「売れないのは、お客様が来ないから」に“待った”。祈りの老舗「はせがわ」SC店売上が前年同期比2倍超
- ABEJA Insight for Retail活用事例 -
2月25日、AIの社会実装を手がける株式会社ABEJAは、店舗解析サービス「ABEJA Insight for Retail」を導入する株式会社はせがわ(東京都文京区)への活用事例インタビューを公開しました。
新しいお客様とのつながりをつくるために、SCへの出店を拡大している同社。従来とは異なる客層が訪れるSC店舗の特性に基づいた店舗の運営を目指して、2017年3月からABEJA Insight for Retailを導入しました。
2019年上期のSC店全体の売上は、前年同期比で212.5%を記録。
店舗解析のデータをどう運営に反映させたのか。詳細を語っていただきました。
▶ABEJA Insight for Retail事例紹介ページはこちら:https://abejainc.com/insight/retail/ja/case/
■ 導入背景 :ロードサイドからSCへ。出店を広げるその理由
ーー 「はせがわ」といえばお仏壇、というイメージを抱いていましたが、店舗を見るとだいぶ刷新された印象があります。
山澤: そうですね、私たちは令和元年で創業90周年を迎えた老舗の仏壇店なのですが、時代の変化に合わせ、商いのやり方を変えてきました。
いまは「祈りの老舗」をメッセージに掲げ、お仏壇や仏具の販売も続けながら、新しいモデル店舗を作ったり新業態を開発したりしています。
私はかつてアパレルやシューズ業界で店の運営をマネジメントしていた経験を生かし、いま、ショッピングセンター(SC)の中に、新しい「はせがわ」の店を出し、これまでとは違うお客様とのつながりを生み出そうとしています。
ーー お仏壇の店が、SCに入るとは意外です。
山澤: これまでのはせがわは、主に通行量の多い道路沿いに店を出してきました。しかし、小売流通業界では最近、こうしたロードサイドの店をSCに切り替えていく動きが広がっています。
こうした変化を受け、はせがわでも、2017年からSCに出店するようになりました。
ーー 売り方も売る物も来る人も、だいぶ変わったのではないですか。
山澤: そうです。明らかに変わりました。これまでの主力商品は、お仏壇とお墓。でもSCはお線香やローソクなどの周辺商品や雑貨です。
石原: ロードサイド店の経験のあるスタッフからすると、どうしても単価の高いお仏壇やお墓を売る方に目が行きやすく、お線香やローソクなどの雑貨の売り上げは過小評価しがちです。
自分もロードサイド店の店長だったのでよく分かります。お線香とお仏壇を見に来られたお客様がいたら、スッとお仏壇のお客様の方に足が向いてしまう。どちらも同じお客様なんですけどね (笑)。
山澤: ロードサイド店では、1日にご来店されるのは10~20人程度です。車でわざわざ郊外のお店に来るのだから、お仏壇の購入を検討しているという目的がはっきりしていました。
一方、SCの店には本当に多くの方がいらして、1日に300人ほど来るお店もあります。ですが、お客様の大半は、はじめは何かを買う目的はなく フラッとお店に入ってきます。
でも本来、小売はそこからがスタートですよね。お客様が店に入り、商品を見て、私たちが接客して、買っていただくというプロセスは、いわば「当たり前」なのです。
前職でもトラフィックカウンターを使って、店ごとに来店人数と、そのうち何人が買ったかを示す買上率を指標としていたので、お客様の動きを客観的に捉えることは不可欠だと思っています。
となると、トラフィックカウンターより詳しいデータを取れるABEJA Insight for Retailのような店舗解析サービスを使って、来店の人数や年代・性別といったデータから、お客様の動きを理解しようとするのは当然の流れではないでしょうか。
■ 活用事例:「売れないのは、お客様が来ないから」に“待った”
ーー すべてのSC店にABEJA Insight for Retailを導入し、そこからとったデータを、振り返りの指標にしているそうですね。
山澤: そうです。来店人数、買上率、購入件数ーーの3つの指標と、もう1つは、お客様一人あたり何点の商品を買っているかを示す「セット率」を、SCの店の指標にしました。
データを取り始めると、来店人数が何人、買上率は何%と出てきます。今まで把握できなかったこうしたデータが管理画面で簡単に見られるのは、とても新鮮です。
ーー お店の現状をデータで把握できるようになって何か変わりましたか?
