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学校法人明治大学
会社概要

縄文人が栽培したダイズを土器に埋め込んで、装飾としていた痕跡を日本で初めて確認~縄文時代の植物利用や縄文人の精神文化解明に貢献~

学校法人明治大学

※本件は、学校法人 中央大学、学校法人 金沢大学、学校法人 明治大学との共同発表です。                                                

概  要

  明治大学黒曜石研究センター、中央大学、金沢大学古代文明・文化資源学研究所、東京国立博物館は、2021年2月に東京都府中市の遺跡から出土した縄文時代中期勝坂式土器を調査・分析し、この土器の装飾は、栽培サイズのダイズ属種子を押し付けて埋め込む手法によって意図的に付けられたことを科学的に明らかにしました。

  近年、土器器面に残る圧痕が注目されています。特に、圧痕をレプリカ法(注1)によって採取する調査手法を用いることにより、縄文時代のマメの栽培化が指摘されるようになってきました(小畑2016,中山2020など)。中央大学考古学研究室らの研究チームは、府中市による新府中市史刊行事業に協力し、府中市の縄文中期の大集落である清水が丘遺跡から出土した土器を調べました。この土器には装飾として線状に隆起(隆線)するよう土を貼り付けた部分から7箇所の凹みが見つかり、この凹みがどのように付けられたのかを探るべく、レプリカ法によって作製したレプリカを、実体顕微鏡や走査電子顕微鏡(注2)を用いて観察しました。これにより、種子の形と大きさから圧痕がダイズ属の種子であることが分かりました。さらに、X線CTで観察したところ、土器胎土に包埋されている圧痕としては外から見える以外に隆線部内に1点新たに見つかりましたが、土器の器体には含まれていないことが明らかになりました。これらの結果から、ダイズ属種子の圧痕は装飾として土器の整形後に貼り付けた部分のみに見られること、また、現在の栽培種であるダイズに匹敵する大きさの種子であったことが明らかになりました。本研究成果は、日本列島の先史時代の土器において装飾または儀礼などのために人間が意図的にダイズ属種子を埋め込んだと確実に言える、初めての事例となりました。

  この成果は、2024年5月25日に発行された『新 府中市史 原始・古代 通史編』に掲載されています。なお、発見した土器については、府中市郷土の森博物館に収蔵されており、7月20日(土)以降に、同博物館において一般公開する予定です。

研究内容】

1.背景

 対象となる縄文中期土器が出土した府中市清水が丘遺跡は、府中市若松町1丁目及び清水が丘1~3丁目に所在し、京王線東府中駅東側~南東一帯に当たります。多摩川沖積低地に開口する開析谷奥部に面した府中崖線上立川段丘面に位置し、標高は49~50mです。立川段丘上に位置する縄文時代中期~後期の最大規模の集落遺跡となっています。

土器は、遺跡内を通る道路の水道管設置工事に伴う立ち会い調査で出土しました。住居覆土中の出土の可能性があります。土器は胴部上半の全周 1/2 程が残存し、山形把手を4つ(単位)持ち、口縁部文様帯内には矢羽根状の刻みを持つ隆線があり、その間に沈線で楕円系、三叉文を配しています。山形把手頂部から各文様帯に向けて鎖状懸垂文が垂下するのが特徴的で、勝坂3式末葉の西上タイプに分類されます。(小林・中山ほか 2004)。中期中葉末の新地平9c期(小林・中山ほか 2004)と推定されます(小林・小林尚子・中山ほか2021)。

2.研究内容と成果

1)圧痕の確認

 種実圧痕は7箇所あり、すべて土器を整形後に貼り付けた隆線上に認められ、上から押さえつけて埋め込んだような形状の跡が観察されました(図1下)。この土器の圧痕を、シリコンを用いたレプリカ法によって作製し、レプリカを明治大学黒曜石研究センター所蔵の実体顕微鏡並びに現生標本を用いて同定した結果、レプリカの形態から草本植物のダイズ属種子・子葉の1分類群のみと同定しました。走査電子顕微鏡写真で臍がある程度明瞭に残る試料をダイズ属とし、臍が不明瞭または残存していないが、形態からダイズ属と判断した試料はダイズ属?としました。この結果、ダイズ属種子が2点、ダイズ属?種子が4点、ダイズ属子葉が1点と判明しました(表1)。

図1 清水が丘遺跡の意図的と思われる圧痕がつく縄文中期土器とその圧痕の拡大

 ダイズ属には野生種であるツルマメと栽培種であるダイズが含まれます。今回得られた計測可能なダイズ属(?を含む)種子圧痕5点の最大長は12.20mm、最小長8.25mmで、歪な形状の1点(8.25mm)を除いて現生の野生種ツルマメの最大長10mm(那須2018)を超えていました。土器1個体から複数の栽培サイズのダイズ属種子の圧痕が得られました。そして、種子圧痕は文様を付けた(施文した)際に貼り付けた隆線上のみに認められ、器面に対して上方向から押しつけられて埋め込まれていたように観察できた点が重要です。

