世界経済の不確実性を超えて 変革の時代における戦略と展望
~モーリー・ロバートソン氏とJCD藤原が語る 新春対談2025~
世界経済の不確実性が増す中、企業や社会はどのような戦略で未来を切り開くべきなのか?
新春を迎えるこの対談では、経済学者でタレントのモーリー・ロバートソン氏と、JTBコミュニケーションデザインの藤原が、変革の時代における戦略と展望について語り合います。グローバルな視点で変動する経済情勢にどう向き合い、次の時代をリードしていくのか。その道筋を示す洞察を、豊かな対話の中で深掘りします。
不透明な世界経済の見通しに比べて、日本はそれほど悪くない
―2025年の日本経済の動向や見通しについて、それぞれのお立場での見解をお聞かせください
モーリー・ロバートソン氏(以下、ロバートソン氏): 冒頭から恐縮ですが、国際情勢からみると、世界経済は「近年まれにみる見通しの悪さ」です。株価の乱高下にみられるようにボラティリティ(※注1)が高く、市場は動揺しています。米国では、2期目となるトランプ政権への期待と不安が入り交じっての不透明感、不安定感も増しています。ただ日本は、変化が遅いですよね。実はこれが、よいクッションになるのではないかと思います。欧米などでは政治イデオロギーに基づき、政権交代で政策や方針がすぐにひっくり返ります。ところが、日本では一度決めた方針は、政権が変わっても劇的に変わることはありません。ジェンダーギャップの解消もSDGsも、政界・業界が一体となって徐々に進行している。欧米の振り幅が大きく、何事も極端に揺れ動く不安定さの中で、日本の振れ幅は小さく、見通しはそれほど悪くないといえるのではないでしょうか。日本が何事に関してもぐずぐずと動く感じも、マクロでみると悪くないと考えています(笑)。
(※注1)ボラティリティ(Volatility):証券や為替など金融商品を取り扱う業界で使われる用語で、一般的に価格変動の度合いを示す指標。急騰と急落を繰り返す相場は、株価の変動率が大きくリスクが高い=「ボラティリティが高い」と表現される。
藤原: 世界経済の見通しは不透明ではあるものの、日本らしさが現状ではプラスに作用しているのではないかというお話に、少し胸をなでおろしました。ウクライナや中東情勢、アメリカ合衆国の大統領交代など、モーリーさんがご指摘のとおり、今後の世界情勢の展開と日本経済が受ける影響については、経営者としても注意深く動向を見ていく必要があると考えています。
また日本経済については、物価上昇に賃金上昇が追いついていないと指摘されるものの、個人消費は引き続きゆるやかに右肩上がりで進むと予想しています。現在は円安基調のもと、インバウンド消費が日本経済に大きなインパクトをもたらしていますが、たとえ円高にふれても、この傾向が続くとみています。日本の魅力を知った訪日客の口コミなどでリピーターや富裕層の増加が期待され、インバウンドを中心とした経済成長は継続すると考えています。
日本が抱える課題 インバウンドがもたらす経済効果は見逃せない
―多くの課題に直面している日本ですが、イノベーションやグローバル対応、多様性への理解などの側面から、お二人はどのように課題をとらえていますか?
藤原: 様々な課題があると思いますが、少子高齢化は加速度的に進み、人手不足は深刻化の一途です。こうした中で企業が成長を続けるには、AIの積極的な活用と人的資本経営、この2つが重要だと私は考えています。特にB to B領域でコミュニケーションをデザインする当社では、「人が財産」であり、人的資本経営は最大のテーマです。一人一人の力を最大限に発揮し、社員が挑戦や成長を重ねながら、市場価値を高めていけるような環境を整えることが経営の責務です。そして、取り組みを通じて組織全体の生産性を高めることで、人手不足という課題の解決にもつながると確信しています。
ロバートソン氏: 確かに、少子高齢化の流れを急に逆転させることは不可能ですから、生産性の向上は極めて重要です。生産性の向上やイノベーションを起こすには、クラウドの活用やDX推進は必須ですね。そのために、日本は大規模なプラットフォームを展開するビッグテック企業に依存し、膨大な使用料を支払っていて、デジタル赤字が拡大しています。また、富める者とそうでない者との格差が広がり、日本のジニ係数(※注2)は、数年前から危険水域に入っているといわれます。非雇用やギグワークに従事せざるを得ない若者たちが増え、豊かではない彼らがもっぱらデジタルを活用することで巨大テック企業が潤っています。私は、こうした構造的なプアサイクルを憂慮しています。
(※注2)ジニ係数:ある社会における所得格差を測る指標。所得が完全に平等に分配されている場合に比べて、どれだけ分配が偏っているかを数値に示したもので、所得格差の大小を比較するのに用いられる。
―インバウンド消費についてはどのように考えていますか?
