ヘパリン類似物質の新たな作用を発見 ~アクネ菌のバイオフィルム形成抑制作用を発見、殺菌技術に応用~
―2023年8月29日~30日 日本防菌防黴学会 第50回年次大会にて発表―
研究結果ダイジェスト
ヘパリン類似物質は、アクネ菌のバイオフィルムを作る指令信号(AI-2)を阻害
ヘパリン類似物質は、アクネ菌が作り出すバイオフィルムの形成を抑制
ヘパリン類似物質が、バイオフィルムの形成を抑制することで、殺菌成分の効果が向上
研究の背景
ニキビは尋常性ざ瘡とも呼ばれ、10代から30代の男女に発症する皮膚の慢性炎症性疾患の一つになります。ニキビができる原因は、古い角層が堆積して毛穴が詰まることで皮脂が過剰に毛穴中に溜まり、その皮脂をエサにして皮膚常在菌であるアクネ菌(Cutibacterium acnes)が増殖して炎症を起こすことで発症します。また最近では、アクネ菌が増殖するとバイオフィルムという膜を作ることで殺菌剤や抗生物質の効果を弱め、くり返すニキビの一因となっていることが明らかとなっています。
当社ではアクネ菌が作り出すバイオフィルムに着目し、アクネ菌のバイオフィルム形成を阻害する素材の探索を行ってきました。この度、医薬品等に配合されているヘパリン類似物質※にアクネ菌のバイオフィルム形成抑制作用があることを発見しました。
※体内にある「ヘパリン」という物質と似た成分で、保湿・血行促進・抗炎症作用の働きがある
研究の結果
1. ヘパリン類似物質は、アクネ菌のバイオフィルムを作る指令信号(AI-2)を阻害
アクネ菌のバイオフィルムは、アクネ菌同士がautoinducer-2(AI-2)という指令信号を通じてバイオフィルム形成を制御することが知られています。今回、ヘパリン類似物質にアクネ菌が作り出すAI-2を阻害することを新たに発見しました(図1)。
アクネ菌のAI-2を阻害することで、アクネ菌が作り出すバイオフィルムの形成抑制につながり、バイオフィルムの形成を抑制することで殺菌剤の効果を向上させる可能性があります。
図1 ヘパリン類似物質のAI-2阻害効果
試験方法:アクネ菌(Cutibacterium acnes NBRC107605株)を培養した培養上清にヘパリン類似物質を添加し、Vibrio harveyi MM32(V.harveyi)を用いたレポーターアッセイにてAI-2阻害活性の評価を行った。
*P<0.05 (Dunnett’s multiple comparison test)
※BMF:AI-2を阻害することが知られている阻害剤
2. ヘパリン類似物質は、アクネ菌が作り出すバイオフィルムの形成を抑制
ヘパリン類似物質にアクネ菌が作り出すAI-2の阻害活性を認めたことから、実際にバイオフィルムの形成抑制につながるのか確認しました。アクネ菌にヘパリン類似物質を添加し、培養することにより、アクネ菌のバイオフィルム形成が抑制されました(図2)。このことから、ヘパリン類似物質はアクネ菌においてバイオフィルム形成に関与するAI-2を阻害し、バイオフィルムの形成を抑制していることが分かりました。
図2 ヘパリン類似物質のバイオイルム形成抑制効果
試験方法:1%グルコース含有BHI液体培地にヘパリン類似物質を添加し、アクネ菌(Cutibacterium acnes NBRC107605株)を培養した。培養後、形成されたバイオイルムをクリスタルバイオレットにて比色定量を行った。
*P<0.05 (Dunnett’s multiple comparison test)
3. ヘパリン類似物質が、バイオフィルムの形成を抑制することで、殺菌成分の効果が向上
ヘパリン類似物質がアクネ菌のバイオフィルムの形成を抑制することがわかったので、ヘパリン類似物質を添加した際のアクネ菌の殺菌力評価を行いました。殺菌剤として医薬品等で配合されているイソプロプルメチルフェノールを用いて試験を行った結果、ヘパリン類似物質を添加したほうがアクネ菌の殺菌力を向上させることがわかりました(図3)。ヘパリン類似物質とイソプロプルメチルフェノールを組み合わせることが、アクネ菌の殺菌に有効であることが示されました。
図3 イソプロピルメチルフェノールの殺菌力評価
試験方法:ヘパリン類似物質を添加および未添加の培地でアクネ菌(Cutibacterium acnes NBRC107605株)を培養した。培養後、各試験菌に対しイソプロピルメチルフェノール溶液を30分間接触後、生菌数を測定して殺菌活性の算出をした。
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