自治体と住民が一体となって築く、持続可能な地域社会の実現に向けて「地域とのつながり感」が地域活動へのモチベーションのカギ
―地域への愛着と地域活動へのモチベーションに関する調査―
JTBグループで様々なコミュニケーションサービスを提供する株式会社JTBコミュニケーションデザイン(以下JCD)は、ワーク・モチベーション研究所にて、「地域への愛着と地域活動へのモチベーションに関する調査」の報告書をまとめました。本調査では、現在の居住地に3ヶ月以上居住する、全国の20歳代から70歳代の男女1,031人にアンケート調査を行い、居住する地域に対する愛着や満足度、地域活動へのモチベーションのほか、生活全般の充実度や他の地域への意識を聞きました。今後の地域の活性化と地域で暮らす個人の生活の充実に関し、考え方や施策の方向性を定める際の資料として提示することを目的としています。
<主な調査結果>
1.いま住んでいる地域(市区町村)が好きな人は全体の83%
全国の現居住地に3か月以上住んでいる1,031人に、いま住んでいる地域(市区町村)が好きかどうかを聞いたところ、「あてはまる」が35.3%、これに「ややあてはまる」の47.2%を加えると、全体の82.5%がいま住んでいる地域が好きであることがわかりました。(図1)
2.成人してから、いまの地域(市区町村)に住み始めた人が66%、20年以上住んでいる人が60%
居住年数が短いケースでも72%が「地域が好き」と回答
現居住地に3か月以上住んでいる1,031人に、居住開始時期と居住期間を聞きました。
居住開始時期は「30歳代以降に住み始めた」45.7%、「18歳から20歳代の間に住み始めた」20.3%を合わせて、66%が成人以降の居住であることがわかりました。
また、居住期間は「30年以上」42.0%と「20年以上~30年未満」17.5%を合わせて、計59.5%が20年以上の居住でした。(図2-1)
居住開始時期と「地域が好き」という気持ちに明確な関係は見られませんでした。居住年数別にみると「3ヶ月以上1年未満」が高く、「1年以上3年未満」から「30年以上」では期間が長くなるほど「地域が好き」の割合が高くなる傾向がありました。最も割合が低い「1年以上3年未満」でも72.1%の人が「地域が好き」と回答しました。
成人してから住み始めても、また居住年数が短くても「地域が好き」という気持ちを持つ人が大半であることがわかります。(図2-2)
3.いま住んでいる地域(市区町村)は暮らしやすい80%、愛着を感じる人も62%
今後住む地域は大切になっていく63%
現居住地に3か月以上住んでいる1,031人の、いま住んでいる地域に対する意識を聞きました。
前ページで述べたように「現在住んでいる地域(市区町村)が好きである」は82.5%に及ぶ他、「いま住んでいる地域は暮らしやすい」は79.6%、「今後の暮らしの中で、住む地域は大切になっていくと思う」は62.8%、「いま住んでいる地域に愛着を感じる」は62.7%がそれぞれ肯定の回答をしています。
一方、「いま住んでいる地域とつながりを感じる」の肯定割合は39.9%、「いま住んでいる地域は友人や知人に自慢できる」は同42.1%と、相対的に肯定度合いは低い数値です。(図3)
全般に今住んでいる地域に関する満足度や愛着は高いものの、地域とのつながりを感じたり自慢するまでには至っていないことがわかります。
4.地域(市区町村)に満足や愛着を感じる人ほど、生活全般の充実度が高い
生活全般の充実との関係を調べたところ、「いま住んでいる地域に愛着」が強い層や、「いま住んでいる地域への満足度」が強い層ほど、「生活は全般に充実している」と、肯定度合いが高いこともわかりました。地域への満足度や愛着が生活全般の充実度と関連している可能性が示されました。(図4)
5.地域(市区町村)が好きな理由「便利」、「安全」、「自然が豊か」
自分が住んでいる地域が好きな理由は、「買い物や通勤・通学などがしやすく便利である」58.4%が突出し、次いで「安全である」42.5%、「自然が豊かである」40.8%が続きました。以降「落ち着けたりくつろげる場所がある」「人とのつきあいが少なくめんどうくささがない」が上位に挙がりました。(図5)
