【大手企業における人的資本開示の実態調査】義務化後初の人的資本開示を実施した大手企業、約7割が「人事部のみ」で対応
~経営方針や事業戦略と連動した人的資本開示の設計が課題~
本調査の背景
2023年3月期決算より、有価証券報告書を発行する約4,000の大手企業を対象に、「女性管理職比率」「男性育児休業取得率」「男女間賃金格差」の3つの人的資本情報の開示が義務付けられました。
今後、企業は人的資本価値の向上に関する取り組みや考え方について、社内外のステークホルダーから共通の指標を用いて評価されることになります。
企業価値の構成要素が有形資産から無形資産に移行しつつある中、人的資本価値の向上において各企業がどのような取り組みを実施しているのか、人的資本開示への対応とそれに関連する人事戦略の実施状況や課題を明らかにすべく、本調査を実施しました。
調査結果の概要
1.人的資本情報を「開示した」企業は、非上場企業を含め76.5%という結果に。
2.人的資本開示対応において、専任担当者が「いなかった」企業は70.8%。開示対応を行なう主管部署について、「単独で行っている」企業が73.8%を占め、そのうち95.7%が「人事部」で対応していると回答。(人的資本開示を実施した企業の約7割が「人事部のみ」で対応)
3.有価証券報告書で開示が義務付けられた3項目の具体的な施策実施状況を問う設問で、施策を「実施している」もしくは「策定中」と回答した企業は、「女性管理職比率」が84.4%、「男性育児休業取得率」が87.5%と共に8割を超えていたことに対し、「男女間賃金差異」は40.6%と施策実施状況の差が明らかに。
4.人的資本開示対応で一番苦労したことについて、「経営方針・戦略との関連性」「KPI設定・具体的な開示範囲の設定」「グループ全体の統制」といった回答が寄せられた。
調査結果
1.人的資本情報を「開示した」企業は、非上場企業を含め76.5%という結果に。
設問 人的資本情報の社外開示対応状況について、当てはまるものを選択してください。(n=85,単一選択)
2. 人的資本開示対応において、専任担当者が「いなかった」企業は70.8%。開示対応を行なう部署について、「単独で行っている」企業が73.8%を占め、そのうち95.7%が「人事部」で対応していると回答。
設問
人的資本情報開示の対応(情報収集・抽出~開示まで)における専任担当者はいましたか?(n=64,単一選択)
設問
人的資本情報開示の対応(情報収集・抽出~開示まで)はどのような体制で実施していましたか?
単一部門か複数部門のいずれかを選択してください。(n=64,単一選択)
設問
単一部門を選択された方は、どちらの部門を中心に対応しましたか。 (n=47,単一選択)
3. 有価証券報告書で開示が義務付けられた3項目の具体的な施策実施状況を問う設問で、施策を「実施している」もしくは「策定中」と回答した企業は、「女性管理職比率」が84.4%、「男性育児休業取得率」が87.5%と共に8割を超えていたことに対し、「男女間賃金差異」は40.6%と施策実施状況の差が明らかに。
設問 「女性管理職比率」について、具体的な比率向上への施策を実施していますか。(n=64,単一選択)
設問 「男性育児休業取得率」について、具体的な比率向上への施策を実施していますか。(n=64,単一選択)
設問 「男女間賃金格差」について、具体的な是正への施策を実施していますか。(n=64,単一選択)
3項目に関する具体的な取り組みとして、主な回答は以下の通り。
設問 「女性管理職比率」向上のための人事施策を実施している場合、具体的な施策内容を可能な範囲で回答ください。
設問 「男性育児休業取得率」向上のための人事施策を実施している場合、具体的な施策内容を可能な範囲で回答ください。
設問 「男女間賃金格差」縮小のための人事施策を実施している場合、具体的な施策内容を可能な範囲で回答ください。
(各設問いずれも,自由回答)
「男女間賃金差異」の一因である、女性管理職の低比率を解消すべく、まずは「女性管理職比率」の向上に注力するといった回答が複数見受けられ、段階を踏んで自社に合った施策を推進している状況が明らかになりました。
4. 人的資本開示対応で一番苦労したことについて、「経営方針・戦略との関連性」