藤原: インバウンドによる経済効果のインパクトは見逃せません。観光庁の調査によると、2024年4月から9月までのインバウンド消費額は4兆588億円に達し、年度中には8兆円に到達する見込みです。さらに、日本政府が目標に掲げる「観光立国推進計画」において、2030年までに訪日外国人旅行者数6,000万人、インバウンド消費額15兆円を目指しています。円安の影響で訪日旅行が割安感を生み出し、旅行需要は急速に回復。中国やASEAN諸国だけでなく欧米豪からの旅行者も増加し、ますます日本文化への関心が高まっています。インバウンド市場は今後も多様な需要に支えられ、さらなる成長が期待出来る分野だと考えています。
ロバートソン氏: インバウンドは、まさに日本にとっての"ドル箱"と言えるでしょう。適切な施策を講じれば、レベニューストリーム(収益源)は大幅に拡大する可能性があります。しかし、日本における外国語対応は依然として不十分で、英語表記やアナウンスなどグローバル化が立ち遅れている。また、内向きな発想から生まれるお仕着せの対応や、問題が起きればすぐに"禁止"や"NO!"とする姿勢など見直すべき時です。今こそ、外国人が日本のどこに魅力を感じているのかを冷静に分析する必要があります。例えば、エコツーリズムは富裕層に人気があり、彼らは気に入ったものには惜しみなくお金を使います。熊野古道をはじめとする歴史的な場所での体験型重視の観光が人気なのはその一例です。また、コロナ禍で外出が制限された海外のティーンエイジャーたちがソーシャルメディアを通じて日本のアニメを発見したことをきっかけに、アニメの"聖地巡礼"を目的に来日する若者も増えています。イギリスが展開した"クール・ブリテン"のように、日本も本気で対外モードにシフトすれば、数百億円規模の経済効果が期待できると考えています。
藤原: マーケット環境は、これまで以上に複雑化し多様化しています。モーリーさんがおっしゃる通り、グローバル化が進む中でも、日本はどうしても内向きな姿勢に留まりがちです。むしろ今こそ、私たちが直面している課題やチャンスに対して、事業や多様な個々の強みを最大限に活かした『攻めのグローバル経営』が重要ですね。グローバルな視点で価値を創造することが企業の成長を促す鍵となります。それは、単に海外市場への展開ではなく、文化や価値観の違いを理解し、多国籍での共創を実現することでもあります。
外国人旅行者にとっては、「WOW!!」 思わず発信したくなる異次元で魅力的な日本
―アニメなどの若者文化やエコツーリズムのお話がありましたが、訪日外国人旅行者にとって、日本はどんな魅力があるのでしょうか?
ロバートソン氏: 円安効果がベースにあります。でも一番の魅力は、日本以外では決して味わえない、アメイジングな体験ができることでしょう。すし職人の技を見ても、アニメの聖地に行っても、日本は「WOW!!」の連続です。だから、「日本に行ってきたよ!こんなことしたよ!!」と発信したくなり、冒頭藤原社長が話されたように、訪日観光客の実体験による口コミが新たなインバウンドを生んでいます。しかも、円安だからといって、日本のホスピタリティのクオリティは下がりません。円の価値が10%下がっても、サービスを1割カットなんてしませんよね。品質が保証されていることが、インバウンドには新鮮で感動的なのです。日本は清潔で安全で人は親切で、日本は極めて居心地がよい国です。
藤原: 私も以前は旅行営業に携わっていましたので、よく分かります。外国からのお客様は日本食が大好きだし、文化や歴史に対しても、いろいろな示唆を与えてくれます。日本への関心がより高まっている今こそ、企業や個人が持つ強みを活かして、海外に向け日本の良さをもっとPRしていく必要がありますね。
ロバートソン氏: 日本人は奥ゆかしい。もっと強気で発信していくべきです。AIとソーシャルメディアはアルゴリズムで絡んでいますから、つかみさえあれば広がりやすいはずです。
―JCDも効果的なプロモーションを行うための仕組みを提供しています。
