『いのちを“つくって”もいいですか ~生命科学のジレンマを考える哲学講義』をめぐって、未来を担う若者たちが、宗教学者・島薗進さんと白熱の討論
Y-SAPIX・代々木ゼミナール共催「第5回 全国論文コンテスト」受賞者表彰式・著者特別講演会レポート
11月3日(日)にSAPIX代々木ホールで授賞式が開かれ、併せて著者の島薗進氏の特別講演会、さらに島薗氏と受賞者たちとの公開討論が行われました。その様子をお届けします。
授賞式に先立ち、受賞論文を収めたパンフレットが配布されました。「多様性と自己同一性という観点から考える“人間改造社会”の問題」「病気や障害の問題に対して、改変すべきは社会かそれとも遺伝子か」「人の欲望が過剰になることによって見失われるもの」など、いずれの論文もそれぞれにユニークで鋭いテーマが設けられており、また議論の展開や表現の独自性などにおいても、瑞々しい感性が光っていました。
受賞者に表彰状と商品が贈呈されたのち、著者の島薗進氏による特別講演会が行われました。まず、現在、非常に注目されている「ゲノム編集」を中心に、本書刊行後のバイオテクノロジーの発展状況について概観し、人のいのちを人工的につくってしまうことに伴う倫理的な課題についての問いを投げかけます。続いて、6名の受賞者それぞれの論文について、その要点を島薗氏の視点で丁寧に読み解き、整理していきました。そして、「“子どもが亡くなったあとに、その子のクローンをつくること”と“代わりとして別の子を生むこと”とは、どこまで違うのだろうか?」「“多様性を認める”という主張と、“いのちに優劣をつけない”という平等を求める主張は、矛盾する可能性はないだろうか?」など、さらに議論を深めるためのヒントとなるような問いを、受賞者一人ひとりに渡していき、いったん講演を閉じました。論文の講評から、流れるように新たな議論のきっかけを生み出していく、実に見事な展開でした。
その後は、受賞者6名が島薗氏を囲み、公開討論へ。「いのちのかけがえのなさは、何によって決まるのか」「過剰な欲望とそうではない希望、線は引けるのか」「親が子に対して“よりよく育ってほしい”と願い努めることは、よりよい資質を持って生まれてくるように遺伝子に改良を施すことと、どう違うのだろうか?」「強く、自立していることに価値が置かれ、誰もが自立して生きることを求められる社会では、いのちのあり方についてどんな問題が起こるだろうか?」など、島薗氏からの問いに対して、受賞者たちは、時折考え込みながらも、それぞれの考えを述べたり、さらに新たな問いを島薗氏に返したりして、活発に議論を進めていきます。後半は、宗教や文化的差異といったより幅広いテーマに議論が及び、壇上はさながら「白熱教室」の様相を呈しました。
前述のとおり、テクノロジーの進歩は止まりません。刊行から3年半が経ち、本書で取り上げられている科学技術はもはや最新のものではありません。しかし、本書をきっかけに、若い世代の読者が、「バイオテクノロジーと生命倫理」というテーマについて、徹底的に考え抜いて論文を著し、また著者をはじめ世代の異なる人とも熱心な議論を交わすことができます。それは、本書が論じている問題の本質が、今も、これからも古びない、むしろ科学が進歩するのに伴ってますます重要になっていくことの証左ではないでしょうか。
現在も、5年後も、10年後も。その時の“最新の科学技術”に伴う「いのちの倫理」の問題を考えるために、ぜひ幅広い世代に本書が読まれ、闊達な議論のきっかけになることを期待したいと思います。
■関連商品情報
書名:『いのちを“つくって”もいいですか? ~生命科学のジレンマを考える哲学講義』
著者:島薗 進
出版社:NHK出版
発売日:2016年1月29日
定価:本体1,300円+税
判型:四六判
ページ数:240ページ
ISBN:978-4-14-081694-3
URL:https://www.nhk-book.co.jp/detail/000000816942016.html
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