準表面プラズモン共鳴の学理を構築
― 常識に捉われない柔軟な発想で光物理学の新領域を開拓 ―
静岡大学工学部(兼電子工学研究所)の小野篤史教授の研究グループは、準表面プラズモン共鳴という新たな学理を構築しました。
【研究のポイント】
・光と電子との振動科学を追求
・プラズモニック回折に基づく新しい光マネジメント原理を提案
・スマートフォンのカメラ、自動運転に用いられる距離センサ、医療やバイオ分野の検査装置などの技術革新につながる発見
本研究では、金属ナノ構造体における光と電子の相互作用を詳細に解析し、従来の表面プラズモン共鳴とは異なる新しい光共鳴状態である「準表面プラズモン共鳴」の学理を構築しました。一般に表面プラズモン共鳴は光の波長や入射角度に厳しい制約を受けますが、本研究では共鳴条件からわずかに外すという柔軟な設計により、光入射角度範囲にわたって効率的な光回折現象を生じることを示しました。この現象をシリコンイメージセンサに応用することで、これまで感度が低いとされてきた近赤外光に対する吸収効率が大幅に向上することが解析的に示されました。本成果は、スマートフォンのカメラや自動運転に用いられる距離センサ、医療・バイオ分野のイメージング技術など、幅広い光センシング技術の高性能化につながる基盤的知見を提供するものです。従来の常識に捉われない新しいプラズモニクスの概念として、光物理学および次世代センサ技術の発展に大きく貢献することが期待されます。
なお、本研究成果は2026年1月23日付にて、米国物理学会が発行する国際学術誌Physical Review Lettersに掲載されました。(DOI: https://doi.org/10.1103/75zq-5lqg)

【研究背景・成果】
表面プラズモン共鳴は光と金属中の電子との共鳴振動を表します。一般的に金属は光を強く反射しますが、金属をナノ構造化すると特定波長の光エネルギーが金属中の電子の共鳴的な振動エネルギーに吸収されます。これが表面プラズモン共鳴と呼ばれる現象です。この現象下では、光は単に反射されるのではなく、金属表面近くに強く閉じ込められ、局所的に非常に強い光の場が生じます。この局所的な光閉じ込め効果を利用したバイオセンサや分光分析、太陽電池など、光エネルギーを高効率に利用する技術として幅広く研究されてきました。
表面プラズモン共鳴現象は、従来の光技術を打破する革新的な現象として、学術分野だけでなく産業界においても高い注目を浴びていますが、共鳴振動であるため光の波長や入射角度に対する制約が厳しく、実用への応用範囲は限られていました。
このような制約を鑑みて、小野教授の研究グループは、金属ナノ構造体に生じる電子の振動状態を詳細に解析し、複数の共鳴モードを独立に制御するという新たな設計指針により、従来は一意的であった共鳴条件を「広がりをもった状態」へと拡張できることを見出しました。共鳴条件を厳密に満たすように設計することがこれまでの常識であったのに対し、この設計指針の見直しにより、完全な共鳴状態からわずかに外れた条件でありながら、広い波長範囲かつ広い入射角度範囲にわたって、光と電子との強い結合が維持されること世界に先駆けて発見し、これを研究グループは「準表面プラズモン共鳴」と名付けました。
この新しい概念の有効性は、シリコンイメージセンサの近赤外感度向上という具体的な応用例で示されています。シリコンは可視光に対して高い感度を示しますが、近赤外光に対しては感度が低いという欠点があります。そのため、暗視、距離計測、生体計測といった近赤外光を利用したセンシング分野では、シリコンイメージセンサの近赤外感度の向上が課題でした。準表面プラズモン共鳴を利用すると、金属ナノ格子によって光が効率よく大きな角度で回折され、シリコン内部に閉じ込められます。その結果、これまで数%程度であった近赤外光の吸収効率が、可視光と同等にまで大幅に向上することが解析的に示されました。
【今後の展望と波及効果】
本研究で提唱された準表面プラズモン共鳴は、すでに基礎的な実験にて確認されており、今後さらなる発展が見込まれます。「共鳴を極限まで高める」という従来の発想から一歩踏み出し、「共鳴のあり方そのものを拡張する」という柔軟な視点が新しい光科学と次世代センサ技術の可能性を大きく広げつつあります。この研究成果は、光物理学の新領域を切り拓くと同時に、社会を支えるセンシング技術の革新へとつながる重要な一歩と言えます。
【論文情報】
掲載誌名:Physical Review Letters
論文タイトル:
Quasiresonant Regime of Surface Plasmon for Broad Angular Responsivity of Plasmonic Diffraction
著者:Koya Okazaki, Nobukazu Teranishi, and Atsushi Ono
DOI:https://doi.org/10.1103/75zq-5lqg
【研究助成】
科学研究費助成事業 基盤研究(B) 25K01286、 挑戦的研究(萌芽)22K18984
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