日本人に多い3種類の腸内細菌に対するモノクローナル抗体を樹立!
誰もが手軽に腸内細菌を調べられる時代への第一歩
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所(大阪府茨木市、理事長 中村祐輔) ヘルス・メディカル微生物研究センターの國澤純センター長と吉井健特任研究員らの研究グループは、日本人に多く存在する3種類の代表的な腸内細菌に対するモノクローナル抗体を樹立しました。これらの抗体を活用することで、腸内細菌を対象とした迅速・簡便・安価な検査が可能になり、腸内環境の可視化や個別化された栄養提案(精密栄養学)への応用が期待されます。
研究成果のポイント
日本人に多くみられる腸内細菌3種類(セガテラ・コプリ、フィーカリバクテリウム・ダンカニエ、フォカエイコラ・ブルガタス)に対する特異的モノクローナル抗体を新たに樹立樹立した抗体は、ELISA、フローサイトメトリー、ウエスタンブロッティングなど各種検出系に適用可能サンドイッチELISAを用いて、標的細菌の培養株や糞便中に含まれる標的細菌の定量に成功
現在、これらの抗体を活用した検査キットや研究用試薬の開発が進められており、今後は、目的とする腸内細菌を「迅速・簡便・安価」に測定できるようになることが期待されます。これにより、自身の腸内環境を手軽に把握することが一般化し、個々の腸内環境に応じた食事提案など、精密栄養学の推進にもつながると考えられます。さらに、本抗体を研究ツールとして活用することで、腸内細菌に関する学術研究の加速が期待され、腸内環境と健康の関係解明において、社会的にも学術的にも大きく貢献することが見込まれます。
本研究成果は2025年5月14日に『Scientific Reports』にオンライン掲載されました。
ウェブサイト: https://doi.org/10.1038/s41598-025-01144-6
研究の背景と意義
腸内には1000種を超える細菌が存在し、私たちの免疫、代謝、神経系の機能に多大な影響を与えています。近年のメタゲノム解析技術の進展により、これまで培養が困難で同定されていなかった腸内細菌の存在が明らかとなり、特定の健康状態や疾患と関係する腸内細菌が数多く報告されるようになりました。こうした知見を背景に、腸内細菌と健康との関係に関する社会的関心が高まり、一般向けの腸内細菌検査サービスが始まっています。しかしながら、腸内細菌を日常的かつ継続的に把握するために必要な、迅速・安価で簡便な腸内細菌の検出・測定法が限られており、その普及には課題が残されていました。
本研究の内容
腸内には、私たちの健康に深く関わる多様な細菌が存在します。特に日本人においては、セガテラ・コプリ(旧名:プレボテラ・コプリ)、フィーカリバクテリウム・ダンカニエ(旧名:フィーカリバクテリウム・プラウスニッチ)、フォカエイコラ・ブルガタス(旧名:バクテロイデス・ブルガタス) といった細菌が、腸内環境を特徴づける主要な細菌として知られています。
本研究では、これらの代表的な腸内細菌を対象に、抗体を用いた検出法の確立を目指しました。具体的には、細菌をまるごとマウスに免疫するというノンターゲット戦略により、標的分子をあらかじめ限定することなく、各種細菌に対して特異的なモノクローナル抗体を樹立することに成功しました。
得られた抗体は、標的細菌の培養株に対してELISAやフローサイトメトリー、ウエスタンブロッティングなどの手法において高い特異性を示しました。さらに、サンドイッチELISAを用いることで、標的細菌の培養株のみならず糞便中の標的細菌の定量も可能であることを見出しました(図1)。さらに、各抗体が認識する分子の同定にも成功しております。
本研究にて樹立された抗体は、反応性および特異性に優れており、各種測定法に適用可能であることが明らかになりました。現在、これらの抗体を活用した検査キットや研究用試薬としての開発を進めており、今後は、目的とする腸内細菌を「迅速・簡便・安価」に測定できるようになることが期待されます。また、本研究で用いた抗体作製戦略は、他の腸内細菌にも応用可能であり、すでに健康に有用な機能が示唆されている細菌(例:ビフィズス菌、ブラウティア菌、アッカーマンシア菌)や、疾患との関連が注目される細菌(例:フソバクテリウム属菌など)に対する抗体開発にも展開されています。
これにより、自身の腸内環境を手軽に把握することが一般化し、個々の腸内環境に適した食事提案など、精密栄養学の推進にもつながると考えられます。さらに、本抗体を研究ツールとして活用することで、腸内細菌に関する学術研究の加速が期待され、腸内環境と健康の関係解明において、社会的にも学術的にも大きく貢献することが見込まれます。

図1. 腸内細菌特異的モノクローナル抗体の樹立と迅速診断系への応用
研究支援
