新たなグローバル多次元貧困指数報告書で、世界の貧困層のほぼ80%が気候ハザードに晒された地域で暮らすことが判明

国連開発計画

Photo: UNDP

新たに発表された「2025年グローバル多次元貧困指数(MPI)」報告書は、気候ハザードと貧困の関係について、重要な新しいエビデンスを提示し、気候危機が全世界の貧困の様相を根本的に変えていることを明らかにしました。

『重なり合う苦難:貧困と気候ハザード(Overlapping Hardships: Poverty and Climate Hazards)』と題して、国連開発計画(UNDP)とオックスフォード大学が共同で作成したこの報告書は、気候ハザード関連のデータと多次元貧困関連のデータを初めて重ね合わせたものです。その結果を見ると、貧困はもはや単独で扱える社会経済問題ではなく、プラネタリー圧力や情勢不安と深く結びついた問題となっていることが分かります。

 

報告書によると、深刻な多次元貧困の中で暮らす人々計11億人のうち78.8%に相当する8億8,700万人は、同じ国の中でも酷暑、干ばつ、洪水、大気汚染という4つの重要な気候ハザードのうち少なくとも1つに晒された地域で暮らしています。気候ハザードに晒された人々は、さらに大きな不利益を被ります。貧困に環境的ショックという追加的な課題が加わり、これがさらに貧困の度合いを高め、深めるという悪循環が生じるからです。

 

徐浩良(ハオリャン・シュウ)UNDP総裁代行兼副総裁は、「私たちの世界は開発上の緊急事態に直面しています。数十年にわたり前進を続けてきた人間開発の歩みは今、驚くほど鈍化しているからです。私たちは転換点を迎えているといえます。私たちの新しい調査結果を見ても、グローバルな貧困を解消し、誰にとってもより安定的な世界を創るには、貧困層ほぼ9億人を危険に晒している気候リスクに立ち向かわねばなりません」と述べています。

 

貧困と気候ハザードという二重の負担

報告書は、貧困層が世界的に、環境課題に1つずつ個別に直面するよりも、複数の環境課題を同時に抱えることが多い点を強調しています。

  • 何らかの気候ハザードの影響を受ける8億8,700万人のうち、6億5,100万人が複数の気候ハザードに同時に晒されています。

  • 驚くべきことに、3億900万人は深刻な多次元貧困を経験するのと同時に、3つか4つの気候ハザードにも直面しています。「二重または三重の負担」を抱えるこれらの人々は、限られた資産や社会的保護システムへの最低限のアクセスしか持たないことが多く、これが気候ショックの負の影響に拍車をかけています。

  • 気候ハザードを個別に見ると、全世界の貧困層への影響が最も大きいのは酷暑(6億800万人に影響)と大気汚染(5億7,700万人に影響)です。洪水に見舞われやすい地域には4億6,500万人、干ばつが起きやすい地域には2億700万人がそれぞれ暮らしています。

 

報告書の共著者であるオックスフォード貧困・人間開発イニシアチブ(OPHI)のサビーナ・アルカイア事務局長は、「貧困層全体のほぼ3分の2が暮らす中所得国は、多次元貧困の隠れた中心地となっています。その中には、欧州・中央アジア、ラテンアメリカおよび東アジア・太平洋の貧困層全体と、南アジアの貧困層のほぼ全体が含まれます」と語ります。

 

地理的、経済的なホットスポット

気候ハザードへの曝露による負担は地域間、所得区分間で不均等に分布しています。

  • これら複合的な窮乏の世界的ホットスポットとされる南アジアとサハラ以南アフリカでは、気候ハザードの影響を受ける地域に暮らす貧困層が最大の数に上ります(それぞれ3億8,000万人と3億4,400万人)。

  • 南アジアでは、気候ハザードへの曝露がほぼ普遍的に見られており、域内の貧困層の実に99.1%(3億8,000万人)が、何らかの気候ショックに晒される一方で、複数のショックに直面する貧困層の割合も91.6%(3億5,100万人)に達し、世界の他の地域をはるかに上回っています。貧困の削減は歴史的なスピードで長足の進歩を遂げているとはいえ、南アジアは気候変動対策も加速しなければなりません。

  • 所得区分別でみると、低位中所得国は気候ハザードに晒された人々の絶対数という点でも、その割合という点でも、最大の負担を抱えています。低位中所得国では約5億4,800万人の貧困層が何らかの気候ハザードに晒されていると見られますが、これは全世界で何らかの気候ハザードに晒されている人々の61.8%にあたります。重大なのは、低位中所得国で暮らす貧困層のうち、4億7,000万人が同時に複数の気候ハザードに晒されているという事実です。

 

将来の不平等予測

ペドロ・コンセイソンUNDP人間開発報告書室長は「報告書で明らかにされた負担は、現在に限らず、将来も増大してゆくことが予測される」と指摘します。気温予測データを見ると、現時点で多次元貧困の水準が高くなっている国は、今世紀末までの気温の上昇幅も最大になると見られるからです。

 

2025年MPI報告書は、年齢コーホート別、都市部・農村部別、国内の地方別に88か国のトレンド分析も行い、これまでに76か国で貧困が大幅に削減されたとしながらも、コロナ禍以後は貧困削減が停滞しているおそれもあるという結果を示しています。

 

これらの分析結果は、多次元貧困の中で暮らす人々にのしかかる気候関連ハザードの不平等な負担に対処するため、グローバルな対策が緊急に必要とされていることを浮き彫りにしています。こうした多重のリスクに立ち向かうためには、気候変動に強い貧困削減戦略や現地の適応能力強化、大規模な国際的再分配と協調融資の仕組みを重視しながら、認識を行動へと変えてゆくことが必要です。

  

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UNDPについて:UNDPは貧困や格差、気候変動といった不正に終止符を打つためにたたかう国連の主要機関です。170か国において、人間と地球のために総合的かつ恒久的な解決策を構築すべく、様々な専門家や連携機関からなる幅広いネットワークを通じ支援を行っています。詳しくは、undp.orgをご覧になるか、@UNDPをフォローしてください。

 

OPHIについて:オックスフォード貧困・人間開発イニシアチブ(OPHI)は、全世界の効果的な政策立案に参考となる指針を提供するため、オックスフォード大学を拠点に、貧困とウェルビーイングの多次元的測定に取り組む研究機関です。

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上場
未上場
資本金
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設立
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