ダイソン国際デザイン・エンジニアリングアワード2024、日本国内最優秀賞は東京大学の学生が受賞
騒音の多い環境でも自分の声だけをクリアに届けるノイズキャンセリングマイク
ジェームズ ダイソン財団は、国際デザイン・エンジニアリングアワードであるジェームズ ダイソン アワード(James Dyson Award、以下JDA)の2024年度 国内最優秀賞1作品と国内準優秀賞2作品を発表しました。
【国内最優秀賞】
●WhisperMask (東京大学大学院)
騒音の多い環境でも自分の声だけをクリアに届けるノイズキャンセリングマイク
【国内準優秀賞】 2作品
●Milkease Wearable Pump (武蔵野美術大学)
自然な外観と快適な装着性を兼ね備えたコンパクトな搾乳器
●ARALA -Additive Robotic Attachment for Lab Automation- (東北大学)
小型ロボットアームと取り外し可能なエンドパーツを使用した、手軽にカスタマイズが可能な研究自動化システム
初開催の2005年から一貫して「問題解決のアイデア」がテーマである本アワードに、今年は世界30か国より1,900以上の応募がありました。国内審査の結果、JDA2024の国内最優秀賞は東京大学大学院 学際情報学府 平城裕隆氏による、騒音の多い環境でも自分の声だけをクリアに届けるノイズキャンセリングマイク「WhisperMask」に決定しました。
この作品は、コロナ禍においてマスクの着用が必須になったことがきっかけとなり開発に至りました。オンラインでの授業や会議が増え、周囲の環境によってはマスクを着用すると相手に声が伝わりにくく、さらに騒音の多い環境においてはお互いの声が聞きとりにくいという問題がありました。
それを解決するアイデアとして生まれたのが、「WhisperMask」です。「WhisperMask」はソフトウェアでノイズをキャンセルするのではなく、布型の振動板という新しい構成のマイクを作ることでノイズキャンセリングを実現しています。
また今回の受賞を受け、平城氏は「このようなアワードへ応募することは初めてだったのですが、ちょうどこの作品が完成したタイミングでJDAへの応募を決め、結果として国内最優秀賞に選んでいただけたことに嬉しさと驚きでいっぱいです。今後も引き続き改良を続け、布型のマイクという特性を生かし、汎用性を高めていきたいと思っています。」とコメントしています。なお、本受賞作品には賞金5,000ポンド(約87万円)*¹が贈られます。
<JDA2024 国内最優秀賞> 「Whispermask」
https://www.jamesdysonaward.org/2024/project/whispermask
概要 |
騒音の多い環境でも自分の声だけをクリアに届けるノイズキャンセリングマイク。布型の振動板という新しい構成のマイクを使用することで、マスクのマイクの内側の音のみを拾うことを可能にしています。 |
---|---|
問題 |
騒音の多い環境や、マスクを着用した際に相手に声が伝わりにくく、自分の声がクリアに届けられないところから着想を得ました。 |
解決策 |
近年、ソフトウェアでノイズを取り除く技術は多くありますが、小さな声を取り出すことがそもそも難しく、音声を記録するデバイスの方から問題を解決したいと思い、布型のマイクを開発しました。ソフトウェアでの処理を使わずに周囲のノイズをキャンセルできるので、遅延もなく自分の声だけを取り出すことを実現しています。 |
今後の展望 |
このアワードの受賞を機に研究をさらに拡大し、プロトタイプを改良していきたいと思います。具体的にはデバイスの小型化や音声の高音質化をし、今後はマスクの形だけでなく、ヘッドセットやヘルメットなど他の形のデバイスを制作し、医療現場や工事現場などで実証実験を行なっていきます。デバイスの開発を通じてどこでも快適な音声コミュニケーションができる社会を目指します。 |
制作者 |
東京大学大学院 学際情報学府 平城 裕隆氏 |
JDA国内審査員 緒方壽人氏コメント:
「コロナ禍を経て、リモートワークの普及など、人と人とのコミュニケーションスタイルは大きく変わり、様々な環境でオンラインでの会話をする場面が増えている。本作品はそうした社会環境の変化によって生じた課題を、本来ネガティブに捉えがちなマスクの存在によって解決している点が非常にユニークである。
また、技術的なアイデアとしても、本来小さな音まで拾うために小型化される振動板を、逆に広く大きくすることで周囲のノイズを拾わずにごく近くの声だけを拾うことを可能にしており、ソフトウェア処理に頼ってしまいそうな課題を物理的な原理で解決している逆転の発想が素晴らしい。さらに、アイデアだけに留まらずプロトタイプとして実装し技術検証されている点も評価でき、ぜひ今後の展開や応用にも期待したい。」
