2050 カーボンニュートラル宣言!パンデミックや経済活動にも影響甚大の「気候変動」を総ざらい
<目次> ■はじめに ■気候変動の全体像 1、環境 2、生態系 3、生産 4、生活 ■気候変動に関する科学研究費の世界動向 ■気候変動に伴う課題解決につながる学術研究とビジネス 1、環境 2、生態系 3、生産 4、生活 ■まとめと展望 |
■はじめに
近年、数十年に一度の豪雨災害や猛暑など異常気象のニュースが度々聞かれるようになり、気候の変化を身に染みて感じるようになっています。「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次報告書(AR5)」(2013年、*1)によれば、地球の温暖化は疑う余地がないとされています。また、温暖化の主な要因は、人間の生活や産業などの人為的影響である可能性が極めて高いと指摘されています。
さらに、「Global Warming of 1.5 ºC」と題したいわゆるIPCC「1.5℃特別報告書」(2018年、*2)では、工業化以前の水準から 1.5℃の地球温暖化による影響及び関連する地球全体での温室効果ガス(GHG)排出経路に関する報告がまとめられ、気候変動の脅威への世界的な対応の強化、持続可能な開発及び貧困撲滅への努力が必要と訴えています。
2021年には「IPCC第6次評価報告書(AR6)」の公表が予定されています。
気候には一般に、気温、降水量、湿度、日照、風(強さ、向き)、気圧、雷などが含まれます。さらに広義には、海面上昇、地震、火山活動、宇宙放射線、太陽風(太陽系外から流入する銀河宇宙線をブロック)などがあります。太陽活動や宇宙から飛来するエネルギー等は、「宇宙天気予報」として毎日公開されています(*3)。これらのうち、慢性的に社会への影響の大きい項目としては、気温、降水量、海面上昇を挙げることができます。
まず、気温に関しては全体として温暖化の方向に進んでいることは間違いありませんが、地域により気温上昇と下降が同時に進行しています。例えば、北半球ユーラシア大陸の中緯度域では異常寒波や厳冬が多発しており、寒冷化が進んでいることが観察されています。こうした気温の変化が複雑な気候変化を生み出していると考えられます。
気温上昇は熱中症など人類の生活ばかりでなく、生態系の変化による感染症の発生や、食糧生産にも直接的な影響を与えます。降水量に関しては、気候予測モデルのシナリオによれば、気温上昇によって渇水と洪水のリスクがいずれも上昇し、時間及び地域による変動の幅は拡大するとされています。また、海水面は水温上昇による海水の熱膨張や北極地方の氷の融解により上昇しています。
このように、気温の上昇に端を発し、降水量、海面上昇など陸海空の地球環境全体に大きな変化が起きています。こうした環境の変化はさらに様々な自然災害を引き起こし、生態系や人間の生活・生産活動に対して多大な影響をもたらしています。
■気候変動の全体像
アスタミューゼでは気候変動の影響と対策について、陸海空の環境、生態系、生産、生活の観点から整理し、俯瞰的な分析を行いました。
気候変動の全体像
1.環境
高温多湿化の影響として、台風・ハリケーンの激化、猛暑、極地豪雨などの自然災害がすでに顕在化しています。また、乾燥・降水量の減少による干ばつの発生や砂漠化が促進され、水資源の枯渇が懸念されます。海面上昇の影響としては高波による被害が増加し、さらには陸地そのものが失われる危険性が指摘されている地域もあります。
こうした環境の変化に対して、衛星データの活用やAI・ビッグデータの活用により災害予測を高精度化するとともに、危険の可視化や通信技術により、自然災害による被害を最小化するなどの対策が講じられています。災害そのものを低減する災害防止技術は、防波堤や土砂、建築物などの土木建築分野において検討されています。また、防災林や水田の保持など、生物環境によって災害を低減する方策もあります。人工降雨技術は干ばつ・砂漠化への直接的な解となる可能性がありますが、大規模に行うのはハードルが高いと考えられています。
2.生態系
気候変動によって、動植物や微生物の絶滅や異常繁殖、生息域の変更などが起こるとされます。これは自然遺産が失われるというだけでなく、病害虫の発生による農業へのダメージや感染症の発生などにつながることから、人間社会にも大きな影響を与えます。また、大規模な森林の喪失は温室効果ガスや降水量に影響し、気候変動をさらに促進する危険があります。
