トップクラスのサファイアガラス研磨技術をブランド化していく「沼田光器」がSDGsな社章を開発!!
優れた製品・技術を広く認定し、区内外へPRする「足立ブランド」。認定企業である「沼田光器株式会社」がサファイアガラスを使った社章を開発、2025年4月から受注をスタートしました。
東京都足立区江北の『沼田光器株式会社』は、ダイヤモンドの次に硬く、加工が難しいサファイアガラスの研磨技術を持つ会社です。特に腕時計用のカバーガラスを手掛ける会社は日本に数社しかなく、沼田光器はトップクラスに位置します。かつては中国の台頭で仕事がなくなるなど、様々なことを経験し、新たに今、自社の持つ強みをブランド化しようとしている同社の取り組みを紹介します。

◆ダイヤモンドに継ぐ硬さのサファイアガラスを研磨、加工する会社
ダイヤモンドの次に硬いサファイア。このサファイアと同じ組成のものを人工的に作り出したものがサファイアガラスです。無色透明で視認性が高く、傷が付きにくく、熱にも強いことで、高級腕時計のカバーガラスとして使われたりします。
ただ、その硬さゆえに加工が難しく、高度な研磨技術が必要なため、日本国内で腕時計用サファイアガラスを製作している会社は数社しかありません。そのうちの1社が東京都足立区の『沼田光器株式会社』です。
今では足立区内にふたつの工場を構え、腕時計用のほか、高輝度LED基板や検査治具など、様々な機器用のサファイアガラス加工を請け負う『沼田光器』の歴史と、これからの新たな展開を紹介します。

◆無機ガラスの研磨からのスタート
『沼田光器』は現在、3代目の代表取締役社⻑を務める下川貴之氏の祖父、下川年寿氏が1960年に創業した会社です。当初は無機ガラスの研磨を手掛け、双眼鏡や望遠鏡用の光学レンズを加工製作し、日本の大手光学メーカーに納品していました。
その後、1964年から無機ガラスの腕時計カバーガラスの加工を始めます。2000年頃までその無機ガラスの腕時計カバーガラス加工が事業の柱となりました。
「私は高校を卒業した1995年に入社しました。その時には父(下川進氏)が2代目として社⻑になっていました。私の入社は『ただ、なんとなく親の仕事を手伝っていた』という感じで、その時は会社も父と母、私、そしてパートさん3名程度の規模での経営でした。」

◆コストの安い中国の台頭。仕事がなくなることに
状況が大きく変わり始めたのは 2000年頃。大手時計メーカーの部品製作の外部委託が、費用の安い中国に移されるようになっていきました。
「⻑年つきあいのあったメーカーに父が呼び出され、『半年後には契約がなくなります』といきなり言われるなど、先行きが全く見えない状況になりました。当時うちの会社はひとつ 150円程度のコストでガラスを磨いていたのですが、中国ではそれが20〜30円でできるということでした。それではまったく太刀打ちできません。同業者も次々に廃業に追い込まれるような状況でした。」
下川氏はちょうどその頃に結婚をし、子供も生まれていました。激減していく仕事をなんとかしようと独自にホームページを立ち上げたり、できることをやっていったそうです。
「ただ、まだその頃はホームページを見てくれる人も少なく、効果はありませんでした。仕事もなく、午後3時とか4時には『今日はおしまいにするか』と言って帰るような状態です。自分の給料が手取り3万円とか、そんな事態になりました。」
日本に残る仕事は高級腕時計しかないと考え、サファイアガラス加工への切り替えを試み始めました。
しかし、早速困難が立ちはだかります。
「無機ガラスとは硬さが全く違い、研磨もできず、光らせ方もわかりませんでした。父とつきあいがあった協力会社で、サファイアガラスの研磨加工をしているところが私を指導してくれることになり、埼玉県にあるその会社へ3〜4カ月間、毎日通いました。おかげである程度の研磨はできるようになり、その後は自社で研究をしながら研磨を続けました。」

「最初は1日5枚程度しか磨けませんでしたが、1年半ほどかけて1日100枚程度まで研磨できる態勢を作りました。この1年半は、今でも忘れられないほど努力をした期間となりました。」
◆スイスのサファイアガラス研磨加工を受注。そしてまた激変の状況へ
その後、「サファイアガラス加工ができるなら」と声がかかり、スイスの会社向けの研磨を孫請けではありましたが、受注できるようになりました。
「ヨーロッパの誰もが知るようなブランドに使われるサファイアガラスの研磨も請け負っていました。月産で8,000枚ほどになったこともあります。休日返上で稼働するような状況になりましたが、ありがたかったです。」


しかし、またここで新たな問題が起きます。
「スイス時計協会が、スイスメイドを強化するための取り組みを2007年にスタートしました。(スイス法令)それによるとメイド・イン・スイスを銘打つのであれば、製造コストの60%以上がスイス国内で支払われていなくていけない。そうなると、スイス側では日本のサファイアガラスを使うことがで難しく、また仕事が激減することが決定的になりました。」
そこでまた何か手を打たなければいけなくなり、下川氏はホームページのリニューアルを外部のプロに委託します。
「100万円の費用がかかりましたが、そのときは『やるしかない』という思いだったのです。結果的にこのことがターニングポイントになりました。リニューアルしたホームページの公開からわずか1週間後、日本の大手時計メーカーの担当者から電話がかかってきて、サファイアガラス加工を手伝ってくれないかというオファーを受けました。」

