エジプトで拷問被害者のリハビリ施設が閉鎖される
強まる人権活動への弾圧
エジプトで、取り調べなどにおける拷問や暴行の被害者のためのリハビリ施設エル・ナデーム・センターが、警察による家宅捜索を受けた後、2月9日に閉鎖された。同国では人権活動に対する弾圧が激しさを増しており、今回の閉鎖も、国に批判的とみなした活動を敵視する当局の姿勢を象徴している。
エル・ナデーム・センターはこの1年、当局からたびたび嫌がらせを受けてきた。2016年2月にも、当局から突然、閉鎖の行政命令を出されている。センターはすぐさま異議を申し立てたが、今回、司法判断がまだ出ていないにもかかわらず、閉鎖が強行された。
2016年には、中央銀行の命令で銀行口座が凍結された。
同センターは、1993年に認可を受けて以来、20年以上にわたり、拷問被害者や国の機関等による強制失踪の犠牲者家族などにカウンセリングや法的支援を提供してきた。閉鎖は、こうした支援を快く思ってこなかった当局による報復措置と見られているが、被害者の治療を妨害するとは、到底許しがたい。当局がすべきことは攻撃ではなく、拘禁時の拷問や暴行を防ぐ保護措置の導入や強制失踪の撲滅だ。
当局の標的になっているのは、エル・ナデーム・センターだけではない。人権問題に取り組むさまざまな団体や個人が、嫌がらせ、脅し、旅行禁止、資産凍結、不当起訴などに遭っている。
弾圧に利用されているのが、ムバラク独裁政権時代につくられた「結社法」だ。2014年、NGOを管轄する省は同法のもとで団体登録を行うよう、最終通告を突きつけた。しかし結社法は、独立系の団体が政府に批判的になりすぎた場合に罰する自由裁量を政府に与えるために導入されたものであり、多くの団体は活動が制限されることを恐れて登録を拒んだ。そして、未登録であることで、摘発を受け、閉鎖に追い込まれている。また、「結社法」のもとでの税務調査の名目で、NGO関係者が召喚され、尋問され、旅行を禁じられ、資産を凍結されているのだ。
しかし、リハビリ施設であるエル・ナデーム・センターは、保健省から認可を受けた診療所として運営されており、そもそも同法の適用外だ。
抑圧的な法律はまだある。2014年には大統領令で刑法も改正され、国益を損ねたり、領土の保安を脅かしたりするような活動のために金銭・物資を受け取ることが違法となった。実質的には、NGOが海外から支援を受けることを禁じる措置である。違反すれば終身刑や高額な罰金を科されるおそれがある。
さらには、デモ規制法、対テロ法によるメディア規制など、自由な声を封じる法律が相次いで導入されている。
エジプトでは、政府に対して物申すことは、もはや排除すべき脅威と見られているのだ。
アムネスティ・インターナショナル日本
www.amnesty.or.jp
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