中学生のスポーツ機会、世帯年収による格差
中学生のスポーツ活動と保護者の関与に関する調査
「スポーツ・フォー・エブリワン」を推進する笹川スポーツ財団(東京都港区赤坂 理事長:渡邉 一利 以下、SSF)では、2025年1月に、中学生の子どもをもつ保護者(母親・父親)3,136名を対象とし「中学生のスポーツ活動と保護者の関与に関する調査」を実施しました。
※速報版は2025年4月21日にご案内済み
本調査は、中学生のスポーツ環境を、これまで見過ごされがちであった保護者の関与に加えて、家庭環境や経済的側面からも分析したものです。中学生のスポーツ機会は、世帯年収により格差があること、また、保護者の関与に地域差があることなどが浮き彫りとなりました。そして、国が進める部活動の地域展開においては、各地域の実情に合わせた支援方策の検討が必要です。
※本調査では部活動(運動部・文化部)およびスポーツクラブにおける保護者の関与を扱っており、子どもが両方に加入している場合は、双方の分析対象に含めています。
▼公式ウェブサイト
https://www.ssf.or.jp/thinktank/children_youth/jhs_and_parents_2024_2.html

<調査結果のポイント>
1. 中学生のスポーツ機会(運動部・スポーツクラブ加入状況)は、世帯年収による差がみられる
2. 中学校入学前からスポーツ機会には世帯年収による差が生じている
3. 家庭の支出費用は、運動部(年間50,857円)はスポーツクラブ(年間155,799円)の3分の1である
4. 運動部・スポーツクラブ非加入群の保護者は、低年収層ほど負担が大きく後悔も多い
5. 中学生のスポーツ機会に大きな地域差はないが、保護者の関与には地域差がみられた
<担当者コメント>
本調査は、保護者の目線から中学生のスポーツ機会や活動の実態を明らかにし、家庭環境や地域による違いを把握する目的で行われました。運動部活動は費用負担が比較的少なく、加入率は調査対象者全体で5割にのぼり、世帯年収400万円未満の群でも42.3%となりました。一方で、この数値はその他の年収群に比べて約10ポイント低く、統計的にも有意な差がみられます。スポーツクラブの加入率は年収が上がるにつれて段階的に高まり、400万円未満では9%、1,000万円以上では21%となりました。
部活動の地域展開においては、スポーツクラブへの活動の移行や受益者負担の増加が議論されますが、その際には常に、低所得層の子どもへの影響を考慮する必要があります。「地域展開」はあくまで子どもたちにより良い環境を整備するための手段であり、既存の部活動の長所と課題を冷静に評価しながら、どのような仕組みを構築していくか検討することが求められます。
宮本幸子(笹川スポーツ財団 シニア政策ディレクター)
<主な調査結果>
1. 部活動・スポーツクラブの加入状況
部活動やスポーツクラブへの加入状況を世帯年収別に示した。
部活動の加入状況についてみると、運動部の加入率は世帯年収「400万円未満」では42.3%であったのに対し、ほかの群ではいずれも5割を超えていた。文化部の加入率と世帯年収との間に明確な関連はみられなかったが、部活動非加入の割合は「400万円未満」で28.7%、「600万円未満」で21.2%と、ほかの群に比べて高かった。スポーツクラブの加入率も「400万円未満」では9.0%と最も低く、「1,000万円未満」「1,000万円以上」ではいずれも2割を超えていた。高年収層ほど運動部・スポーツクラブへの加入が高い傾向がみられた。
図表1. 部活動の加入状況(世帯年収別)

図表2. スポーツクラブの加入状況(世帯年収別)

2. 中学校入学前のスポーツ経験
子どもが中学校入学前に組織的なスポーツ活動(スポーツ少年団・スポーツクラブや民間の教室、保育所・幼稚園での課外教室や小学校の部活動など)を行っていたかをたずねた。全体では小学校入学前に45.9%、小学生の頃に55.4%が組織的なスポーツ活動を経験していた。世帯年収別では、「400万円未満」では小学校入学前31.6%、小学生の頃41.6%であるのに対し、「1,000万円以上」では58.6%、66.7%と、いずれも3割弱の差がみられた。
図表3. 中学校入学前のスポーツ経験(部活動・スポーツクラブ加入状況別)

