薬の効かない病原菌を、再び薬に弱くする手法を初めて発見 ~薬剤耐性菌に打ち勝つ新規薬剤開発に期待~
千葉大学真菌医学研究センター萩原大祐特任助教、渡邉哲准教授、亀井克彦教授のグループは、重篤な肺感染症を引き起こす病原性の真菌(カビ)において、世界中で急速に拡大しているタイプの薬剤耐性メカニズムを、制御因子の遺伝子変異により無効にできることを実証しました。
- 研究成果の概要
①新しいタイプの薬剤耐性メカニズム無効化に挑戦
アスペルギルス・フミガタスは肺感染症を引き起こす真菌で、治療が遅れると命に関わる病原性の強い病原真菌です。しかし、治療に用いられる抗真菌薬(アゾール薬)に対して、治療開始前からすでに耐性を示す菌株(注1)が、欧州を発端として多く見つかるようになり問題となっています。日本でも、2013年にこの新しいタイプの薬剤耐性株が初めて見つかり(注2)、大きな脅威となっています。本研究では、この新興の薬剤耐性メカニズムを無効にする手法を編み出し、新たな薬剤開発に繋げることを目指しました。
②薬剤耐性株の耐性メカニズムの無効化に成功
この新しいタイプのアゾール薬耐性株では、アゾール薬の標的分子であるタンパク質Cyp51A(注3)の発現が異常に高くなっていることが知られています。そこで、このCyp51Aの発現に関与するSrbAという因子の遺伝子を破壊した変異株を作製しました。得られた遺伝子変異株では、Cyp51Aの発現が顕著に低下し、もともとの薬剤耐性株に比べ、各種医療用アゾール薬に対して、8〜64倍以上も感受性が増すことが解りました。これらの薬剤感受性レベルは、本来の投薬で治療効果が期待できる水準を満たすことから、SrbAを機能させなくすることで、耐性メカニズムを無効化できることを世界で初めて実証しました。
- 薬剤耐性菌に対する新しい治療法の確立に向けて
本研究の成果は英国科学雑誌『Scientific Reports』に掲載される予定で、オンライン版では日本時間12月9日(19時)に公開されます。
- 注釈解説
注2:Journal of Infection and Chemotherapy誌、2016年8月号: p577-9, [DOI: 10.1016/j.jiac.2016.01.015]
注3:Cyp51Aというタンパク質がアゾール薬の標的分子であり、このタンパク質はエルゴステロール合成に関わる因子の一つです。アゾール薬が結合することでタンパク質の機能が阻害され、エルゴステロールの合成が不全になり、結果として菌の生育を阻害します。
このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります
メディアユーザーログイン既に登録済みの方はこちら
メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。
すべての画像
- 種類
- その他
- ダウンロード