I LADY.「性と恋愛 2023」ー 日本の若者のSRHR意識調査 ー
コロナ禍を経て日本の若者の性と恋愛はどう変化したか、国際ガールズ・デー前に調査結果を発表
2019年の調査では、当時の日本の若者の性と恋愛に対する“リアルすぎる”調査結果が大きな反響をよび、2021年は、調査対象を30~64歳の親世代にまで拡大した結果、世代を超えて刷り込まれているステレオタイプと大きな世代間ギャップが可視化されました。そして、第3回目となる2023年は、より多くの若者の本音(5800人)にフォーカス。HPVワクチンや子宮頸がんに関する若者のリアルな現状、セックスや避妊など、性に関する若者の悩みが明らかになりました。
調査概要
●調査対象:日本国内在住の15-29歳 これまでに恋人・パートナーができたことがある人(未既婚不問)(男性2350人/女性3156人/男女どちらでもない294人)
●調査手法:インターネット調査
●調査日程 :2023/8/9(水)~8/17(木)
●調査目的 :恋愛、性、セクシュアル・ヘルス/ライツなど、パートナーとの関係性も含めた意識調査
【5つのテーマ別POINT】
リアルな恋愛・結婚・家族観 POINT(1) ・パートナーには「思いやり・優しさ」「自然体でいられること」を求める。 ・結婚や子どもについては「結婚はしたいし、子どもを持ちたい」という回答が7割を超えた。 一方で、「結婚はしたいが、子どもは持ちたくない」「結婚はしたくないし、子どもも持ちたくない」と5人に1人が回答。 ・相手に気に入られるために合わせてしまう若者は7割を超える。 性・セックスの意識 POINT(2) ・性的同意について「絶対に大事だと思う」若者は9割を超える。 一方で、「性的同意を得ているつもりだが、本当に得られているか自信がない」と、男性の約2人に1人、女性の約3人に1人が回答。 ・「具体的に性的同意とはどういうものか、正直わかっていない」の回答も4割を超えており、性的同意の重要性はわかっていながらも具体的には理解していない現状が明らかとなった。 ・セックスに関連した困りごとについては、男性は「特に悩みはない」、女性・男女どちらでもない場合は「容姿や体形に自信がない」、「自分の性器の大きさや形・色・においなどが気になる」が上位にランクインし、性別による差とボディイメージに関する悩みが顕著に見られた。 避妊・性感染症予防の本音 POINT(3) ・性感染症については7割超が、その予防方法については約6割が「知っている」と回答。 ・避妊をせずに性交渉した経験があるのはおよそ3人に1人。理由として、女性は「相手に言いづらかったから」、「避妊したいと言ったが、相手がしてくれなかったから」、男性は「コンドームをつけると快感が損なわれるから」と回答。 ・ピル服用経験のある女性は、およそ4人に1人。ピルを服用しない理由で、最も多いのは「費用が高額だから」が半数弱と、価格が最大のハードルになっている。 セクシュアル・ヘルスについて POINT(4) ・性に関する情報源は半数以上がネットやSNSと回答。 ・子宮頸がん検診を定期的(1〜2年毎)に受診しているのは約5人に1人。 ・受診しない理由としては「受診にお金がかかるから」、「面倒だから」、「どんな検査をするかわからず怖いから」がそれぞれ2割程度と多く、検診の必要性への理解や検診に関する情報の不足が原因となっていた。 ・HPVワクチンの認知度については、女性で約4割、男性では約2割に留まった。 自分の人生を決められるか POINT(5) ・「人生の大きな決断において、自分を頼る傾向があるものの、女性の4割、男性の3割が自分の決断に自信がない。 ・「自分の性別を理由に進路や職業選択であきらめたことがある」は5人に1人(18.8%)は経験があり、男女どちらでもないと回答した人は4割にも上った。 |
調査結果から見えてきたこと(一部事例を抜粋)
ーリアルな恋愛観ー
相手に嫌われたくない? 70%以上が本来の自分を出さずに相手に合わせてしまう
「あなたは、付き合っている相手に気に入られるために、本来の自分とは違うと思っても、相手に合わせてしまうことがありますか。」という質問には、「よくある/たまにある」と答えた人が若者(15-29歳)全体で71.4%、男性73.9%、女性69.9%、男女どちらでもない67.3%であり、性別を問わず、相手に意見を合わせる傾向が見えてきました。
ー性・セックスの意識ー
ボディイメージに悩みのある女性たち セックスの悩みとして浮き彫りに
「セックスに関して悩みごとや困りごと、コンプレックスなどはありますか。」という質問に対し、女性では「容姿や体形に自信がない」(34.9%)、「自分の性器の大きさや形・色・においなどが気になる」(27.0%)が上位にランクインしました。男女どちらでもない場合も女性と同様の結果が見られました。一方男性は、「特に悩みはない」(24.5%)、「相手が満足しているかどうか」(24.0%)と回答しており、性差が見られるとともに、女性を中心としてボディイメージに関する悩みが明らかとなりました。
