マイナス20度の阿寒湖で描く、現代アイヌと若者の交流。短編映画『cupki mawe(チュプキ マウェ)』を公開
美しく厳しい真冬の阿寒湖とアイヌコタンをめぐる旅を経て、生きづらさから抜け出すための“希望の光”を見つける物語。
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株式会社ロフトワーク(本社:東京都渋谷区 代表取締役社長:諏訪光洋)は北海道釧路市からの委託により、阿寒湖を舞台に現代アイヌ文化の魅力を伝える短編映画『cupki mawe(チュプキ マウェ)』を制作し、阿寒湖アイヌコタンの公式YouTubeチャンネルにて公開しました。
本作は、2024年9月に同チャンネルで公開した短編映画『urar suye(ウララ スエ)』の続編です。前作に引き続き、十川雅司氏が監督を務めました。
真冬の阿寒湖という厳しくも美しい自然環境の中で、今なおカムイ(アイヌ語で、神)と共にある現代アイヌの姿を見つめながら、生きることの尊さを問いかける本作。物語を通して、人間と自然との相互関係を見つめ直すきっかけを提示します。
短編映画『cupki mawe』公開URL https://youtu.be/SC5n7nuqLKk
*「コタン」はアイヌ語で「集落」の意味
ポスター
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ストーリー
東京で音楽活動をしているユカリ(xiangyu)は、阿寒湖をゴールとした日本一周の旅をしていた。
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昨年の夏(夏編『urar suye』)に阿寒湖を訪れたとき、自身のアーティストとしての将来性を信じきれず、思い悩んでいたユカリ。彼女は、阿寒湖でダンサーをしている大学時代の友人・サヤに誘われるままに、大自然と共に生きるアイヌコタンの人々と交流する。山や川、動物、樹木や、火や雷などの自然現象、日常で使う道具などに宿る「カムイ」を信じるアイヌの世界観と生きかたを肌で感じながら、自分の中で何かが変わっていくのを感じた。
サヤに「いつか辿り着くよ」と背中を押され、力を抜いて自然の流れに身を任せるようになったユカリ。しかし、それから半年が経ち、次第に「本当に“どこか“にたどり着けるのだろうか?」という不安を抱くようになっていった。そして再び、ユカリは何かを確かめるように、旅の終着地でもある冬の阿寒湖アイヌコタンを訪れることに。
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映画の見どころ
本作品『cupki mawe』は、前作の夏編『urar suye』に続く物語です。今回の冬編では、主人公のユカリが阿寒湖アイヌコタンに住む人々や自然と関わりあいながらアイヌの世界観に触れていくことで、より自分らしく生きるための道筋を見つける姿を描いています。
真冬の「光の森」が見せる美しい姿:
夏には多様な生き物が息づいていた阿寒湖畔の森は、冬になるとその姿が一変し静かな風景が広がります。空から舞い降りる「ウパシ(アイヌ語で、雪)」が木々を白く染め上げる様子や、海から始まりやがて湖にたどり着く水の循環の物語に触れながら、ユカリは真冬の森の美しい表情に心を奪われます。
小さな会話から知るアイヌの生きかた:
森の案内人や、伝承歌謡・ウポポを口ずさむ女性、定食屋の店主など。ユカリは人々との小さな交流から、この場所では人と自然、人とコミュニティが互いに関わり合いながら自然体で生きていることを理解します。
氷に覆われる阿寒湖と雄阿寒岳:
ユカリが旅の最後に見たのは、結氷した阿寒湖上から見た朝焼けの景色。マイナス20度というあらゆる生物にとって極限の世界で、自然の雄大さと恐ろしさ、そして自分という命の尊さを全身で感じ取ります。
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監督・出演者からメッセージ
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監督 十川雅司