女性の2024年実施率は40歳代の5.1%が最も高く、20歳代4.9%、30歳代3.9%と続く(図3)。20歳代の実施率はほかの年代に比べ高い傾向が続いていたが、2020年から3分の1程度へと大きく減少し、2024年は40歳代を下回った。30歳代の実施率も減少傾向が継続した。一方、女性で2022年より実施率が増加したのは60歳代、70歳以上であった。
3. 部活動・スポーツクラブにかかる費用(再掲)
子どもの部活動やスポーツクラブについて、1年間で家庭から支払うおよその費用をたずねた。平均値でみるとスポーツクラブ(155,799円)が運動部(50,857円)を大きく上回り、約3倍となった。
4. 子どものスポーツに対する意識(非加入群)
運動部やスポーツクラブに加入していない子どもの保護者に対し、日ごろの様子や運動・スポーツに関する意識をたずねた。世帯年収別に分析すると、全体でも数値が高かった「運動不足だと思う」「体力の低下が心配だ」「本人がほかに集中したい活動があるので、それを応援したい」「運動部やスポーツクラブで活動するより、本人のペースで過ごすことができる」は、いずれの年収群でも7~9割程度と高い割合を示した。
世帯年収によって差がみられたのは、「費用の負担が大きく、運動やスポーツをさせることが難しい」(400万円未満52.1%、1,000万円以上18.1%、以下同)や「送迎や保護者の係の負担が大きく、運動やスポーツをさせることが難しい」(59.5%、29.8%)で、世帯年収が低い群ほど「そう思う」とする割合が高かった。また、「小学生までにもっと運動やスポーツに親しむ機会を与えたかった」は400万円未満が61.3%と、ほかの群を15ポイントほど上回っていた。
図表4. 子どものスポーツに対する意識(運動部・スポーツクラブ非加入の場合/世帯年収別)

5. 保護者の関与と地域差
人口規模別の部活動・スポーツクラブの加入状況を確認する。部活動については、運動部・文化部・非加入のいずれの割合も、居住地の人口規模による明確な差は認められない。運動部の加入率はいずれの人口規模においても50%台である。スポーツクラブについても人口規模による差はみられず、加入率は15%前後である。加入率の観点からみた中学生のスポーツ活動実施状況は、人口規模にかかわらずおおむね同程度といえる。
図表5. 部活動・スポーツクラブの加入状況(人口規模別)

保護者の関与に関する18項目(報告書p32参照)のうち、人口規模別で差がみられた14項目を図示した。「お子様の送迎をする」(3万人未満85.3%、50万人以上51.7%、以下同)、「お子様以外の部員の送迎をする」(46.1%、28.3%)、「教員や指導者との連絡や情報共有を行う」(37.3%、19.7%)などは、人口規模が小さい自治体ほど割合が高くなる。特に「お子様の送迎」は「3万人未満」と「5万人未満」で8割を超え、ほとんどの家庭で必要であることがわかる。また、「怪我人や体調不良者の手当てをする」(3万人未満18.6%、以下同)、「活動場所の手配や整備をする」(16.7%)、「試合やコンクールの応援を手伝う」(15.7%)などは「3万人未満」で突出して高い。
いずれの項目でも「3万人未満」でもっとも割合が高く、人口規模の小さい自治体では、公立中学の運動部活動における保護者の関与が多い傾向にあるといえる。
図表6. 保護者の関与(公立運動部/人口規模別)

■調査概要
【調査名】中学生のスポーツ活動と保護者の関与に関する調査
【調査時期】2025年1月
【調査方法】登録モニターを対象としたインターネット調査。
【調査対象】中学1~3年生の第1子をもつ保護者(母親・父親)が対象。
※子どもの属性(性別・学年・地域ブロック)は人口構成比に応じて割り付けた。
【回収状況】3,136(母親1,586、父親1,550)
※データクリーニングの過程で、同一選択肢が連続するなど回答傾向が不自然と判断されるケースを除外した。
【主な調査項目】部活動の種類/スポーツクラブ・教室の種目/活動日数・時間/競技レベル/費用/部活動(クラブ)にある組織/保護者の関与とやりがい・負担感/保護者の関与に対する意識/部活動(クラブ)を通した経験/部活動(クラブ)への期待/子どもの運動・スポーツに対する意識/子どものスポーツに対する一般的な考え方/子どものスポーツ環境/中学入学以前のスポーツ歴/子どもの属性/家庭環境、保護者の属性 など
【研究担当者】公益財団法人笹川スポーツ財団 シニア政策ディレクター 宮本 幸子
【共同研究者】早稲田大学 スポーツ科学学術院 教授 中澤 篤史
【研究協力者】名古屋芸術大学 芸術学部 講師 加藤 一晃
立教大学 スポーツウエルネス学部 助教 村本 宗太郎
早稲田大学 大学院スポーツ科学研究科 博士課程 須藤 巌彬
〃 船木 豪太
※肩書は2025年11月時点
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公益財団法人 笹川スポーツ財団は、「スポーツ・フォー・エブリワン」を推進するスポーツ分野専門のシンクタンクです。国、自治体のスポーツ政策に対する提言策定や、スポーツ振興に関する研究調査、データの収集・分析・発信、自治体との共同実践研究などを通し、スポーツで社会課題を解決します。
理事長 : 渡邉 一利
所在地 : 〒107-0052 東京都港区赤坂1-2-2 日本財団ビル3階
設立 : 1991年3月
目的 : スポーツ・フォー・エブリワンの推進
事業内容:
・生涯スポーツ振興のための研究調査
・生涯スポーツ振興機関との連携事業
・生涯スポーツ振興のための広報活動
URL : https://www.ssf.or.jp/
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