門家が在籍しています。


「人類の選択肢を増やし、人も自然も栄える世界をつくる。」というミッションを掲げ、産官学と連携し、共に持続可能な豊かな地球を目指し、自然関連の新規事業創出を行っています。
イノカは様々なバックグラウンドの人材が在籍しておりますが、一つの共通項があります。
それは全員、自然や生き物が好きということ。
「自分たちが好きな自然をみつづける。」というフィロソフィーのもと、一人一人が自分が好きな自然や生き物をもっと探究したい、そして未来に繋げたいという想いを持って活動をしております。
【株式会社リバネスについて】
株式会社リバネスは、「科学技術の発展と地球貢献を実現する」を理念に掲げ、2002年に理工系の大学生・大学院生が立ち上げた研究者集団の企業です。サイエンスとテクノロジーをわかりやすく伝え、異分野の知識をつなぐことで世界を変える持続可能な仕組みを生み出す「サイエンスブリッジコミュニケーター®︎」として、教育応援プロジェクト、人材応援プロジェクト、研究応援プロジェクト、創業応援プロジェクトを軸に活動しています。一人一人の社員が自ら「課題」を掲げ、その「熱」に共感する多くの研究者や企業とともに解決に取り組むことで、科学技術の発展と地球貢献を実現します。今回、新サービスのリリースに向け、サービスの計画・設計のサポートをいただきました。
【本件に関する問い合わせ先】
株式会社イノカ 担当:岡本
TEL:03-6776-7842
E-mail:info@innoqua.jp
〒112-0004 東京都文京区後楽2丁目3-21 住友不動産飯田橋ビル1F
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