高齢者の難治性がんである「原発性骨髄線維症」の発症メカニズムを解明
千葉大学・熊本大学 -がん遺伝子を抑える薬としての有効性を確認-
なお、本研究は岩間教授が領域代表を務める文部科学省補助金新学術領域研究「ステムセルエイジングから解明する疾患原理」ならびに文部科学省基盤研究費の成果です。
※原発性骨髄線維症とは
骨髄の中で血小板を作る巨核球と骨髄球系細胞が腫瘍性に増殖して骨髄の線維化と造血障害を生じる血液がんで、脾臓などで異所性の造血をきたす。 65才以上の高齢者に多くみられ、 10万人あたり2人以下というまれな疾患ですが、平均生存期間は3年程度であり、主な死因は、感染症、出血と白血病への移行です。病気の原因として、遺伝子変異が知られており、約半数の患者でJAK2キナーゼの活性化変異があり、その他に共存する遺伝子変異としてエピゲノム制御因子であるEZH2やTET2遺伝子の変異が知られ、悪性度との関連が言われています。
1.研究成果
こうしたJAK2変異体とEZH2変異体の両方をもつ遺伝子改変マウスを作製して、同様の変異を持つ患者と同様に、悪性度の高い骨髄線維症をマウスにて再現することに成功しました。
■原発性骨髄線維症のがん遺伝子の発現異常を発見
作製した骨髄線維症マウスの造血細胞を採取して、遺伝子発現およびエピゲノム(※)変化を解析した。これらの統合的な検証によって、複数のがん遺伝子候補を含めた243遺伝子の活性化を確認し、このうち患者の腫瘍細胞でも発現上昇が知られるHMGA2などを骨髄線維症のがん遺伝子として同定した。実際、HMGA2がん遺伝子を造血細胞に強制発現させると、骨髄線維症の病態の一部を再現することに成功した。
2.新規治療法の検証 ~薬により骨髄線維症の進行抑制効果が確認
こうしたがん遺伝子の発現を抑制するため、遺伝子発現を活性化する機構を抑制するブロモドメイン阻害剤をマウスに投与したところ、骨髄線維症の進行抑制効果が確認された。今後、既に臨床応用されているJAK2キナーゼ阻害剤との併用効果の確認が興味のあるところである。
3.展望
今後、患者で認められる遺伝子変異を導入したこの骨髄線維症マウスを用いた、より詳細な発症メカニズムの解明が求められる。また、唯一の治癒的治療法の造血幹細胞移植術に適応のない高齢者患者に対して、こうしたがん遺伝子と発現メカニズムを標的とした新規治療戦略の進展と臨床応用が期待される。
※エピゲノム
ゲノムDNA上には約2万個の遺伝子が並んでいますが、細胞の種類によって、あるいは細胞の置かれた状況によって、使われる遺伝子と使われない遺伝子があります。そのためゲノムは様々な化学修飾マークを付与されていて、そのマークのおかげで各遺伝子は「使われる」「使われない」と言った制御が正しく行われるようになっています。このようなマークを総称してエピゲノムと呼んでいます。
参考資料 1) 指田吾郎、岩間厚志(2014)「癌細胞におけるエピゲノム制御異常」医学のあゆみ 250:52-58.
千葉大学大学院医学研究院 細胞分子医学
http://www.m.chiba-u.ac.jp/class/molmed/index.html
国際先端医学研究機構
http://www.kumamoto-u.ac.jp/kenkyuu/ircms
このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります
メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。
すべての画像