性的同意は大切であると認識してはいるものの、実際に得られているかは自信がない
性的同意について「絶対に大事だと思う」若者は9割を超えました(90.1%)。一方で、「性的同意を得ているつもりだが、本当に得られているか自信がない 」と男性の約2人に1人(49.1%)、女性の約3人に1人(36.0%)が回答しました。
「具体的に性的同意とはどういうものか、正直わかっていない」の回答も4割を超えており(42.0%)、性的同意の重要性はわかっていながらも具体的には理解していない現状が明らかとなりました。
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法学者・谷口真由美さんからのコメント
2019年、2021年に続いての今回の調査は、避けて通ることはできないコロナ禍という特殊事情があるために、これまでの調査との差異などを読み解くことが困難だということが、大きな特徴のひとつだと考えます。
コロナ禍において、どっぷりと自宅にいなければならない状況になりました。性にしても恋愛にしても、生身の人間と会うことで成立していることがほとんどです。出会いの入口がオンラインであったとしても、大多数の人の前提として、人とリアルで会うことを抜きにして、性と恋愛はできないということが、改めて言語化されたのではないでしょうか。もちろん、人によってはオンラインでセックスも恋愛も完結できる人もいるかもしれませんし、それを否定するものではありませんが、友人すらつくりにくい状況であった若者たちが、より親密な関係になる恋人をつくるということは、コロナ禍で非常に困難になったのではと思われます。
近年では、恋愛もセックスも結婚に対しても、ガツガツせずにしたい人がすればいいという若者が増えてきた傾向にあったように感じていますが、このコロナ禍がそれに拍車をかけた可能性は否めません。また、コロナ禍が及ぼした影響が、このあと数年にわたり、性と恋愛に影響が出ることが予想されます。今後、婚姻数などにも変化がでるのではないかと推察いたします。
その一方で、コロナ禍で、ジェンダー規範がより強化したともいえます。自宅でオンラインで仕事をする男女のカップルに子どもがいた場合、女性の方が家事時間が増えたというデータがあります( https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r03/zentai/html/column/clm_01.html )。
最近ではジェンダーという言葉の認知度はあがっており、ジェンダーに基づく差別はなくなってきているように思っている人もいるかもしれませんが、実際はなくなっていません。差別はもうない、と思っている人たちは、いつまで女性差別があると思っているのかという認識になりがちですが、世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数の日本の順位は146カ国中125位で、前年(146カ国中116位)からでも9ランクダウン。順位は2006年の公表開始以来、最低だったということが示しているように、女性差別は厳然として存在しています。
女性差別はあるのに、男性の方が「性による損をしている」と感じている傾向があるように出ているのが、「学校や職場で、自分の性別を理由に、役割や担務を誰かに譲った、もしくは辞退した経験」は、女性は2019年、2021年、そして今回とそんなに顕著な動きはないのですが、男性は2019年は18.0%、2021年は16.1%、そして今回は24.7%と大幅に上がっていることからも明らかです。このあたりは、近年、「現代的レイシズム(新しい差別)」といわれる言説と大変似ている状況と考えられます。「古典的レイシズム」は、わかりやすい、あからさまな偏見であるのに対し、「現代的レイシズム」の特徴は、差別なんかないのに、問題があるとしたら、マイノリティ側の努力が足りないからであり、(努力もせず)差別、差別と主張して過大な要求を行っている、それによって不当な特権を得ているというものです。このような言説の広がりと、今回の調査の結果は、とてもリンクしていると考えられます。
SRHRを含む人権教育が、これまで以上に日本で必要なことが、今回の結果からも改めてみえてきたといえます。例えば、「性的同意は絶対に大事」が90%を超えていても、「性的同意を得ているつもりだが、本当に得られているか自信がない」「具体的に性的同意がどういうものかわかっていない」が40%を超えています。大事であることがわかっても、どうしてよいのかわからないことが明らかになったので、今後の実践をどのようにしていくのかが課題ですね。
谷口真由美
