国際核融合プロジェクトITERの重要工程で日本の技術が採用される
~国内での原型炉実現へ大きなアドバンテージ~
【発表のポイント】
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ITER機構は自身で初期組立用ツールの開発と調達を行う予定であったが、技術的難易度が高いことによる開発失敗リスクが懸念されていた。
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今般、これまでQSTが双日マシナリー、スギノマシンと開発してきた遠隔保守用の高い技術が注目され、ITER機構の要望を受け、初期組立用ツールの製作を開始した。
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本開発により得られる知見は原型炉の実現に向けた大きなアドバンテージにもなる

国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(以下、QST)、双日マシナリー株式会社(以下、双日マシナリー)、株式会社スギノマシン(以下、スギノマシン)は、南フランスにおいて建設中である核融合*1実験炉ITER(イーター)の運転に向けた重要工程であるブランケット*2初期組立に用いられる初期組立用ツール*3の製作に着手しました。
ITER建設時に作業員によって行われるブランケットの組立作業(ブランケット初期組立)に用いられるツールの開発と調達は、当初ITER機構自身で行う予定でしたが、技術的難易度が高いことによる開発失敗リスクが懸念されていました。一方、QSTは、ブランケットを遠隔操作で保守・交換するためのシステムの調達を2011年から担っており、そこで開発した技術がITER機構に高く評価されていました。今般、ITER機構により初期組立用ツールの調達についてもQSTが求められたことを受け、QST、双日マシナリー、スギノマシンはこのツールの製作に着手しました。
製作を通じて取得される知見は、日本における核融合原型炉の建設に応用でき、今後に向けた大きなアドバンテージとなります。QST・双日マシナリー・スギノマシンは、三者が協力して製作に取り組むことにより、核融合炉真空容器内機器の初期組立技術を確立し、核融合に関係する産業界に貢献して参ります。
【ITERおよびブランケットの概要】
日本・欧州・米国・ロシア・韓国・中国・インドの7極は、フュージョンエネルギーの実現に向け、科学的・技術的な実証を行うことを目的とした大型国際プロジェクト「ITER計画」を推進しており、核融合燃焼による本格運転を目標に、実験炉であるITERの建設をフランスのサン・ポール・レ・デュランス市で進めています。日本は遠隔保守システムやダイバータ、トロイダル磁場コイル(TFコイル)をはじめ、ITERにおける主要機器の開発・製作などの重要な役割を担っており、QSTがITER計画の日本国内機関として機器などの調達活動を推進しています。
ブランケットは、核融合反応で発生するエネルギーを熱として取り出し発電に利用しつつ、燃料となるトリチウム(三重水素)を炉内で生産し、さらに中性子線を遮蔽するという3つの重要な役割を担う、核融合装置の内壁を構成する機器です。ITERでは、3つの役割の内、発電は行わず、燃料の生産はテストブランケットと呼ばれる機器が、また、中性子の遮蔽は遮蔽ブランケットが担っています。ITERでは、単に「ブランケット」と呼ぶ場合、後者の遮蔽ブランケットを指します。ITERでは、ブランケットはプラズマに直接向き合う「第一壁」(最大1トン)と、第一壁と真空容器の間に位置して遮蔽のための中心的な役割を担う「遮蔽ブロック」(最大4トン)とに分割されています。「第一壁」と「遮蔽ブロック」は、プラズマ*4との不意の接触などによる損傷を受けた場合、保守・交換を行う必要がありますが、ITERの内部は高放射線環境であるため、ブランケットの保守は遠隔操作によって行われます。
ITERでブランケットの遠隔保守を担う「ブランケット遠隔保守システム」は、QSTがその調達を担当しています。同システムは、大重量物である第一壁・遮蔽ブロックを搬送する大型マニピュレータ及びその補器類と、ブランケット配管の溶接・切断、ブランケット固定用ボルトの締緩などを行うツール類などから構成されています。QSTでは、2011年に同システムに関する調達取決めを締結して以来、同システムに関する研究開発と設計に取り組んでいます。

【ブランケット初期組立について】