藤原: いくつかありますが、訪日インバウンドの「旅マエ」から「旅ナカ」まで一貫したデジタルマーケティングを提供する「triconcier™(トリコンシェル)」というソリューションがあります。届けたいユーザーに効果的かつ適切にデジタルプロモーションを展開するもので、訪日インバウンドにおける新しい統合プロモーションの実現が可能です。
インバウンドデジタルプロモーションに知見を持つ当社と、アドテクノロジー分野の雄である「クリムタン社」、さらにアドベリフィケーションで世界的に評価されている「Integral Ad Science社」(IAS)の3社が持つ強みを融合しています。
一方、インバウンドの増加によるマナー違反や、特定エリアへの集中がもたらすオーバーツーリズムも課題として浮上しています。日本が、「住んでよし、訪れてよし」のサステナブルな観光立国を目指す上では、地方への誘客は重要です。持続可能な観光の実現に向け、地域社会や企業と連携したプロモーション活動を通じて、オーバーツーリズムの課題解決にも貢献したいと考えています。
ロバートソン氏: 日本の観光発信の多くはマスツーリズムの視点のもので、今や完全にミスマッチです。インバウンドが来たいと望む日本は、その設計上にはありません。マスではなく、インバウンドニーズにマッチした多様でピンポイントな設計が必要でしょう。AIなどで人の流れを分析し、逆に先手を打ってビジネスにするのです。 「No! こっちに来ないで」ではなく,「Yes!こちらへどうぞ 」と、代替案や別の動線を提示する。そしてそこに雇用を生み出しマネタイズにつなげる、という発想でいきたいものです。
大阪・関西万博などの大型イベントをどう捉えるか
―今年は「大阪・関西万博」が予定されており、日本のみならずインバウンドの流入も期待され、日本経済への影響も期待されています。こうした大型イベントを日本経済の活性化につなげるためには、どのような視点が必要だと思いますか?
ロバートソン氏: 大型国際イベントに対する息切れ感が否めずかつての日本万国博覧会(大阪万博)のような熱狂はありませんが、一方で、例えばインバウンドにコテコテの関西文化の洗礼を与える、という今までにない喜びや魅力を与えられる可能性はあると思います。東京は、スマートで成熟したインフラが完成していますが、それゆえに融通が利かない、システムを変えられない窮屈さがあります。外国語対応に対してもやっつけ感が否めないのは、動かせないルールやシステムがあまりにも多いからでしょう。でも大阪には、独特な商人文化があります。臨機応変にルールを動かせる土壌がある。東京では融通がつかないことも、大阪ならできるのではないでしょうか?
エンタテインメントも無限大です。戦隊ショーのようなエンタテインメントは外国人に大ウケしますし、大阪城も、ARやVRと組み合わせて、「忍者に変身」「手裏剣ショー」もよさそうです。インバウンドの「ツボ」を知り、大阪でしかできないエンタテインメントを入り口に、ディープな日本を探索できるツアーなど、大阪愛や日本愛を育む企画を仕込んでいく。大阪・関西万博でこうしたアピールがあると、インバウンドの拡大のきっかけにもなると思います。
藤原: 1970年の日本万国博覧会(大阪万博)は、高度経済成長下で世界第2位の経済大国となった日本を象徴するイベントでした。未来志向の技術が多数展示され、あの時に夢の技術と思われたものの多くが、今や私たちの日常生活の一部となっています。しかし、50年間で、社会もマーケットも大きく変わりました。グローバル視点が問われていると認識しています。4月に開幕する大阪・関西万博には、未来社会の実現に貢献する企業が集結し、未来を共に創る場が提供されます。
当社としても未来志向の企業との接点を通じて、お互いの強みを掛け合わせ、新しい価値を生み出していけたらと考えています。「コミュニケーションをデザインする」のが、当社の事業ドメインであり、イベントはまさに人と人がつながるコミュニケーションの場。日本では今後も国際的なイベントの開催が予定されていますので、国内外に日本の魅力を知っていただく貴重な機会の創出に貢献していきたいと思います。
人の心を動かすマネジメントが生産性を高める
―最後に、日本企業が成長していくためのヒントをいただけますか?
