北海道の風力発電計画に事業中止を求める
幻の魚イトウの国内最大生息地に影響甚大
● 計画地は絶滅危惧種である幻の魚イトウの国内最大の産卵地で、事業によるイトウの生息への影響は免れず甚大である
● さらに道北で数少ない自然植生が広範囲にみられる場所であり、自然林を保護するために事業は行うべきではない
公益財団法人日本自然保護協会(理事長:亀山 章)は、カーボンニュートラルとネイチャーポジティブの両立を目指して、自然環境に配慮した立地での再生可能エネルギーの推進を提唱しています。
9月に計画段階環境配慮書が公開された、「(仮称)宗谷丘陵南風力発電事業(事業者:ジャパン・リニューアブル・エナジー株式会社)」は、世界的にも絶滅の危機にある幻の魚イトウの国内最大の産卵地が計画地内に含まれるなど、国内の風力発電事業計画の中でも、生物多様性上、最大級に問題がある計画です。当協会は、計画段階環境配慮書の段階で事業を中止すべきと意見しました。
提出した意見書:https://what-we-do.nacsj.or.jp/2023/09/19635/
1.絶滅危惧種イトウの国内最大の産卵地に甚大な影響を与える本事業は行うべきではない
サケ科イトウ属のイトウは、かつては北日本の45河川水系に生息の記録があったが、近年急激に生息河川が減少。現在、安定した個体群を維持している河川は7水系のみで、「環境省レッドリスト2020」で「絶滅危惧IB類」に、国際的にもIUCNレッドリストで最も絶滅の危険性が高い「深刻な危機(CR)」に指定されている。
本事業の計画地東半分の猿払川流域は、天塩川と並んで国内最大のイトウの生息河川であり、重要な生息地となっている。これら河川上流域に風力発電施設が建設された場合、下記のとおり、森林伐採や作業道建設により、生息と繁殖に清流を必要とするイトウへの甚大な影響が懸念される。
上流域の森林伐採で流域の保水力が減退し、河川の流量減少による高水温や酸欠でイトウが死亡する危険性が高まる
降雨時に河川への土砂流入・堆積が生じやすくなり、産卵河川での卵や仔魚の死滅、稚魚の餌となる水生昆虫の死滅、産卵や仔魚の生育に必要な環境の悪化が予想される
作業道が沢を横断する箇所へ設置されるカルバート(暗渠)により、イトウの遡上が阻害され、産卵場所への移動が不可能になる
本事業の実施は、工事中のみならず工事完了後も継続して影響が甚大であり、絶滅に瀕するイトウの国内最大個体群の存続を危うくする恐れが極めて高い。このようなことから本事業は実施すべきではない。
2.計画地は道北では数少ない自然植生が広範囲にみられ、自然林を保護する必要があり、事業は行うべきではない
本計画地である内陸部は比較的人為の影響が少なく、自然植生が広範囲でみられる。本アセス図書でも、事業実施想定区域の大半がエゾマツ、トドマツによる針葉樹自然林、もしくは針広混交林の自然林であることが示されている。これら森林のほぼ全域は国有林であり、かつ保安林に指定されている。
本事業の実施は、広範囲の自然林の伐採が伴うことが予想され、伐採樹木本数は十万本以上であることが推定される。本事業の実施によって、貴重な道北の自然環境が大幅に改変されることは避けるべきであり、本事業は実施すべきではない。
3.鳥類への累積的影響を正しく評価して計画地を選定すべきである
本事業計画地周辺には、稼働中や建設中さらには、環境影響評価手続き中の風力発電事業が数多く存在する。計画地周辺は、オオワシやオジロワシ等の海ワシ類およびノスリの渡りのルートにあたるが、上記のように風力発電事業が過密状態にあり、複数の風力発電事業による累積的影響が懸念される。累積的影響が発生しないように、十分に計画地を検討すべきである。
4.本環境影響評価図書を常時公開すべきである
本環境影響評価図書の閲覧は、縦覧期間が 1ヶ月程度と短く、また縦覧場所も限られている。インターネット上で閲覧は可能ではあるが、印刷やダウンロードができないため、縦覧期間終了後は、閲覧は不可能である。
地域住民や利害関係者が常時精査できることが、環境影響評価の信頼性にもつながり、地域との合意形成を図るうえでも、閲覧可能期間に限らず、縦覧期間後も図書を常時閲覧可能にし、また、随時インターネットでの閲覧とダウンロード、印刷を可能にすべきである。
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