SDGsジャパン「持続可能な開発報告書2025」へのコメントを発表
6月30日、SDGsジャパンは「持続可能な開発報告書2025(SDR25)」について、大橋正明共同代表理事によるコメントを発表しました。
6月24日、国連系の民間研究組織「国連持続可能な開発ソリューション・ネットワーク」(SDSN)が毎年公表する世界と世界各国のSDGsの達成度合いを評価した「持続可能な開発報告書(Sustainable Development Report)」の 2025年版(https://dashboards.sdgindex.org/)が公表された。
ウクライナやガザでの戦争/武力紛争が続く中、米国はSDGsへの反対姿勢や国際援助の大幅カットなどを表明し、達成期限まで5年余りとなったSDGsの達成には大きな赤信号が灯っている。加えて、米国・イスラエルとイランの間で核をめぐる深刻な武力紛争が突発的に発生したり、気温の上昇も一層進行している。日本では米価を筆頭に物価上昇が続いており、世界的にも貧困削減の進展は停滞気味である。
つまり世界全体が持続不可能な方向へ一層傾きつつあるという、極めて異常な事態が生じているのである。こうした現実に対して大きな警鐘を鳴らしているのが、今回のSDGs評価報告書であるが、日本のメディアにおける関心は決して高いとは言えない。
本稿では、朝日新聞・北郷編集委員による記事(https://www.asahi.com/articles/AST6N5Q1NT6NTNLL005M.html)に加え、以下にいくつかの論点を共有したい。
1. SDGs達成に向けて赤信号が燈る主要な理由
1‐1. SDGsの土台である国連を中心とする多国間主義の危機
報告書の冒頭は、SDGsの土台である「国連を中心とした多国間主義」が深刻な危機に直面していることが強く訴えられている。各国の多国間主義へのコミットメントについて、本報告書は以下の要素を基に評価している。すなわち、国際条約の批准状況、国連総会における議決への対応、国連諸機関への加盟、武力紛争への関与の有無、軍事化の度合い、一方的制裁の行使、そして国連への資金拠出などである。
それによると多国間主義へのコミットメントが最も強い上位五か国はどれもグローバルサウスの小国で、バルバドス(1位)、ジャマイカ(2位)、トリニダード・トバコ(3位)、モルディブ(4位)、アンティグア・バーブーダ(5位)、一方もっとも弱い5か国は、自国第一主義を掲げる米国(193位)、紛争の続く南スーダン(192位)、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮、191位)、そしてイスラエル(190位)とソマリア(189位)だ。なお日本は84位(昨年は63位)である。
下位5カ国の内、アメリカはこれまで国連の常任理事国として戦後の多国間主義の主導してきた国、そのアメリカを含めた3カ国は核兵器の保有あるいは保有が確実視されている国々、残りの2カ国は紛争当事国である。つまり主に強国が多国間主義を軽視し、弱小国がそれを尊重しているように見える。
このことは、SDGsの進捗状況を自己評価した「自発的国家レビュー(VNR)」の回数にも表れている。今までのところ多国間主義を掲げる日本政府は、本年3回目の報告を行う予定だが、一度も報告していないのがアメリカとハイチとミャンマーである。後者2カ国は後発開発途上国で、それぞれ国内で困難な状況を長らく抱えているので報告を実施できない事情は想定できるが、アメリカは長らく意図的であると思わざるを得ない。
1‐2. 達成可能なターゲットは17%だけ
SDGsの169のターゲットのうち、2030年までに世界全体で達成されそうなものはわずか17%であり、残りの83%は進捗が限定的か逆行している。世界全体ではSDGs進捗は2020年以降停滞しており、特に目標2(飢餓)、目標 11(都市)、目標14(海)、目標15(陸)、目標 16(平和と公平)は軌道から大きく外れている、と指摘している。
1-3. 今重要なのは国際的な金融機関の在り方の改革
SDGs達成は、依然として長期的で大規模な投資の課題、具体的にはより高い投資効果が望める新興国や途上国への大胆な資本提供が重要ある。このためにこの6月30日から7月3日にかけてスペインのセルビアで開催される第4回開発資金国際会議(FfD4)で、世界通貨基金(IMF)や世界銀行(World Bank)、アジア開発銀行などの地域開発銀行などのグローバル金融アーキテクチャー(体制)の大胆な改革が合意され、グローバルな資金調達の新たな形態が実現することが期待される。
2. 日本とアジアの国々の達成度合い
表1が示すように、日本のSDGs達成度は167カ国中19位で、前年(167カ国中18位)からスロバキア共和国に抜かれて1ランク下げたが、達成スコアは少し上昇した。それでもSDGsの17目標の評価で最低なのは、24年の5目標(5ジェンダー、12生産と消費、13気候変動対策、14海の環境、15陸の環境)に加えて、今年は目標2飢餓(具体的には持続可能な農業)が加わり、昨年は「達成」とされた目標9イノベーションが今年は「重要な挑戦」に2ランク下がった。但し目標3健康は24年の「課題が残る」が今年は「達成」へと改善された。
なおSDGs達成の最上位国は例年通り北欧を筆頭にヨーロッパ諸国であり、日本はそれ以外の国としては筆頭である。日本に続くアジアの国は韓国(34位)で日本と同様に一ランク下降した。その次がタイで43位、そしてそのタイに昨年から続いているのがアメリカ(44位)である。

注目すべきは、中国が昨年の68位から11ランクもアップして米国に近づく49位で50位以内に入ったこと、同様にインドが109位から10ランクアップして99位と100位圏内に初めて入ったことであろう。
最下位国はやはりサハラ以南アフリカの諸国が大半を占めているが、昨年185位だった朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)がデータ不揃いで今年のランク対象からは外れた。タリバン政権が続くアフガニスタンは昨年162位だったが今年は160位、政治的不安定が続くパキスタンは137位から140位にランクを落としているが、スコアはわずかに上昇している。
「誰も取り残さない」SDGsを残り僅かな期限の中で少しでも実現していくためには、日本政府は「軍事費をGDPの5%に」という要求に屈するのでなく、国内では生活保護や年金を含めた社会保障を一層充実させること、国際的にはこうした最下位の国々の人々を主なターゲットとし、多国間主義に基づいて社会開発や気候変動対策を最優先に据えるべきである。そのためにはまず、SDGsの目標17にあるODA(政府開発援助)の金額をGDP0.7%(かそれ以上)に増額することを最優先すべきである。
【本件に関するお問い合わせ】
一般社団法人 SDGs市民社会ネットワーク
事務局 小松、松野
メールアドレス: office@sdgs-japan.net
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