スペースシードホールディングスと岐阜大学、宇宙飛行に伴う 遺伝子発現の変化を逆転させる可能性のある海藻由来成分8物質を探索
生成AIを活用して3つの公開データベースを統合し、実験検証に向けた候補物質を選定

スペースシードホールディングス株式会社(本社:東京都港区、代表取締役CEO:鈴木健吾、以下「SS-HD」)と岐阜大学は、公開データベースを活用し、宇宙飛行に伴うヒトの血液中の遺伝子発現の変化を、逆方向に変化させる可能性のある海藻由来成分を探索しました。その結果、実験検証の候補となる8物質を抽出しました。本解析では、異なる研究分野にまたがる3つの公開データベースの情報を照合・統合する工程に生成AIを活用しました。
宇宙空間での滞在は、生体に老化と共通する特徴を持つ変化を引き起こすことが知られており、こうした影響の軽減に役立つ食品やサプリメントの開発が期待されています。
今回の研究では、公開データを組み合わせることで、宇宙飛行に伴う遺伝子発現の変化を逆転させる可能性のある成分を探索し、今後の実験検証で優先的に評価すべき候補物質を絞り込みました。
※ なお、今回得られた結果は、実験検証の優先順位を検討するための探索的なものです。各物質のヒトにおける有効性や安全性、食品への配合の可否を示すものではありません。
背景:公開データの活用における課題
宇宙飛行前後のヒトの遺伝子発現データ、化合物を細胞に添加した際の遺伝子発現の変化、海藻由来成分の化学情報は、それぞれ公開データベースから入手できます。しかし、これらのデータベースでは、化合物名や遺伝子などの識別子が異なる体系で管理されており、情報を相互に照合するには専門的な知識と多くの作業が必要です。
特に、海藻由来成分と化合物処理による遺伝子発現データを対応付け、宇宙飛行に伴う変化と比較する工程は、候補物質の絞り込みにおける課題となっていました。本解析では、こうしたデータベース間の照合や解析処理の構築に生成AIを活用しました。一方、候補物質の選定に用いる判定規則は可能な限り単純なものとし、解析手順を追跡できる形で整理しました。これにより、公開データを利用した候補物質の探索を、再現性を意識した手順で実施しました。
解析の概要
本解析では、複雑な分岐や補正を増やさず、「データベース間の照合」「発現変動遺伝子の抽出」「発現変化の方向に基づく判定」の3つの原則に基づいて候補物質を選定しました。
データの取得から化合物名の照合、スコアの計算に至る一連の処理は、生成AIを活用して構築・実行しました。解析に使用したデータは、すべて公開URLから取得しています。

使用した3つの公開データベース
1.SWMD(Seaweed Metabolite Database)
海藻に含まれる代謝物の情報を収録したデータベースです。公開されている1,191件のレコードを、海藻由来成分の探索対象として使用しました。
2.CIGS(Chemical-Induced Gene Signature)
化合物を細胞に添加した際の遺伝子発現の変化を収録したデータベースです。
MCE由来の11,356化合物とTCM由来の1,865化合物の計13,221化合物について、3,407遺伝子の発現データを使用しました。対象となる細胞株は、HEK293TおよびMDA-MB-231です。
3.NASA OSD-53 / GEO GSE47126
宇宙飛行士6名(男性4名、女性2名)の全血を対象とした遺伝子発現データです。
同一人物について、打ち上げ10日前と帰還直後のデータを比較し、宇宙飛行に伴う遺伝子発現の変化を評価しました。
解析の手順
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化合物名を大文字に統一し、英数字以外の文字を除去したうえで、文字列が完全に一致するものだけを採用しました。CAS番号、PubChem ID、化学構造の類似性、同義語の展開は照合に使用していません。この方法では候補物質を取りこぼす可能性がある一方、曖昧な化学同定を避けることができます。その結果、15レコードが一致し、重複を除いた8物質が得られました。
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次に、宇宙飛行前後の遺伝子発現データから、調整済みp値が0.05未満の遺伝子を抽出しました。
その結果、宇宙飛行前後で有意な変化を示した11遺伝子が得られました。このうち、CIGSでも測定対象となっている10遺伝子を、以降の解析に使用しました。
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最後に、各化合物による遺伝子発現の変化と、宇宙飛行に伴う変化の方向を比較しました。
宇宙飛行によって発現が増加した遺伝子については、化合物の添加によって発現が減少する場合を、逆方向の変化と判定しました。宇宙飛行によって発現が減少した遺伝子についても、同様に逆方向の変化を判定しました。
このようにして、宇宙飛行に伴う変化とは逆方向の発現変化を示した遺伝子の数を、化合物と細胞株の組み合わせごとに集計し、その数が多い順に候補物質を並べました。
宇宙飛行前後で変化した11遺伝子
宇宙飛行士6名について、打ち上げ10日前と帰還直後の全血中の遺伝子発現を比較した結果、11遺伝子に有意な変化が認められました。これらには、DNA修復に関わるERCC5、LIG4、TDG、TOP1、XRCC1、分子シャペロンに関連するBAG1、HSP90AB1、HSPB1、酸化ストレスへの応答に関わるGPX1、MGST1などが含まれます。いずれも、細胞がさまざまなストレスに対応する際に重要な役割を担う遺伝子です。