山澤:一番うれしかったのは、お店に来られたお客様が減ってるのに購入されたお客様が増えたことです。これは
つまり、お店の買上率が上がったことを意味します。
ABEJA Insight for Retail をお店に入れた2017年12月から2019年12月の2年間で、当初9.6%だった買上率は、14.5%にまで伸びました。
買上率の上昇は、お店のスタッフが「売る力」をつけてきた証拠です。だから「よく頑張ったね!」と、励ますんですよ。
SCのお店で来店人数が増減するのは、天気やSC自体の集客力など、さまざまな要因があります。私たちだけではコントロールできません。特に、SCが新たにできた時、初めはたくさん人が来るけれど、徐々に減っていくのは当然です。
そんな環境でもお店の買上率が伸びているという事実がデータから分かるのは、とても励みになる。だから、来店の人数が減っても、「お、目標達成までいけるね」と確信できる。働く側のモチベーションにもなるのではないでしょうか。
こうしたデータがなかった頃は「売れない」という現状への見立てが弱かった。「お仏壇やお墓が売れないのは、お客様が来ないからだ」という程度で議論が終わってしまうこともありました。
引用:2019年11月19日公開/株式会社はせがわ IR資料「第二四半期決算説明資料」より
https://ssl4.eir-parts.net/doc/8230/ir_material_for_fiscal_ym/73196/00.pdf
山澤:データでお店の現状が見えてくると、スタッフが自ら工夫しやすくなりますね。例えば、今まではお客様が10人店に入ったら、1人しか買ってくれませんでした。10人のうち2人に買ってもらうためにはどうしたらいいか、をスタッフと手だてを考えるようになりました。
具体的に改善すべき数値がわかると、いまは接客に注力しようとか、あるいは商品の並べ方を変えてみようとか、具体的な工夫につながりやすくなる。実際、そうした工夫の成果が、データとして見えるようになりました。
■ 活用事例:「現場が変えられる数字なんだ」。スタッフの提案を積み重ね、売上が倍増
ーー 数字に基づきながら対話する文化はもともとあったのですか。
石原: 当初、来店人数や買上率などの数値は、本社の人間が管理するために知りたい「情報」でしかなく、現場の関心は正直低かったんです。
でも山澤が入社してから「このデータは現場で使える」「現場の頑張りで変えられる数字なんだ」と広め、今は店長からパートにいたるまでデータを意識するようになりました。数値が明らかになると、例えばこういう会話が現場で生まれます。
「今月は買上率15%が目標」
「1日当たりに直すと今日はだいたいこのぐらいのお客様が来店されるはず」
「じゃあ、目標の購入件数は、こうだね。」
「そのために、お客様への声がけはどうする?スタッフはどこに立つのが効果的?」
ーースタッフの対応もだいぶ変わったんですね。
石原:恥ずかしながら、今までのロードサイド店は、お客様がいない間は店の奥のレジ周りや事務所で作業をしていました。自動ドアが開き、ピンポンと来店を告げるベルが鳴ってはじめて、接客モードに切り替えるという具合でした。
でも、SCでは常に目の前をお客様が通ります。今までのように店の奥にいては売れません。
では、まず入店率を上げるために何をするか?と、売上を分解して考える中で、店長から、改善の提案が出るようになりました。例えば、「店の入り口付近に人が立ち声かけをする時間を、1時間ごとのシフトにして割り振るようにしました」とか。
そうやって現場が自ら改善を積み上げている状況です。
ーーデータをもとに店舗を運営するやり方に、忌避感や反発はなかったのでしょうか。
山澤: あまりなかったですね。どちらかというと、最初はみんな「???」でした。みんなに分かるよう伝えること。それを意識するかしないかだけのことです。
人間はどうしても前の習慣に引っ張られてしまう。ずっと言い続けて変えていくしかないんです。
石原は、現場とこまめにコミュニケーションをとって、お店でデータを基にした改善を実践してくれています。そのうちに、だんだん意識できるようなってくる。
石原:私は来店人数と購入件数がどうなっているかを見て、毎月役員に報告しています。
山澤:僕も店に行ったときは「今、買上率は何%?」と聞きます。意識している店長は「今はこうです」と、すぐに答えられるようになっていますね。
結果も出てきました。2019年上期のSC店全体の売上は、前年同期と比べて212.5%増えました。データを重視した戦略や経営が回り始め、SC店で力を入れている周辺商品や雑貨の売上が安定しはじめたからだと思います。
