機械学習を用いてICU入室患者の死亡率、在室期間を予測する千葉大学大学院医学研究院と株式会社Smart119の共同研究が国際科学誌『Scientific Reports』に掲載

ICUにおける、より適切な治療方針の決定、医療資源の配分に貢献の可能性

千葉大学発医療スタートアップの株式会社Smart119(本社:千葉県千葉市、代表取締役社長/CEO:中田孝明)は、千葉大学大学院医学研究院 救急集中治療医学および同大学院人工知能(AI)医学と共同で、機械学習を用いてICU(集中治療室)入室患者の「生命予後」「在室日数」を予測するためのアルゴリズム確立とその精度検証、さらにクラスター解析による死亡リスク要因の解明を目指す研究を実施しました。本研究の成果をまとめた研究論文(筆頭著者:岩瀬信哉、責任著者:中田孝明)が、このたび国際科学誌『Scientific Reports』(英国、Nature Research社発行) に掲載されたことを発表いたします。
高度な医療機器を用いて重篤患者の容態を常にモニタリングしているICU(集中治療室)では、膨大な量のデータが収集されます。医療機器から得られるそれらのビッグデータを、現場の医師や看護師がすべて把握して解析することは容易ではありません。一方で、ビッグデータは機械学習による解析に適しており、患者の血圧や呼吸、心拍数、血液データなどのバイタルデータを機械学習させることにより、患者の予後や重症化を予測できる可能性があります。ICU入室患者の予後や在室期間を高い精度で予測することができれば、より適切な臨床意思や治療方針の決定、医療資源の配分につながる可能性があります。

こうした観点に基づき、千葉大学大学院医学研究院 救急集中治療医学の岩瀬信哉特任助教らは、データを用いたICU(集中治療室)入室患者の「生命予後」「1週間以内の生存退室」「2週間以上の生存退室」を予測するためのアルゴリズム確立とその精度検証、死亡リスク要因の解明を目指す研究を実施しました。株式会社Smart119は、ICU入室患者の予測医療の進歩に資すると期待される本研究において、主に機械学習を用いたビッグデータの解析と、ICU死亡率とICU在室日数の予測アルゴリズムの開発を担いました。

研究では、2010年11月~2019年3月までの期間に千葉大学医学部附属病院のICUに入院した約1万2800人の患者のICU入室時の電子カルテデータを使用。そのうち機械学習用サンプル80%(約1万200人)を利用して分類アルゴリズム・モデルを設計し、さらにテスト用サンプル20%(約2600人)で検証を実施しました。検証では、「ランダムフォレスト(RF)」をはじめとする3種類の機械学習手法を採用しました。

検証の結果、100種類以上に及ぶICU入室時の各種バイタルデータから、ICU患者の生命予後や在室日数を高い精度で予測できることが確認されました。具体的には、分類アルゴリズムをテスト用の約2600人のデータで検証した結果、「ランダムフォレスト(RF)」(*1)ではICU死亡率がAUC値0.945(*2)、ICU退室者のうち1週間以内のICU滞在期間についてAUC値0.881、2週間以上の滞在期間についてAUC値0.889を示しました。他の機械学習手法を用いたケースでも高い予測値を示すことが判明しています。【図1、2-1、2-2】
 

【図1】集中治療室死亡率の予測精度と主要変数。テスト用約2600人を分析の対象にした。(a) 3種の機械学習手法(Random Forest、XGBoost、Neural Network)およびロジスティック回帰からICU死亡率のROC曲線(*3)とAUCを求めた。(b) Random ForestにおけるICU死亡率に対する変数の相対的重要度。
 

【図2-1】集中治療室滞在期間に対する予測精度と主要変数。テスト用約2600人を分析の対象にした。(a、b) Random Forestとロジスティック回帰を用いた機械学習手法により、ICU滞在期間が短い場合(a)、長い場合(b)のROC曲線とAUCを導き出した。
 

