新型コロナウイルス対策で期待されるAIの役割とはAppier Inc. チーフAIサイエンティスト ミン・スン
AI(人工知能)テクノロジー企業のAppier(エイピア、共同創業者/CEO:チハン・ユー、以下Appier)のチーフAIサイエンティストであるミン・スンは、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大を受け、AIを用いた新型コロナウイルス対策について発表します。
1. AIでデータを活用した意思決定を
医療分野には多種多様なデータが存在しています。研究者は実験、開発のデータを蓄積し、医療関係者は患者のカルテを取るなどの日常的な活動を通じてデータを収集してきました。現在、我々の暮らしやビジネスに影響を与えている新型コロナウイルスに関しても、正確性のレベルは異なりますが、世界中のあらゆる場所、多くの情報ソースからデータが集まっています。
データサイエンティストはデータの解釈にあたって、「4つのV」、すなわち、データの容量(volume)、処理速度(velocity)、データの多様性(variety)、真偽(veracity)を重要視しています。新型コロナウイルス対策においても、AIを用いて「4つのV」に焦点を当てた対策が必要です。
2019年12月、カナダの人工知能プラットフォーム「BlueDot」が、世界に先駆けて、中国の武漢で新型コロナウイルスのクラスターを検出しました。「BlueDot」がなければ、世界がこの感染力の強いウイルスに気づくまでに数週間かかっていたかもしれません。「BlueDot」は初期の段階から人々の行動パターンを分析し、感染の広がり方の予測も立てていました。
新型コロナウイルス感染による症状の治療や対応にあたっている研究者や医者は、情報の氾濫に戸惑いを感じています。しかしAIは大量の情報をふるいにかけ、最も適切な情報を見つけ出して、より良い、より迅速な意思決定を行うことが可能です。たとえば、「Covid-19 Open Research Dataset」には、24,000以上の論文が収録されており、必要な論文を見つけるために役立ちます。また、AIを搭載したツール「AliveCor」や「CLEW」は、心停止や呼吸器疾患の可能性を示す信号を検出するために使用されています。これらを用いることで、新型コロナウイルスによって危機にさらされている命を救うことにつながります。
2. AIを活用し、感染者の増加を抑え込む
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐためには、迅速な診断が重要です。しかしながら、人間はデータを収集することはできても、データを解釈する速度には限界があります。そこで、たとえば中国では、AIを用いたスマート画像読影システム「Ping An Smart Healthcare」が、同じ患者の複数のCTスキャン画像を解析し、病状の変化を測定しています。これを利用することで、人間が検査するよりもはるかに速くスクリーニングを実施することが可能になりました。数百人の潜在的な症例が迅速に検出されたことで、感染拡大を食い止めることができたのです。
AIは医療現場だけでなく、画像処理にも応用されています。たとえば、空港に配備されたスキャナーは発熱症状の出ている人を素早く検知することができるため、出国、入国の前に、より綿密なスクリーニングを行うことができます。
ミン・スンは、「AIを利用することで、感染拡大を防ぎ、診断にかかる時間を短縮すれば、医療崩壊を回避できるかもしれません。新型コロナウイルス対策において最も重要な問題は、検疫すべき人を特定するためのリソースの配分です。医療用品や専門知識をもった人材の配分を迅速かつ的確に実施できれば、クラスターや感染が広がる前に対処できるようになります」と述べています。
また、地理空間データを公開すれば、人々は感染率の高い地域を避けることが可能になります。たとえば台湾では、政府が収集したデータを用いて、潜在的に感染しているクルーズ船の乗客を特定しました。その後、通信会社の地理空間データを利用して、感染率が高いとされる地域を人々に公開しています。
ミン・スンは「将来的に事態が悪化した場合は、AIを用いて地理空間データと健康記録を組み合わせた予測モデルを構築し、人々の検査・隔離と、適切なリソースの割り当てができるように検討すべきです。私たちはデータを収集する技術や、健康と医療資源に優先順位をつける技術を持っています。このような革新的なアイデアでプライバシー保護されたシステムを構築するためには、政府の許可が必要です」と述べています。
3. 今後発生する可能性のある疫病の予防・治療法
新型コロナウイルス対策として、治療法とワクチンを見つけることもまた重要です。世界中の科学者がこれらの課題に取り組んでいるため、膨大なデータが加速度的に生み出されています。AIは、新旧含めて何千もの研究論文を精査し、治療法やワクチンの手がかりを見つけるために研究者を支援しています。しかし、ワクチンの製造に成功していない現状下では、困難な課題です。
治療法の開発には、病原体を構成するタンパク質の構造を理解し、さまざまな条件下でどのように相互作用するかを理解することが重要です。Googleの「AlphaFold」などのシステムは、世界中の研究者を支援するために使用されています。