便利さや安全性など生活する上での基本的な要素が重要視され、その上で自然や落ち着ける場所など環境や精神的な面が注目されていることがわかります。
地域を好きな理由について、自由記述で回答を求めました。便利さについては交通や買い物についての内容が多く、年を取ってからのことを考えている記述もありました。安全性については、治安や子育て環境、交通量のほか民度に言及するコメントもありました。自然については、散策や観光、バーベキューなどの楽しさが述べられ、平穏な暮らしが実現していることへの満足感が感じられます。落ち着ける場所に関しては道路、地下街、商店街などの環境のほか、地域イベントを評価するコメントもありました。
6.地域(市区町村)が好きではない理由「不便」、「好きな店や場所がない」、「物価・家賃が高い」のほか、「最先端の情報を得る機会・場所がない」も
自分が住んでいる地域が好きではない理由は、「買い物や通勤・通学などが不便である」19.2%、「好きな店や場所がない、少ない」18.0%が多く、ついで「物価や家賃が高い」12.0%、「時代の最先端の情報や感覚を得る機会や場所がない」11.3%、「文化や芸術に触れる場所がない」10.8%などとなりました。(図6)
好きな理由の1位が「便利」、きらいな理由の1位は「不便」となり、住む地域については便利さが最重要であることが示されました。一方、好きな理由の2、3位が「安全」「自然豊か」であったのに対し、きらいな理由の2,3位は「好きな店や場所がない」「物価が高い」でした。不便さと並んで、好きな場所がないこと、物価が高いことといった、楽しさの不足、暮らしにくさが地域を好きではない理由となりました。
地域を好きではない理由について、自由記述で回答を求めました。不便さについては交通と買い物に関する記述が多く見られました。好きな店や場所がないことについては、店が少ないことの他に交通の便が悪いことや過疎化によりシャッター街になっている状況も寄せられました。物価に関しては物の値段の他に給与水準に言及するコメントもありました。時代の最先端の情報がないという点では、考え方の古さや閉鎖性、大きな商業施設がないことなどが挙げられました。
7.地域(市区町村)が好きな人は、「地域のニュースを読む」、「地域を散策・観光」、「地域の公共の文化施設を利用」
SNS投稿や訪れる人との交流、地域活動の経験は少ない
地域での行動や活動に関して聞いたところ、いま住んでいる地域が好きな人は、「いま住んでいる地域に関わるニュースは興味を持って読む」67.6%、「いま住んでいる地域を散策したり観光することがある」60.8%、「いま住んでいる地域の公共文化施設(市民会館・区民会館、市民ホール・区民ホール、公民館、生涯学習センターなど)を利用している、利用したことがある」56.6%、「いま住んでいる地域のことを友人や知人に話すことがある」51.7%などで高い割合となっています。(図7)
一方、今住んでいる地域が好きな人であっても「いま住んでいる地域に訪れる人と交流する機会がある(お仕事や地域のイベントなどで)」や「いま住んでいる地域の風景や自然、お店、イベントなどをSNSに投稿することがある」の肯定割合は20%に届かず、地域活動(ボランティア活動など)の経験も30%未満でした。
いま住んでいる地域が好きな人は、地域に関心があり、地域を散策・観光し、文化施設を利用するなど地域での暮らしを楽しんでいる様子がうかがえますが、訪れる人との交流やSNS投稿、地域のボランティア活動といった一歩踏み込んだ活動までしているケースは少ないようです。
8.「地域とのつながり感」がある人は、地域活動や地域貢献へのモチベーションが高い
「地域活動に参加したい」「お祭りやイベントに参加したい」「訪れる人を歓迎したい」などのモチベーションは「地域とのつながり感」と最も強く相関