2024年の12月に、夏編『urar suye』の上映会のために阿寒湖を訪れた時、すでに街には雪が積もっていて、金色の冬の光が木々の隙間から差し込んでいました。その光の美しさを見て直感的に、冬編では「光」が重要なモチーフになると思いました。
この作品のタイトル〈cupki mawe〉は『光の気配』という意味ですが、僕がこの映画で一番描きたかったのは、主人公ユカリの人生に差し込む光です。先の見えない将来への不安や戸惑い、焦り。僕自身も常に抱いている気持ちですが、同世代である若い方たちも同じではないかと思いました。だからこそ、この冬編では、どうしても光(希望)を見出したかった。しかし、この難題を前に、脚本は難航しました。そんな中、気づきをくれたのは、阿寒湖の大自然とアイヌ文化、アイヌコタンの方々のお話でした。
私たち現代人はつい、インターネットやスマホからの情報ばかりに頼ってしまいます。しかし、本質的なことの多くは、自然から学ぶことができます。そして歴史や人生のことは、他者から学ぶことができます。僕自身、この映画を制作する中で出会った地元の方々からたくさんのことを学びましたし、励まされました。今では、それらが大切な宝物です。
本作品では、僕自身が阿寒湖アイヌコタンで受け取った優しさや気づきを、物語に込めさせてもらいました。この物語が、観てくださった方々の人生の光につながることを願っています。
プロフィール:
徳島県出身。大学で演劇に没頭。卒業後は、映画制作に興味を持ち、深田晃司監督をはじめ、様々な監督のもとで助監督を務め映画づくりを学ぶ。傍ら、精力的に自主映画を監督。『駆け抜けたら、海。(2023)』が国内外22の映画祭にノミネート、賞を受賞。同作品がMIRRORLIAR FILMS season5の一つに選出され、日本全国15スクリーンで劇場公開を達成する。
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主演 xiangyu(シャンユー)
撮影時の阿寒湖は厳しい冬の真っ只中で、誰もいない森の中や凍った湖の上は、本当に静かで美しく、そのまま飲み込まれてしまいそうな怖さがありました。
今まで馴染みのなかったアイヌ語、冬編の撮影では特に触れる機会が多く、なんて響きが美しい言葉なんだ!と思いました。
同じ"雪が降る"という表現でも、パラパラの雪なのか、吹雪なのかでも全然違う。その表現の細やかさが私は好きだと思ったし、もっともっと知りたくなりました。
何者かになりたくて、どこかに辿り着きたくて必死にもがいてる内に自分がどうやって呼吸していたのか忘れてしまう。この世界の泳ぎ方がどんどんわからなくなってしまう感覚によくなります。
でも厳しい冬を乗り越えるためには、無理にジタバタせず流れに身を任せてみることが大切なのだと、阿寒の雄大な自然が教えてくれました。身を任せることは勇気がいるけど、そうやって委ねてみて、肩の力が抜けた時にようやく、アイヌの方々がうたにしていた“ちいさな美しい瞬間”は、気づけるものだと思います。
何かに迷った時、いつだって私は阿寒の土地に帰りたい。そんな場所に出会えて心から幸せです。
プロフィール:
2018年9月からライブ活動開始。 日本の女性ソロアーティスト。読み方はシャンユー。名前は本名が由来となっている。23年11月、gimgigamをサウンドプロデュースに迎えAmapiano、Gqomなどを取り入れ、町に落ちている“落とし物”を題材にしたコンセプトEP『OTO-SHIMONO』をリリース。24年は“遠慮の塊”をテーマに楽曲を制作。「ラスイチのピザ」「ずっといるトマト」ではボルチモアブレイクス、バイレファンキなどを取り入れた新しいサウンドを追求している。また最新曲「宇宙包(feat.Kuro)」ではTAMTAMのVo. Kuroを迎えたfeat.ソングをリリース。
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出演 西田正男
アイヌと和人は、ものに対する考え方、捉え方が違う。
例えば、和人にとっては川は海がゴールだが、アイヌにとっては海が始まりで、遡り、水が湧き出る湖がゴールになる。
