域内で創出される付加価値は、1米ドルあたりわずか56セント ~日本アセアンセンターが自動車産業のGVCに関する研究成果を発表~
国際機関日本アセアンセンター(東京都港区新橋6-17-19 新御成門ビル1階 事務総長:藤田正孝)は、2020年1月、ASEAN[1]の自動車産業におけるグローバル・バリュー・チェーン(GVC)に係る研究成果を発表しました。本研究は、ASEANの自動車産業におけるGVCについての分析に加え、更なる持続可能な開発という観点から、GVCによる利益を最大化し、リスクを最小限に留めるための実践的な政策提言も含むものです。
今回発表した「Global Value Chains in ASEAN: Automobiles(ASEANにけるグローバル・バリュー・チェーン:自動車)」と題する論文の中で、センターはASEAN自動車輸出において域内で創出される付加価値は、1米ドルあたりわずか56セントで、残りの44セントは域外によるものであり、ASEANの全産業平均(64セント)より低いと報告しています。ASEANの自動車産業では、域内の付加価値として創出されるのは1ドルあたりわずか30セントであり、製造業界全体平均よりも低いこと、そしてその理由として、自動車部品の製造と最終組み立ては労働集約型であり、生産単位あたりの付加価値が小さいことを指摘しています。また、国別に見ると生産単位あたりの付加価値の比率は、特にマレーシア、フィリピン、タイ並びにベトナムで低いと報告しています。
なお、本論文は、センターが作成しているGVCに係る16本の論文のうちの一つです。センターでは2016年にASEAN諸国のGVCに関する研究調査事業を開始して以来、すでにASEAN全体、国別ではブルネイ、カンボジア、フィリピン、シンガポール並びにタイ、産業別では観光業を取り上げた論文を各1本発表しており、残りの8本の論文についても順次発表していきます。[2] これらの論文はセンターが、Eora[3]と国連貿易開発会議(UNCTAD)の協力を得て構築した付加価値貿易に関するデータに基づいています。
本論文の要旨は、次の通りです。
◆ 自動車産業はASEAN経済のけん引役である。ASEANにおいて少なくとも1,770憶ドルの国内総生産を産出し、240万人の雇用を創出している。また、ASEANは自動車、オートバイ、トラック、及びそれらの部品を含む全自動車産業の重要な生産拠点として機能している。
◆ 自動車産業は複雑で多層的であるが、その生産は国際的に分断されており、GVCを通じて地域及びグローバルな生産ネットワークにうまく統合されている。
◆ 全体として、ASEANの自動車産業は未だ付加価値が低く、乗数効果が小さいという特徴がある。ただし、輸出の付加価値は、自動車のバリュー・チェーンの発展段階の差異により、ASEAN諸国の中でもそれぞれ異なる。
◆ ASEANの自動車輸出の付加価値は、主に日本、中国、米国からのものであるが、他のASEAN諸国の付加価値も大きなシェアを占めており(2015年には15%または8億900万ドル)、その規模は米国のそれ(8%または4億2,400万ドル)よりも大きい。
◆ ASEANの自動車産業では、自国で創出される付加価値が大きいことから、近年、GVC(グローバル・バリュー・チェーン)への参加は多少減少してきた。他方、地域のバリュー・チェーン(RVC)への参加は徐々に増加している。GVC、RVCへの参加は、どちらにおいても、集中的な後方への産業連関参加(国外による付加価値)と徐々に増加する前方への産業連関参加(国内の付加価値)を特徴とする。
◆ 「Factory Asia(生産拠点としてのアジア)」及び自動車GVCにおけるASEAN諸国の重要性は高まってきている。ASEAN各国はそれぞれ独自の専門分野を発展させ、地域及び世界の自動車バリュー・チェーンを確立してきたため、さらなるアップグレードを促進できる。
◆ ASEANと日本は自動車産業において重要なパートナーである。日本の自動車産業における輸出が100万ドル増加すると、ASEANから1万9,000ドルの投入を呼び込むと推定される。
◆ ASEANにおいては、自動車産業でのGVCを促進するための政策の枠組みが必要である。その政策の枠組みは、研究開発と技術革新を通じた能力開発を強化することにより、国内企業、特に中小企業を発展させるべきである。その結果、円滑なバリュー・チェーンへの参加や、上位のバリュー・チェーンの展開が可能になる。さらに、部品サプライヤーの共同データベースや人材の地域認証等、地域協力を促進する必要がある。
論文(英語)は、以下よりダウンロード可。
URL: https://www.asean.or.jp/ja/centre-wide-info/gvc_database_paper12/
[1] ASEAN (東南アジア諸国連合)は、1967年に結成された地域協力機構。 加盟10カ国(ブルネイ・ダルサラーム、カンボジア、 インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)総人口は6億5千万人を超える。
[2] 本件は、ASEAN各国のバリュー・チェーンに関するデータを構築・更新し、同データに基づき分析論文を作成する、複数年に亘る研究活動の一環。本事業では、計16本の証拠に基づく、政策志向の論文を作成する。
[3] Eoraはシドニー大学に本拠地を置く、国際色豊かな研究プロジェクト・チームであり、「多地域インプット・アウトプット データベース」(www.worldmrio.com)を開発した。同データベースは、付加価値貿易の推定値の基になっており、センターによるGVCに関しての研究事業において使用されている。
<<国際機関日本アセアンセンター>>
正式名称:東南アジア諸国連合貿易投資観光促進センター
ASEAN10 カ国政府と日本政府により 1981 年に設立。 貿易・投資・観光・人物交流の 4 分野を中心に、ASEAN 商品の輸出促進、日系企業 の進出支援、人材育成、日 ASEAN 間の観光促進等を通して、日本と ASEAN 諸国との 関係促進に貢献する国際機関です。
URL:https://www.asean.or.jp/ja/
<<本リリースについてのお問合せ>>
国際機関日本アセアンセンター 調査・政策分析クラスター
東京都港区新橋 6-17-19 新御成門ビル 1F
電話:03-5402-8004
Fax:03-5402-8005
E-mail: info_rpa@asean.or.jp
このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります
メディアユーザーログイン既に登録済みの方はこちら
メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。
すべての画像