VIE、脳波とAIを用いて作成したプレイリスト聴取によってノスタルジア感情と記憶の鮮明性、ウェルビーイングを高める研究成果を発表
本研究成果は、懐メロで記憶想起を支援するアクティブシニア向け製品「うたメモリー」に実装
次世代型ウェアラブル脳波計の開発とニューロテクノロジーの社会実装を行うVIE株式会社(本社:神奈川県鎌倉市、代表取締役:今村 泰彦、以下、VIE(ヴィー))は、脳波とAIを用いて推薦された音楽を聴取することで、ノスタルジア(懐かしさ)の感情の喚起や、記憶想起とウェルビーイングの向上に寄与するNostalgia Brain-Music Interface(N-BMI)に関する研究成果を、Scientific Reportsから発表しました。
本研究では、VIEのウェアラブル脳波計を用いて、楽曲聴取中の脳活動と主観的なノスタルジア評価を組み合わせた予測モデルを開発し、個人ごとに最適化された「ノスタルジアを喚起する楽曲」を自動的に推薦するシステム「Nostalgia Brain-Music Interface(N-BMI)」を構築しました。実験の結果、N-BMIによって推薦された楽曲を聴くことで、若年者・高齢者ともにノスタルジア感情・状態レベルのウェルビーイング・主観的な記憶の鮮明性が有意に向上することが示されました。

Scientific Reportsとは
Scientific Reportsとは、自然科学全般を対象とする査読付きオープンアクセス科学ジャーナルで、Nature Portfolio(旧Nature Publishing Group)が発行しています。物理学、生命科学、医学、環境科学など幅広い分野の一次研究論文を取り扱っており、2025年現在のインパクトファクターは4.6です。
研究の背景
世界の人口は急速に高齢化しており、2050年には60歳以上が約22%、2100年には約32%に達すると予測されています※1。こうしたなかで「心身ともに元気に過ごせる時間=健康寿命」をどう伸ばすかが大きな課題となっています。
先行研究では、懐かしさの感情(ノスタルジア)が孤独感を和らげ※2、自尊心や楽観性を高め※3、過去の出来事を鮮明に思い出させることが示されてきました※4。したがって、ノスタルジアの経験は、健康寿命に寄与する可能性が考えられています。
特に音楽はノスタルジアを引き出す強力な要因であり、ストレス低減や長期記憶の保持とも関連していることが示されてきました※5。一方で、ノスタルジアを感じる音楽は人によって大きく異なるため、誰にとってどの曲が効果的なのかをあらかじめ特定するのは難しく、介護や臨床の場で実際に活用する際のハードルとなっています。
こうした背景を踏まえ、VIEは脳波と楽曲の特徴解析を組み合わせて、その人に最適な「ノスタルジアを喚起する曲」を脳波と機械学習を用いて自動で推薦する仕組みを開発しました。実験では、若年者と高齢者を対象に、自分で選んだ懐かしい音楽(自選曲)と他者が選んだ音楽(他選曲)を聴いてもらい、脳波と主観的なノスタルジア評価を同時に記録しました。
このデータをもとにノスタルジアを予測するモデルと、脳波パターンからノスタルジアを喚起している状態かどうかを分類するモデルを構築し、数千曲のデータベースから最適な音楽を推薦するアルゴリズム「Nostalgia Brain-Music Interface(N-BMI)」を開発しました。
※1:Lutz, W., Sanderson, W. & Scherbov, S. The coming acceleration of global population ageing. Nature 451, 716–719 (2008).
※2:Zhou, X. et al. The Restorative Power of Nostalgia: Thwarting Loneliness by Raising Happiness During the COVID-19 Pandemic. Soc. Psychol. Person. Sci. 13, 803–815 (2021).
※3:Jiang, T., Cheung, W. Y., Wildschut, T. & Sedikides, C. Nostalgia, reflection, brooding: Psychological benefits and autobiographical memory functions. Conscious. Cogn. 90, 103107 (2021).
※4: Ismail, S. et al. Psychological and Mnemonic Benefits of Nostalgia for People with Dementia. J. Alzheimers Dis. 65, 1327–1344 (2018).
※5:Sedikides, C., Leunissen, J. & Wildschut, T. The psychological benefits of music-evoked nostalgia. Psychol. Music. 50, 2044–2062 (2022).
研究の結果
◆自選曲/他選曲聴取後の主観評価
研究では、若年者群には自分で懐かしいと感じる曲(自選ノスタルジア曲)を3曲選んでもらい、比較のために同世代の別の参加者が選んだ曲(他選ノスタルジア曲)も聴いてもらいました。高齢者群には、青春期(15歳前後)に流行していた曲のリストから懐かしいと感じる曲(自選ノスタルジア曲)を3曲選んでもらい、比較のために若年者群が選んだ曲(他選ノスタルジア曲)も聴いてもらいました。その後、各曲の聴取後に「懐かしさ」「瞬間的なウェルビーイング」「記憶の鮮明さ」をVASで評価しました。
若年者群では、自選ノスタルジア曲聴取後の評価が他選ノスタルジア曲より有意に高く、ノスタルジア感情、状態レベルのウェルビーイング、主観的記憶の鮮明さがいずれも上昇しました【Figure1-A】。高齢者群でも同様の傾向が見られ、自選曲のほうが有意に高い値を示しました【Figure1-B】。

