山岳トンネル工事における「ずり出し」を自動化・無人化
~ホイールローダの自動運転を核としたずり出しの安全性向上と省人化の実現~
開発の背景
建設業界では、「熟練技能者不足」、「高い労働災害の発生率」、「低い生産性」が喫緊の課題であり、山岳トンネル工事も例外ではありません。
そこで当社は、これらの課題解決に向けて「A4CSEL for Tunnel」の開発を進めています。これは、山岳トンネル工事の掘削作業を6つの施工ステップ1.穿孔 2.装薬・発破 3.ずり出し 4.アタリ取り 5.吹付け 6.ロックボルト打設 に分け、各ステップで使用する重機を自動化し、それらを一元管理する次世代の建設生産システムです。
このうち3.ずり出しは、発破により切羽で発生したずりをホイールローダで掬い取り、そこから数十m程度後方に配置したダンプトラック等の搬送機械・装置に積み込む作業です。標準的なトンネル工事では、発破で発生したずりを搬出するために、ホイールローダが切羽とダンプトラック等の間を発破1回あたり40~60回程度往復する必要があります。発破直後の切羽に近づくため危険でもあり、さらに狭隘かつ凹凸のある路盤上を走行するという作業環境と相まって、ずり出しは、技能者の心身への負担が大きな作業となっています。
当社は2021年6月、模擬トンネル(静岡県富士市)において、自動ホイールローダによるずりの掬い取りからホッパー投入までの一連作業の自動化に成功しました。一方、実トンネルでのずり出しの自動化には、切羽の位置や形状が都度変化するため、その状況に応じて接触を回避しつつ作業経路を確保するといった実際の工事特有の課題を解決していく必要がありました。
ずり出し自動化の概要と特長
神岡試験坑道で実証したずり出し自動化で使用する機械は、自動ホイールローダ、遠隔バックホウ、ホッパーフィーダ(積込中継機)、遠隔操作室で構成されます。
自動化されたずり出しの作業手順は、以下のとおりです。
(1) 発破によって切羽近傍に飛散したずりを、自動ホイールローダで切羽側に集積しながら掬い取る
(2) 自動ホイールローダは切羽から40~60m後方に配置したホッパーフィーダまで後進し、ずりを投入する。ずりはホッパーフィーダに接続されたダンプトラックに自動で積み込まれる
(3) ずりの掬い取り作業時に、掬い取ったずりの重量を自動ホイールローダのセンサによって計測することで、ずりの残量を推定する。残量が一定量以下になった時点で、作業効率(自動ホイールローダの1回あたりの掬い取り量の均一化)を保つために、散乱したずりを遠隔操作室のオペレータが遠隔バックホウで集積し、ずり出しを継続する
トンネル内では衛星測位システム(GNSS)が使用できないため、トンネル内の機械の動的な位置計測はこれまで困難でした。今回開発した自動化の仕組みでは、自動ホイールローダに搭載したLiDAR※1の計測データから坑内の地図を作成しつつ、機体位置をリアルタイムで推定するSLAM※2技術を活用しています。これにより、発破のたびに状況が変化するトンネル坑内において、計画経路とのズレを30cm以内の精度で自動運転できる技術を確立しました。
神岡試験坑道での実証の結果、ずり出し時の切羽近傍を無人化することが可能となり、安全性が飛躍的に向上するとともに、オペレータを心身の負担が大きな作業から解放できることを確認しました。
※1 レーザー光を照射してその散乱や反射光から距離などを計測
※2 自己位置の推定と環境地図の作成を同時に行う
今後の展開
今後は、ずり出しの更なる効率化を目指し、より多くの工事・工種に展開できるよう技術開発を進めてまいります。鹿島は引き続き、建設機械の自動化、遠隔化により作業エリアの無人化を進めるとともに、作業に則した合理的な動作手順や運転方法の創出、複数機械の連携作業における作業計画の最適化により、作業効率の向上を目指してまいります。
神岡試験坑道 工事概要
場所 : 岐阜県飛騨市神岡町
諸元 : トンネル掘削延長:321.3m 掘削断面積:アプローチ部43.9m2、自動化施工試験部73.5m2
(参考)
「動画でみる鹿島の土木技術」 山岳トンネル
https://www.kajima.co.jp/tech/c_movies/index.html#anc_mountain_tunnel
「A⁴CSEL for Tunnel」実坑道での実規模施工試験、いよいよスタート
(2021年10月7日プレスリリース)
https://www.kajima.co.jp/news/press/202110/7c1-j.htm
山岳トンネルを対象とした自動化施工システム「A⁴CSEL for Tunnel」の開発
(2021年6月30日プレスリリース)
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