ロバートソン氏: 日本が抱える構造的な課題は、今すぐに改善できるものではないかもしれません。動かせない壁がある。ならば、動かせるものにフォーカスしていきましょう。動かせるもの、それは人の「心」です。心に投資をする、ものの見方に幅を持たせることを意識してみてはいかがでしょうか。その一つがジェンダーギャップの解消です。
国際通貨基金(IMF)の研究(試算)によれば、調査対象国中、日本を含め男女平等の面で下位半数となった国々では、雇用の男女格差解消によって国内総生産(GDP)が平均35%増加する可能性があるといいます。増加分のうち7~8%ポイントはジェンダー多様性がもたらす生産性改善によるものであり、企業の経営上層部や取締役会で構成人数を変えずに女性の数を1人増やせば、総資産利益率が0.08~0.13%上がると。女性の登用は「やらないといけない」からやるのではなく、やっている企業は生産性が爆上がりするという試算ですよ。私はこれを知って、衝撃を受けました。ジェンダーは資源であり、言い換えれば埋蔵金だと思いました。
ほとんどの企業が、前向きに取り組んでいるとは思います。でも、ある程度までいくとボトルの口が狭くなるように、現在の役職ピラミッドのどこかに、女性登用のボトルネックがありませんか?この境界線できゅっと締まっている女性登用の蛇口のバルブを、ほんの少しゆるめてみてほしい。血の巡りが良くなって会社が若返ること間違いなしです。ここを突破して、経営上層部への女性進出が当たり前になっていけば、下層部のモチベーションも高まり、視点が広がります。多様性によってイノベーションも起こりやすくなり、結果として会社に利益がもたらされるでしょう。
藤原: 「人の心を動かす」。モーリーさんがおっしゃる、心を動かすマネジメントに共感します。女性登用のお話も、働きがいや働きやすさにつながるものであり、私が大切にしているDE&Iと共鳴します。経営トップとして、私の役割はビジョンを明確に示し、戦略を組織全体に浸透させること。大きな方針を示した後は、個人の強みを活かすボトムアップ型のほうがうまく進むと思っています。そのためには、意識的に経営層と社員の距離を縮めていく必要があります。私は美点凝視(※注3)という視点を大切にしています。企業の成長には、美点凝視で個々の強みを活かし、共創する環境が不可欠です。社員の人財としての価値を高め、その多様な人財が生み出すアイデアを最大限活かすことで、組織力を高め企業価値の向上につなげていく、そんな好循環のサイクルを実現したいと考えています。
(※注3)美点凝視:人の強みや得意分野にフォーカスする、多様な人財を育成するのに欠かせない視点、考え方を指す
ロバートソン氏: 美点凝視、いいですね! 人口が少なくなっているからこそ、一人一人が強みを持ち、何かと交代不能な価値を持つことが重要です。頭数の多さを価値にする土俵では戦わない、別のところで競争力を発揮することです。その人にしかできない提案にまずは耳を傾ける、不合理さの中に宝石を見つける。それができるのは、経営層の多様性に対する意識と、想像力の可動域の広さにかかっています。想像力の可動域を広げて、一人一人の個性に向き合い、個人の強みを引き出すことで、異次元のレベニューが期待できると思います。
藤原: 事業を通じて、交流の価値を最大化し、企業や社会が抱える課題を解決することが私たちの使命です。あらゆるボーダーがなくなる時代に、私たちは唯一無二の存在として、お客様から選ばれ続ける会社を目指しています。「人」と「場所」と「体験」のデザインを通じて「交流の価値」を最大化し、多くの企業や自治体の皆様と共に、ワクワクするコミュニケーションを創造していきます。是非ご期待下さい。 モーリーさん今日はありがとうございました。
モーリー・ロバートソン氏
国際ジャーナリスト
1963年生まれ。
国際ジャーナリストの傍らミュージシャン、コメンテーター、DJといった多岐な分野で活躍。日米双方の教育を受け、1981年に東京大学とハーバード大学に同時合格する。日本語で受験したアメリカ人としてはおそらく初めての合格者。東京大学を1学期で退学し、ハーバード大学に入学。電子音楽とアニメーションを専攻。アナログ・シンセサイザーの世界的な権威に師事。ポッドキャストのパイオニア「Podcasting Award」を受賞。現在、各種メディアでも活躍中。近著に『日本、ヤバい。(文藝春秋社刊)』。
藤原卓行
株式会社JTBコミュニケーションデザイン
代表取締役社長執行役員
1969年生まれ。
1991年中央大学経済学部卒 日本交通公社入社(現JTB)
2013年JTBコーポレートセールス 第三事業部長
2019年JTB 海外仕入商品事業部 航空仕入部長
2020年JTB 執行役員 個人事業/事業統括部長
2022年JTB 執行役員 仕入商品事業部長
2024年JTBコミュニケーションデザイン(JCD) 代表取締役社長執行役員就任
高校野球をこよなく愛する熱血漢。
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