80年代とはなんだったのか? 『美術手帖』6月号は日本のエイティーズ・アートシーンを紹介する特集
よみがえれ! 未来にかけた越境者たちの挑戦
大量消費社会と好景気、 そして原発事故やエイズの脅威── 楽観主義と閉塞感が同居した80年代。この時代に日本ではどんなアートが誕生したのか。あまり知られていないその実態に迫る!
若い世代による新たな表現への挑戦が様々なジャンルで発生し、「ニュー・ウェイブ」とよばれる現象が思想や文化全体で起きていた80年代前半。美術の文脈では、「もの派」の70年代と、村上隆らに代表される「ネオポップ」の90年代とのはざまにあって、個々人による多様な試みが絵画、彫刻、インスタレーションなど、あらゆるジャンルで展開されていた。本特集はそうした過渡的な時期にあり、実態がとらえにくい時代の実態を明らかにしようとする試みである。
まず冒頭の「ビジュアルでたどる80年代アート・クロニクル」では、当時の代表的なアーティストたちを紹介しながら、それぞれの作家がどんなテーマで表現活動を展開していたのかを作品とともに概観する。川俣正、森村泰昌、大竹伸朗、横尾忠則ら、いまや世界的に活躍するアーティストたちの起点がここにあったことがわかる。
ついで、美術の分野における「ニュー・ウェイブ」現象の実態を探るべく、その現象の中心的な役割を担っていた場所や人物にフォーカス。関東では東京藝術大学や画廊パレルゴン、関西では京都市立芸術大学などを拠点として新たな時代を切り開いた表現者たち一人ひとりの活動に、インタビューをとおして迫る。
そして、当時熱狂的な盛り上がりを見せていた、イラストレーションと写真の公募展「日本グラフィック展」に焦点をあてる。若者のエネルギーが集結していた同展を通して、美術だけでなく周辺のカルチャーにも多様な変化が生じていた状況を分析する。 さらに同時代のニューアカデミズムの影響から音楽、演劇、出版、アニメ、イラストレーションまで、あらゆるカルチャーと美術の影響関係も紹介する。
よみもの記事の合間にある、エイティーズ・カルチャーへのオマージュとして、金氏徹平+森千裕、大山エンリコイサムといったアーティストや、表紙デザインも手がけるSTEREO TENNISらによるビジュアルページも注目だ。最後は椹木野衣による長文論考も寄せられ、この1冊を読めば、80年代のアートシーンの総覧とディテールとの両方を同時につかみとることができる。
第2特集は、80年代に続く平成の30年の美術を年表とコラムでたどる「 平成の日本美術史 30年総覧」。また美術出版社による「第16回芸術評論募集」の入選作も掲載されている。80年代から現在まで、日本のアートシーンをじっくりと振り返るのに必須の1冊となっている。
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SPECIAL FEATURE
80年代★日本のアート
PART1
1、ビジュアルでたどる80年代アート・クロニクル 伊藤鮎=文
2、ニュー・ウェイブとはなんだったのか?
[証言1] 藤井雅実 画廊パレルゴン
[証言2] 関口敦仁 フジヤマ・ゲイシャ展
[証言3] 山部泰司 関西ニュー・ウェイブ
[証言4] 石原友明 写真と美術の接近
[証言5] 中原浩大 美術の次なる展開
3、[論考] 複数のメディウム 80年代という交差点 沢山遼=文
4、[解説] イラストとアートのクロスオーバー 中ザワヒデキ
5、[インタビュー] 榎本了壱に聞く、日本グラフィック展とパルコの戦略
6、[コラム]「広告の時代」のアートとは何か? 原田裕規=文
[ビジュアルページ]Hommage to 80's culture
岸部拓郎/STEREO TENNIS/
とんだ林蘭/大山エンリコイサム/金氏徹平+森千裕
PART 2
1、80's クロス・カルチャー・ファイル
思想/ファッション/演劇/音楽/
アニメ&キャラクター/イラスト&マンガ/出版
佐々木敦+山縣良和+岸井大輔+ばるぼら+さやわか=文
2、[コラム]インターネット前夜─80年代フィジカルの現在的魅力
久保田晃弘=文
3、論考
「美術批評家」絶滅危機の時代 筒井宏樹=文
世界における日本の80年代アートの検証 吉竹美香=文
「アール・ポップ」から始める─80年代の美術をめぐって 椹木野衣=文
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[第2特集]
平成の日本美術史 30年総覧
椹木野衣の時代:30年間の批判理論 松井茂=文
「日常」がアートになる きりとりめでる=文
奈良美智と村上隆の功績 児島やよい=文
多様化するメディア環境 伊村靖子=文
未来に「震災」の経験を伝える 蔵屋美香=文
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第16回芸術評論募集入選作発表
〈対談〉椹木野衣×清水穣×星野太「審査を終えて」
〈次席〉ウールズィー・ジェレミー インターネット民芸の盛衰史
〈次席〉北澤周也 東松照明『日本』(一九六七年)と「群写真」
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ARTIST INTERVIEW
インカ・ショニバレCBE 石谷治寛=聞き手
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『美術手帖』6月号 5月7日(火)発売
定価1600円+税
発行元=美術出版社
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