SDGsジャパン、日本政府の自発的国家レビュー(VNR)に関するコメントを発表

7 月14 日~25 日までニューヨークで開催されている「持続可能な開発のためのハイレベル政治フォーラム」(HLPF)の閣僚会議において、現地時間 7 月22日午後、2017 年、2021 年に続いて3回目となる日本政府のSDGs の進捗状況を国連に報告する「自発的国別レビュー」(VNR)が行われました。SDGs市民社会ネットワーク(東京・千代田区、以下SDGsジャパン)は、本レビューにおいて、「誰一人取り残されない」包摂社会、共生社会の実現に向けた政策の重要性、多国間主義の堅持を表明したことについて、これを歓迎します。
SDGsジャパンは、VNR作成プロセスにおいて、2025年2月末にSDGs ジャパン11の事業ユニットおよび、SDGs ジャパン関係者が『SDGs スポット・ライト・レポート2025(日 / EN)』を作成発表したほか、日本政府SDGs 推進本部事務局を中心に対話と提言を続けてまいりました。
貧困・教育・障害・防災減災・ジェンダー・ユース・環境・ビジネスと人権・社会的責任・日本の地域社会等の視点から、日本政府のVNR について、端的にコメントを発表しました。
SDGs推進円卓会議民間構成員も務める、三輪敦子共同代表理事は、本コメントのおわりに、以下のようにコメントしています。
危機的状況にある SDGs だが、第二次世界大戦終結と国連創設 80 年という重要な年に実施されたVNR の重みを改めて考え、「信頼と連帯」の構築に向けた「光」を求め、展望を拓く必要がある。
SDGs市民社会ネットワーク(通称:SDGsジャパン)による
日本政府の自発的国家レビュー(VNR)に関するコメント
はじめに
3度目となった日本政府の今回のVNRは、市民社会、企業、労働組合、生協、研究者など多様な組織が参加してVNR案についてコメントを発表したステークホルダー会議が初めて開催されたうえで完成に至ったことは今回の特筆すべき点である。またVNRの最終版にはパブコメの多くが反映されており、民主的な政策決定プロセスが蓄積された。VNRから改めて感じるのは、改定版のSDGs実施指針に明記されている「科学的エビデンスに基づくSDGsの進捗管理と達成に向けた取り組み」の重要性である。たとえば、VNRで示されている「GXによる脱炭素実現」、「DXを通じた成長」、「プラスチックごみの削減を目指す大阪ブルーオーシャンビジョン」、「性暴力被害者へのワンストップ支援センター」等は、どれもSDGsを達成するうえで非常に重要な取り組みだが、エビデンスに基づいた進捗や評価が示されているとは言いがたく、今後の改善に期待したい。AIについては、デジタル暴力につながる危険性の認識も重要である。「貧困の定義」をめぐる長年の議論も言及される必要がある。
一方で、「地方の課題解決の指針としてSDGsを積極的に取り入れる動き」が取り上げられ、「地方創生SDGs」に基づく実践が紹介されているのはすばらしい。今後は「地域幸福度指標」を用いて「SDGsの達成度」の測定に結びつけることが期待される。富山県の「地方独自のWell-Being指標の作成」が目指す「GDPでは測れない豊かさ指標の創出」は、国連未来サミットの重要なアジェンダの一つでもあり、世界への発信も可能ではないか。
成果を発展させ、課題に対応し、「日本の続く未来」に向けた歩みを進めたいと感じさせる今回のVNRになった。
(SDGs市民社会ネットワーク 共同代表理事 三輪敦子)
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SDGs市民社会ネットワークの各ユニットからのVNRについてのコメント
【貧困ユニット】
ゴール1の指標について、厚生労働省の定期的調査である国民生活基礎調査などの結果をOECDの相対的貧困率の定義に沿って経年的に示し、貧困削減の停滞・母子家庭や単身老年世帯の苦境を示すべきである。ゴール2に関し政府の努力にもかかわらず、都内中心部で毎週食料を配布しているNPO法人によるデータに基づき、食糧難で支援が必要な人の増加を率直に示すべきである。日本のODAも、貧困削減を直接にもたらした無償援助が極めて少ないことを認知すべきである。
【開発ユニット】
紛争の多発などの厳しい国際情勢の下、日本として引き続き人間の安全保障と法の支配を推進するとしていること、またODAの継続・拡充を図り、人道・開発・平和の連携アプローチによる脆弱国・地域等への取り組みが報告されている点を評価する。一方、ODAの対GNI比0.7%目標の達成見通しや民間資金の活用における人権配慮や国際基準への準拠、債務問題や税の衡平性、国際連帯税による公的資金の動員などの言及はなく、さらなる取り組みを求める。
【国際保健ユニット】
ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)が目標3の取り組みとして記述されるなどパブリックコメントを受けた追加記述を評価する。一方で、日本国内におけるUHCの達成状況やジェンダー、外国人政策への言及が十分ではない。各国との比較ができない指標データが見受けられ積極的にデータ開示を行う必要がある。
【教育ユニット】
SDG4教育目標に関して、不登校・いじめ対策、ESDの推進、社会教育の重要性、途上国の教育改善のためのECWやGPE等の国際機関との連携強化が明記されていることを評価する。一方、90万人以上の成人非識字者の課題、外国籍の子どもの義務教育の保障、障害児が通常学校で障害のない児童生徒とともに学べるインクルーシブ教育の推進、学校を軍事目的として利用しないことを目指す「学校保護宣言」の賛同についての言及がなく、取り組みが求められる。
【ジェンダーユニット】
2025年版VNRでは、ジェンダー主流化や女性支援が明記され、一定の改善が見られますが、定量的な成果やLGBTQ+への言及が乏しく、具体性に欠ける。パブコメの指摘を受けて「人権とジェンダーの主流化」が加筆された点は前進だが、依然として政策評価や課題分析が不足している。ジェンダー平等の本質的実現には、より深い検証と多様性への配慮が不可欠である。