本研究は、内閣府の研究開発とSociety 5.0との橋渡しプログラム(BRiDGE)事業 「Precision Nutritionの実践プラットフォームの構築と社会実装」、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業「腸内マイクロバイオーム制御による次世代創薬技術の開発」(NeDDTrim)、一般財団法人糧食研究会等の支援を受けて遂行されました。
論文情報
論文タイトル: Establishment of enterotype-specific antibodies for various diagnostic systems
著者: Ken Yoshii1, Eri Node1, Mari Furuta1, Yoko Tojima1, Ayu Matsunaga1,2, Jun Adachi3,
Narimi Takaai3, Makiko Morita1, Koji Hosomi1,4 and Jun Kunisawa1,5–11*(*責任著者)
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国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 ヘルス・メディカル微生物研究センター ワクチンマテリアルプロジェクト&腸内環境システムプロジェクト
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高崎健康福祉大学農学部 生物生産学科 食品安全学研究室国立研究開発法人
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医薬基盤・健康・栄養研究所 創薬デザイン研究センター 創薬標的プロテオミクスプロジェクト
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大阪公立大学大学院獣医学研究科 獣医感染症学教室
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大阪大学大学院医学系研究科
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大阪大学大学院薬学研究科
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大阪大学大学院歯学研究科
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大阪大学大学院理学研究科
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東京大学医科学研究所 国際ワクチンデザインセンター
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神戸大学医学研究科
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早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構
掲載雑誌: Scientific Reports
用語解説
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モノクローナル抗体
B細胞と骨髄腫細胞を試験管内で融合させて得られる「ハイブリドーマ細胞株」によって産生される抗体です。1種類のエピトープに特異的に結合する抗体を、クローン増殖させて得られます。診断薬、治療薬、研究用試薬など、幅広い分野で活用されています。 -
ELISA
抗体と特異抗原との結合を利用し、抗原に結合した抗体を酵素反応により検出する方法です。 -
フローサイトメトリー
レーザーを用いて、混合液中の細胞を計数・選別・解析する技術です。蛍光標識された抗体を用いることで、目的の細胞や分子を高精度で検出・解析できます。 -
ウエスタンブロッティング
電気泳動によるタンパク質の分離と、抗原抗体反応の特異性を組み合わせて、タンパク質混合物から特定のタンパク質を検出する手法です。主にタンパク質の発現や修飾の解析に用いられます。 -
サンドイッチELISA
抗原を挟み込む2種類の抗体(固相化抗体と検出用抗体)を用いることで、抗原の存在を検出・定量するELISA法の一種です。感度が高く、用量反応曲線を作成することで、未知試料中の抗原の絶対量を迅速かつ正確に測定できるため、最も有用なイムノアッセイ技術の一つとされています。
医薬基盤・健康・栄養研究所について
2015年4月1日に医薬基盤研究所と国立健康・栄養研究所が統合し、設立されました。本研究所は、メディカルからヘルスサイエンスまでの幅広い研究を特⾧としており、我が国における科学技術の水準の向上を通じた国民経済の健全な発展その他の公益に資するため、研究開発の最大限の成果を確保することを目的とした国立研究開発法人として位置づけられています。
ウェブサイト:https://www.nibn.go.jp/

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