続編は坂井市が舞台の恋物語

福井県坂井市生まれの物理学者を主人公に、米女性作家が日本語で書いた小説「物理学者の心」

坂井市役所

海女の石森さんからワカメ漁について聞き取り取材する作家のマーニーさん(右)=坂井市三国町安島

 天才的だが、一風変わった物理学者とおせっかいなピアニストとの恋を描いた小説『物理学者の心』(祥伝社刊)が今春、単行本として出版され話題となっている。その理由は、作者が米国・ミネソタ大学の日本語講師、ペンネーム、マーニーさん(56)=米ミネソタ州キャノンフォールス市在住=で、全編、自ら日本語で書いた小説であること、物語の展開や登場する日本人の描き方がまるで日本人以上に繊細と作品評価も高い。さらに主人公の松崎仁(まつざき・ひとし)なる物理学者は、福井県坂井市の出身という設定…なぜ坂井市なのか?本人によると、「東尋坊など日本海の雄々しい海の光景と、そこに生きる人々や風土に惹かれた」という。さらに松崎を主人公にした続編小説を構想中で、そのため6月9日から1週間ほど坂井市に滞在、三国町安島の海女から漁の話を聴き取りしたり、神の島と呼ばれる「雄島」や三国湊市街をめぐり精力的に取材している。日本語で小説を書くことについてマーニーさんは、「日本語は言葉として奥深く、そこが楽しい」の語り、小説には日本人でも普段使わないような難しい漢字もしばしば登場、日本人が書いた小説と変わりない。さらに続編については「物語のプロット(あらすじ)はほぼ出来上がっている。今回の現地取材をすることで、さらに主人公や物語に奥行きが出ると思う」と話し、物語の舞台が坂井市になるという。本の発刊は数年後の予定。

安島海女や神の島・雄島、三国湊などを現地取材中

 東尋坊に程近く、日本海に浮かぶ“神の島”と呼ばれる景勝地・雄島がある坂井市三国町安島集落。30代で海女を営む石森実和さん(37)が答える日本語を「聴き逃すまい」とマーニーさんは小さいノートにペンを走らせる。「ワカメでも(手触りが)ペタペタのワカメとゴワゴワのがあるんやって…」(石森さん)、「ペタペタ?どういう意味ですか」(マーニーさん)、「あー分からんか、ペタペタのワカメは本当に柔らかいワカメのことを言うの」(石森さん)…こんなやりとりがしばし続く。安島名産の天日干しの「粉わかめ」の製法についてもマーニーさんは興味深々。

取材でマーニーさんから出る質問はすべて日本語で、はっきり相手に伝わる。ただ、安島特有の方言や言葉遣いに、マーニーさんもなかなか悪戦苦闘のよう。

見せてくれた、ヌルヌルの生ワカメにマーニーさんも恐々触ってみる

 それでも「海で生計を立てている海女さんの暮らしぶりは、大変興味深い。面白いです。主人公の松崎の生まれ育ったところとして、こうした風土や環境が小説の中に織り込められたら…」と笑顔を見せる。石森さんが手渡してくれた、粉わかめの一片を口に含むと、思わず「うん、おいしい」と目を大きくした。取材では味や臭い、手触り、風…五感で得られる感触や情報が、より日本語の表現の幅を広げる。

三国町や安島の案内役である畠山さん(右)と取材先について綿密に打ち合わせする

 新刊本『物理学者の心』は、日本語で初めて執筆したデビュー作『ばいばい、バッグレディ』(2021年、早川書房)、2作目の『こんばんは、太陽の塔』(2023年、文芸春秋社)に続く、単行本として3作目で、初めての恋愛小説。主人公の物理学者、松崎仁の出身地が坂井市三国町との設定で、三国町には3年連続で訪れている。毎年、大学の夏休み期間を利用して来日しており、今年は約20日間の滞在のうち、坂井市での取材に1週間を当てた。

 今回の取材で坂井市でも秘書広報課が市龍翔博物館などの取材先や取材人物などの情報を提供。地元の案内役の編集ライター、畠山かなこさん(48)=同市在住=と取材先をどこにするのか、限られた時間で回るため、綿密な打ち合わせにも担当者が同席した。また主人公が物理学者であるため、福井県出身のノーベル賞を2008年に受賞した南部陽一郎さん(故人)に関する書籍を紹介するなど、坂井市出身の主人公に福井の色合いが濃く出るようサポートした。畠山さんは「マーニーさんはとても繊細な気質の方で、日本人以上に奥ゆかしく、(取材の)丁寧さには驚かされる。1作目もSFとリアルの融合したような物語がとても面白く、その面白さが坂井市を舞台にどう表現されるのか、とても楽しみ」と話す。続編の出版は、詳細は未定だが、『物理学者の失敗』のタイトルで、数年後の発刊を目指している。

「文化や社会を理解し、続編に盛り込みたい」

……マーニーさんにインタビュ一

 ―米国育ちのあなたが、日本語で日本の小説を書くという行為に驚いてます。日本語との出会いはいつから?