こうした環境の変化に対して、まずは陸上および海中の生態系を把握することが重要であり、衛星画像やIoT技術を活用した動植物、水棲生物のモニタリング技術が検討されています。さらに、自然遺産の保護という観点では人工繁殖やジーンバンク、コールドスリープ(人工冬眠・冷凍睡眠;冷凍あるいは低体温化により、昏睡状態で長期生存を図る)などの技術があります。病害虫に対しては殺菌・殺虫剤などは有効な手段ですが、近年では生物農薬(化学薬物でなく、昆虫や微生物などの生物を病害虫駆除目的に用いる)などのより環境負荷の小さい製品が求められています。疫病にはワクチン、抗生物質などの治療・予防薬のほか、感染経路を特定するなどの感染を広めない技術も重要です。
3.生産
農林水産業は気温・降水量・日照等の慢性的な変化により大きな影響を受け、不作・不漁が多く発生し、地域によっては砂漠化が進行して致命的なダメージとなることもあります。逆に、寒冷地を農地化できるなど、地域によっては恩恵を受ける可能性も考えられます。工業、物流などは気候変動の影響を受けにくいですが、逆に温室効果ガスを排出することで気候に影響を与えています。
農業に関しては、品種改良や農地の移動、施設農業が対策として検討されています。水産に関しても品種改良や養殖技術の進歩、特に陸上養殖は注目される技術のひとつです。災害の予測とこれに対応した栽培技術も重要で、IoTや人工知能を活用したスマートアグリ、スマート漁業などが注目されています。また、植物ベースや細胞培養による代用肉などの新しい食糧源は、食糧供給の観点ばかりでなく、家畜による温室効果ガス(メタンガス)排出抑制の観点からも注目されています。
温室効果ガスの排出抑制はすでに世界的な課題として提起されています。再生可能エネルギー(太陽光・風力発電、バイオマス発電)や、発生した二酸化炭素を封じ込めて地下や海底に貯蔵、あるいは回収して活用する技術(CCUS;Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)が期待されています。
4.生活
気温・天気の慢性的な変化により、生活様式の変化(住居、冷暖房、服装など)や健康被害(熱中症、不眠症など)が発生することがあります。居住地域の水没や土砂災害などにより、家屋を失うことや、船上生活を余儀なくされることも考えられます。
土木建築や衣類における新素材、環境負荷の小さい施工技術などが重要となるでしょう。健康被害を防ぐためには空調技術ばかりではく、健康状態をモニタリングするヘルスケア機器も有効な対策です。空調やその他のエネルギー消費は、温暖化ガスを排出しないような環境負荷の小さい技術がますます必要です。災害を防止するためには土木建築技術ばかりでなく、災害の予測や伝達のための技術も重要となります。災害地域を避けた移住が行われるようになると、リモート環境へと働き方を変えるための情報通信技術も重要になってきます。
■気候変動に関する科学研究費の世界動向
国別グラント額推移(2000-2020積算:USD換算)
各国の研究投資動向
世界における気候変動・温室効果ガス抑制関連技術(研究概要にて明示的に記載しているもののみ)に対する、グラントの国別推計では、世界全体で総額US$ 67.5 Bil(推計値)が直近2000年からの国からの研究費として支出されており、特に気候変動の兆候を監視する米国を中心とする研究機関への投資が最も多く世界を金額・件数でリードする。特に2007年のIPCCとアル・ゴア氏によるノーベル平和賞受賞を経てオバマ政権発足にあたる2008年に明らかな「変曲点」があり、気候変動・温室効果ガスに対する研究開発投資の意識が変化したことが読み取れる。一方政権交代によりこの領域に対する投資が鈍化していることが明らかであるため、来年の民主党政権発足による政策の変化により再度、研究開発投資の大幅な拡充が予想される。また、中国は2010年以降急速に投資額を増強してきており、都市ぐるみでの温室効果ガス低減社会のPoC (proof of concept;概念実証試験)を進めるなど、気候変動対応技術を用いたビジネスを牽引する立場に成長しつつある。英国も早い時期から気候変動対策を産業創生の中心に据える政策のもとに、長期的かつ大型の研究開発投資を進め、特に人材育成面でもアカデミアと産業界をつなぐためのプログラムが目立つ。一方、日本は2009年発足の民主党政権時代に2050年に向けた温室効果ガス削減の挑戦的な目標を設定しており、これまでも継続的に研究開発投資は拡充してきているものの、米・英の技術先進国や中国と比べると投資額に大きな差がある。気候変動対策は中長期的に社会の基盤的技術として開発に取り組まなければならない分野であり、国家戦略としてビジョンを明確化しつつ、産業界とアカデミアを巻き込み人材育成とキャリア形成も含めた研究開発投資の戦略的な拡充が必要であると考えられます。
