貧血時に体内で赤血球が増える新たなメカニズムを発見
【ポイント】
重度の貧血になると未熟な赤血球*1が育つのみではなく、造血幹細胞*2が急速に増幅し、より赤血球を作りやすく変化することを発見しました。
重度の貧血状況下では脂質代謝に関わるアポリポタンパク質E*3が増加し、表面に超低密度リポタンパク質(VLDL)受容体*4をもつ造血幹細胞に作用してより赤血球を作りやすくすることがわかりました。
本研究の成果により、これまで治療が困難だった重度貧血の治療法開発に結びつく事が期待されます。
【概要説明】
熊本大学国際先端医学研究機構の三原田賢一特別招聘教授らの研究グループは、スウェーデン・ルンド大学の研究チームと共同で、体内で赤血球が増える新たなメカニズムを発見しました。これまで、急激な貧血が起こると赤血球になることが決定した未熟な細胞(赤芽球)が増える仕組みはわかっていましたが、より幼若な「造血幹細胞」がどう反応するかわかっていませんでした。本研究により、これまでの治療では十分な効果が得られなかった重度貧血などの新たな治療法開発につながると考えられます。本研究成果は令和6年9月16日(米国東海岸時間10:00)に科学雑誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に掲載されました。
【今後の展開】
エリスロポエチンは薬剤として貧血治療にも使われていますが、患者さんの中にはエリスロポエチンの効果が低い人もいます。また、貧血の治療には鉄剤の投与や輸血なども用いられていますが、頻繁な鉄剤投与や輸血は鉄の体内沈着を起こし、別の病気を起こす事も知られています。本研究の成果は、従来知られていた赤血球生産の仕組みとは異なる機序が存在することを示しており、これまでの治療法で十分に効果が得られなかった重度貧血の患者さんに対する新たな治療法開発につながることが期待されます。
【用語解説】
1赤血球: 血管内を循環し、体中の組織に酸素を運搬する。また、二酸化炭素を結合し回収する役割も担う。腸内細菌等を除くと体内で最も数の多い細胞であり、人間を構成する細胞の80%以上が赤血球である。
2造血幹細胞: すべての血液細胞の源である血液の幹細胞。すべての種類の血液細胞に分化する能力(多分化能)と、自身と同等の能力を持つ細胞を複製する能力(自己複製能)を有する。通常は骨髄内の微小環境で休眠しているが、血液細胞を多く作る必要があると休眠から起きて分裂を開始する。
*3アポリポタンパク質E(ApoE): 脂質とタンパク質から構成される複合体であるリポタンパク質に含まれるタンパク質。中でも、カイロミクロンや超低密度リポタンパク質(VLDL)に含まれており、脂質代謝で重要な役割を担う。
*4超低密度リポタンパク質(VLDL)受容体: VLDLやApoEに結合するタンパク質で、細胞の表面に存在する。
【論文情報】
論文名:Lipoprotein metabolism mediates hematopoietic stem cell responses under acute anemic conditions
(リポタンパク質代謝が造血幹細胞の急性貧血応答を制御する)
著者:Kiyoka Saito, Mark van der Garde, Terumasa Umemoto, Natsumi Miharada, Julia Sjöberg, Valgardur Sigurdsson, Haruki Shirozu, Shunsuke Kamei, Visnja Radulovic, Mitsuyoshi Suzuki, Satoshi Nakano, Stefan Lang, Jenny Hansson, Martin L Olsson, Takashi Minami, Gunnar Gouras, Johan Flygare, and Kenichi Miharada*
掲載誌:Nature Communications
doi:https://doi.org/10.1038/s41467-024-52509-w
URL:https://www.nature.com/articles/s41467-024-52509-w
▼プレスリリース全文はこちら
https://www.kumamoto-u.ac.jp/whatsnew/seimei-sentankenkyu/20240920
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