ITERにおいて、ブランケットの初期組立は2032年から数ヶ月かけて行われる予定であり、2034年のプラズマ運転開始に向けた、重要工程の一つです。
ブランケットの初期組立においては、大重量物の搬送はタワークレーンなどの搬送装置によって実施されますが、配管の溶接・切断やボルトの締緩などは遠隔保守と共通の技術によって行われます。QSTはこれまでに遠隔保守システムの開発を通じて以下の技術を確立しており、QSTがITER機構に納入する初期組立ツールにもこれらの技術が用いられます。
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強大な電磁力に耐えるため、ブランケットは大型ボルト(直径64mm)によって固定されるが、ブランケットの製作誤差や設置誤差によるツールとボルトとの間の位置ずれを許容しつつ締結に必要な高トルク(8.4kN・m、橋梁用の高力ボルトは通常数百N・m)を実現する技術
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大重量の構造物(第一壁:1トン、遮蔽ブロック:4トン)の把持・据付を、接触による荷重を精密に測定して過負荷を自動的に回避する制御ロジックを開発したことにより、対象物との間のクリアランスが非常に厳しい(0.5 mm)状況でも円滑な設置を実現する技術
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配管溶接は通常は配管外部から行われるが、核融合炉では一般に配管外部にアクセスできるスペースを設けるのが困難であるため、狭隘な配管内部(内径43.7mm)にツールを挿入し、内部から配管を溶接・切断する技術
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核融合炉では真空容器内を高度に清浄に保つ必要があり、清浄度に影響を与えないため、切粉を真空容器内に落下させないように配管を切断する技術
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配管溶接・切断ツールやボルト締結ツール、重量物把持部等、多種多様な各種ツール類を統合して運用する技術
QSTは2030年までにブランケット初期組立用ツールをITER機構に納入する予定であり、これまでに以下の機器について製作に着手しています。
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遮蔽ブロック・第一壁用固定ボルト締結ツール:遮蔽ブロックを真空容器に対して固定するためのボルトを締緩するツールと、第一壁を遮蔽ブロックに固定するためのボルトを締緩するツールです。強大な電磁力に耐えるため、大型ボルト(直径64mm)を高トルク(8.4kN・m、橋梁用の高力ボルトは通常数百N・m)で締結する必要があり、既存の機器では対応できない一方、真空容器内の狭隘な空間でも運用可能な、専用のコンパクトな駆動機構が必要となります。また、ブランケットの製作誤差や設置誤差によって生じるツールとボルトとの間の位置ずれを許容するために、駆動部とレンチ間の結合を緩めてレンチがツールに対してわずかに角度を保つことができる構造としています。結合を緩めることは高トルクの伝達を妨げるというデメリットがありますが、必要最小限の適切な緩みであれば高トルクが問題なく印可できることを試験で確認し、緩みを最適化しています。
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遮蔽ブロック用配管同軸コネクタ溶接ツール:遮蔽ブロックの冷却配管を真空容器側の冷却配管と接続している同軸コネクタを溶接するためのツールです。配管溶接は通常配管外部から行うことで、溶接ツール用の十分なスペースを確保できていますが、核融合炉内部では、一般に配管外部にツール用のスペースを設けるのが困難であるため、狭隘な配管内部(最小内径70mm)にツールを挿入し、内部から配管を溶接する技術の開発が必要でした。接続される両配管の端面を精度よく位置合わせするため、2トンの力で他方の管を引き込むことができる機構も組み込んでいます。



【これまでの取り組み】
双日マシナリーは、国際的な技術パートナーである、仏CLEO-CMAを始めとする海外メーカーと連携し、福島第一原子力発電所での廃止措置のように、放射線環境などの制約の厳しい状況で安定した作業の一助となるべく技術導入の支援をしています。QSTは、放射線環境などの制約が核融合炉と共通する点に着目し、2023年以来、双日マシナリーと共同してITER用遠隔保守ツールの開発を進めてきました。その開発を通じて得られた技術が初期組立にも役立てられることとなり、今回の初期組立用ツールの製作に繋がりました。