 7点の圧痕は、すべて土器の器面表面で確認できます。4点では、隆線の刻みを切るように種実圧痕が認められ、ほかの3点の圧痕も含めてすべて隆線の頂部に器面に対して上の方向から押圧されており、隆線を配して、刻みなどを施文した後に、隆線上に露出する形で種子ないし子葉が埋め込まれたことが観察から判明しました。

 以上の状況より、目視確認により確認されていた7箇所の圧痕は、いずれも隆帯上に位置していることから、土器製作時に偶然混入したのではなく、製作者は装飾として意図的に埋め込んだ上で土器を焼成したと考えられます。土器自体が、縄文時代中期のダイズ属圧痕が多く発見されている中部高地からの搬入品である可能性も含め、さらなる検討が必要です。

 関東地方の縄文時代前期以降の遺跡では、1個体の土器に多量の種実圧痕が検出された調査例はありますが(小畑2016など)、土器に意図的に種実が埋め込まれた多量種実圧痕土器は、これまで明確には分かっておらず、縄文時代の植物利用の復元や、さらには縄文人の何らかの精神文化にかかわる行為を考える上でも重要な発見です(小林ほか2021)。

図2 清水が丘遺跡出土土器の圧痕レプリカの走査電子顕微鏡写真

1.ダイズ属(SMO54)、2.ダイズ属(SMO55)、3.ダイズ属?(SMO53)、

4.ダイズ属?(SMO51)、5.ダイズ属?(SMO56)、6.ダイズ属?子葉(SMO57)

2)圧痕が隆線部の中にのみ包埋されることの表面からの確認

 フォトグラメトリ(SfM-MVS法)と呼ばれる、複数視点から撮影した画像から3次元モデルを構築する手法を用いて、清水が丘遺跡出土縄文土器に認められたダイズ属圧痕を3次元モデル化し、縦横断図を作成しました(図3)。撮影は、カメラ(Canon EOS RP)にマクロレンズ(RF35㎜F1.8 IS STM)を装着し、被写体から17~18cmの距離でマクロ撮影4しました。カメラの記録画素数は6240×4160ピクセル、CMOSセンサーサイズ35.9×24.0㎜であることから、CMOSセンサーの光学分解能は24.0(CMOSサイズ縦)÷4160(記録画素数縦) = 0.00576(CMOS分解能)と求められます。撮影に使用したマクロレンズの諸元を加味すると、2(撮影縮尺)×0.00576(CMOS分解能) =0.01152㎜が今回作成した3Dモデルの分解能となります。

 SMO-51の凹みは長さ10.9㎜、幅5.2㎜、厚さ3.4㎜で、下方は器面に対してオーバーハングし、ヘソの形状は不明瞭でした。SMO-52は長さ8.2㎜、幅5.3㎜、厚さ2.7㎜で、ダイズ属?は下から上に向かってスライドするように押し込まれているため、上方にオーバーハングしている箇所が認められました。また、圧痕底面は平坦で、臍の形状は不明瞭でした。SMO-53は長さ12.2㎜、残存幅5.6㎜、厚さ2.2㎜でした。ダイズ属の形状を良好に留めていますが、臍の形状は不明瞭です。SMO-54は長さ11.1㎜、幅6.0㎜、厚さ3.9㎜でした。種子は斜め右下に向かって押し込まれており、圧痕右側面および下方にオーバーハングしている箇所がありました。右側面には長楕円形の臍が認められます。SMO-55は長さ10.9㎜、残存幅5.2㎜、厚さ3.7㎜で、圧痕底面に長楕円形の臍およびその中央にダイズ属の特徴である縦溝が確認できました。SMO-56は残存長10.3㎜、残存幅6.6㎜、厚さ3.1㎜で、種子の側面が押し込まれ、臍の形状は確認できませんでした。SMO-57は残存長7.1㎜、残存幅4.5㎜、残存厚1.5㎜ですが、変形が著しく、マメの形状が判然としませんでした(小林ほか2022)。

図3 隆線のみにダイズ属種子・子葉が埋め込まれた状態のフォトグラメトリによる確認

3)CT撮影による潜在圧痕の確認 

 CT撮影条件は、装置:エクスロン社製大型CT X線管:Y.TU600-D02 焦点:0.7[㎜]電圧:550[kV]、電流:1.25[mA]、インテグレーションタイム:500[ms]、フレームビニング:3、プロジェクション数:2070、撮影対象~X線管球間距離:約1617[mm]、受光部~X線管球間距離:約2360[mm]、撮影対象~受光部:約743[mm]で行いました。