「KPI設定・具体的な開示範囲の設定」「グループ全体の統制」といった回答が寄せられた。
設問 貴社の人的資本情報開示対応において、一番苦労したことは何ですか。(自由回答)
総括(解説:WHI総研 井上 翔平)
有価証券報告書で、多様性を示す「女性管理職比率」・「男性の育児休業取得率」・「男女間賃金差異」3項目の開示義務化や、「人材育成方針」・「社内環境整備の方針」といった人的資本に関する戦略の記載が求められるようになってから、多くの企業は初めての人的資本開示対応を終えました。
当社でも日経225採用企業183社の2023年3月期決算の有価証券報告書の内容について分析※したところ、記載の自由度が高い「人材育成方針」において、独自指標を開示していた企業は約31%でした。開示する内容について、企業側に大きな裁量が与えられる形で人的資本開示の義務化がスタートしたため、対応に苦労された企業も多かったのではないでしょうか。
本調査においても、人的資本開示対応で一番苦労したことについて問う設問で、「経営理念や経営戦略、中期経営計画と連動したストーリー性のあるKPIの設定」「開示前は求める人材に具体性がなく、その育成方法も含め、詳細に定義されることがなかった」といった回答が寄せられていました。また、人的資本開示対応において、回答企業の約7割が「単独の部署」で対応、うち9割が「人事部」での対応と、主管部署の偏りも明らかになりました。
人的資本開示の重要性が増していく中、「毎年の開示に円滑に対応できる体制作り」や「開示内容のレベルアップ」が求められます。次回の開示に向け、企業はどのようなアクションをしていくべきか、人的資本に関するデータを管理する人事部の役割を中心に当社の見解を解説します。
「毎年の開示に円滑に対応できる体制作り」に向けたアクション
人的資本開示において、自社の成長のストーリーを示すためには、まず経営戦略に基づく事業の将来像から戦略遂行に必要となる人的資本の量や質といった要件を明確化し、あるべき姿と現実との乖離をどのように埋めていくべきか、経営・人事・現場で共通のロードマップを描くことが必要です。
そのため、人事部等の特定部署だけの対応から脱却し、経営・人事・現場の連携を高めることがファーストステップになります。これを実現するためには、人的資本開示における目標や施策を経営陣や現場に「自分ごと」として捉えてもらえるよう、人事部が人的資本に関するデータを活用しながら経営・現場と対話していくことが必要です。人的資本開示を担当しているからといって、人事部がその目標達成の責任を負わないといけないというものではありません。達成するのは現場であり、経営がそれを推進していく中で、人事部はどこに課題があるのかをデータで明らかにしつつ、適切な目標設定や、施策の進捗管理等のサポートを行うことが重要です。
「開示内容のレベルアップ」に向けたアクション
人的資本開示はステークホルダーに向けたメッセージでもあります。そのため、自社に現在どのような人材がいて、その人材がどのように活躍し、それが事業戦略にどう活きてくるのか、人的資本開示におけるストーリーを描きつつ、義務化指標だけでは表現しきれない実態を表すために、企業として開示する内容の拡充や指標を進化させることが重要です。そして、これを実現するためには、オペレーション業務で蓄積してきた情報だけではなく、多様性や人材育成に関するデータ、またそれ以外の様々な人事データを今まで以上に活用していくことが必要になります。
そのため、分野の違う人的資本情報を施策や開示に活用することができるよう、人事データの標準化や人事データの一元化を進めていくことが、データ活用のファーストステップになるでしょう。
また、初回の人的資本開示を終え、同業他社、自社がベンチマークとしている企業も同様に数値を開示しています。そのため、自社と他社の数値を比較してみることも有効です。
比較によって、開示が義務付けられた項目について、自社が低いのか、高いのかという基準ができます。もし、低い場合はそれに対して原因を把握しなければなりません。企業ごとに会社の背景が異なるため、数値が低い事が一概に悪いことではありませんが、なぜ低いのか、ステークホルダーに対して、適切な説明をするためにも、原因を把握する必要があります。また、他社と比較してより優れているということであれば、自社の魅力を訴求する一つのポイントになります。いずれにしても自社の現状を把握することが必要です。そして自社の現状に対して、どのように向き合うのか、自社のスタンスを明らかにし、説明責任を果たすことが人的資本開示の本質ではないでしょうか。