マーニー(以下M) ミネソタ州の大学1年の時、日本語を学んだときです。小説は子どものころから書きたいとは思っていましたが、その頃は英語で書くつもりでした…。(笑)日本の文字が好きです。文字だけでなく日本人も、日本の食べ物もですが、日本の文字の奥ゆかしさ…例えば、あじさい1つでも、漢字では「紫陽花」、平仮名、カタカナと3種の表記があり、「紫陽花」には紫色、太陽、そして花の三つの意味がありながら、ひとつの花を表現している。こうした奥行きが英語にはないものです。また大学時代の日本留学体験や夫との日本暮らし、日本中を旅したことも印象深くて、10年ほど前から日本語で小説を書いてみようと思いました。

最新刊『物理学者の心』を手に、坂井市生まれの主人公・松崎という人間をとても気に言ってます」と語るマーニーさん

 ―『物理学者の心』では、主人公の松崎は福井県坂井市の海辺の生まれという設定です。日本の中でも日本海側の景色や風土に惹かれると言っておられますが、それはなぜ?

 私の夫は日本企業で働いていたのですが、彼と結婚した23歳の時、ハネムーンで日本海側に初めて来ました。留学時代は東京だったり、その後大阪に住んだりでしたので、日本海の景色は新鮮でした。確か、佐渡ケ島の宿に泊まった時、初めて見た日本海の海に心を動かされました。WILDな…日本語なら「雄々しい」、「荒々しい」というのでしょうか、壮大な海でした。夜、宿に泊まっていても「ゴー」と波の音が聞こえる、目を向けると白波がちらちら見えて…私は米国でも内陸育ちなので、そんな海を見たことがなかった。それから、鳥取や出雲などへも行きました。日本でも太平洋や瀬戸内海の海とはまったく違う、美しいと思うと同時に、動きのある荒々しい海が好きになりました。

 主人公を福井県坂井市に生まれにした理由は、坂井市のみなさんには良く受け取られないかもしれませんが、主人公が「自殺願望がある人間」という設定なので、日本海側で飛び降り自殺できる場所がないか、ネット検索で探していたら「東尋坊」が出て来て、それで彼が坂井市生まれとなったのです。ごめんなさい、地元の皆さんには申し訳ないですが…でも実際、私は東尋坊やその周辺を歩きましたが、とても綺麗な海で、特に夕焼けがとても美しく、サンセットビーチから文学の道、東尋坊、雄島、水族館まで歩きましたが、本当にきれいな景色でここが大好きになりました。父親は漁師、母は海女さんという設定ですが、彼がここの生まれなのはそういう理由からです。

 ―松崎は物理学者ですが、自分が磁場を帯びてしまって、周囲に危険な人間だから、「3メートル離れてください」とヒロインの鈴木尚美と非接触を求めたり、強い自殺願望があったり…と面白い設定です。この発想はどこから、新型コロナウィルス禍の「ソーシャルディスタンス」ではないそうですね。

 「疎外感」というのですかね。日本に住んでいるときも、旅しているときも常に感じていた感覚です。日本の人は私を見ると、英語を話す人だと、自分は英語が話せないから「怖い」と、日本においては特に、田舎では外国人の私は目立つ存在なので、避けられる傾向がありました。その体験が、人と一定の距離をとろうとする松崎のキャラクターにつながっています。でも、日本人は打ち解けるといい人が多くて…。私は日本が嫌いでは決してありません。この本でも松崎は自殺しようとしますが、それは東尋坊ではありませんから。(笑)それに、この物語はラブストーリーですから。

 ―次回作の続編では、ほぼ全編、坂井市が舞台のようですが、今回の坂井市での取材が、さらに物語に深みを加えそうですか?

 松崎という主人公は確かに、かなり変わった人物ですが、私は物語を書き始める前から彼のことを気に入っています。次回作が、続編になるのは、この本に載らなかった原稿部分があるからなんです。出版エージェントの方から「長過ぎる」との助言があって今回の本からはカットしたんです。ですから、次回作では、松崎と鈴木さんの恋のその後が描かれるわけですが、多分、ほとんどの舞台が坂井市になると思います。まだ取材途中なので、分かりませんが…。ちょっとだけ言うと、彼の暗い過去が描かれます。でもラブストーリーには変わりありません。話の中では「雄島」も大事にしたいですし…三国湊が、明治時代にエッセル堤(三国港突堤)が築かれたように昔から外国と交流があった土地であることも興味深いです。プロットは大きくは変わらないと思いますが、今回の取材は大変役に立っているので、物語のディティールなどは変わるかもしれません。できるだけ、こちらの文化や社会をしっかり知った上で、つくり話ではない、なるべくリアルなお話にしたい。坂井市民の方に気に入ってもらえるような作品になればいいとは思いますが、さあ、どうでしょう、頑張りたいです。(笑)


「僕から3メートル離れてください」…と言いながら離れられない2人の恋

『物理学者の心』 (祥伝社刊 定価 1,870円)

 ショッピングモールでピアノを弾く鈴木尚美は、毎週の演奏を片隅で聴きに来る風変わりな男、松崎のことが気になってしょうがない。でも近づこうとすると「僕から3メートルは離れてください」と避けられる。物理学者の彼には、自分の頭から強力な磁場が発生していて周囲に危険を及ぼす存在だから、自殺願望を持っている。しかし、自分のピアノ演奏の唯一の理解者であると分かった尚美は、彼を自殺させまいと、あれこれ接触を試みるのだが…。物語の終盤、松崎の生まれ故郷である東尋坊近い岩場で二人は大切な会話を交わす。

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会社概要

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業種
官公庁・地方自治体
本社所在地
福井県坂井市坂井町下新庄1-1
電話番号
0776-66-1500
代表者名
池田禎孝
上場
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資本金
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設立
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