社会情報大学院大学、学術誌「社会情報研究」第2巻2号を発刊
■ 目次・概要(敬称略)
- 原著論文
―遺児世帯の家計と教育・進路選択への影響―
先端教育研究所 富井 久義
[抄録]本論文は,2020年に起きた新型コロナウイルス感染症の感染拡大(コロナ禍)が遺児世帯,すなわち死別のひとり親世帯の家計にどのような影響をもたらしたのかを,遺児世帯の保護者・大学生・ 高校生を対象に,一般財団法人「あしなが育英会」が2020年10月から11月にかけて実施した調査結果をもとに明らかにするものである。分析の結果明らかになったことは,第一に,遺児世帯は,他のひとり親世帯や一般世帯と同様,コロナ禍によって収入減と支出増といった家計への影響を受けてきたということである。第二に,このような家計への影響にもかかわらず,調査時点では,遺児世帯の高校生・大学生が進路変更を迫られるような大きな影響はみられないということである。これは,子どもが望む教育を受けられるようとする保護者の努力と,政府・大学・民間団体の多様な支援の帰結であると考えられる。
新型コロナウイルス感染症は遺児世帯の生活にどのような影響を及ぼしたか(2)
―テキストマイニングによる自由回答の分析―
福岡女子短期大学 加藤朋江
先端教育研究所 富井 久義
[抄録]本稿は,あしなが育英会がインターネットで実施した「長引くコロナの影響インターネット調査」の自由回答の結果を用いて,コロナ禍が遺児家庭の保護者にどのような影響を及ぼしたのかを明らかにするものである。発見としては,第一にコロナ禍によって,一般世帯以上に遺児家庭がその生活基盤を脅かされる(または,すでに脅かされた)割合が高くなるということである。遺児家庭は全てひとり親世帯,または保護者が重度後遺障害である世帯であり,もともと経済的に苦しい状況にあるが,コロナ禍に伴う収入減と支出の増加はこの人々の経済的な基盤に打撃を与えた。第二に,教育費の確保に努める遺児世帯のそもそもの経済的負担が多大であることが,コロナ禍によって一層明確になった。第三に,コロナ禍は貸与型奨学金の負担感を増大させ,将来的に,従来であれば進学が可能であった子どもたちの多くに進学を断念させる可能性がある。
COVID-19 and the Political Economy of the “September School Year Start” in Japan:
Overlooked Victims and Foregone Revenues
(邦題:新型コロナウイルス感染症に伴う「9月入学論争」の教育経済学 ―新卒就職者の放棄所得と国の逸失税収―)
Satoshi ARAKI/香港嶺南大学 荒木啓史
Shinichi AIZAWA/上智大学 相澤真一
Naoya OKAMOTO/Glocal Academy 岡本尚也
[抄録]In response to the COVID-19 pandemic, a“September School Year Start”has become a central topic of discussion in Japan. While the pros and cons of changing a conventional academic calendar have been raised, two important aspects have been largely disregarded: foregone earnings of new graduates and relevant tax revenues. We therefore analyse national statistics on the number of new graduates as overlooked victims and their expected monthly wages in conjunction with tax payment, revealing that a September Start would force new graduates to give up approximately 715.7 billion yen, which leads to 87.6 billion yen foregone tax revenues for the government. This means both individuals and the society would lose a certain amount of financial resources by merely introducing a September Start. Considering other policy options are available should national budgets equivalent to foregone tax revenues be mobilised, it is essential for policy makers to examine cost-benefit of both a September Start and alternatives so that they make a sound decision. Although the primary focus of this article is on a September Start and its consequences, the said approach with close attention to scientific evidence rather than abstract notions is now required for the effective education policy-making and beyond.