■ 今後の展望:一生に一度から、継続的な関係づくりへ
山澤: SCの店では「祈り」をサポートする商品としてお線香や仏具など幅広い雑貨を置くことで、今の仏壇店にはこんな商品もあるんだと、お客様に知ってもらうことが前提です。
お店に来店し続けていただく中で関係を作り、お仏壇やお墓などのご縁につなげていければと考えています。お仏壇やお墓は、基本的に一生に一度のお買いものでしょう。一生かけてお客様とつながるという「ライフタイムバリュー」の発想になりづらい。
ところが、雑貨はリピーターのお客様がつきやすくなる。例えば、お線香やローソクは、どこでも買うことができます。それでも「はせがわ」で買う理由はなにか。それはお客様一人ひとりのお悩みに合わせてスタッフがいい提案をしたり、いい商品を売ったりしているからです。
そんな関係づくりを目指し、お客様との日常的な接点をつなごうという方針を、店長に伝えて、伝えて、伝えて。それでも、なかなか腹落ちしてもらえない。やっぱりお仏壇やお墓は、単価が大きい分、甘い蜜なのでしょう。
でも、SCの店では売上に雑貨が占める割合の方が、路面店と比べてずっと大きい。そのデータを見て、店長も納得して取り組みはじめた段階です。
石原: 私が昔店長をしていたSCのお店は、今ではリピーターが来店客の約58%を占めています。こういう結果もあり、私たちはリピーターの重要性を実感していますが、こうした考えはまだ根付いていません。売ったら終わりの売り方から変わらなくてはいけません。
■ 今後の展望:SC出店の拡大で、立ち寄りやすい「祈りの老舗」目指す。
ーー これからSC店をどうしていきたいですか。
山澤: 現在 全130店中17店がSC店ですが、今後も既存のロードサイド店からの移転も含めてSCへの出店を増やす予定です。SC店も好調とはいえ、それぞれの店で底上げできる余地はまだまだありますから。
正直、仏壇店に行ったことがない人がほとんどだと思っています。入りづらいでしょう、ああいうところって。入ったら腕利きの販売員が寄ってきて、高いものを買わされそうだし(笑)。
ところが、SC店の場合はドアもなく立ち寄りやすい。照明も明るいし、従来の仏壇店のイメージとは全然違いますね。SC側から出店してほしいという相談も増えています。
最近、お仏壇も変わってきています。家具みたいなお仏壇も多い。「こんな商品もあるんだ」という発見が面白いですよ。新鮮な印象で見ていただけるきっかけにしたいですね。
これからもデータも大切にしてお客様やお店のことを理解しながら、新しいチャレンジを続けていきたいです。
■ ABEJA Insight for Retailとは
ABEJA Insight for Retailは、小売流通業界向けの店舗解析サービスです。ネットワークカメラ、赤外線センサーなどのIoTデバイスを活用し、来店人数、店前通行人数、年齢性別推定、リピート推定、動線分析などのデータを「可視化」するサービスです。レイアウトや接客など店舗の課題をデータから的確に把握し、施策の効果検証ができるようになり、収益の改善に貢献します。
現在は、小売流通企業を中心に約120社700店舗以上(2019年9月時点)に利用されています。2019年9月17日発刊ミック経済研究所リサーチの調査では「AIマーケティング、小売卸AI市場」ではシェア1位(※)となりました。
ABEJA Insight for Retail事例紹介ページはこちら:https://abejainc.com/insight/retail/ja/case/
※IoT推進コンソーシアム・経済産業省・総務省より平成30年3月30日に公表された「カメラ画像利活用ガイドブックver2.0」に則って本サービスを提供しています。
■ 株式会社ABEJA
「ゆたかな世界を、実装する」を理念に、AIを始めとする最先端技術で、産業構造の変革を追求している企業です。2012年の創業時から自社開発のディープラーニング技術を核に、AIの社会実装事業を展開。小売流通、製造、物流、インフラなど、あらゆる業界のAIの導入、活用を一気通貫で支援しています。2018年12月には米Google社より日本で初めて出資を受け、成長を加速しております。
会社名 :株式会社ABEJA
代表者 :代表取締役社長CEO 岡田 陽介
所在地 :東京都港区
事業内容 :ディープラーニングを活用したAIの社会実装事業
URL:https://abejainc.com
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