ミン・スンは「創薬にはタンパク質の3次元構造を知る必要があります。この3次元の形が分かれば、AIを使ってシミュレーションを行い、病気を治療するための可能性のある化合物を特定することができるのです。IBMはすでにスーパーコンピューター『Summit』を使って、最も可能性の高い77種類の候補化合物を特定してテストしています」と述べています。
これまで創薬に関わる作業は、手間と時間のかかるものでした。しかし、AIを用いて3次元のタンパク質構造をモデル化し、仮想実験を行なうことで実験のスピードが上がれば、多くの価値が生まれます。新型コロナウイルスは、DNAベースではなくRNAベースのウイルスであるため、突然変異の可能性があるとミン・スンは説明しています。すでに研究者たちは、新型コロナウイルスの8つの突然変異株を検出しています。AIは、これらの突然変異の傾向を追跡して予測するのに役立つ可能性があります。また、新型コロナウイルスを治療し、最終的にワクチンを開発するための重要な要素になるでしょう。これらのAIツールによって特定される治療法の候補は、さらなる実験や臨床試験によって検証される必要があります。一方で、この段階に到達するまでにかかった時間は、AIの利用によって大幅に短縮されました。
ミン・スンは「治療法やワクチンの話を聞いて楽観的になりすぎるのは良くないですが、新薬の発見プロセスをスピードアップするために10年前にはなかったAIなどの優れた技術があるため、悲観的になりすぎる必要はありません。私は新型コロナウイルスの治療法を最初に発見したチームがノーベル賞を受賞することは間違いなく、そのためにはAIを非常に効率的に活用する必要があると考えています」と結論付けています。
Appier について
※過去の発表はhttps://www.appier.com/ja/category/newsletter/をご覧ください。
ミン・スン(Min Sun) プロフィール
2005年からGoogle Brainの共同設立者の一人であるAndrew Ng(アンドリュー・エン)氏、元Google CloudのチーフサイエンティストであるFei-fei Li(フェイフェイ・リー)氏などのプロジェクトに携わり、AAAI(アメリカ人工知能学会)をはじめ世界トップの人工知能学会で研究論文を発表。
2014年に国立清華大学の准教授に就任。2015年から2017年には、CVGIP(Computer Vision Graphics and Image Processing)Best Paper Awardsを3年連続で受賞。
専門分野は、コンピュータビジョン、自然言語処理、深層学習、強化学習。
2018年には「研究者には肩書きよりもデータが必要」と感じ、AIテクノロジー企業AppierにチーフAIサイエンティストとして参画。新製品の開発、既存製品の機能改善のほか、記述的な課題解決を行う。
医療分野には多種多様なデータが存在しています。研究者は実験、開発のデータを蓄積し、医療関係者は患者のカルテを取るなどの日常的な活動を通じてデータを収集してきました。現在、我々の暮らしやビジネスに影響を与えている新型コロナウイルスに関しても、正確性のレベルは異なりますが、世界中のあらゆる場所、多くの情報ソースからデータが集まっています。
データサイエンティストはデータの解釈にあたって、「4つのV」、すなわち、データの容量(volume)、処理速度(velocity)、データの多様性(variety)、真偽(veracity)を重要視しています。新型コロナウイルス対策においても、AIを用いて「4つのV」に焦点を当てた対策が必要です。
2019年12月、カナダの人工知能プラットフォーム「BlueDot」が、世界に先駆けて、中国の武漢で新型コロナウイルスのクラスターを検出しました。「BlueDot」がなければ、世界がこの感染力の強いウイルスに気づくまでに数週間かかっていたかもしれません。「BlueDot」は初期の段階から人々の行動パターンを分析し、感染の広がり方の予測も立てていました。
新型コロナウイルス感染による症状の治療や対応にあたっている研究者や医者は、情報の氾濫に戸惑いを感じています。しかしAIは大量の情報をふるいにかけ、最も適切な情報を見つけ出して、より良い、より迅速な意思決定を行うことが可能です。たとえば、「Covid-19 Open Research Dataset」には、24,000以上の論文が収録されており、必要な論文を見つけるために役立ちます。また、AIを搭載したツール「AliveCor」や「CLEW」は、心停止や呼吸器疾患の可能性を示す信号を検出するために使用されています。これらを用いることで、新型コロナウイルスによって危機にさらされている命を救うことにつながります。
2. AIを活用し、感染者の増加を抑え込む
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐためには、迅速な診断が重要です。しかしながら、人間はデータを収集することはできても、データを解釈する速度には限界があります。そこで、たとえば中国では、AIを用いたスマート画像読影システム「Ping An Smart Healthcare」が、同じ患者の複数のCTスキャン画像を解析し、病状の変化を測定しています。これを利用することで、人間が検査するよりもはるかに速くスクリーニングを実施することが可能になりました。数百人の潜在的な症例が迅速に検出されたことで、感染拡大を食い止めることができたのです。