人的資本開示はこれからも継続していきます。ただし、同じ指標だけを開示し続ければよいというわけではありません。義務化指標だけ、開示の時だけ開示するという「開示のための開示」から脱却し、「企業の成長が伝わる人的資本開示」にできるよう、次回の開示に向けてアクションすることが重要です。
※日経225採用企業中3月末決算の183社を、2023年7月~8月の期間でWHIが調査。
有価証券報告書「サステナビリティに関する考え方及び取組」のみを参照し、人材育成施策にカテゴライズされていても下記については除外した。
・中途採用比率の上昇等、採用に関するもの
・ダイバーシティに関するもの(女性管理職比率、外国人の幹部登用等)
・定着率
・公募の利用数、率
・エンゲージメントサーベイの数値
解説者プロフィール
WHI総研※ 井上 翔平(いのうえ しょうへい)
大学卒業後、銀行の営業、その後調査会社でアンケート調査業務を経験。
2022年1月にWHIへ入社し、現職。当社ユーザー基盤をもとにした調査・分析や、市場トレンドの調査に従事している。
※WHI総研:当社製品「COMPANY」の約1,200法人グループの利用実績を通して、大手法人人事部の人事制度設計や業務改善ノウハウの集約・分析・提言を行う組織。
<調査概要>
調査名 :2023年度人的資本開示および人事施策実施状況に関するアンケート調査
期間 :2023年6月8日~8月31日
調査機関 :自社調べ
対象 :大手企業85法人、人事戦略策定者
調査方法 :Webアンケート形式、対面ヒアリング
有効回答数:85
<引用・転載時のクレジット記載のお願い>
本リリース内容の転載にあたりましては、「Works Human Intelligence調べ」という表記をお使いいただきますようお願い申し上げます。
本記事のグラフの内訳は、小数点第一位まで表示しています。そのため、端数処理の関係で内訳の和が100%にならない場合がございます。
なお、本調査では他にも「人的資本開示の独自項目」「人事戦略 経営戦略との連動・人的資本の影響」等に対する回答も得ております。詳細レポートをご要望の方は、当社ホームページのお問い合わせフォームよりご連絡ください。
https://www.works-hi.co.jp/contact
WHIでは引き続き、大手法人の人事トレンドや業務実態について調査をしてまいります。
WHIについて
WHIは大手企業および公共・公益法人向け統合人事システム「COMPANY」の開発・販売・サポートの他、HR関連サービスの提供を行っています。「COMPANY」は、人事管理、給与計算、勤怠管理、タレントマネジメント等、人的資本マネジメントにまつわる業務領域を広くカバーしており、約1,200法人グループへの導入実績を持つ、ERP市場 人事・給与業務分野 シェアNo.1※の製品です。
私たちは、「人に真価を。」というコーポレートブランドのもと、経営者と従業員の両者の価値を最大化するソリューションを提供することで、すべての人が「真価」を発揮し、情熱と貢献意欲を持って「はたらく」を楽しむ社会を実現します。
※2021年度 ERP市場 - 人事・給与業務分野:ベンダー別売上金額シェア
出典:ITR「ITR Market View:ERP市場2023」
株式会社Works Human Intelligence Webサイト https://www.works-hi.co.jp
* 会社名、製品名等はそれぞれ各社の商標または登録商標です。
* 本リリースに掲載された内容は発表日現在のものであり、予告なく変更または撤回される場合があります。また、本リリースに掲載された予測や将来の見通し等に関する情報は不確実なものであり、実際に生じる結果と異なる場合がありますので、予めご了承ください。
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