難民危機に揺れる欧州 ~ギリシャ・コス島からのレポート~
エーゲ海の島々には、シリア、イラク、アフガニスタンから逃れてきた難民が、続々と到着している。アムネスティは、そのうちの1つギリシャのコス島で、難民の置かれた状況を調査している。そこで見たのは、人口わずか3万の島で、大勢の難民に対応しきれない現場の混乱だった。
世界各地で起きている紛争、跋扈する武装勢力・・・危険のために国を逃れる難民の数は、ここ数年、増え続けている。アムネスティはこうした難民たちが置かれた厳しい状況を、現地で調査し、発表してきた。そして、現在の難民危機には、従来の保護体制ではもう対処できない、国際社会が連帯して保護する必要があると訴えてきた。
先週も、ギリシャのコス島で調査を行った。今年に入ってコス島にたどり着いた難民は3万人を越え、6月からその数は急激に増えている。現地調査中も、推定で3,000~4,000人の難民がいた。多くはシリア、アフガニスタン、イラクでの紛争や迫害から逃れてきた人たちで、ギリシャ本土、さらにその先を目指している。トルコの浜辺で遺体となって発見された男の子の一家も、この島に向かっていた。
■■人口に匹敵する数の難民に、現地の力だけでは対応しきれない■■
しかし、コス島には急増する難民に対応するだけの設備も体制も財源もない。そのため、難民たちは過酷な状況にある。収容施設がないため、難民たちは申請の受け付けを待つ間、テントや廃墟となっているホテルで仮住まいをしている。地元の住民やNGOが物資や医療を支援している一方で、役所による援助はほとんどない。
難民申請を受け付ける専用の施設もない。手続きは古い警察署1カ所だけで行われており、外には順番を待つ人であふれている。私たちが行った時も、100人ぐらいが暑さの中で座っていた。母親に抱かれた生後1週間の赤ちゃんもいた。日差しを遮るのはぽつんと立てられた1本の傘だけ。水分補給もない。手続きは、行政ではなく、国連難民高等弁務官事務所(UHNCR)が行っていた。
人口に匹敵する数の難民の到来に、地元警察や行政は限られた人や施設で対応を迫られている。その焦りは、しばしば不適切な形で噴出してしまう。
報道によれば、先月、難民申請のため競技場に殺到した人たちを警察官が警棒で殴ったり消火器を噴射したりする騒ぎがあった。テント暮らしを続ける人たちを前に、役所は公共トイレを閉鎖してしまった。
支援を申し出る住民がいる一方で、不安や不満を暴力で表す者もいる。アムネスティも、難民が暴力をふるわれる様を目撃した。20人ほどの集団がバットを振り回し、「国に帰れ!」と叫んでいた。警察は、実際に難民が襲われるまで、群衆を止めなかった。
アムネスティは、警察の留置所に入れられている4人の少年にも話を聞いた。留置所は不潔で、薄汚れたマットレスしかない。近くのトイレから悪臭が漂っている。そばには犯罪容疑者たちがいた。
シリアから来た16歳の少年は、「他の難民家族と一緒にギリシャにやってきた。パスポートを見せると、警察に捕まった。家族とはまだ連絡がとれない」と話した。逮捕から3日間は、弁護士など法的アドバイスをしてくれる人に会わせてもらえなかったそうだ。
■■難民対応改善を表明したギリシャ 支援なしで実現は厳しい■■
ヨーロッパ各地を目指す難民・移民にとって、最大の玄関口であるギリシャ。今年に入って海路でギリシャにたどり着いた人は、23万人にのぼる。昨年の同じ時期には1万7,000人で、実に13倍にもなる。7月・8月の2カ月だけで、15万7,000人だ。その大部分は難民である。
EUの規則では、難民の審査は最初に上陸した国が責任を持つ。しかし、この異常事態への対応を、ギリシャ政府だけに、エーゲ海の島々だけに押し付けるのは、酷な話だ。ギリシャがいまだ財政危機にあるのは言うまでもない。
9月3日にアテネに大臣が集まり、エーゲ海での難民危機への対処を協議した。そして、到着した難民に対応するセンターを開設し、申請手続きの迅速化に向け人員と資材を投入すると発表した。さらに、追加の財政支援と後方支援をEUに求めた。
アムネスティが会った警察たちは、EUからの緊急支援がなければ、今年中に島に人と設備を置き、人道的な申請対応ができる環境を整えることは、極めて難しい、と語った。
■■あらためて問われる国際社会の姿勢■■
アムネスティの調査中、欧州委員会の筆頭副委員長と移民・内務・市民権担当委員が、難民の置かれた実態把握にコス島を訪れていた。記者会見では、「EUの価値観が今、試されている。国境のないヨーロッパという出発点、人権を柱とする理念を忘れてしまっては、外国人排斥、過激主義に飲み込まれ、もはやヨーロッパではなくなってしまう」と述べ、ギリシャの島々だけに負担を押し付けてはならない、ヨーロッパ全体で取り組むべき問題だと強調した。
しかし、難民危機への対応を巡りEU各国の足並みは揃わず、非難の応酬にまで発展している。
この危機を前に、ヨーロッパ以外の国々でも、できること、すべきことはないのだろうか。
現実問題として地理的なことを考えると、最初の受け入れについては、ヨーロッパ各国で対応せざるを得ず、また、それが彼らの責務である。
しかし、その先の、難民の人たちの暮らしを支えるという点では、遠く離れた国でも、本人たちが希望すれば積極的に受け入れる用意のあることを、示すべきだ。もちろん日本も。
国際社会が一丸とならなければ、難民たちの命は守れない。
▲日本でシリア難民を受け入れよう▲
アムネスティ日本では今、日本政府に対してシリア難民を積極的に受け入れるよう要請する、オンライン署名を展開している。▽▽▽
https://www.amnesty.or.jp/get-involved/action/syria_201509.html
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