1975年 、大阪市生まれ。 法学者。 専門は国際人権法、ジェンダー法、憲法など。
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ー避妊・性感染症予防の本音ー
男女で異なる避妊に対する意識
「あなたは、これまでに、妊娠を望まない性交渉において、避妊をしなかったことがありますか。※腟外射精は避妊をしたことに含みません。」という質問に対し、男性は29.8%、女性は39.0%、約3-4割が避妊をしなかった経験があることが分かりました。前回調査よりも避妊をしなかった割合はわずかに増加しています。
避妊をせずにした理由は、男性では「コンドームをつけると快感が損なわれるから」「盛り上がってコンドームを忘れてしまった」「避妊なしで性交渉しても大丈夫だと思った」、女性では「相手に言いづらかったから」「避妊したいと言ったが、相手がしてくれなかったから」の回答が多くありました。男性は快感を求め避妊をしない一方で、女性は避妊を男性に任せている傾向にあり、相手に言いにくい・言っても相手がしてくれない現状が明らかになりました。これは2021年発表の調査と同様の結果でした。
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ーセクシュアル・ヘルスについてー
性に関する情報源は主にネットやSNS
「あなたは、性に関する情報や知識をどこで得ていますか。または、どこで得たことがありますか。〈複数回答〉」という質問に対し、全体の約半数(51.0%)が「ネットやSNS」と回答しました。男性では、「アダルトビデオ・サイト」33.7%「友だち」30.6%、女性では「友だち」37.0、「恋人・パートナー」30.8%の回答が次いで多くありました。
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産婦人科医・稲葉可奈子さんからのコメント
印象的だったのは、ピルの月経コントロール、避妊の効果については4-5割が理解しているのですが、33%(10代女性では44.5%)は値段が高いと思っていること。ピルを服用していない理由の1位は「お金がかかる」で、この割合は過去と比較して上昇しています(2021年38%→2023年45%)。2位は「副作用が心配」で、効果については認知が広まってきているものの、事実と異なるネガティブな噂は訂正されていない実態が明らかとなりました。実際には、保険診療で処方されるとジェネリックなら約600円/月、もちろんそれを高いと感じる方もいるかもしれませんが、外来で患者さんにお話しすると「そんなに安いんですか!」と驚かれることが多く、どうやらオンライン処方の広告をみて毎月3000円以上かかると思ってらっしゃるようです。
ピル服用率が20%との結果は、臨床現場の感覚よりも多い印象なので、SRHRをテーマとしたアンケートに回答しようと思う時点でバイアスがかかっている可能性は否めません。それを考慮すると、実際には本結果よりもピルについての認知は低いかもしれません。
また、子宮頸がんはHPVワクチンと子宮頸がん検診で予防することができますが、20代後半の36%は未受診。HPVワクチンは過半数が未接種。特に20代後半の子宮頸がん検診を受けない理由は、「面倒だから」33.5%に続いて2位が「お金がかかるから」31.3%。(※画像は全調査対象:15-29歳の数値を示しています)実際には、自治体から補助がでることが多いのですが、ピルが費用を理由に敬遠されているのと同様、必要な情報が対象者に届いていない可能性がうかがえます。国民の健康に寄与するにためは、制度整備だけでなく正しい情報の普及啓発も不可欠と改めて感じました。
もう一点、非常に印象的だったのは、「避妊せずに性交渉してもし妊娠したらどうするつもりだったか」の回答として、2021年以降「産む/産んでもらうつもりだった」が減少、「中絶するつもりだった」が増加していること。経済的な事情か、心理的な将来への不安か、タイミング的にはコロナ禍以降ですが、果たして本当にコロナ禍が影響しているのか、理由までは本調査からは分かりませんが、子どもをもつことへのハードルが以前よりも上がってきていることがうかがえます。一方で、避妊をせずに性交渉した理由の1位は「大丈夫だと思った」、そのほか「妊娠すると思っていなかった」「なにも考えていなかった」「自分には関係のないことと思った」と、男女ともに妊娠を自分事と捉えられていない人が未だ多い。また、「緊急避妊薬を飲めばいいと思った」が増加傾向となっており、間違った認識で知られるようになってしまっており、性教育の重要性を実感します。
稲葉可奈子
産婦人科専門医・医学博士。みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト 代表
