IoTで起こすビジネス革命~日本企業の可能性
FIFイノベーションワークショップ2015「IoTでビジネスを変える~第四次産業革命の最前線~」第3回
フューチャー イノベーション フォーラム(略称=FIF、代表=牛尾治朗・ウシオ電機株式会社会長、金丸恭文・フューチャーアーキテクト株式会社会長)は、7月27日にイノベーションワークショップ2015の第3回を開催しました。
本ワークショップは次世代リーダーの育成と業界を超えた企業同士の交流を深める場として、2007年にスタートしました。本年は「IoTでビジネスを変える」をテーマに全3回シリーズで開催しました。ドイツと米国で進行しているIoTビジネスの事例を中心に、IoTが製造業だけでなく流通や小売り、サービス業でもビジネスを変える可能性があることを示唆し、日本ならではのビジネスのあり方や自社ビジネスの変革について議論を重ねました。
本ワークショップは次世代リーダーの育成と業界を超えた企業同士の交流を深める場として、2007年にスタートしました。本年は「IoTでビジネスを変える」をテーマに全3回シリーズで開催しました。ドイツと米国で進行しているIoTビジネスの事例を中心に、IoTが製造業だけでなく流通や小売り、サービス業でもビジネスを変える可能性があることを示唆し、日本ならではのビジネスのあり方や自社ビジネスの変革について議論を重ねました。
【開催概要】
テーマ:IoTで起こすビジネス革命~日本企業の可能性
コーディネーター:サイバー大学 IT総合学部 専任教授 前川徹
日 時: 2015年7月27日(月) 18:00 ~ 20:20
会 場: フューチャーアーキテクト株式会社
【講演概要】
IoTの活用は製造業にとどまらず農業や医療、サービスなど様々な分野で進んでいる。身の回りにある機器がインターネットにつながることで新たな付加価値を生み出し、室温制御装置(サーモスタット)を核とした「スマートホーム」や食事のスピードを管理する「スマートフォーク」など、これまでにないサービスや商品が次々に生まれている。とりわけ農業や医療・ヘルスケア、土木分野では生産性の向上に対する期待が大きい。またIoTの進行によって、様々な産業や企業において事業そのものの在り方を再定義する動きも加速している。世界で巻き起こるIoTビジネスの最新事例や日本企業の取り組みをもとに、今後本格化するIoT時代に向けて日本企業は何をすべきかを示唆する。
◆ IoTビジネスの可能性
2014年1月、米グーグルは家庭用のサーモスタットを手掛ける米ネスト・ラボ社を32億ドル(当時のレートで約3,200億円)で買収した。グーグルは単にデザイン性に優れたサーモスタットが欲しかったのではない。サーモスタットをネットワークにつなげることで、初めてリアルなデータを手に入れたのだ。すでに家庭内の様々な機器とサーモスタットを連携させて新たなサービスを展開している。自家用車の位置情報をもとに帰宅する時間には部屋を適温にするサービスや火災ガス警報器が一酸化炭素を検出すると部屋の照明が赤く点滅して危険を知らせるサービスなどだ。グーグルはサーモスタットを核としたプラットフォームを構築し、スマートホーム市場への参入を着実に進めている。
この10年を振り返ると、アマゾンやグーグル、フェイスブックなど勝ち組と言われるIT企業は、すべてデータを集める仕組みをつくりあげた企業だ。コンテンツや行動情報をうまく収集・活用してきた。いま最も注目されているのが「モノの情報」であり、ドイツでは官民連携による「インダストリー4.0」、米国では民間主導による「インダストリアル・インターネット」の動きが広がっている。
そして、今後大きな鍵を握るのは、まだ誰も集めていないモノの情報をいかに集め、いかに活用するかだと言える。たとえば「Kaggle」というサイトは、研究者向けに世界のコンテスト情報をまとめたポータルサイトだったが、応募者の職歴や研究テーマ、コンテストの成績などをデータベース化し、いまや9万人もの研究者の情報を有する人材紹介会社へと変貌した。このように集積したデータそのものに付加価値が生まれ、新たな事業につながるケースも出ている。
◆ 生産性の向上と価値の創出
IoTの本質は生産性の向上と価値の創出にある。これまで人が経験と勘で行ってきたプロセスをデータ化することで作業が効率化され、生産性が大幅に上がることが見込まれている。とくに生産性の低い農業や医療・ヘルスケア、土木分野における効果への期待は大きい。
オランダは世界に先駆けて農業にITを取り入れた国のひとつだ。農産物の発育状況をセンサーで個別に把握し、温度管理や水やりなどの作業をすべて自動化し、生産性を飛躍的に向上させた。また経済動向を見ながら農産物を市場に出すタイミングを計り、高い収益率を確保している。医療では米国で発売された「スマートフォーク」が注目されている。口に運ぶスピードや回数を感知し、食べるペースが速いとフォークが振動して警告する。急いで食べるのを防ぐことができダイエット効果も期待されている。また東レとNTTが共同開発したTシャツは心拍数や心電波形を計測できる。日常的にデータを収集すれば、病気の治療や予防医療にも役立てられる。
米国ではゴミ箱の“スマート化”も進んでいる。ニューヨークやロサンゼルスに多く設置され、ゴミ箱に取り付けたセンサーがゴミの量を感知し、自動的に業者に通知する仕組みだ。回収のタイミングやルートが見直されコスト削減に一役買っている。また土木業界では建物や橋梁、道路、下水道管などにセンサーを取り付けて形状の変化などのデータを収集し、防災やメンテナンスに活用しようという動きが広がっている。身の回りのあらゆる機器がネットワークにつながることで新しい価値を生み出しており、これまでにない事業やサービスが今後も続々と誕生するものと思われる。
◆ 事業の再定義とIoTビジネス
蒸気機関の発明はその後の社会に大きな影響を与えた。鉄道が整備されたことにより郵便や新聞、銀行などの新しい産業が生まれた。同様に1980年代に誕生したITは、我々の社会を一変させた。ITの普及によってデジタル化が進み、様々な業界や企業で事業を再定義する動きが加速している。たとえばアマゾンはネット通販企業から自前の物流システムを持つ企業へシフトし、ある空調機器メーカーは製造・販売会社から快適な空間を提供する企業へと変わった。米GEもIoTの活用によって製造業からサービス業への転換を図っており、業態を変化させている。
IoTを巡ってはドイツや米国を筆頭に世界で覇権争いが繰り広げられているが、まだ主導権を手にした国や企業は現れていない。つまり、どの国もどの企業も同じスタートラインに立っているのだ。今後本格化するIoTビジネスにおいて日本企業が世界をリードしていくには、同じ土俵で戦える今こそ、あらゆる可能性にチャレンジすることが大切だ。たとえるなら“海兵隊”を目指してほしい。海兵隊はコンパクトな部隊ながら真っ先に前線に出て行き、本隊が乗り込めるように道を切り拓いていく。日本企業の強みは現場に強いことにある。お客様のニーズを吸い上げてサービスや事業に活かす能力に優れており、それを実現できる高い技術力もある。だからこそ海兵隊のスピリッツをもって、失敗を恐れず果敢に挑戦してほしい。そのチャレンジの積み重ねが日本経済の活性化にもつながると期待している。
【本ワークショップに関するお問い合わせ】FIF事務局 TEL:03‐5740‐5817
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