また、スギノマシンは、原子力施設や発電所の運転や健全性維持を安全かつ効率良く確実に実施するための機器システムを技術開発し、商品化しています。フロントエンドからバックエンドまで原子燃料取扱機器システムや原子炉設備のオペレーティング機器を提供し、プラントの運転に貢献しています。QSTとスギノマシンは、2015年以来、共同して第一壁用の遠隔保守ツールの開発を進め、各種要素技術に関する試作やツールの設計を行ってきました。こちらも同様に、試作や設計を通じて得られた技術が、初期組立用ツールの製作に繋がりました。
用語解説
*1 フュージョン(核融合)エネルギーは太陽が輝き続けるエネルギー源であり、地上でのフュージョンエネルギーの実現には、重水素や三重水素などの軽い原子核がプラズマ状態で融合し、ヘリウムなどのより重い原子核になる核融合反応を利用する。燃料となる重水素、および三重水素の原料であるリチウムは海水中に豊富にあり、さらに、フュージョンエネルギーはCO2を発生しない。そのため、エネルギーおよび環境問題を根本的に解決すると期待されている。プラズマについては4参照。
*2 ブランケットは、核融合反応で発生するエネルギーを熱として取り出し発電に利用しつつ、燃料となるトリチウム(三重水素)を炉内で生産し、さらに中性子線を遮蔽するという3つの重要な役割を担う、核融合装置の内壁を構成する機器。
*3 初期組立用ツールは、核融合炉の建設時に真空容器内機器を取り付けるために用いられる、冷却配管溶接・切断ツール、固定用ボルト締結ツール、把持用ツールなどの総称。真空容器内機器は遠隔保守時に取外し・再組立が行われるが、それに対して建設時に行われる最初の組立を「初期組立」と称する。
*4 プラズマとは、物質の四つの基本的な状態の一つであり、固体、液体、気体に次ぐ第四の状態。物質が非常に高い温度や強力な電磁場にさらされたときに、原子が分解し、プラスの電荷を持つイオンとマイナスの電荷を持つ電子が分離することによって形成される。核融合反応を起こすためには、1億度以上の超高温プラズマが必要とされている。
ITER日本国内機関:遠隔保守機器関連情報
https://www.fusion.qst.go.jp/ITER/jada/page2_6_4.html
法人概要
量子科学技術研究開発機構(QST)
理事長:小安 重夫
本部所在地:〒263-8555千葉県千葉市稲毛区穴川4-9-1
発足:2016年4月1日
QSTは量子科学技術を軸とした新産業創出から医学・医療研究、エネルギー開発まで幅広い研究開発を展開しており、そのために世界最高水準の量子ビーム施設、研究病院、フュージョンエネルギー施設など多彩な大型施設や装置を有し、これらを大学や他の研究機関、産業界にも広く提供しています。こうした量子科学技術に関わる研究開発を通じて新たな価値を創出することで、QSTは経済・社会・環境が調和した持続可能な未来社会の実現への貢献に取り組んでいます。
双日マシナリー株式会社
代表者:代表取締役社長 松本 幸久
本社所在地:〒100-0005 東京都千代田区丸の内1-6-1
設立:2021年4月1日(創立1981年10月1日)
事業:双日マシナリーは総合商社・双日グループの中核会社として、産業機械全般を取り扱っている商社です。製鉄・化学・電力や自動車・家電・電気機器などの幅広い産業分野で使われるプラント・設備機器・資機材の輸出・輸入・国内・三国間取引はもとより、設備の導入や海外進出に際して求められるさまざまな機能の提供を通じて国内外におけるパートナーの事業展開を総合的にサポートします。
URL : https://www.machinery.sojitz.com/
株式会社スギノマシン
代表者:代表取締役社長 杉野 岳
本社所在地:〒936-8577 富山県滑川市栗山2880番地
創業:1936年3月1日
事業:スギノマシンは富山県に本社・主要工場を置く産業機械メーカーです。創業の精神「自ら考え、自ら造り、自ら販売・サービスする」を受け継ぎながら、ビジョンに「グローカルニッチリーダー」を掲げており、ローカルからグローバルへ、独自の技術で社会に貢献します。高圧水技術、空気圧技術、管機器技術、エネルギー市場関連の技術開発を重ね、現在では「切る・削る・洗う・磨く・砕く・解す」の6つの「超技術」を展開しています。
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