【環境ユニット】
気候変動適応策の1つとして熱中症対策の促進やメタン・フロンを含めた全温室効果ガス削減の取り組みの推進・支援、国連公海等生物多様性協定(BBNJ協定)の早期批准やネイチャーポジティブに向けた民間等の活動の促進について言及されたことを評価する。一方、環境・社会・経済課題に対し、環境やジェンダーといった分野を超えた統合的アプローチを加速すること、優良事例を国内外に発信し、国際的なSDGsの取り組みの活性化と連携を促すことを期待する。
【ビジネスと人権ユニット】
「『誰一人取り残さない』包摂社会の実現」の下に「ビジネスと人権」が位置づけられ、中小企業を含む企業の人権尊重の取り組みの周知・啓発、OECDの連絡窓口(NCP)の機能強化が言及されていることを評価する。一方、2025年の国別行動計画(NAP)改定におけるライツホルダーとのエンゲージメントや指標設定、また人権デューディリジェンスの法制化や国内人権機関の設置を含む人権救済制度の検討状況については言及がなく、さらなる取り組みが求められる。
【防災・減災ユニット】
防災・減災については多数の言及がなされており、VNRにおいてこれだけ注力する他国はないだろう。ハード面の進捗のみならず、ジェンダー平等や関連死の問題などソフト面の課題に言及していることも評価できる。一方、開発協力における防災の取り組みは、ハード面に偏っている。ソフト面での対策は費用対効果が高い。また防災庁の新設にあたってSDGsを踏まえた議論の進展を期待する。
【社会的責任ユニット】
ビジネスと人権に関する記述で、2023年の公共調達における人権配慮に関する政府方針の決定に加え、啓発等の取り組みにも言及したことは評価できる。しかし社会責任公共調達の徹底は、SDGs達成のための重点事項でもある持続可能な経済・社会システムの構築に寄与するものであり、取り組みが拡充されるよう法制度面での体制整備を求めたい。
【ユースユニット】
コラム掲載など若者に関する記述が増加し、ユースが執筆に関わった文章が意図を尊重した形でVNRが取りまとめられており、意味あるユース参画が着実に進展している点を高く評価する。他のステークホルダーの評価と取り組みに関する記述にも若者の視点が反映されつつある。一方で、今後は各分野においてユースの視点や問題意識を反映することで、分野間の連携や相乗効果にも目を向けた横断的な展開が期待される。各ゴールの成果指標データの統一的な公開が求められる。
【地域ユニット】
パブコメを通じて人権尊重や地方創生等に係る内容が充実したことは評価できる。しかし、市民社会の好事例、国際平和、先住民族、ジェンダー、今後の方向性に関する提言に対して言及が不十分である。地域からの視点としては、SDGs達成のためには「地域単位から政府の実践に反映する人権基盤型アプローチの普及・実施」、「地域からの達成を積み重ねるためのローカル指標の策定」、「地域で活動する市民社会との連携強化」が必要である。
【障害ユニット】
VNR作成にあたり、「日本政府がSDGsの推進において包摂社会実現を掲げる際に障害者を明記すること」を第一に訴えてきた。最終版には重点事項②である“「誰一人取り残されない」包摂社会の実現”にバリアフリーの推進が言及された。一方、障害者が直面する課題、特に分離教育の是正や地域移行の推進については各論においても言及されていない。2030年に向けた現状の認識と達成に向けた方針設定を当事者参画のうえで進めることを求める。
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おわりに
課題があるとVNRが確認している目標5「ジェンダー平等」と目標10「不平等の克服」への対応のために、「人権の尊重とジェンダーの視点の主流化」が明記されているのは希望である。また「共生社会の実現に向けた政策の重要性」や「多国間主義の堅持」が繰り返し示されている点も評価したい。
「ジェンダー平等」や「不平等の克服」には、「取り残されている人」や「声を届けられない人」の課題にアプローチする必要がある。その際には、不平等や差別の交差性・複合性の視点が重要であることを強調したい。ステークホルダー会議に参加できない、あるいは存在さえ知る機会がなかった人たちの課題を理解し、どう政策に反映させるか。ジェンダー平等は「少子化の克服」にも決定的に重要な役割を果たす。
危機的状況にあるSDGsだが、第二次世界大戦終結と国連創設80年という重要な年に実施されたVNRの重みを改めて考え、「信頼と連帯」の構築に向けた「光」を求め、展望を拓く必要がある。
(SDGs市民社会ネットワーク 共同代表理事 三輪敦子)
★プレスリリース(PDF版)はこちら
d27673-79-e3e53cddd2a8096a93d7790e8d3b9988.pdf★UN Web TVにて、発表の様子を視聴できます!
https://webtv.un.org/en/asset/k15/k15jdvfkj9
・日本政府の発表は01:39:00頃から
・SDGsジャパン ユースユニット幹事団体である、JYPS小野さんのコメントは02:09:00頃から
・ブルガリア・タイ・イギリス、MGOS(JYPS小野さん)からのコメントに対する日本政府の回答は02:24:30頃から
【本件に関する問い合わせ先】
担当:小松真理子 アドボカシーコーディネイター(7/12〜24ニューヨーク滞在中)
komatsu@sdgs-japan.net
松野有希 事業コーディネーター matsuno@sdgs-japan.net
SDGs市民社会ネットワーク(略称:SDGsジャパン)
〒102-0072 東京都千代田区飯田橋1-7-10 山京ビル本館605
TEL:03-5357-1773、FAX:03-5357-1774
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