MSF、途上国のHIV/エイズ治療推進に関するWHO指針を歓迎
世界保健機関(WHO)が6月30日、HIV/エイズ治療に関する新たなガイドラインを示した。国境なき医師団(MSF)はこの指針に賛同するとともに、開発途上国の人びとと関連プログラムの成果に資するよう、改善策が速やかに実践に移されることを求め、国際支援拡大の必要性を訴えている。
WHOの指針では、HIV感染者に対する抗レトロウイルス薬(ARV)治療の早期化、HIVの母子感染予防のプロトコル改善、治療効果を確認するための定期的で効果的な“ウイルス量”測定が挙げられている。
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<早期治療――大きな違い>
MSFインターナショナル会長、ウンニ・カルナカラ医師は、「HIVには早期の治療が大きな違いをもたらします。患者の容態を良好に保ち、周囲の人への感染予防にも効果があります。しかし、WHOの指針の速やかな実践には政治的・経済的支援が不可欠です」と語る。
ARVのウイルス抑制を確認する“ウイルス量”測定の実践は、今回示された指針における重要な新要素となっている。ウイルス量測定が最大の効果を発揮するのは、十分なアドヒアランス(患者自身の能動的参加による服薬順守)サポートと結びついた場合で、患者・治療提供者双方にさまざまな効果がもたらされる。
南アフリカでMSFの医療コーディネーターを務めるジル・ファン・クトセム医師は、「血中のウイルス量が“検出不可”の水準だと知ることほど、HIV/エイズ患者を治療継続に意欲的にさせることはありません。ウイルス量検査は、第1選択治療の継続と、第2選択薬への移行時期の見極めに最適な方法であり、HIV/エイズの症例が多い国々でこそ、実践されなければなりません。今回の新指針により、より多くの患者を対象にして、治療を継続させ、ウイルス量を検出不可の水準に維持するという我々共通の目標を確実に引き上げていく必要があるでしょう」と話す。
<資金援助国・組織は新指針の後押しを>
WHOの新たな指針によると、治療対象となる人の数は大幅に増加する。
カルナカラ医師は、「今回の指針は意欲的かつ必要なもので、実現可能なものでもあります。いまこそ最大多数の人に最善の治療法を届けるための行動を急ぎ推し進めるときなのです。各国はこのWHOの新指針を実践し、滞りなく治療を早期化すべきでしょう。そのためには、各援助国政府や世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)からHIV/エイズ治療プログラムへの融資など、国際支援を募ることとも肝心です」と述べている。
世界基金や米国大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)のような資金援助組織にも、戦略上の優先事項として、WHOの新指針の速やかな実践を後押しすることが求められる。世界基金が2013年中の開催を予定している今後3年間のための増資会議では、資金援助側の果たすべき役割として治療目標の引き上げを盛り込むことが期待される。
<時計の針を進めるために>
途上国においてMSFが2000年以来行ってきたHIV/エイズ治療の経験が示すものは、治療の提供方法を調整し、補完的な手法と組みわせることで、大勢の人を対象とした質の高いケアの普及拡大を実現できるということだ。投与が容易かつ低価格な薬が必要で、また、治療モニタリングも不可欠で、アドヒアランスに問題のある患者への効果的なカウンセリングとの組み合わせが求められる。治療・ケアの管理において、患者本人に従来よりも大きな役割を担わせ、これを促すことも重要だ。一例を挙げると、MSFがモザンビークで導入した治療の簡素化と継続支援のための戦略的試みでは、少人数の患者グループを作ることが有効だと判明した。これはグループのメンバーが月ごとに交代で検査に赴き、グループ全員分の薬の補充を受け取るというものだった。このモデルは、治療を簡素化するだけでなく、より重症な患者に専念する余地を保健医療スタッフに与えている。
一方で、MSFはその活動を通じ、治療の受けられない大勢の人を目のあたりにしている。このような国が取り残されることのないよう、特に注意を払う必要があるだろう。
ファン・クトセム医師は続ける、「中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国、ギニア、ミャンマーといった国々は、時計の針が10年以上止まったままのような状態にあり、治療を受けられないために亡くなる人があまりにも多いのです。高まん延国の遠隔地に住む貧しい人など、無力な人びとへ治療対象を広げることも必要です。HIV/エイズ治療の必要な人びとが、脆弱な行政や希薄な政治的意志のために不安定な環境で、顧みられずにいるという状況を、国際社会はこれ以上見過ごしてはなりません」
MSFは現在、21ヵ国で28万5000人にHIV/エイズ治療を提供している。
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