江戸時代に描かれたゾウ化石出土記録絵巻「龍骨図」 実物資料を期間限定で展示します
展覧会概要
タイトル:
第21回学芸員のこだわり展示「琵琶湖博物館の龍骨図」
趣旨:
1804年(文化元年)11月、現在の大津市伊香立南庄町で、土のなかからトウヨウゾウの骨化石が発掘されました。このときに出土した骨を観察した当時の人々は龍の骨と考え、その姿かたちは龍骨図として描かれました。複数ある龍骨図のうちの一点は、B展示室入口の壁面グラフィックでもおなじみです。今回はその実物を公開します。
展示資料:
「伏龍骨図並序」江戸時代・1805年(文化2年)、当館蔵
会期:
2024年1月27日(土) ~2024年3月9日(土)
開館時間:
9時30分~17時00分
(最終入館は16時00分まで)
場所:
B展示室 館蔵品紹介コーナー
料金:
常設展示観覧券が必要
琵琶湖博物館収蔵「伏龍骨図並序」について
★作成の経緯 |
1804年(文化元年)11月、近江国滋賀郡南庄村(現在の大津市伊香立南庄町)で、百姓が農地を開くため丘陵を崩した際、土のなかからトウヨウゾウの化石骨が発見されました。出土した骨は村の領主である膳所藩に届けられ、招かれた京の儒学者・皆川淇園による調査がなされました。その結果、出土したのは龍の骨であるとされ、絵師・上田耕夫とともに、出土記録として龍骨図が作成・提出されました。
ゾウの骨化石という判断にこそ至らなかったものの、出土した骨の形や状況が丁寧に記録され、それらを組み合わせて龍の頭であると推定しています。そうした図をともなう一連の龍骨図は、当時の知識人層において共有されていた博物学的関心にもとづく、観察に依拠した写実的な記録、考証の文化を反映する絵画資料といえます。
★琵琶湖博物館が収蔵する龍骨図の特徴 |
南庄村で出土した化石を描いた龍骨図は、現在、6点の存在が知られています。琵琶湖博物館収蔵の「伏龍骨図並序」はこのうちの1点です。形態は巻子(巻物)で、龍骨の図は丁寧に模写され、椿井政隆が自らの家の先祖の由緒を交えた序文を添えています。末尾に、政隆ら椿井氏17人の連名で、家門の繁栄や五穀豊穣などを願い「伊香龍八処大神」へ奉納する旨の記述があるのが、ほかの龍骨図にはない特徴です。今回の展示では、丁寧な化石の模写図と椿井家の由緒の語りを組み合わせた本図の特徴に注目を当てています。
椿井政隆は、19世紀に近江、山城、河内などで活動し、自ら創作した古い系図、文書、地図など(いわゆる「椿井文書」)を大量に製作した人物として知られています。当館収蔵の龍骨図については、彼の近江国内での初期の活動を示す例として紹介されています(馬部隆弘(2020)『椿井文書―日本最大級の偽文書』中央公論新社)。
★琵琶湖博物館における龍骨図の活用 |
琵琶湖博物館では、県内で出土したトウヨウゾウの化石のありようを記した資料として、「伏龍骨図並序」の複製をA展示室で、出土化石の複製と並べて展示しています。
また、ゾウ化石に対し自然の恵みと災いの象徴・龍の存在を想像した、人間の歴史を体現する資料としても取り上げ、B展示室入口には、A展示室との接続を意図し「伏龍骨図並序」をコラージュした壁面グラフィックを設けています(前頁写真)。
「伏龍骨図並序」は文化財であり、毀損することなく将来に引き継いでいくため、実物資料は普段、温度・湿度の安定した特別収蔵庫にて保管しております。このたび、2024年の干支「辰」にちなんで、期間限定で展示いたしました。実物資料の展示公開は、2009年10月に約1か月間、当時開催中だった企画展示「骨の記憶」に合わせてB展示室でおこなって以来、およそ14年3か月ぶりです。
この機会に、実物資料の迫力を感じていただき、描かれたゾウの化石/龍骨から、自然と人間、それぞれの歴史に思いを馳せていただければ幸いです。
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