<JDA2024 国内準優秀賞> 「Milkease Wearable Pump」
https://www.jamesdysonaward.org/2024/project/milkease-wearable-pump
概要 |
装着性が高くコンパクトな搾乳器。外出中や職場にいても周囲に気づかれることのない、自然な外観を保つデザインです。 |
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問題 |
長期間母乳育児を続けるためには、職場での搾乳が必要になります。職場での搾乳をより快適に行えるようにすることで、育児と仕事の両立を支援するデザインを実現したいと考えました。 |
解決策 |
Milkeaseは、モーターポンプと搾乳器本体を分離した設計になっています。ポンプ部分は空気圧を下げて母乳を吸い出し、母乳を哺乳瓶や母乳バッグに導入する役割を果たします。そして、ポンプと搾乳器本体を別々にし、ポンプを首の後側に配置することで、使用時の重量分散を実現し、使用しないときはポンプを取り外して非常に軽くなるため、長時間の装着や持ち運びを簡単にしています。 |
今後の展望 |
この「Milkease Wearable Pump」は女性が育児と仕事を両立しやすく、職場での搾乳が自然な行為として受け入れられる環境を目指して開発された製品です。これを出発点として、技術とデザインを駆使して、女性の力を引き出し、社会全体の意識と構造を変える一助となることを目指しています。 |
制作者 |
武蔵野美術大学 工芸工業デザイン学科 Le Yao氏 |
JDA国内審査員 川上典李子氏コメント:
「デザインの観点を忘れることなく意欲的な提案が望まれている製品は様々ある。育児に関する製品もその一つであり、必要とする人々にとっては切実な状況でもあると言えるだろう。ウェアラブルな搾乳器である本作品はユーザーに対する作者の想いも明快で、今日の社会に対するヴィジョンにも満ちている。試作と共に改良が重ねられていく過程も本アワードで重視している点であるので、ユーザーテストを始めとする検証がさらに重ねられることで、社会課題に対するより魅力的なソリューションとして進められていくことを楽しみにしている。」
<JDA2024 国内準優秀賞> 「ARALA -Additive Robotic Attachment for Lab Automation-」
https://www.jamesdysonaward.org/2024/project/additive-robotic-attachment-for-lab-automation
概要 |
小型ロボットアームと取り外し可能なエンドパーツを使用した、手軽にカスタマイズが可能な研究自動化システム。このシステムにより、研究者は単純作業に費やす時間を短縮でき、本来の研究により多くの時間を割くことが可能となります。 |
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問題 |
大学院での研究中に、実験室での単純作業や手作業が大半の時間を占めていたため、作業を自動化できる装置を探していました。自動化装置は世の中に多くありますが、それらを導入するには大きな資金が必要となります。そこで、先端のパーツを開発することで実験の自動化が可能になるのではないかという考えに至りました。 |
解決策 |
自動化装置は、作業時間を短縮するだけでなく、データの信頼性と正確性を向上させ、危険な作業の処理をすることもできます。このプロジェクトでは、ロボットアームに取り付ける実験用のエンドパーツを市販の電子パーツや3Dプリントを活用して開発することで、カスタマイズ化された実験の自動化環境を作ることが可能となります。このシステムを個々の実験室に届けることで世界中の研究効率を向上させることができると考えています。 |
今後の展望 |
私たちは、世界中の資金や時間が限られている研究機関の研究力を向上させることを目指しています。安価で誰でも使える自動化システムを提供することで、これまでは大きな資金を持った研究室や企業にしか利用ができなかった自動化装置が、誰でも導入ができるようになります。世界中の研究者が本来の創造的な活動に専念できる環境を整え、社会への貢献を行っていきたいと考えています。 |
制作者 |
東北大学大学院 藤森 啓司氏、村元 貴哉氏、澤村 理生氏、藤原 歩氏、只野 竣也氏、稲川 雅也氏、町田 英一氏 |