■気候変動に伴う課題解決につながる学術研究とビジネス
気候変動に伴って発生する様々な課題に対して、世界中で研究開発と事業が始められています。アスタミューゼの保有する萌芽研究(科学研究費)、ビジネス(スタートアップとクライドファウンデイング)のデータベースから、今後につながる研究とビジネスをご紹介します。
1.環境
【研究】
【研究】
2.生態系
【研究】
【ビジネス(スタートアップ)】
【ビジネス(スタートアップ)】
3.生産
【ビジネス(スタートアップ)】
【ビジネス(スタートアップ)】
【ビジネス(スタートアップ)】
4.生活
【研究】
【ビジネス(スタートアップ)】
【ビジネス(クラウドファウンディング)】
■まとめと展望
気候変動は、「温室効果ガスによる温暖化現象」と単純化できる問題ではなく、太陽活動や宇宙からの影響、地球自体の磁場や極移動、地球寒冷化なども考慮されるべき複雑系問題に他なりません。
一方、気候変動の結果として生じる事象は、気温変化が特に重要なファクターになっていると考えられます。生態系の変化は、農業・漁業への打撃はもとより、パンデミックにも影響を与えている可能性があります。
今回俯瞰したように、さまざまな研究やビジネスの動きが見られるが、バイオマスやバイオ技術の利活用、センシングとビッグデータ解析、人工衛星やドローンからの画像情報解析などが顕著です。
こうした中、デンマークの設計事務所「ビャルケ・インゲルス・グループ」は、海上浮遊都市「Oceanix City」構想を発表している。温暖化で水没の危機に備えるだけでなく、洋上リゾートや海洋研究など幅広く応用可能としています(*4)。
気候変動は国連が提唱するSDGsにおいても重要な社会課題となっています。2030年までの目標設定であるSDGsの次の目標として、自然環境と人類文明のソーシャルディスタンスをどのよう設定するかは重要な問いとなるでしょう。
SDGsの高まりや、その後のより長期的視野の中で、さらには近年のコロナと共存するニューノーマル社会の中で、サステイナビリティの観点からも気候変動・温室効果ガス低減に対する世界の投資環境は明らかに大きな好転機を迎えており、日本の国を挙げた国際的なプレゼンスの増強と、世界的なビジネスチャンスを確実に企業が獲得できるよう、国の研究開発投資に対しても大きなポートフォリオの刷新が急務と考えられます。
2050年までにカーボンニュートラルを実現するという日本の立ち位置として、単に温室効果ガスの削減のみに焦点を当てるのでなく、さまざまな先端科学技術を用いて、農業や医療、都市や人間生活の全般を包括した「その先の未来」へのビジョンを描くことが強く望まれます。
(アスタミューゼ株式会社 テクノロジーインテリジェンス部 川口伸明、米谷真人、金森二朗、源泰拓)
■参考文献
*1:IPCC AR5 "Climate Change 2013: The Physical Science Basis"
https://www.ipcc.ch/report/ar5/wg1/
*2:IPCC special report "Global Warming of 1.5 ºC"
https://www.ipcc.ch/sr15/
*3:宇宙天気予報センター(NICT:国立研究開発法人 情報通信研究機構が運営している情報配信ウェブ。宇宙環境の変動によって影響を受ける可能性のある通信・放送インフラや航空・宇宙システム等の運用に役立てることを目的に、太陽フレア、太陽風、地磁気撹乱、電離圏嵐、デリンジャー現象などを毎日定時配信)
https://swc.nict.go.jp/forecast/
*4:ビャルケ・インゲルスが海に街をデザイン!?(ELLE)
https://www.elle.com/jp/decor/decor-architecture/a27523210/bjarke-ingels-oceanix-city-19-0605/
全文掲載レポートPDFダウンロードはこちらから。(無料) https://www.astamuse.co.jp/information/2020/1211/?utm_source=prtimes&utm_medium=referral&utm_campaign=201211_climate |
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