地域活動に参加したいというモチベーションがどのような項目と関連するかを調べました。「いま住んでいる地域とつながりを感じる」と回答した人ほど、「いま住んでいる地域の地域活動(ボランティア活動など)に、今後参加したい」「いま住んでいる地域のお祭りやイベントに、今後参加したい」「いま住んでいる地域に、観光やイベント、仕事などで訪れる人を歓迎したい」というモチベーションが高いことが示されました。
こうした地域活動へのモチベーションは、特に「地域とのつながり感」に密接に関係し、「好き」「愛着」よりも関連度合いが強いこともわかりました。一歩踏み込んだ行動を促すには、「好き」「愛着」をさらに進めた「地域とのつながり感」である可能性が示されました。(図8)
9. 住んでいる地域以外に、「推し」の地域がある人は45%
「いま住んでいる地域以外に、関心があったり好きだと感じたりする地域、いわゆる「推し」の地域がある」に対して、「あてはまる」13.4%「ややあてはまる」31.5%と44.9%が「推し」の地域があるという回答でした。
一方、「あまりあてはまらない」34.2%「あてはまらない」20.9%との回答が過半数でした。(図9)
10.「推し」の地域は、「生まれ育った地域」「家族がいる」「好きな店舗や場所がある」
「推し」地域にあてはまる項目を複数選択で聞いたところ、「生まれ育った地域である」38.4%、「実家や家族、親戚が住んでいる」37.6%、「好きな店舗や場所がある」36.9%、「今までに住んだことがある」35.4%、「旅行で行ったことがある」27.4%などが上位となっています。(図10)
居住や訪問経験、実家や家族の居住などのほかに好きな店舗や場所があるところが「推し」地域になっていると推測されます。
11.「推し」の地域が好きな理由は、「自然を楽しめる」「好きな店や場所がある」「景観が美しい」
「推し」の地域が好きな理由としては、「自然を楽しむことができる」41.5%、「好きな店や場所がある」40.8%、「景観が美しい」36.7%、「落ち着けたりくつろげる場所がある」35.9%、「行きやすい」33.7%、「日常から離れてリフレッシュ、リラックスできる」32.0%などが上位に挙げられています。(図11)
「いま住んでいる地域」が好きな理由としては「便利」「安全」が1,2位に挙がりましたが、「推し」の地域については「自然」「好きな店や場所」という環境や嗜好性が重視されていることがわかります。
<まとめと提言>
持続可能な地域社会を創造するには、
地域とのつながり感を深め、関係人口を増やすことがカギ
全国の市町村で8割以上が人口減少に見舞われる中、持続可能な地域の創造、地域運営に携わる自治体などの組織と地域に住む私たちにできることや求められることを、調査の結果から考察します。
1.「地域が好き」を「地域とのつながり感」に高めることが地域の活性化に
いま住んでいる地域が好き、暮らしやすいと答えた人は全体の83%、今後住む地域は大切になっていくと考える人が63%と地域への高い満足感とその重要性が示されました。またそのように地域への愛着や満足度が高い人は生活全般の充実度も高く、地域と個人の生活との関わりがいかに大きいかも明らかになりました。
しかし、地域が好きな人でも地域の良さをSNSに投稿したり、地域を訪れる人との交流や地域活動の経験は少なく、地域を盛り上げるために行動する人の割合は多くありませんでした。地域が好きで満足しているだけでは、地域活性の行動にまではつながりにくいと言えます。
一方「地域とのつながり感」は、「地域活動をしたい」「地域を訪れる人を歓迎したい」という意欲と関連していました。「地域が好き」だけではない、「地域とのつながり感」が地域活性化のカギになると言えるでしょう。
2.観光資源や公共施設を活用して「地域とのつながり感」をつくる