AIは医療現場だけでなく、画像処理にも応用されています。たとえば、空港に配備されたスキャナーは発熱症状の出ている人を素早く検知することができるため、出国、入国の前に、より綿密なスクリーニングを行うことができます。
ミン・スンは、「AIを利用することで、感染拡大を防ぎ、診断にかかる時間を短縮すれば、医療崩壊を回避できるかもしれません。新型コロナウイルス対策において最も重要な問題は、検疫すべき人を特定するためのリソースの配分です。医療用品や専門知識をもった人材の配分を迅速かつ的確に実施できれば、クラスターや感染が広がる前に対処できるようになります」と述べています。
また、地理空間データを公開すれば、人々は感染率の高い地域を避けることが可能になります。たとえば台湾では、政府が収集したデータを用いて、潜在的に感染しているクルーズ船の乗客を特定しました。その後、通信会社の地理空間データを利用して、感染率が高いとされる地域を人々に公開しています。
ミン・スンは「将来的に事態が悪化した場合は、AIを用いて地理空間データと健康記録を組み合わせた予測モデルを構築し、人々の検査・隔離と、適切なリソースの割り当てができるように検討すべきです。私たちはデータを収集する技術や、健康と医療資源に優先順位をつける技術を持っています。このような革新的なアイデアでプライバシー保護されたシステムを構築するためには、政府の許可が必要です」と述べています。
3. 今後発生する可能性のある疫病の予防・治療法
新型コロナウイルス対策として、治療法とワクチンを見つけることもまた重要です。世界中の科学者がこれらの課題に取り組んでいるため、膨大なデータが加速度的に生み出されています。AIは、新旧含めて何千もの研究論文を精査し、治療法やワクチンの手がかりを見つけるために研究者を支援しています。しかし、ワクチンの製造に成功していない現状下では、困難な課題です。
治療法の開発には、病原体を構成するタンパク質の構造を理解し、さまざまな条件下でどのように相互作用するかを理解することが重要です。Googleの「AlphaFold」などのシステムは、世界中の研究者を支援するために使用されています。
ミン・スンは「創薬にはタンパク質の3次元構造を知る必要があります。この3次元の形が分かれば、AIを使ってシミュレーションを行い、病気を治療するための可能性のある化合物を特定することができるのです。IBMはすでにスーパーコンピューター『Summit』を使って、最も可能性の高い77種類の候補化合物を特定してテストしています」と述べています。
これまで創薬に関わる作業は、手間と時間のかかるものでした。しかし、AIを用いて3次元のタンパク質構造をモデル化し、仮想実験を行なうことで実験のスピードが上がれば、多くの価値が生まれます。新型コロナウイルスは、DNAベースではなくRNAベースのウイルスであるため、突然変異の可能性があるとミン・スンは説明しています。すでに研究者たちは、新型コロナウイルスの8つの突然変異株を検出しています。AIは、これらの突然変異の傾向を追跡して予測するのに役立つ可能性があります。また、新型コロナウイルスを治療し、最終的にワクチンを開発するための重要な要素になるでしょう。これらのAIツールによって特定される治療法の候補は、さらなる実験や臨床試験によって検証される必要があります。一方で、この段階に到達するまでにかかった時間は、AIの利用によって大幅に短縮されました。
ミン・スンは「治療法やワクチンの話を聞いて楽観的になりすぎるのは良くないですが、新薬の発見プロセスをスピードアップするために10年前にはなかったAIなどの優れた技術があるため、悲観的になりすぎる必要はありません。私は新型コロナウイルスの治療法を最初に発見したチームがノーベル賞を受賞することは間違いなく、そのためにはAIを非常に効率的に活用する必要があると考えています」と結論付けています。
Appier について
Appier は、AI(人工知能)テクノロジー企業として、企業や組織の事業課題を解決するための AI プラットフォームを提供しています。詳細はwww.appier.com/jp/ をご覧ください。
※過去の発表はhttps://www.appier.com/ja/category/newsletter/をご覧ください。
ミン・スン(Min Sun) プロフィール
2005年からGoogle Brainの共同設立者の一人であるAndrew Ng(アンドリュー・エン)氏、元Google CloudのチーフサイエンティストであるFei-fei Li(フェイフェイ・リー)氏などのプロジェクトに携わり、AAAI(アメリカ人工知能学会)をはじめ世界トップの人工知能学会で研究論文を発表。
2014年に国立清華大学の准教授に就任。2015年から2017年には、CVGIP(Computer Vision Graphics and Image Processing)Best Paper Awardsを3年連続で受賞。
専門分野は、コンピュータビジョン、自然言語処理、深層学習、強化学習。
2018年には「研究者には肩書きよりもデータが必要」と感じ、AIテクノロジー企業AppierにチーフAIサイエンティストとして参画。新製品の開発、既存製品の機能改善のほか、記述的な課題解決を行う。
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