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ー自分の人生を自分で決められるかー
人生の大きな決断に自信のない若者。
「あなたは、進路や職業選択など、あなたの人生において大きな決断をするときの、自分の決断に自信はありますか。」という質問に対し、「あまりない」「ない」と回答した割合は、女性の4割(43.6%)、男性の3割(30.8%)という結果となりました。大きな決断の際には自分を頼りに決めている若者が6割(62.3%)を超えていますが、一定数の若者はその決断に自信を持っていないことが明らかとなりました。
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性と恋愛2023 性の知識・具体的なノウハウ、実践方法を知らない若者の実態
2019年、2021年と、2年ごとに実施してきたこの「性と恋愛」意識調査は、今回で3回目。調査対象の共通条件は、「これまでに恋人・パートナーとの交際経験がある人」。
若者の恋愛離れが騒がれる中、この調査でも15-19歳男性のモニター数が、他の性年代の約半数になっています。
男女ともに、75%がセックスの悩みを抱えている
2023年では、全体の4分の3(75%)の人が悩みがあると回答。自分の「容姿や体形」「性器の大きさや形・色・におい」「経験の少なさ」により自信が持てず、「相手が満足しているかどうか」がわからないことが悩みの上位となっていました。女性は年齢が高くなるにつれて自身の快楽が満たされないことが悩みとなっていました。
15-19歳は経験の少なさゆえに、男女ともに「仕方」、そして男性は「場所」、女性は「避妊や性感染症予防」といった具体的な実践方法がわからないことに困っていて、正しい知識を学ぶ機会が不足していることを調査結果からも読み取れました。
「性的同意」言葉は広まったけれど、同意の取り方を知らない
前述するように「性的同意がどういうものかわかっていない」が4割強に上り、「性的同意」という言葉だけが独り歩きしてしまい、具体的な同意の取り方、確認方法などは曖昧なままとなっている様子が調査結果から読み取れました。
そして、上の画像は2019年、2021年に続き2023年も、男女差が大きかった質問の1つ。気が乗らないのに性交渉に応じた経験率は、男性28.6%、女性46.1%と、女性の方が高い結果が出ました。さらに既婚、未婚で見ると男女ともに既婚者の方が、気が乗らないのに性交渉に応じた割合が高く、既婚者は2人に1人が同意のないセックスをした経験があることがわかりました。
夫婦だからって、セックスをいつでもして当然ではない
性的同意の基本的な考え方では、「Yes」という言葉での積極的な反応だけが同意とみなされます。沈黙や笑ってはぐらかすといった反応は同意とはいえません。諸外国では、相手との同意がない性交渉はたとえ夫婦間であっても性犯罪にあたります。結婚は、セックスをいつでも自分本位で自由にできるという保証ではありません。日本では、お互いの合意のない性行為は夫婦間であっても性暴力に当たるという認識が薄いように思われます。「夫婦だからセックスをして当然」と考えず、相手に同意を求め、積極的な同意を得ることが、お互いの尊厳と権利を尊重するためにとても大切なプロセスです。そのようなプロセスやノウハウを学ぶ人権教育の機会の不足が日本における大きな課題です。
総じて、今回の調査結果でわかったことは、初回の2019年時と比較してみると、若者の性に関する言葉の認知度は高まっていますが、例えば子宮頸がんという女性の疾患1つをとってみても、予防のための正しい知識がない実態が浮き彫りになりました。基本的人権としてのセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)の情報提供、そのための包括的性教育の機会を、この日本でどうしたら増やせるのか。日本の若者を対象にSRHRの意識向上することを目的としたI LADY.プロジェクトを始動して8年が経過した今、改めてここにいる専門家、アクティビスト、団体、学校、自治体、政府と共に再考し、連帯強化したい気持ちが湧いています。
ジョイセフ事務局次長 小野美智代
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調査結果について
今回の「性と恋愛2023ー日本の若者のSRHR意識調査ー」のさらに詳しい調査結果を、ジョイセフ公式サイト内に掲載。調査結果 https://www.joicfp.or.jp/jpn/column/sex-and-love-surv2023/
今後ジョイセフは「I LADY.」を通してより幅広い情報提供を行い、若者がより多くの選択肢を持てるよう活動を続けていきます。
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