大分大学と日立ハイテクがAI技術を活用した固体高分子形燃料電池の長寿命化に関する研究成果を共同発表
大分大学理工学部衣本研究室では、独自に開発した同一箇所電界放出型走査電子顕微鏡技術(以下、IL-FE-SEM技術)*1を用いたPEFC用電極触媒の劣化メカニズムの解明および長寿命のPEFC開発に関する研究に、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の革新的GX技術創出事業(GteX)*2の一環として取り組んでいます。
日立ハイテクは、電子顕微鏡を開発・製造・販売しており、観察画像の解析に関する豊富な知見を持っています。さらにマテリアルズ・インフォマティクス(MI)やプロセス・インフォマティクス(PI)*3などのインフォマティクス技術を活用し、お客さまの課題を解決してきました。これらの強みを生かしながら、AI技術とSEM画像の解析技術を組み合わせて、大分大学のPEFCの研究・開発業務をサポートしてきました。
本研究をはじめとして、大分大学と日立ハイテクは、今後もより長寿命なPEFCの開発に向けた取り組みを加速させ、カーボンニュートラル・脱炭素社会の実現などの社会課題の解決への貢献をめざしていきます。
*1 同一箇所電界放出型走査電子顕微鏡(Identical Location FE-SEM)技術:FE-SEM(Field Emission-Scanning Electron Microscope、電界放出型走査電子顕微鏡)で定点観察する大分大学独自の技術。定点観察により、物質の変化を追跡・解明する研究に有効活用できる。
*2 革新的GX技術創出事業(GteX):GX(グリーントランスフォーメーション)の実現に向けて新規技術を継続的に創出するため、大学・国立研究開発法人などにおける研究開発および人材育成をJSTが支援するもの。
*3 マテリアルズ・インフォマティクス(MI)、プロセス・インフォマティクス(PI):統計分析などを活用したインフォマティクス(情報科学)の手法により、材料開発を高効率化する取り組み。MIは材料の特性予測や設計を目的にすることが多く、PIは製造プロセスの最適化に用いることが多い。
■背景
PEFCは、高分子材料を電解質*4として使用し、2つの電極で水素と酸素を化学反応させて電気(エネルギー)を得る燃料電池の一種です。CO2排出量を削減でき、持続可能なエネルギーの一つとして活用の幅が広がる燃料電池の中でも、PEFCは車両の駆動源や家庭用電源など日常生活においても使用されています。カーボンニュートラルの実現が重要な社会課題の一つとして認識され、ますますPEFCの必要性が高まると予想される中、現状では長寿命化、高出力化、低コスト化が課題とされています。本研究では、PEFCの長寿命化に向け、最も重要とされる電極触媒の劣化のメカニズムを明らかにするため、FE-SEMによる観察画像をAI技術によって解析し、より定量的なデータに基づく効率的な分析を実現します。
*4 電解質:電極間でイオンを移動させ、電気化学反応を進行させるための物質。
■研究の概要
今回の研究では、PEFC用電極触媒に対して一定の電圧を繰り返し加える劣化試験を行うことで進む、触媒の耐久性や表面の劣化について、大分大学独自のIL-FE-SEM技術と日立ハイテクのAIによる画像解析技術を用いて分析しました*5。
大分大学は、触媒であるプラチナ粒子の有効表面積*6(Electrochemical Surface Area:以下、ECSA)が減少する劣化メカニズムを解明するために、IL-FE-SEM技術による観察画像から目視によってプラチナ粒子を確認し、分析していました。しかし、IL-FE-SEM技術によって多くの観察画像を入手できるものの、観察画像1枚ごとに数百個のプラチナ粒子が存在するため、全ての観察画像を解析する作業量が非常に多いことが課題となっていました。そこで、日立ハイテクはAI技術による画像解析技術を提供し、観察画像の解析作業の効率化を実現しました。具体的には、AIによる画像解析を用いて試験数ごとのプラチナ粒子の検出*7を実施し、撮像された画像から粒子を検出したのち、粒子の消滅・合体・発生の状態変化を追跡し、粒子の数を自動で集計することを可能にしました。
今後、粒子検出の精度向上に引き続き取り組み、より効率的なPEFCの劣化のメカニズム解明を推進するとともに、長寿命なPEFCの開発を両者で連携しながら進めていきます。さらに、大分大学の学生とともに解析を進めることで、化学の素養を有するデータサイエンティストの育成にも寄与していきます。
*5 加速劣化電位パルス試験(ADT)により耐久性を試験。ADTではサンプルに一定の電位パルスを与えることで、燃料電池の耐久性を短期間で評価する。FE-SEMで触媒表面の同一箇所を撮像し、試験数の増加に伴うカソード触媒表面の劣化を調査した。
*6 有効表面積:実際に反応が起こる部分の面積を指し、触媒や電極材料としての性能を評価する際に重要な指標となるもの。有効表面積が大きいほど、電気の反応効率が高くなる。
*7 セマンティックセグメンテーションを用いて粒子の検出を行った。セマンティックセグメンテーションは、画像のピクセル一つひとつに対してラベル付けをしていくため、広範囲の領域に対しても、高い精度で検出できる。
なお、本研究は株式会社日立製作所(以下、日立)の技術協力の下実施しており、「CSJ化学フェスタ2024」での発表は、大分大学・日立ハイテク・日立の連名で実施予定です。
■関連情報
・「CSJ化学フェスタ2024」(https://festa.csj.jp/2024/index.html )
・本研究に関する発表日程:10月23日(水) 13:30~15:30フェスタ企画内、学生ポスター発表*8
・発表テーマ:「同一箇所FE-SEM観察とAI画像解析を用いるPEFC用Pt/C触媒の劣化解析」
*8 学生ポスター発表:学生と産学官の先端研究者が議論し交流することを目的として、学生ポスターセッションを実施するもの。
■日立ハイテクについて
日立ハイテクは、医用分析装置、バイオ関連製品、放射線治療システム、半導体製造装置、分析機器、解析装置などの製造・販売に加え、モビリティ、コネクテッド、環境・エネルギーなどの産業分野における高付加価値ソリューションの提供を通して、幅広い事業領域においてグローバルな事業展開を行っています(2024年3月期日立ハイテクグループ連結売上収益は6,704億円)。強みである「見る・測る・分析する」というコア技術をベースに、事業を通してさまざまな社会課題解決および持続可能な社会の実現に貢献していきます。
詳しくは、日立ハイテクのウェブサイト(https://www.hitachi-hightech.com/jp/ja/ )をご覧ください。
■大分大学について
大分大学は教育学部、経済学部、医学部、理工学部、福祉健康科学部を有する大学で、「人間と社会と自然に関する教育と研究を通じて、豊かな創造性、社会性及び人間性を備えた人材を育成するとともに、地域の発展ひいては国際社会の平和と発展に貢献し、人類福祉の向上と文化の創造に寄与する」ことを基本理念としています。本取り組みを実施している理工学部では、燃料電池の研究を含めカーボンニュートラルの実現に向けた研究開発が進められています。
詳しくは、大分大学のウェブサイト(https://www.oita-u.ac.jp/index.html )をご覧ください。