JDA 国内審査員 八木啓太氏コメント:
「大規模な実験自動化装置を除けば、小規模な実験の多くは手作業に依存していることに着眼し、多くの学生や研究者の実験の自動化を目指したことは評価したい。本作の現状では、まだ多くの化学学生では扱いが難しいものと評価するが今後、操作者のリテラシーや、プログラミングスキルによらず例えば、多くの自動化テンプレートや、プリプログラムなどを選択するだけで実験を自動化できるなどの、ユーザーフレンドリーな進化を期待したい。ひいては、オープンシステムや標準規格として、小規模実験の自動化を行うプラットフォームとして昇華されることを期待したい。」
<今後の審査の流れ>
上記3作品を含む各国作品群は国際最終審査に進みます。世界30か国より国内優秀賞受賞作品が集まり、その中からダイソン創業者兼チーフエンジニアのジェームズ ダイソンの選考によりTOP20が決定します。
選考結果は、TOP20を10月16日に、国際最優秀賞の結果を11月13日に発表予定です。国際最優秀賞受賞者には、賞金30,000ポンド(約520万円*¹)、国際準優秀賞には5,000ポンド(約87万円*¹)が贈られます。
最新情報はJDAのInstagram( https://www.instagram.com/jamesdysonaward/?hl=en ※英語のみ) や、Dyson Newsroom( https://www.dyson.co.jp/community/news.aspx ) でも随時ご案内します。
<JDA2024 国内審査員>
緒方 壽人氏 デザインエンジニア / Takram ディレクター
東大工学部からIAMAS、LEADING EDGE DESIGNを経てTakramに参加。月面探査車の意匠コンセプトから、メーカーの製品開発、ショップや展覧会のディレクションまで、デザイン、エンジニアリング、アート、サイエンスを行き来し領域横断的な活動を行う。近著に『コンヴィヴィアル・テクノロジー』。
川上 典李子氏 デザインジャーナリスト
デザイン誌「AXIS」編集部を経て1994年に独立。企業やデザイナーの取材、執筆を行うほか、2007年より21_21 DESIGN SIGHT アソシエイトディレクターとしても活動。「London Design Biennale 2016」日本公式展示キュレトリアル・アドバイザーを始め国内外でのデザイン展の企画にも関わっている。武蔵野美術大学 工芸工業デザイン学科客員教授。長岡造形大学、桑沢デザイン研究所非常勤講師。
八木 啓太氏 デザインエンジニア / Bsize(ビーサイズ株式会社)代表取締役
2011年、ハードウェアスタートアップBsizeを設立。同年、世界で最も自然光に近いLEDデスクライト“STROKE“を上市し、たったひとりの家電メーカー「ひとりメーカー」として話題に。NHK連続テレビ小説「半分、青い。」で「ひとりメーカー」公証として制作協力。現在は、AI・IoT技術を応用した見守りロボット BoTシリーズを展開。JDA2006入賞。その他受賞歴に、Good Design賞、Red Dot賞、iF賞 等。
*¹ 賞金参考金額: 1ポンド=174円 受賞発表時の為替相場に応じて換算予定
参考資料
ジェームズ ダイソン財団(James Dyson Foundation)
2002年に英国で設立されたジェームズ ダイソン財団は、現在では英国以外に、米国や日本、シンガポール、フィリピン、マレーシアといった世界中の国々で、デザイン、テクノロジー、エンジニアリング教育事業をサポートしています。ジェームズ ダイソンとジェームズ ダイソン財団はこれまでに慈善目的で1億4,000万ポンドを超える寄付を行ってきました。これには、インペリアル・カレッジ・ロンドンにダイソン スクール オブ デザイン エンジニアリングを設立するため行った1,200万ポンドの寄付や、ケンブリッジ大学にダイソン センター フォー エンジニアリング デザインおよびジェームズ ダイソン ビルの設立に向けた800万ポンドの寄付が含まれます。
ジェームズ ダイソン アワード(James Dyson Award)
ジェームズ ダイソン アワード( https://www.jamesdysonaward.org/ja-JP/ )は、同財団が毎年開催しているデザイン・エンジニアリングアワードで、デザインおよびエンジニアリングを学ぶ学生を対象としています。 2005年の開始以来、同賞は世界中で400以上の発明を支援し、その商業化をサポートする資金を提供してきました。
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