 今回の調査により、清水が丘遺跡縄文中期勝坂式土器については、土器器体には少なくとも径3~4mm以上の球状の空隙は認められず、逆にSMO-53に向かって左側の垂下する隆線内に6mm×4mm程度の空隙が認められました(図4)。この隆線内の潜在圧痕が種実であるかは検討の必要ですが、少なくとも器体には混在せず、隆線にのみ含まれることから、種子が故意に差し込んだ痕跡である可能性が高まりました(小林ほか2022)。

図4 清水が丘遺跡出土土器のCT撮影画像

3.今後の展開

 関東地方の縄文人が現代の栽培サイズのダイズを、つくった土器の文様部分に差し込んで飾り付けとしたこと、それは焼成時に焼けてしまうものであり、何らかの儀礼的な行為でおこなっていたことが分かりました。この結果を基に、他に同じような事例が行われていないか、また縄文時代に栽培されていたかどうかも含め、調査研究を進めていく予定です。

●この研究成果のもととなった研究経費

 本研究成果は、府中市史編纂事業の一端としておこない、2018-2022 年度科学研究費助成事業基盤研究 (B)(代表小林謙一18H00744)「東アジア新石器文化の実年代体系化による環境変動と生業・社会変化過程の解明」、2020-2024年度学術変革領域研究(A)計画研究(代表小林謙一20H05814)「土器型式と栽培植物の高精度年代体系構築」、同研究(代表佐々木由香20H05811)「土器に残る動植物痕跡の形態学的研究」の費用を用いた。

【引用・参考文献】

・小畑弘己 2016『タネをまく縄文人-最新科学が覆す農耕の起源』吉川弘文館

・小林謙一・中山真治・黒尾和久 2004「多摩丘陵・武蔵野台地を中心とした縄文時代中期の時期設定(補)」『シンポジウム縄文集落研究の新地平3―勝坂から曽利へ―』(発表要旨・資料) 縄文集落研究グループ・セツルメント研究会

・小林謙一・佐々木由香・西本志保子・金子悠人・山本華・小林尚子・中山真治2021縄紋中期土器文様装飾時におけるダイズの意図的混和例」『日本考古学協会第87回総会 研究発表要旨』

・佐々木由香・小林謙一・西本志保子・金子悠人・小林尚子・山本華2021「清水が丘遺跡出土土器にみられる種実圧痕」『新府中市史研究 武蔵府中を考える』第3号

・小林謙一・中山真治・酒井 中・宮田将寛・鳥越俊行2022「清水が丘遺跡立ち会いa 土器の補足調査」『新府中市史研究 武蔵府中を考える』第4号

・中山誠二2020『マメと縄文人』同成社

【研究者】

小林 謙一    (こばやし けんいち 中央大学文学部教授)

小林 尚子    (こばやし しょうこ 中央大学考古学研究室)

中山 真治    (なかやま しんじ 三鷹市役所)

西本 志保子 (にしもと しほこ 中央大学文学部非常勤講師・人文研客員研究員)

佐々木 由香  (ささき ゆか 金沢大学古代文明・文化資源学研究センター特任准教授/明治大学黒曜石研究センター客員研究員)

金子 悠人    (かねこ ゆうと 石岡市教育委員会)

酒井 中       (さかい あたる 株式会社パスコ)

宮田 将寛    (みやた まさひろ 東京国立博物館保存科学課予測保存研究室専門職)

鳥越 俊行    (とりごえ としゆき 奈良国立博物館学芸部保存修理指導室長) 

【お問い合わせ先】

<研究に関すること>

小林 謙一 (コバヤシ ケンイチ) 

中央大学文学部 教授(人文社会学科日本史学専攻)

TEL: 042-674-3790

E-mail: atamadai@tamacc.chuo-u.ac.jp

<広報に関すること>

中央大学 研究支援室 

TEL 03-3817-7423 または 1675 FAX 03-3817-1677

E-mail: kkouhou-grp@g.chuo-u.ac.jp 

 

明治大学 広報課

TEL 03-3296-4082

E-mail: koho@mics.meiji.ac.jp

【用語解説】

注1)レプリカ法

土器器面に開いている穴のなかにシリコンを流して型をとり、元の形を復元します(レプリカ)。シリコンを走査型(そうさがた)電子顕微鏡で観察し、その元々あった物質(植物のタネや虫など)を同定し、縄文時代の環境や植物利用、縄文人の土器作りの際の様々な行為を復元していく研究法です。(熊本大学小畑弘己教授の研究室のHPより)

注2)走査電子顕微鏡

虫めがねや光を利用した光学顕微鏡では、光の波長より小さい物を観察することができず、ナノ構造の観察は困難です。走査電子顕微鏡(SEM)は、光の代わりに波長の短い電子線を利用して、数nm[ナノメートル]程度の構造まで観察できる顕微鏡です。

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