疾患を引き起こすゲノム状態を「地図化」-エピゲノムビッグデータの解析インフラを創出-
・疾患関連ゲノム変異情報などの注釈づけデータを統合するとともに、エピゲノムデータを比較解析するためのオンラインツールを実装しました。
・エピゲノムビッグデータの解析基盤として、ChIP-Atlasは遺伝性疾患の解明、新規創薬標的の探索、再生医療などの分野への応用が期待されます。
【概要】
熊本大学生命資源研究・支援センターの鄒 兆南助教、沖 真弥教授を中心とする研究グループは、千葉大学国際高等研究基幹・大学院医学研究院の大田達郎准教授との共同研究により、エピゲノム統合データベースChIP-Atlas(https://chip-atlas.org)のメジャーアップデートを行い、ゲノムの三次元構造・疾患感受性ゲノム変異などの注釈づけ情報を統合し、遺伝子発現制御に関わるエピゲノム状態の変容を検出する比較解析ツールを実装しました。これにより、ChIP-Atlasは世界最大規模のデータ数を誇るエピゲノム情報インフラへと進化し、遺伝性疾患の発症メカニズムや薬物作用機序の解明、細胞分化転換の効率化などへの応用が期待されます。
本研究の成果は、グリニッジ標準時間2024年5月16日に英国オックスフォード大学出版局(Oxford University Press)が発刊する学術誌『Nucleic Acids Research』(オンライン版)に掲載されました。
なお、本研究は国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)「統合化推進プログラム」(JPMJND2202)、JST-ERATO有田リピドームアトラスプロジェクト(JPMJER2101)、JSTさきがけ(JPMJPR1942)、JST次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2110)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業(PRIME)「加齢変容細胞のデコーディング技術の開発と応用」(23gm6710001h0002)、同機構生命科学・創薬研究支援基盤事業(BINDS)「空間オミクス解析の支援」(23ama121017j0002)、日本学術振興会科学研究費助成事業(22J15229,23KF0048,22H02819,23H04954)、京都大学医学部教育研究支援基金、京都大学メディカルイノベーション大学院プログラムの研究支援を受け実施したものです。
【展開】
ChIP-Atlasは2015年の一般公開以来、遺伝学、疾患メカニズム、創薬、発生生物学など幅広い研究分野で利用されており、これまでに1,000報に迫る論文に引用されています。この度のメジャーアップデートにより、疾患ゲノム情報をはじめとするゲノム・エピゲノム注釈づけデータが大幅に拡充され、ChIP-Atlasは遺伝子発現制御の異常に起因する遺伝性疾患の成り立ちを解明するデータ基盤へと進化しました。また、エピゲノムデータの比較解析ツールの実装は、薬物摂動によるエピゲノム状態の変容を突破口とした薬物の作用機序の解明、ひいては新規創薬標的の発見への応用が期待されます。さらに、細胞分化におけるエピゲノム変化に切り込むことで、例えば細胞の直接分化転換(いわゆるダイレクト・リプログラミング技術)を誘導できる司令塔的な転写因子もしくは低分子化合物をより簡便に見出すことが可能になります。将来的には組織再生医療への応用が期待されます。
【論文情報】
論文名:ChIP-Atlas 3.0: a data-mining suite to explore chromosome architecture together with large-scale regulome data
著者: Zhaonan Zou, Tazro Ohta, Shinya Oki
掲載誌:Nucleic Acids Research
doi: 10.1093/nar/gkae358
URL:https://academic.oup.com/nar/advance-article/doi/10.1093/nar/gkae358/7671323
▼プレスリリース全文はこちら
https://www.kumamoto-u.ac.jp/whatsnew/seimei-sentankenkyu/20240516
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