【図2-2】(c、d)ICU滞在期間が短い(c)と長い(d)の変数の相対重要度。 Random ForestにおけるICU在室日数の短さ(c)と長さ(d)に対する変数の相対的重要度。ICU在室日数を予測するには、選択手術、HR(心拍数)、LDH(乳酸脱水素酵素)、UN(尿素窒素)が重要であることが示された。


また、機械学習による予測やUMAP(*4)によるクラスター解析において、患者の疾患内容に関わらず、「LDH(乳酸脱水素酵素)」の血中濃度がICU入室患者の生命予後および在室日数に強く影響を与える重要な因子であることを見出しました。従来、機械学習を用いてICU入室患者の死亡率を高い精度で予測する研究例は多数報告されてきましたが、死亡率予測アルゴリズムにおいて重要な変数を特定するための解析結果は報告が極めて少ないことから、画期的な成果と言えます。【図3-1、3-2】

【図3-1】集中治療室での死亡リスクに基づくクラスター解析。テスト用約2600人を分析の対象にした。(a) ICU患者のUMAPによるクラスター解析は、ICUでの死亡リスクと各変数の分布に基づいて行われた。解析の結果、患者は5つのクラスターに分類された。
 

【図3-2】(b) 上位3変数(Lac(乳酸)、LDH、PLT(血小板数))はICU死亡の予測に寄与し、他の2因子(Diagnosis:診断、Department:診療科)は各クラスターを特徴付けた。

ICU入室時点のバイタルデータから患者の予後や在室期間を高い精度で予測できれば、医療従事者の負担を軽減させるだけでなく、患者のQOL(Quality of Life)の向上にもつながり、さらに意識を喪失しているICU患者の家族に対し、今後の治療方法に関する重要な意思決定を行うための材料やエビデンスを提供することも可能になります。正確な予測を早期に把握することにより、ICUにおける患者ケアの質と臨床成果の向上、医療資源・コストの適正化などが期待されます。

*1:random forest 分類、回帰、クラスターに用いられる機械学習のアルゴリズム。一般的な決定木(思考図)より高性能な識別・予測が可能とされている。
*2:Area under the curve 分類のアルゴリズムの精度を示す曲線値。閾値「0.8」を上回ることで高精度とされている。
*3:ROC (Receiver Operating Characteristic) curve 検査や診断薬の性能を2次元のグラフに表したもの。ROC曲線を作成した時に、グラフの曲線より下の部分の面積がAUC(Area Under the Curve)となる。
*4:Uniform Manifold Approximation and Projection 機械学習による非線形次元削減手法の一つ。

◆掲載:国際科学誌『Scientific Reports』
Prediction algorithm for ICU mortality and length of stay using machine learning
https://www.nature.com/articles/s41598-022-17091-5

<株式会社Smart119について>
株式会社Smart119は「現役救急医が設立した、千葉大学発スタートアップ」です。
『今の「119」を変える』ため、音声認識とAIを活用した救急医療支援システム「Smart119」を開発・運用。
千葉市において、日本医療研究開発機構 (AMED) の救急医療に関する研究開発事業を実施。
緊急時医師集合要請システム「ACES」、災害時をはじめとした医療事業継続支援システム「respon:sum」の開発・運用を行っています。Smart119は「安心できる未来医療を創造する」を目指します。
 


【株式会社Smart119概要】
会社名: 株式会社Smart119
住所: 千葉県千葉市中央区中央2丁目5-1千葉中央ツインビル2号館 7階
設立: 2018年5月
代表者: 中田 孝明
事業内容: 
音声認識とAIを活用した救急医療支援システム「Smart119」の開発・運用
緊急時医師集合要請システム「ACES」の開発・運用
医療事業継続支援システム「respon:sum」の開発・運用
URL: https://smart119.biz
Twitter: https://twitter.com/Smart119_jp
メールアドレス: press@smart119.biz (担当:中村)
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