氷に対する考え方も違う。和人なら氷は「水が凍ったもの」と考えるし、「氷が溶けると水になる」そう考える。
でもアイヌは違う。厳しい寒さの中に生きるアイヌにとっては「凍っていることが当たり前」だから、氷のことを「溶けるもの」と呼ぶ。アイヌにとって、厳しい冬を乗り越えて春が来るのは待ち遠しいことだった。だからこそ、氷が溶けると「春が来る」のだと考える。
この映画を通して、多くの人にアイヌと和人の考え方や捉え方の違いに触れ、感じてほしい。
アイヌコタンでは、アイヌの考え方や歴史が表現された古式舞踊や演目を行っている。阿寒の自然や、私たちが作ってきた演目を通して、アイヌ文化の真髄に触れてほしい。
プロフィール:
明治18年釧路からセツリ川上流(現鶴居村)に強制移住させられた西田植吉氏のひ孫にあたり、昭和29年秋の阿寒湖アイヌコタン草創期より、養父秋辺三次郎氏、母カツミ氏のもと、アイヌ文化を生活の中で学ぶ。昭和48年にコタンの家を継ぎ、民芸品店を経営しながら阿寒アイヌ民族文化保存会、阿寒湖アイヌ協会の役員として本格的なアイヌ文化の活動に入る。
アイヌ古式舞踊の踊り手、ユーカラ劇の演者、アイヌ民話人形劇の演者などを務め、国内外での公演に積極的に参加。近年は地元のみならず、各地域のカムイノミの司祭主として、わかりやすい口調、所作で後輩への指導にあたり、アイヌ文化の後継者育成と普及啓発に努めアイヌ文化の振興に貢献している。
制作背景
短編映画『cupki mawe』と『urar suye』は、釧路市による令和6年度アイヌ文化関連観光プロモーション事業の一環として制作されました。本作は、アイヌの美術・工芸だけでなく、日常生活や周辺環境を含めた「生きたアイヌ文化」の魅力に焦点を当てています。また、アイヌ固有の世界観が現代の都市生活者の生きづらさや課題感をときほぐし、エンパワメントし得る可能性を、広く伝えることを目指しています。
阿寒湖アイヌコタンについて
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本作の舞台となっている「阿寒湖アイヌコタン」は、約120人が暮らす北海道内有数のコタンです。
アイヌの信仰「全てのものに魂が宿る」の意識のもと、触れ合う・つくる・食べる・受け継ぐ・解き放つ・自然と生きる、といった体験ができる場所としてアイヌの文化を発信してきました。 北海道の雄大な自然と共存し、豊かで神秘的な精神世界を築いたアイヌの文化や歴史を体感できる場所です。
阿寒湖アイヌコタン Webサイト https://www.akanainu.jp/
制作チーム
脚本・編集・監督:十川 雅司
出演:
xiangyu
西田正男
山本栄子
松田健治
秋辺 デボ
Koharu Hiyori
山本 樹生
プロデューサー:伊達 善行 / 株式会社ロフトワーク
コ・プロデューサー:許 孟慈 / 株式会社ロフトワーク
脚本・編集:十川 雅司
撮影監督:西岡 空良
撮影助手:大西 恵太
録音:富澤泰介、内藤和幸
録音助手:稲垣幸之介
整音:井口勇
音楽:高橋遼
ヘアメイク:加藤真依子
制作応援:神出 空
ドライバー:中井啓嗣
主題歌「Sign」
作詞作曲:高橋遼
歌:ikachan
ポスターデザイン:ddd.pizza
ポスタースチール:十川 雅司
現場スチール:
高倉大輔(釧路市阿寒町地域おこし協力隊)
﨑一馬(釧路市阿寒町地域おこし協力隊)
ネイチャーガイド:安井 岳
製作:釧路市
監修:阿寒アイヌ工芸協同組合
企画・制作:株式会社ロフトワーク
協力:
有限会社 阿寒ネイチャーセンター
一般財団法人 前田一歩園財団
チニタ民藝店
デボの店
有限会社 広大
阿寒バス株式会社
株式会社阿寒湖バスセンター
阿寒観光汽船株式会社
ニュー阿寒ホテル
北国の味 ばんや
成田国際空港株式会社
阿寒摩周国立公園阿寒湖管理官事務所(環境省)
一般財団法人 自然公園財団 阿寒湖支部
有限会社 北海まりも製菓
お食事処 味心
まりも倶楽部
阿寒湖温泉楽しいことやらかし隊
阿寒湖アイヌコタンの皆様
この事業はアイヌ政策推進交付金(内閣府)を活用して釧路市の委託により行っています。
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