操作性に優れた新しいタイプの医療用超弾性ガイドワイヤーを開発【産技助成Vol.78】
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
東北大学大学院工学研究科
血管内治療デバイスの操作性を飛躍的に向上させる、先端部の柔軟性と
コシの強さを兼ね備えたガイドワイヤー(注1)用形状記憶合金を開発
本体を手元操作する時の回転・突き出し操作性を向上させるとともに製造コストの低減も実現
(注1)ガイドワイヤーとは、医療デバイスを血管内に挿入する時の先導役を担う金属製ワイヤーのこと。本研究では治療デバイスとして機能性が高い、弾力(弾性)があって折れにくい(コシの強い)ガイドワイヤーを開発した。
東北大学大学院工学研究科
血管内治療デバイスの操作性を飛躍的に向上させる、先端部の柔軟性と
コシの強さを兼ね備えたガイドワイヤー(注1)用形状記憶合金を開発
本体を手元操作する時の回転・突き出し操作性を向上させるとともに製造コストの低減も実現
(注1)ガイドワイヤーとは、医療デバイスを血管内に挿入する時の先導役を担う金属製ワイヤーのこと。本研究では治療デバイスとして機能性が高い、弾力(弾性)があって折れにくい(コシの強い)ガイドワイヤーを開発した。
【新規発表事項】
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、国立大学法人東北大学大学院工学研究科の准教授、須藤 祐司氏は、操作性に優れた新しいタイプの医療用超弾性ガイドワイヤーの開発をしました。
近年、患者の負担を少なくするため、血管内治療(注4)が循環器系疾患などで急速に普及しています。この治療では、カテーテルやステント(注5)といった治療デバイスを目的部位まで誘導するために、ガイドワイヤーと呼ばれる金属ワイヤーを血管内に挿入します。そこで、ガイドワイヤーには、血管を傷つけず障害物を避けるための先端部の超柔軟性と高い操作性を達成する一方で、本体部高剛性(コシの強さ)が要求されるなど、相反する特性が同時に求められていました。
本研究では、これら課題を解決するために、Cu-Al-Mn 系超弾性合金を用い加工熱処理による組織制御を駆使し、先端部の超柔軟性かつ本体部の充分なコシの強さを兼ね備えるという柔剛ハイブリットタイプの機能傾斜型ガイドワイヤーの開発を行いました。
また、本研究により創製された材料を利用することで、血管内でのガイドワイヤー先端部の操作がより繊細に行え、先端部の精密テーパー加工を削減することができるため、ガイドワイヤーの製造コストを低減できるものと期待されています。
(注4)血管内治療とは、血管内に挿入した医療デバイスで治療する手法のこと。
(注5)カテーテルとは、医療用に用いられる中空の柔らかい管のこと。ステントとは、体内の管状の部分(血管等)を管の内部から広げる医療機器のこと。
1.研究成果概要
現在、ガイドワイヤーは、主にステンレス(SUS304)あるいはTi-Ni 形状記憶合金が使用されています。ステンレス製はコシが強く(高剛性)突き出し性に優れるものの塑性変形するため先端部に曲がり癖がつきやすくトルク伝達性が劣ります。一方、Ti-Ni 超弾性製合金は、先端部柔軟性・形状保持性に優れるが、コシが弱く突き出し性に劣り、特に微小疾患部では手元回転操作が先端部に伝わりにくい、かつ製造コストが高いという問題があります。そのため、テーパー加工、先端部コイル装着や材料の加工硬化といった構造制御・複合化や材料強度の改善が行われていますが、臨床医が要求する特性と機能性を充分に満足していないのが現状です。
