EV電池の国内サーキュラーエコノミー市場潜在的な市場規模を予測
~2050年までに約8兆円規模へ成長する可能性~
株式会社日本総合研究所(本社: 東京都品川区、代表取締役社長: 谷崎勝教、以下「日本総研」)は、2050年までの期間におけるEV電池の国内サーキュラーエコノミー(循環経済)潜在市場規模を予測しました。その結果および分析・提言を「EV電池サーキュラーエコノミー 8兆円市場のゆくえ」(以下「本レポート」)として取りまとめましたので発表します。
■主な予測結果
●今後、中古EV電池が輸出されず、そのすべてが国内のサーキュラーエコノミー市場に流通した場合、日本国内におけるEV電池のサーキュラーエコノミーの市場規模は、2030年には約6,000億円、2050年には約8兆円に達すると予測される。中でも循環構造の形成に大きく寄与するEV電池のリユース・リサイクル市場の成長余地は大きく、2030年までに1,200億円規模に達する見込み。
●現在、中古EV電池のほとんどが海外に流出している。このまま海外流出に歯止めがかからない場合、国内においてEV電池のサーキュラーエコノミーが形成されず、潜在的な市場は失われる可能性が高い。
●長期的な経済効果や産業育成などの観点からは、国内におけるEV電池のサーキュラーエコノミー形成に注力することが非常に重要と考えられる。
本レポートは、以下のリンクからご覧いただけます。
「EV電池サーキュラーエコノミー 8兆円市場のゆくえ ― 2050年までの国内市場予測を踏まえ ―」
https://www.jri.co.jp/column/opinion/detail/15199/
■本レポート実施の背景と目的
製品や素材、資源をできる限り長く保全・維持し、廃棄物の発生を最小限にすることで、環境への負荷を低く抑えようとする経済システムである「サーキュラーエコノミー」を推進する動きが活発化しています。
中でもEVおよびEV電池のサーキュラーエコノミー市場の形成については、世界的に急速に注目を集めるようになりました。EV電池の製造には資源の枯渇が懸念されるリチウムをはじめとしたレアメタルが欠かせず、また、それらの産出国はわが国にとって地政学的なリスクが高いとされる国々も含まれています。そのため、EV電池のサーキュラーエコノミー市場を形成させることは、資源安全保障の観点から、そして国内の産業育成の観点から重要視されるようになってきた状況です。
そこで、本レポートでは、今後、中古EV電池が輸出されず、そのすべてが国内のサーキュラーエコノミー市場に流通した場合の市場規模を予測しました。EVおよびEV電池の循環工程の各段階でどのような市場がどの程度の規模に成長していくのか、それぞれ見通しを示しています。
■予測結果
EV電池の市場について、利用段階ごとに、①中古EV関連市場、②リユースEV電池関連市場、③EV電池リサイクル関連市場の3つに分類し(図表1)、それぞれの市場規模を予測しました(図表2)。
①②③のいずれも2050年にかけて長期的に成長し続けることが推察され、市場全体では2030年には6,000億円を上回り、2050年には約8兆円に達する規模となる見込みです。そのうち、EV電池の循環構造を構築することに深く関連するリユース・リサイクル市場は、2030年時点で1,200億円ほどの市場規模になることが予測され、足元においても有望な成長市場となる可能性がうかがえます。
■「8兆円市場」の実現には多面的な取り組みが必要
このように、国内においてEV電池の製造からリユース・リサイクルに至るまでの循環工程のループが構築され、輸出されずに国内市場に流通した場合には、EV電池のサーキュラーエコノミー市場は中長期的に成長し2050年時点で約8兆円規模の成長産業になると考えられます。
しかし、現在のところ、ほとんどの中古EV電池は中古EVに搭載されたまま海外に流出してしまっており、サーキュラーエコノミーの形成が難しくなっているのが実態です。このまま中古EVの海外流出に歯止めがかからず、EV電池のサーキュラーエコノミー市場が形成されなかった場合には、資源安全保障などの問題が解決されないこと、産業育成の機会が失われること、そしておよそ8兆円規模の潜在的な市場が国内市場から失われることになります。
長期的な経済効果や産業育成の観点から言えば、中古EVの輸出によって短期的な利益を得るよりも、EV電池のサーキュラーエコノミー市場の形成を図ることの方が重要です。今後は、DX技術の確立をはじめ、制度や規格の整備、そしてEV電池のユーザー側のモチベーション向上などについての取り組みが求められます。
■株式会社日本総合研究所について
日本総合研究所は、生活者、民間企業、行政を含む多様なステークホルダーとの対話を深めながら、社会的価値の共創を目指しています。シンクタンク・コンサルティング事業では、パーパス「次世代起点でありたい未来をつくる。傾聴と対話で、多様な個をつなぎ、共にあらたな価値をつむいでいく。」を掲げ、次世代経済・政策を研究・提言する「リサーチ」、次世代経営・公共を構想・支援する「コンサルティング」、次世代社会・市場を創発・実装する「インキュベーション」を、個人間や組織間で掛け合わせることで、次世代へ向けた価値創造を強力に推進しています。
■出典(図表1)
※1 年間中古EV販売台数は、新車販売台数、EV化率、乗り換え周期に基づく中古化までの年数を考慮して算出した。
出典: 東京都主税局、「自動車関連税制に関する税収シミュレーション等調査」2021年3月
(https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/report/material/r0303_car.html)
出典: IEA, Global EV Outlook 2023
(https://www.iea.org/reports/global-ev-outlook-2023)
出典: ナイル株式会社 プレスリリース「【何年車に乗るかの実態調査】新車に乗る年数は13
年以上が最多」2021年8月10日
(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000094.000055900.html)
※2 保険・保証付き中古EV台数は、中古EV台数に対して保険・保証加入率を乗じて算出した。
出典: 損害保険料率算出機構、「自動車保険の概況」2024年4月
※3 リユースEV電池販売量は、1台当たりのEV電池平均容量にリユース対象となるEV台数を乗じて算出した。EV電池平均容量は市場流通量の多い日産リーフ「ZAA-ZE1」の電池容量を参照して設定した。
出典: 日産自動車株式会社ホームページ(https://www.nissan.co.jp/)
※4 レアメタル単価に関しては将来にわたり一定の価格であると仮定した。
出典: Trading Economicsホームページ(https://jp.tradingeconomics.com/)
※5 市場規模の予測に用いたその他のパラメータに関しては、事業者へのヒアリングなどに基づき仮定した。
■本件に関するお問い合わせ
【報道関係者様】 広報部 山口 電話: 080-7154-5017
【一般のお客様】 創発戦略センター 籾山 電話: 090-6653-0652
メール: momiyama.takashi@jri.co.jp
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