「地域とのつながり感」は、地域のイベントや近所付き合いの場などで他の住民と交流することにより、「自分はこの地域の一員として他の住民や地域を訪れる人とつながっている」という感覚と言えます。こうした交流の場は地域活性化において重要な対策です。「地域が好き」な人は地域の散策や観光をしたり、公共の文化施設を利用する割合が高いという結果が出ており、自治体などの地域活性に携わる組織が、こうした資源や施設を活用し、交流の場を作ることが求められていると考えらえます。また、「地域が好き」な人は「地域に関わるニュースを興味を持って読む」と回答する割合が高いこともわかりました。話題性のある地域のニュースを配信することも、自治体などの組織ができる地域活性化策の一つと言えます。地域に関するSNS投稿を増やすために、撮影スポットを用意するなど訪れた人が投稿したくなるような工夫をすることも、つながり感を醸成する可能性があります。
一方、居住年数が1年以上3年未満の人では、「地域が好き」の気持ちが低下することから、例えば、居住1~2年目の人を対象としたキャンペーンやイベントを企画することも有効かもしれません。地域が好きでない理由として、好きな店や場所がないことも挙げられました。自治体が民間の店舗や貸しスペースなどと協力して、常に楽しいイベントの場を用意するなどの試みも考えられます。
3.好きな店や場所づくりで「推し」地域になり、関係人口を増やす
住んでいる地域以外の好きな地域、いわゆる「推し」地域がある人が45%いました。生まれ育ったところや実家があるところ、訪問した経験のあるところ、また好きな店や場所があるところが「推し」地域に選ばれていました。引っ越した後も元の地域に関心や愛着を持ち続けたり、行ったことがある地域に思いを馳せたりする様子がうかがえます。地域外で地域と多様に関わる人々を指す「関係人口」という言葉がありますが、「推し」地域を持つ人は関係人口と考えられます。関係人口はこれからの地域づくりの担い手となることも期待される重要な存在であり、今後は更に重要度が増すでしょう。
「推し」の理由には、「自然を楽しめる」、「好きな店や場所がある」、「景観が美しい」、「くつろげる場所がある」などが挙げられました。自然や景観などを守っていくだけでなく、地域の中に好きな店やくつろげる場所をつくることも、その地域が「推し」になるために大切な要素と考えられます。
4.地域に住む人の「つながり感」と地域外からの「推し」をつなげる
いま住んでいる地域に「つながり感」を持つ人は地域を訪れる人を歓迎したいというモチベーションが高いことがわかっています。こうした歓迎したい人と「推し」の気持ちを持って訪れる人とをつなげる試みは、自治体として検討する意義が大いにあるでしょう。両者が交流できるイベントなどを開催し、そこでできたネットワークを次の企画に連携させるなどの試みは、地域に住む人のつながり感を高め、また「推し」の気持ちを持つ関係人口を増やすものと考えられます。結果として地域の活性化につながることはもちろん、地域満足度が生活全般の充実に関連していることを考慮すると、地域住民にとっても生活の充実にも貢献すると考えられます。
5.地域に住む私たちにできること
「好き」で「暮らしやすい」と思っている今の地域を存続させ活性化させるために、私たち住民にも求められることがあるでしょう。地域のイベントやボランティア活動などにも関心を持ち参加することを考えてみる、他の住民との交流や地域を訪れる人との交流の場に積極的に参加してみるなど、私たちの一歩進んだ行動が、現在の地域での心地よい暮らしを守ることにつながります。地域の一員であり地域とつながっているという意識が、自然な地域貢献活動へのモチベーションに育っていくでしょう。
自治体と住民が協力し、地域外の人々と交流することで、つながりを深め、関係人口を増やすことが、持続可能な地域社会を作り出すための重要な一歩となります。
◆株式会社JTB コミュニケーションデザイン (JCD) 会社概要
所在地:東京都港区芝3-23-1 セレスティン芝三井ビルディング12階
代表者:代表取締役 社長執行役員 古野 浩樹
設 立:1988年4月8日
◆ワーク・モチベーション研究所
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