本稿は,エビデンスに基づく政策形成を喚起することを目的に,新型コロナウイルス感染拡大を受けて注目された「9月入学」に焦点を当て,当該制度が導入された場合に新卒就職者が失う所得と国が失う税収を検証するものである。学歴別の新卒初任給及び新卒就職者数,並びに家計支出に関するデータを基に推計したところ,「9月入学」を導入して高校生や大学生等の卒業時期が5か月後ろ倒しになった場合,放棄所得は計7,157億円(低位推計で5,594 億円),逸失税収は計876億円(同725億円)となる。ここで,逸失額分の税収があれば,「9月入学」の効果として語られる「学びの保障」や「教育の国際化」等の観点から,学校のICT整備や大学の研究教育環境の充実等を図り得ることも考えると,「9月入学」の検討に当たってはその費用対効果を他施策と比較検討することが求められる。こうしたエビデンスに基づく検討が,「9月入学」に限らず今後の教育政策形成に欠かせない。
M&Aにおける企業文化のマネジメント―文化の見える化とコミュニケーションの役割―
株式会社伝創社(広報・情報研究科 2期生)津田 亮
[抄録]M&Aの件数が増加しているにもかかわらず,期待した効果を得られていない企業が多い。M&Aの成否に企業文化の融合が重要であるが,その困難さから手をつけられないでいることが理由の一つだと考えられる。本研究は,企業文化を構成する要素として,明文化または即物化しやすい,目に見える「ハード的要素」と,目に見えない「ソフト的要素」に分類し,ソフト的なものに影響を与えると思われるハード的な企業文化の構成要素とは何かを明らかにするものである。そのために選定した質的研究の分析手法であるModifiedGroundedTheoryApproach(以下,修正版GTAまたはM-GTA)を使った分析により明らかにし,企業文化の融合をマネジメントする方法を見出すことを目的とする。
- 研究ノート
判例評釈
広報・情報研究科 特任教授 北島純
[抄録]本稿は,タイ王国における火力発電所建設工事に関してタイ政府公務員に贈賄したとして,不正競争防止法18条(外国公務員贈賄罪)違反の疑いで起訴された三菱日立パワーシステムズ社元取締役に,共謀共同正犯の成立を認定し懲役1年6月執行猶予3年とした第一審判決(東京地裁令和元年9月13日)を破棄し,幇助犯の成立を認定し罰金250万円とした東京高裁令和2年7月21日判決を検討したものである。
※「学校法人先端教育機構 機関リポジトリ」→「社会情報研究 第2巻2号」で閲覧できます。
https://sentankyo.repo.nii.ac.jp/
■ 社会情報大学院大学について
創 立: 2017年4月1日
所在地: 東京都新宿区高田馬場1-25-30
学 長: 吉國 浩二
研究科:
広報・情報研究科(※1)
実務教育研究科(※2)
附 属:
先端教育研究所
社会情報大学院大学 出版部
※1 厚⽣労働省の教育訓練給付⾦(専⾨実践教育訓練)に指定。修了者は国から最⼤112万円を給付。
※2 2021年4月開設
社会情報大学院大学 広報・情報研究科は、学校法人先端教育機構の「知の実践研究・教育で、社会の一翼を担う」という理念に基づき、組織の理念を基軸として広報・コミュニケーション戦略を立案・実行する人材の育成に取り組んでいます。修了者には、専門職学位「広報・情報学修士(専門職)」(MICS:Master of Information & Communication Studies)が 授与されます。
また、2021年4⽉より、実践知を体系化することで新たな知識を創造し、それを適切な教育・人材育成プログラムにより普及・伝達できる「実践知のプロフェッショナル」を養成する「実務教育研究科」を開設します。
その他詳細は⼤学院HP( https://www.mics.ac.jp )をご覧ください。
■ 学校法人先端教育機構の概略
[名 称]学校法人 先端教育機構
[理事長]東 英弥
[所在地]東京都港区南青山3-13-16
[設置校]
・事業構想大学院大学
本部:東京都港区南青山3-13-16
拠点:東京、大阪、名古屋、福岡
・社会情報大学院大学
東京都新宿区高田馬場1-25-30
[附属機関] 事業構想研究所、先端教育研究所、SDGs総研
[出 版] 月刊事業構想、月刊先端教育、書籍等
【本件に関するお問い合わせ先】
学校法人先端教育機構
社会情報大学院大学 事務局
TEL:03-3207-0005
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