「その担当者が弊社までやって来て言うには、取り引きのあった供給元が突然廃業し、困っていたところにホームページを見たそうなのです。依頼された内容はそれまで経験したことがない加工が含まれていて、弊社にとっては挑戦だったのですが、協力会社を探したりして、なんとか乗り越えていき、受注をこなせるようになりました。その後の『沼田光器』の一貫製作の下地作りにも繋がりました。」
◆ 「足立ブランド」認定。信用度が増し、新規開拓に繋がりやすくなる
また、この頃に『沼田光器』は「足立ブランド」に申請し、認定を受けました。
「足立ブランドが発足して2年目の 平成20年度に認定されました。認定を受け、ホームページや名刺に『足立ブランド』と入れるだけで先方からの信用度が増し、新規の取り引き先や事業開拓を模索する中で大変助かりました。」と下川氏は話します。

◆新たな挑戦。香港支社を立ち上げ
そして下川氏はさらに新たな挑戦に乗り出します。それは香港に支社を立ち上げることでした。2009年に『沼田光器HK(香港)』を設立しました。
「努力が功を奏して日本の時計メーカーとの仕事は始まりましたが、中国のレベルも上がってきていて、高級時計の部品でもまた価格競争が起きることは目に見えていました。そこで沼田光器 VS 中国という競争ではなく、共存できないかと考えるようになったのです。中国メーカーの品質の良いものを『沼田光器 HK』を通して仕入れ、日本の大手時計メーカーに卸すということを始めました。
中国からそのまま納品することが沼田品質ではNGが多く、日本で修正し、100%良品に替え出荷する。
そうすることで客先は安心して購入できたと思います。」
日本の工場でも高品質な研磨を続け、中国からのルートも作り、『沼田光器』は日本の3大時計メーカーと取り引きができるようになりました。

◆自社をブランド化していく。従業員に新商品開発への挑戦を提案
『沼田光器』はこれまで、サファイアガラスの加工部品を供給する裏方として自社のブランドを表に出すことはしてきませんでした。ただ、2024 年後期からは方針を変え、自社の技術力を前面に打ち出し、ブランド化することを目指すことにしました。
その理由を下川氏はこう話します。
「ひとつは、時計業界そのものの売り上げが落ちてきていることがあります。お陰様で、弊社としては今、腕時計のサファイアカバーガラス加工の仕事はたくさんいただいているのですが、この先の事を考えておかなければいけません。」
「また、サファイアガラス加工の会社自体がほとんどないので、何か新しいことをやればすぐに『オンリーワン』になれます。それを活かそうと考えました。」
これまで手掛けていなかった業種の仕事で、美容機器のメーカーとの仕事も始まることが決まっています。美顔器や脱毛器具などにサファイアガラスが使用されているためです。他にも防災メーカーとの取引も決まりました。

また、30 名ほどいる従業員に対し、下川氏は「1人100万円までの費用はかけていいので、希望者は自分の好きな商品開発をしてもよい」と伝えたそうです。
「それが2024年10月のことでしたが、1カ月ほどして女性社員のひとりからアイデアが出てきて、すぐに試作しました。キズやサイズ不足などで時計用としては使用不可のサファイアガラスを使った『社章』の開発を手がけました。取引先や協力メーカーからも好評で、この春からすでに受注もスタートしました。現時点では、お見せすることができない何点かの開発案件があります。ブランド名なども決めて、今年中には、SNSなどを通して発表する予定です。」


会社には 2024年4月、下川氏の⻑男が入社しました。
「⻑男が大学 4 年になった時、いきなり呼び出され『沼田光器に入りたい』と言ってきたのです。そして、『こういう場合は別の会社で数年間働き、外の世界を知ってから入社するのがセオリーだろうが、俺はその数年間は無駄だと思う』と自分の考えを伝えてきました。その後、在学中からバイトで働いてくれました。入社し、これからは SNS の発信などにも力を入れてほしいし、私にはできなかったことに挑戦してほしいです。」
これからも時代に合わせ、沼田光器は大きく変わっていきます。

企業情報
会社名:沼田光器株式会社
https://www.numatakouki.com
会社名: 沼田光器株式会社
住 所: 東京都足立区江北2-41-7
電話番号:03-3898-4119
代表者:下川貴之
創業:1960年
事業内容:各種サファイアガラスの成型・研磨加工
「足立ブランド」は、区内企業の優れた製品・技術を認定して、その素晴らしさを全国に広く発信することで、区内産業のより一層の発展と足立区のイメージアップを図ることを目的とした事業です。
『沼田光器株式会社』は、この「足立ブランド」認定企業です。
取材など掲載情報に関するお問い合わせは、「足立ブランド」の運営事務局でもある足立区役所産業経済部産業振興課ものづくり振興係でも受け付けております。
足立区役所産業経済部 産業振興課 ものづくり振興係
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