ただし、これらは宇宙飛行に伴うストレス応答に関連する遺伝子群であり、老化に特異的な遺伝子セットではありません。したがって、本解析の結果をもって、候補物質に抗老化作用があると判断することはできません。
解析結果:8物質を候補として抽出
SWMDとCIGSの照合によって得られた8物質は、以下のとおりです。
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Apigenin(アピゲニン)
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Cholesterol(コレステロール)
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Fucosterol(フコステロール)
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Fucoxanthin(フコキサンチン)
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Phytol(フィトール)
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Protocatechualdehyde(プロトカテクアルデヒド)
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Stigmasterol(スチグマステロール)
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Vanillin(バニリン)

これらの物質について、宇宙飛行に伴う遺伝子発現の変化と逆方向の変化を示した遺伝子数を比較しました。その結果、最も多くの遺伝子で逆方向の変化が認められたのは、Stigmasterol(スチグマステロール)で、HEK293T細胞において対象10遺伝子中7遺伝子でした。
次いで、Fucoxanthin(フコキサンチン)、Phytol(フィトール)、Protocatechualdehyde(プロトカテクアルデヒド)、Vanillin(バニリン)が、それぞれ10遺伝子中6遺伝子で逆方向の変化を示しました。
海藻由来成分として注目されるフコキサンチン
今回抽出された候補物質のうち、フコキサンチンは、海藻に特徴的に含まれるカロテノイドの一種です。フコキサンチンは、今回の解析で比較的多くの遺伝子に逆方向の発現変化が認められたことに加え、海藻由来成分としての特徴を持つことから、今後の実験検証や素材開発に向けて注目される候補の一つです。
一方、最も多くの遺伝子で逆方向の変化を示したスチグマステロールをはじめ、ステロール類は生物界に広く分布しています。そのため、解析上のスコアが高い場合でも、海藻に特有の成分として位置付けることは適切ではありません。
また、同じ物質であっても、使用する細胞株によって結果が異なることが確認されました。
例えば、バニリンでは、MDA-MB-231細胞で10遺伝子中6遺伝子、HEK293T細胞で10遺伝子中5遺伝子が逆方向の変化を示しました。
この結果は、候補物質の評価が細胞の種類によって異なる可能性を示しており、単一のスコアだけでは物質の作用を十分に評価できないことを示唆しています。
なお、今回のスコアは、遺伝子発現の変化の方向が一致するかどうかを数えたものであり、作用の強さや生体への有効性を示すものではありません。
Global Algae Summit 2026で研究成果を発表
本研究の成果は、2026年8月19日にマレーシアのSunway Universityで開催された国際会議「Global Algae Summit 2026」において、ポスター発表しました。同会議は、Leave a Nest Malaysiaが主催し、「The Algae Frontier: Catalysing Value and Impact」をテーマに開催されました。
今後の展開
今回の解析では、公開データを用いて、宇宙飛行に伴う遺伝子発現の変化を逆方向に変化させる可能性のある候補物質を絞り込みました。
今後は、今回の結果を出発点として、実際の細胞を用いた実験検証を進める必要があります。
まず、CIGSで使用されたものと同じ細胞株を用い、各候補物質の濃度や処理時間によって遺伝子発現がどのように変化するかを確認します。対象となる10遺伝子については、qPCRやRNA-seqによる再測定を通じて、解析結果の再現性を評価します。
さらに、末梢血単核球や血管内皮細胞など、ヒトの生体内での応答を検討するうえで重要な細胞を用いた検証を進めることが考えられます。
並行して、複数の公開データセットを用いて、宇宙飛行に伴う遺伝子発現の変化の方向が一貫しているか、また、血液中の細胞組成の変化が解析結果に影響していないかを評価する必要があります。食品やサプリメントへの応用を検討する際には、食品中の含有量、抽出物の純度、成分の安定性、他の成分との相互作用、許容摂取量などについても、別途評価を進める必要があります。今回得られた候補物質について、公開データに基づく探索結果と実験による検証を組み合わせながら、宇宙飛行に伴う生体変化への理解を深めていきます。
代表者コメント

「今回、公開されているデータだけを活用して、宇宙飛行に伴う遺伝子発現の変化を逆方向に動かす可能性のある海藻由来成分を、8物質まで絞り込むことができました。異なる分野のデータベースを突き合わせる作業には、これまで多くの時間と手間がかかっていましたが、生成AIを活用することで、こうした工程を効率的に進めることができました。実験を始める前に、どの候補から検証すべきかを明確にする。今回の成果は、そのための有用な出発点になると考えています。
なかでもフコキサンチンは、海藻に特徴的な成分でありながら、今回の解析でも比較的高いスコアを示しました。私たちがこれまで取り組んできた藻類由来素材の研究ともつながる候補が見いだされたことは、今後の検証を進めるうえで大きな意義があります。ここから先は、実際の細胞を用いて、濃度や処理時間による違いも含め、一つひとつ確かめていく段階です。公開データを活用した探索と実験による検証を組み合わせながら、研究を進めていきたいと考えています。」
スペースシードホールディングス株式会社について
スペースシードホールディングスは、「SFをノンフィクションにする」をミッションとして、投資活動、研究活動ならびに事業創出を行う宇宙系ディープテックベンチャービルダーです。発酵とロンジェビティー技術の社会実装を支援する「Fermentation and Longevity Fund」プログラムの運用などを軸に、社会課題を解決する事業の創出に取り組んでいます。2040年までに各種ステークホルダーとともに、人類が宇宙空間で居住するのに必要な技術を揃えることを目指しています。
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