Ti-Ni 以外の実用形状記憶合金として、Cu 系形状記憶合金が考えられますが、従来のCu-Zn-Al やCu-Al-Ni 合金は冷間加工が困難なため実用化への障害となっていました。本研究では、過去の研究により見いだしていた高加工性多結晶Cu-Al-Mn 系合金について、加工熱処理法を用いた粒径制御、集合組織制御による超弾性効果の条件最適化、Siを加え、時効硬化処理を施し、先端部の柔軟性とステンレス並みのコシの強さ、トルク伝導性を兼ね備えたガイドワイヤー用合金を創製することに成功しました。
2.競合技術への強み
1) 本体部の剛性・先端部の柔軟性
高加工性多結晶Cu-Al-Mn系合金の粒径、集合組織制御を最適化することができる熱処理条件を技術確立した。本技術により、先端部では従来の多結晶Cu系合金では考えられない歪み8%の超弾性効果を得るとともに、時効硬化処理(注6)により硬さが急激に増加する特性を利用し、本体部の高剛性を充分に確保しました。
2) トルク伝達性
生体外部から血管内にある先端部を操作する際の操作のしやすさを左右するガイドワイヤー材料のトルク(回転力)伝達性は、ステンレス材と同等の優れた特性を有し、Ti-Ni材で見られた著しく操作性を阻害するウイッピング現象(注7)は見られません。
3) 先端部テーパー加工
従来、400mm程度必要であった先端部テーパー加工が、200mm程度で済むようになったことにより、全コスト約10000円のうち、1700〜2800円程度を占めていたテーパー加工コストを、800円程度に低減できます。
(注6)時効硬化とは適切な熱処理を行うと時間とともに硬さが増す現象のこと。これを利用して、金属を硬化させる処理を指す。
(注7)ウイッピング現象とは、駆動角度と追随角度が一致せず、ある値に達した瞬間に急激に回転が追随する現象。
3.今後の展望
本研究で開発した機能傾斜型ガイドワイヤー の臨床応用を目指し、動物実験、臨床評価を進めていきます。具体的には、東北大学大学院工学研究科および医学研究科との「学内橋渡し研究」を基点に医療メーカーと連携して臨床化を見極めていきます。
試作品では、生物学的試験の溶血性試験において、Cuが溶出する結果が出ています。安全性の見地から、親水性ポリマーまたは樹脂によるコーディングで人体への影響を抑制する方向で研究を進めています。動物実験等での協力者からは、より細くしてほしいという要望が出ていることから、本体部分の硬度をさらに上げる研究を進めていきます。
また、本技術によるCu-Al-Mn合金は、従来のTi-Ni超弾性合金と同等の性能をもちながら低コストでの製造が可能なので、Ti-Ni超弾性合金の使用が予想される建物の制振用などへの利用も期待されます。
4.参考
成果プレスダイジェスト:東北大学准教授 須藤 祐司氏
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、国立大学法人東北大学大学院工学研究科の准教授、須藤 祐司氏は、操作性に優れた新しいタイプの医療用超弾性ガイドワイヤーの開発をしました。
近年、患者の負担を少なくするため、血管内治療(注4)が循環器系疾患などで急速に普及しています。この治療では、カテーテルやステント(注5)といった治療デバイスを目的部位まで誘導するために、ガイドワイヤーと呼ばれる金属ワイヤーを血管内に挿入します。そこで、ガイドワイヤーには、血管を傷つけず障害物を避けるための先端部の超柔軟性と高い操作性を達成する一方で、本体部高剛性(コシの強さ)が要求されるなど、相反する特性が同時に求められていました。
本研究では、これら課題を解決するために、Cu-Al-Mn 系超弾性合金を用い加工熱処理による組織制御を駆使し、先端部の超柔軟性かつ本体部の充分なコシの強さを兼ね備えるという柔剛ハイブリットタイプの機能傾斜型ガイドワイヤーの開発を行いました。
また、本研究により創製された材料を利用することで、血管内でのガイドワイヤー先端部の操作がより繊細に行え、先端部の精密テーパー加工を削減することができるため、ガイドワイヤーの製造コストを低減できるものと期待されています。
