偉大な天才には「ネガティブな内向型」が多い
科学的研究で明らかになった「天才の性格」
- 人と話すのが嫌すぎて「ダッシュ」で逃げる天才
イギリスの詩人ウィリアム・ワーズワースはアイザック・ニュートンを思い浮かべて詩を綴った。
「未開の思索の海を永遠に進んでいく、たった一人で」
たった一人だったのはニュートンだけではない。
心理学者R・B・キャッテルの研究によると、偉大な科学者は「非社交的で、自分の世界をもち、懐疑的、几帳面、批判的」である傾向が強く、「控えめ、まじめ、内省的で、くよくよと思い悩む」ことが多いのだ。
キャッテルは彼と同時代の科学者だけでなく、十分な伝記資料が残っている過去の科学者のスコアもはじき出したが、結果は同じだった。
過去の科学者のなかにはヘンリー・キャヴェンディッシュが含まれていた。
水素の発見と、万有引力の正確な測定実験で知られているイギリスの科学者だ。のちに、ケンブリッジ大学の物理学の研究所はキャヴェンディッシュ研究所(ここで二十九人のノーベル賞受賞者が誕生している)と命名された。
彼はどれくらい内向的だったのだろう。
男性とは数語、ぼそぼそと言葉を交わすだけ。女性とは一切話をせず、女性の使用人には命じたいことを紙に書いて伝える。人を避けるために家には自分専用の玄関を設けた。彼と鉢合わせした使用人は即刻クビ。正式な場にでても人と交わりたくないときは、「一目散に」逃げだした。
彼が極度に内向的だったのがよくわかるが、最低限の人づき合いさえ避けるために、天才はここまでやるのだということもよくわかった。彼らは場を盛り上げてくれるような人たちではない!
- 趣味は「ソロ」で楽しむのが好き
サンプルや手法が異なる他の研究でも、キャッテルが示したのと基本的には同じ結果がみられた。
内向性は娯楽のような活動にも表れている。たとえば、ラヴェンナ・ヘルソンが女性数学者を対象に行った研究では、クラシック音楽を聴く、文学作品を読む、ハイキングをするなど、非社交的な活動の割合がはるかに高いことが明らかになった。
六十四人の科学者を対象にしたアン・ローの研究でも似たような結果がでている。人とつき合うより「釣り、セーリング、ウォーキングなど、一人で楽しめる活動」のほうがはるかに好まれたのだ。
この一匹狼的傾向は子ども時代からみられる。
「孤独感を覚え、級友に『なじめず』、内気で、打ち解けない」。
これが科学者の典型的な子ども時代だった。神童は社会適応という問題を抱えやすいという見解もあるが、ここにもそれが表れている。しかし、六十四人はこうした問題を抱えながらも能力を十分活かして大成したのだ。
- やむを得ず、人と協力することも
ここで言い添えておくが、創造的天才が内向的だからといって、必ず内気、あるいは気弱だというのではない。
キャヴェンディッシュのようなそうしたケースはあるが、内向的な天才のなかには支配性を示す人もいる。
彼らは独立心が強く自律性があり、集団の圧力を受けて同調するのではなくはっきりと主張する。そのため人と協力して何かをするときは、ほかの人たちが従属的役割を果たすことになる。
アインシュタインは自ら認めていた。
「私は一人で仕事をするタイプだ。協力とかチームワークといったものには向いていない。明確な目標を達成するには、一人の人物が考え、命令を下すことが必要だ」
この支配性を示すと、内向的なのに外向的と誤解されることがある。支配性がしっかり社交性と結びついているのは外向的な人だけ。外向的な人は他の人と一緒にいるのが好きで、内向的な人はできる限り一人でいるほうを好む。いや、むしろニュートンと同じように、人の考えにあれこれ煩わされるのではなく、自分の思索だけを伴侶とするのが好きなのだろう。
アインシュタインが「明確な目標」に触れているが、これは重要なポイントだ。
内向的な人にとって目標とはほとんどの場合、ある問題を解くこと、あらかじめ決められていた課題をこなすこと、特定の仕事をやり遂げることである。そして、この目標を達成するのに必ず必要なら、やむを得ずだれかと協力することになる。アインシュタインは、計算が手に余ると協力を得た。
これに対して、外向的な人の場合はチームの結束が必要となるような目標が多い。目標の達成は必要だが、達成するためにチームがばらばらになるようなことがあってはならない。グループのメンバー、とくにリーダーの接し方が「非社交的、冷淡、思いやりがない、人間味がない、自分本位、頑固」な場合、団結心が損なわれる可能性が高いのである。
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いかがだっただろうか。
本記事は、書籍『天才とは何か』の宣伝を兼ねているが、本の中ではさらに詳しく内向型天才を分析している。
性格的特徴についてだけではない。古今東西の天才科学者や芸術家の「考え方」や「生まれ育った環境」について、心理学や統計データをもとに考察している。
- 天才は、つくられるのか? 生まれるのか?
- 「多様な経験」とイノベーションの関係
- 人間がもっとも「クリエイティブ」な年齢とは?
- 子どもの「出生順位」は知能に影響を及ぼすのか?
こうした「天才の科学」には、150年に及ぶ研究の歴史がある。その研究成果を、一般の方でも楽しめるように一冊にまとめたのが本書である。ぜひお読みいただきたい。
書名:『天才とは何か』
仕様:A5判 / ソフトカバー /288 ページ(1C)
定価:本体1,800円+税
ISBN:978-4-479-79681-7
発売日:2019年3月22日
発売元:株式会社大和書房
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ディーン・キース・サイモントン(Dean Keith Simonton Ph.D)
1975年、ハーバード大学で博士号取得。カリフォルニア大学デイビス校の心理学名誉特別教授(Distinguished Professor Emeritus)。40年以上にわたって「天才、創造性、リーダーシップ、才能」を研究してきた世界的第一人者。科学誌「Nature」への寄稿など、430を超える論文や著作がある。アメリカ心理学会(APA)、全米ギフティッド教育協会などから数々の賞を受賞。邦訳書に『天才とは何か』(小巻靖子 訳/大和書房)がある。
*本記事は書籍『天才とは何か』の内容を再編集して作成した。見出しは編集部がつけている。また、記事中で紹介した研究の参考文献は書籍内に記載している。
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