◆モデル精度(Model 1/Model 2)
楽曲の特徴からノスタルジアを予測するModel 1(LASSO回帰)は、高精度で学習させることに成功しました
音楽聴取時の脳波パターンから自選ノスタルジア曲か他選ノスタルジア曲かを判別するModel 2(ノスタルジアデコーダー)の平均精度は、若年者群で平均約64%、高齢者群で平均約72%の精度を示しました(Mean ± SD: 若年者 63.97 ± 16.11%、高齢者 71.52 ± 19.88%)。この結果はいずれもチャンスレベル50%を有意に上回り、特に高齢者群では脳波からノスタルジアの状態をより高い精度で読み取れることが確認されました。
◆フィードバック時のデコード指標
上述したModel1とModel2を用いて、数千曲のデータベースの中から「ノスタルジアを強める曲」と「ノスタルジアを喚起しない曲」を自動で最適に選ぶアルゴリズムを作成し、これにより20秒ごとに楽曲が選択されるプレイリスト、合計6曲(120秒間)の音楽を提示しました。
ウェアラブル脳波計で算出したノスタルジア指標は、若年者群では「ノスタルジアを強めるプレイリスト」で数値が上昇する傾向は見られましたが、有意な差には至りませんでした【Figure2-A】。一方、高齢者群では「ノスタルジアを強める曲」でノスタルジア指標が有意に高くなり【Figure2-B】、脳波パターンが自選曲を聴いたときの状態に近づくことが確認されました。

◆フィードバック時の主観評価
若年者群では、ノスタルジアを強める曲を提示した条件(ノスタルジック条件)のほうが、ノスタルジアを喚起しない曲を提示した条件(非ノスタルジック条件)よりノスタルジア感情と状態レベルのウェルビーイングは有意に上昇しました。一方、主観的記憶の鮮明さについては有意差には至らず、有意傾向にとどまりました【Figure3-A】。
高齢者群では、ノスタルジア感情・状態レベルのウェルビーイング・主観的記憶の鮮明さのいずれも、ノスタルジック条件で有意に高値を示しました【Figure3-B】。この結果は、N-BMIによる楽曲推薦が両世代に効果を持つ一方で、その影響は特に高齢者で顕著であることを示しています。

今回の研究では、脳波と楽曲の音響特徴を組み合わせた「Nostalgia Brain-Music Interface(N-BMI)」が、若年者群と高齢者群の双方でノスタルジア感情、状態レベルのウェルビーイング、主観的記憶想起の鮮明さを高めることが示されました。特に高齢者群においては、脳波データと主観的評価の両方で効果が確認されました。
本成果は、ノスタルジアを指標とした音楽推薦システムの有効性を示すものであり、今後は認知症予防や介護への応用など非薬物的アプローチとしての可能性について、さらなる検証が求められます。
N-BMIのアルゴリズムの詳細や、年齢群による効果の違いに関する考察などについては、本論文をご参照ください。
研究成果の実装

本研究で開発された「Nostalgia Brain-Music Interface(N-BMI)」は、学術的な意義にとどまらず、実際のサービスにも応用が進められています。研究成果は、懐かしい音楽を通じて記憶想起を支援するアクティブシニア向け製品「うたメモリー」に実装されており、日常生活のなかで高齢者の心理的ウェルビーイングや記憶をサポートする仕組みとして活用されています。
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VIE株式会社は、最先端技術であるニューロテクノロジーを掛け合わせ、新たな可能性を追求しています。研究企画から共同研究開発、サービス開発、事業実装まで、多岐にわたるフェーズやテーマでの共同研究を歓迎しておりますので気軽にお声がけください。
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VIE株式会社は、「味わい深い人生を ~Feel the life~」をミッションに掲げ、ニューロテクノロジーとエンターテインメントの力を融合させ、感性豊かな社会の実現を目指しています。
これまで製薬会社や大学研究機関、企業との連携を通じ、ウェアラブル脳波計やニューロテクノロジーを活用したサービスの開発を推進してきました。特に日常生活で簡易にEEG(脳波)を測定できる技術を実現し、感性の可視化を支援する製品や技術を展開しています。さらにリアルタイムで取得した脳波データにアクセス可能なデスクトップ版脳波解析アプリ「VIE Streamer」を提供しており、研究開発部門や大学研究機関、病院などで広く利用されています。
2024年3月には、製薬会社や事業会社などからシリーズA1ラウンドで3.05億円を調達し、研究開発および事業開発のさらなる推進に取り組んでいます。今後も、ニューロテクノロジーの普及と、ウェルビーイングや医療分野への貢献を一層進めてまいります。
・会社名:VIE株式会社
・代表取締役:今村 泰彦
・所在地:神奈川県鎌倉市大町1-9-22
・URL:https://www.viestyle.co.jp/
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