(注4)血管内治療とは、血管内に挿入した医療デバイスで治療する手法のこと。
(注5)カテーテルとは、医療用に用いられる中空の柔らかい管のこと。ステントとは、体内の管状の部分(血管等)を管の内部から広げる医療機器のこと。
1.研究成果概要
現在、ガイドワイヤーは、主にステンレス(SUS304)あるいはTi-Ni 形状記憶合金が使用されています。ステンレス製はコシが強く(高剛性)突き出し性に優れるものの塑性変形するため先端部に曲がり癖がつきやすくトルク伝達性が劣ります。一方、Ti-Ni 超弾性製合金は、先端部柔軟性・形状保持性に優れるが、コシが弱く突き出し性に劣り、特に微小疾患部では手元回転操作が先端部に伝わりにくい、かつ製造コストが高いという問題があります。そのため、テーパー加工、先端部コイル装着や材料の加工硬化といった構造制御・複合化や材料強度の改善が行われていますが、臨床医が要求する特性と機能性を充分に満足していないのが現状です。
Ti-Ni 以外の実用形状記憶合金として、Cu 系形状記憶合金が考えられますが、従来のCu-Zn-Al やCu-Al-Ni 合金は冷間加工が困難なため実用化への障害となっていました。本研究では、過去の研究により見いだしていた高加工性多結晶Cu-Al-Mn 系合金について、加工熱処理法を用いた粒径制御、集合組織制御による超弾性効果の条件最適化、Siを加え、時効硬化処理を施し、先端部の柔軟性とステンレス並みのコシの強さ、トルク伝導性を兼ね備えたガイドワイヤー用合金を創製することに成功しました。
2.競合技術への強み
1) 本体部の剛性・先端部の柔軟性
高加工性多結晶Cu-Al-Mn系合金の粒径、集合組織制御を最適化することができる熱処理条件を技術確立した。本技術により、先端部では従来の多結晶Cu系合金では考えられない歪み8%の超弾性効果を得るとともに、時効硬化処理(注6)により硬さが急激に増加する特性を利用し、本体部の高剛性を充分に確保しました。
2) トルク伝達性
生体外部から血管内にある先端部を操作する際の操作のしやすさを左右するガイドワイヤー材料のトルク(回転力)伝達性は、ステンレス材と同等の優れた特性を有し、Ti-Ni材で見られた著しく操作性を阻害するウイッピング現象(注7)は見られません。
3) 先端部テーパー加工
従来、400mm程度必要であった先端部テーパー加工が、200mm程度で済むようになったことにより、全コスト約10000円のうち、1700〜2800円程度を占めていたテーパー加工コストを、800円程度に低減できます。
(注6)時効硬化とは適切な熱処理を行うと時間とともに硬さが増す現象のこと。これを利用して、金属を硬化させる処理を指す。
(注7)ウイッピング現象とは、駆動角度と追随角度が一致せず、ある値に達した瞬間に急激に回転が追随する現象。
3.今後の展望
本研究で開発した機能傾斜型ガイドワイヤー の臨床応用を目指し、動物実験、臨床評価を進めていきます。具体的には、東北大学大学院工学研究科および医学研究科との「学内橋渡し研究」を基点に医療メーカーと連携して臨床化を見極めていきます。
試作品では、生物学的試験の溶血性試験において、Cuが溶出する結果が出ています。安全性の見地から、親水性ポリマーまたは樹脂によるコーディングで人体への影響を抑制する方向で研究を進めています。動物実験等での協力者からは、より細くしてほしいという要望が出ていることから、本体部分の硬度をさらに上げる研究を進めていきます。
また、本技術によるCu-Al-Mn合金は、従来のTi-Ni超弾性合金と同等の性能をもちながら低コストでの製造が可能なので、Ti-Ni超弾性合金の使用が予想される建物の制振用などへの利用も期待されます。
4.参考
成果プレスダイジェスト:東北大学准教授 須藤 祐司氏
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